農業従事者は7年間で3割減。平均年齢は65歳以上
まずは、農業の人手不足の現状を整理しましょう。農林水産省によると、基幹的農業従事者(※)の数は2015年(平成27年)から2022年(令和4年)にかけて約50万人減少しています。
また、基幹的農業従事者の平均年齢は、ここ数年間の間、67歳前後で推移しています。現在、日本では65歳以上は高齢者にあたります。該当者の2022年(令和4年)の平均年齢は68.4歳であり、農業人口の高齢化の深刻さが伺えます。
※普段仕事として、主に自営農業に従事している者のこと
2022年(令和4年)の農業人口は、2015年(平成27年)と比較して約30%も減少していました。さらに、農業従事者の高齢化も進んでいます。2015年(平成27年)の基幹的農業従事者のうち65歳以上が占める割合は約65%でしたが、2022年(令和4年)時点では約70%にまで上昇しています。
農作業は肉体的に負担が伴うため、年を重ねて身体的限界から引退する方は後を絶ちません。一方で、新しく入ってくる若手が足りておらず、農業人口に回復の兆しは見えていません。
農業はSDGsとも密接に関連
農業の人手不足改善は、SDGsの取り組みにもつながる重要な課題です。持続可能な農業を推進することで、目標1「貧困をなくそう」や目標2「飢餓をゼロに」を解決するための食料の安定供給に寄与します。また、農業が活性化し地域経済が発展すれば、目標8「働きがいも経済成長も」や目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成にもつながります。
さらに、農業は環境に対しても影響力を持っています。作物の生産効率を意識する一方で、目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」や目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標13「気候変動に具体的な対策を」などを達成するための環境的な配慮も忘れてはいけません。
このように、農業はSDGsのうち複数の目標達成に貢献できる可能性を秘めています。農業を通してSDGsの取り組みをするには、スマート農業の推進で生産を効率化することや、労働人材の確保が急務です。
新規層を獲得する鍵は体験のお手軽化?
ここからは、どんな層が農業に関心を持っているのか分析していきます。潜在層を見つけることで、農業人材確保の文脈でアプローチすべき層が分かるかもしれません。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
早速、「農業」というワードで検索した人の性別と年代割合から確認してみましょう。性別に関しては、男性が約6割という結果でした。実際の農業従事者の男女比もおよそ6 : 4なので、一致しています。
年齢については、20〜40代の検索が多いことが分かりました。こちらは現状の農業従事者の年齢割合とは異なる結果が得られました。若い世代の中で、農業に関心はあるけれども、仕事にはしていないという潜在層が一定数いるのではないでしょうか。農業においては、農林水産省の定義によると、49歳以下が「若者」とされています。49歳以下の人材をいかに確保できるかが、農業衰退問題の解決に向けて重要になってくるでしょう。
「農業」検索者の性別・年代割合
集計期間:2022年5月~2023年4月
デバイス:PC、スマートフォン
では、これらの検索者は農業に対してどのような検索ニーズを持っているのでしょうか。下記表は、「農業」と掛け合わせて検索されたワードを、検索者数のボリュームが多かった順にランキングにしたものです。
ランキングを見てみると、「求人」「バイト」「副業」「転職」などの農業を仕事にすることを検討しているようなワードが上位に複数確認できました。一方で、「補助金」「確定申告」などを掛け合わせて検索しているのは、おそらく既に農業を主な仕事とされている方でしょう。
「農業」と掛け合わせて検索されたワード ランキング
集計期間:2022年5月~2023年4月
デバイス:PC、スマートフォン
農業に取り組むには、畑や農機具を確保したうえで、作物を育てるノウハウも必要なので、始めるには相応の準備と覚悟が必要です。「農業に興味はあっても、始めるハードルが高い」と感じる方もいるのではないでしょうか。
このような層を取り込むためには、「バイト」「副業」「農業体験」など、より気軽に始められるステップを用意し、スモールスタートをさせることが重要になってくるかもしれません。
最短1日から可能な新しい雇用形態も登場
気軽に農業に触れられる機会は、どのようにして作ればいいのでしょうか。実は、これを既に実現しているサービスが存在しています。先ほどのデータで、「農業」と「バイト」を掛け合わせて検索した人の流入ページで1位だったのが、最短1日から農業のアルバイトが出来るサービスでした。それが、「Kamakura Industries株式会社」が運営する「1日バイトアプリ daywork(デイワーク)」です。
「daywork」は、農繁期だけでも一時的に人手を集めたい農家と、休日だけ農業を試してみたい求職者を結びつけるマッチングサービスです。従来の雇用契約では、短くても数週間単位で連続して勤務することが当たり前でしたが、「daywork」では1日単位で勤務することができます。
企業によっては、就業規則で副業が制限されていることもありますが、近年では少しずつ副業を解禁していこうという動きもあります。農業バイトはPCを必要とせず、本業の情報漏洩リスクが低い副業となり得ます。そのため、企業側にとっても、「副業を全面的に解禁することは難しくても、農業の副業なら安心して副業申請を許可しやすい」というメリットもあります。
「daywork」は2019年に開始されたばかりのサービスですが、着実に利用者数を伸ばしています。実際にDockpitで見てみても、アプリ「daywork」の利用者数は右肩上がりであることが分かります。
「daywork」利用者数の推移
集計期間:2021年6月~2023年5月
デバイス:PC、スマートフォン
