CRM×サービス
■1. 英国 Monzo銀行…後から申し込む「逆さまなローン」を提供
キャッシング利用の拡大は海外の銀行でも重要なテーマです。
モンゾ銀行はアプリに非常にユニークな機能を持たせる事でキャッシング利用を拡大しました。それが『「逆さまな」ローン』 “upside-down” kind of loanです。
通常、ローンは何かを購入する前に申し込みますが、モンゾ銀行では、特定の取引に一定金額を費やした場合、「その取引の費用を分割したいか?」をアプリ内でユーザーに尋ね、支払いの分割を希望する場合、同社のアプリ内でローンを利用できる機能を設けました。
Monzoアプリのキャッシング機能。借りる金額や返済日をシームレスに選べるようになっている。
https://monzo.com/download/
同社のこのユニークなサービスは顧客ニーズを捉え、急速に成長しているとの事です。
出典
https://uxdesign.cc/designing-a-better-borrowing-experience-e31e2ad0b97d
■2.スウェーデン Swed銀行…子ども向けバンキングアプリで金融教育
アプリを通して預金者の家族全体を巻き込んだのが、スウェーデンのスウェド銀行です。
同社がアプリの検討初期に行った消費者調査では、
「多くの親は子どもへのお金についての教育を重要だと感じつつ、子どもにお金の話をするのに抵抗感がある」
という事が明らかになったそうです。
その課題を解決すべくスウェド銀行の作ったバンキングアプリは
「親がアプリで様々な『タスク』を設定でき、子どもたちはアプリの世界で探検家や旅行者になり、『タスク』を完了してお金を稼ぐ」
というものでした。
バンキングアプリである為、貯めたお金はアプリ上で子ども達が管理することができます。
(子どもがメインユーザーの為、アプリのUIはゲーム調で言葉も分かりやすいものになっています。)
家事の手伝いをしてお小遣いを貰う構図に、ゲーム性やタスクとお金の管理の概念を持たせる事で、金融教育を図る取り組みと言えます。
スウェーデンの銀行もキャッシュレス化・オンライン化が進んでおり、顧客の流動性が高くなっています。スウェド銀行のこの取り組みは、家族ぐるみで顧客を囲い込む狙いもあるのではないでしょうか。
出典
https://uxplanet.org/ui-ux-case-study-banking-as-a-game-saving-childrens-financial-future-135fada0680
モンゾ銀行、スウェド銀行いずれも、CRMとサービスがうまく掛け合わされている事例と言えます。
プロモーション
■3.フランス BNPパリバ・ウェルス・マネジメント…ロイヤリティの高い顧客セグメントを有効活用
アプリのインストール数を増やす際に重要な要素の一つは、Google playやApple store等のアプリストアでのユーザーの評価です。アプリについて、ユーザーがつけた星マークや好意的な口コミが多いほど、新規のユーザーもアプリをインストールしやすくなります。
アプリストアでの評価を上げるために既存のアプリユーザーをうまく活用したのが、フランスのBNPパリバ・ウェルス・マネジメントです。
BNPでは自社アプリの利用者全体にざっくり情報発信するのではなく、利用者の属性や行動に基づくセグメントを作成しました。
セグメントは、関連性のあるターゲットに絞ったアプリ内メッセージやプッシュ通知