「daywork」は、「気軽に農業を始めてみたい」というニーズに応えるサービスが実現した例と言えるのではないでしょうか。現在は、北海道、青森県、秋田県、山形県、長野県などを中心に、37県で求人が存在しています。このようなサービスが全国中に普及すれば、農業衰退問題の打開策になるのではないでしょうか。
農業体験の潜在層は都市部に集中
農業に興味をもってもらうきっかけとして、気軽に農業に触れられる農業体験は有効な機会です。では、具体的に農業体験に関心があるのはどのような層なのでしょうか。
下記グラフは、「農業」で検索した人の性別・年代割合(再掲)と「農業体験」で検索した人の性別・年代割合を表しています。両者を比較してみると、「農業」は男性に多く検索されていたのに対し、「農業体験」の検索では男女比がほぼ入れ替わっています。実際に仕事として農業を検討しているのは男性の方が多い可能性が高いものの、気軽に農業に触れてみたいというニーズは女性の方が多いのかもしれません。
また、年代割合を比較してみると、「農業体験」の方が「農業」の検索者よりも30〜40代の割合が大きいことが分かりました。30〜40代というと、未成年の子どもを持つ親が多い世代でもあるので、自分の子どもにも農業体験を通して食育をしたいというニーズもあるのかもしれません。
「農業」「農業体験」検索者の性別・年代割合
集計期間:2022年5月~2023年4月
デバイス:PC、スマートフォン
つづいて、農業体験の潜在層の居住エリアについても見ておきましょう。下記グラフは、「農業」「農業体験」それぞれの検索者が居住している地域の割合を表しています。グラフから、「農業体験」の検索は「農業」と比較して関東地方に集中していることが読み取れます。
では、関東地方の中でも具体的にどの都道府県の検索が多かったのでしょうか。また、農業体験に興味を持っている層の実際の体験実施状況はどのようになっているのでしょうか。
「農業」「農業体験」検索者の居住地域
集計期間:2022年5月~2023年4月
デバイス:PC、スマートフォン
さらに詳しく見ていきましょう。下図は、「農業体験」検索者が居住している都道府県を示しており、青色が濃いほど検索者の割合が高いことを意味します。ここでは、「daywork」アプリ利用者の居住都道府県も合わせて比較してみます。
まず「農業体験」検索者の居住都道府県の割合を確認してみると、検索割合が大きかったのは東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、大阪府、福岡県などの都道府県でした。これらのエリアは住宅やオフィスが密集している場合が多く、農業に慣れ親しんでいない若い世代が多いため、農業体験をしてみたい、あるいは子どもに体験させたいというニーズが大きい可能性があります。特に、最も検索量が多かった東京都は「農業体験」の検索のうち、全体の24.8%を占めており、東京都に居住している方の農業体験へのニーズは大きそうです。
一方で、「daywork」アプリ利用者の居住都道府県も見てみると、北海道、山形県、長野県の割合が特に大きく、求人の数と利用者数にはある程度の相関関係がありそうです。反対に、「農業体験」の検索割合が最も多かった東京都は、「daywork」利用者ではわずか1.6%でした。
左:「農業体験」検索者の都道府県割合 右:「daywork」利用者の居住都道府県割合
集計期間:2022年5月~2023年4月
デバイス:PC、スマートフォン
「daywork」はあくまで一例ですが、その他の求人サイトや農業体験の募集サイトをみても、募集の数は北海道、長野県やその他東北地方の県など、農地が豊富にある地域に集中しやすい傾向があります。
例えば、「農業」「求人」の掛け合わせ検索からの流入ページ1位のサイト「農家のおしごとナビ」では、求人数は以下の通りでした。
北海道:76件 長野県:40件 東京都:5件 神奈川県:9件
http://www.agreen.jp/
同様に、流入ページ2位のサイト「あぐりナビ」の求人数は以下の通りです。
北海道:402件 長野県:93件 東京都:33件 神奈川県:36件
https://www.agri-navi.com/
しかし、実際に農業体験のニーズを持っている可能性が高いのは、東京都などの都市部に居住している方が中心でした。より多くの人に農業に触れてもらうためには、潜在ニーズが期待できる都市部の居住者に対して、いかにアプローチできるかが重要になってきそうです。
都市部居住者は、農業体験をするために遠出をする必要があり、行動に移すハードルが高くなりやすい可能性があります。そのため、より気軽に体験できる機会を準備するか、イベントに付加価値をつけることが有効だと考えられます。
例えば、東京都からアクセスしやすいエリアの農業体験募集をピックアップして、都内居住者向けの日帰りプランを企画してみるという方法が考えられます。あるいは、リゾートバイトのようなイメージで、数日泊まり込みで給料の発生する農作業をし、自由時間は観光が出来るというイベントも面白いかもしれません。これなら参加者は農業体験が出来る上に、観光費用を安く済ませることが出来るため、参加のハードルを下げることが出来ます。
まとめ
今回は、農業の人手不足問題解消に向けて、潜在的なニーズの可能性を探りました。まとめると、以下のようなことが分かりました。
・近年、農業従事者の減少と高齢化が問題となっている。
・より多くの人に農業に触れてもらうには、体験の気軽さも重要。
・1日単位で始められる農業という新しい形も広がりつつある。
・農業体験に関心がある人は、女性や30〜40代が多い。
・農業との接点が少ない都市部で大きな潜在ニーズが期待できる。
若手の獲得に難航している農業ですが、若者からの興味が全くないわけでもないようです。従来の雇用形式に捉われず、柔軟に体験の機会を設けることが、新規就農者獲得のきっかけになるかもしれません。
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大学では経済学部で主に会計学を学び、2024年に新卒でヴァリューズに入社しました。現在はデータプロモーション局にて、弊社プロモーション事業のフロントを担当しています。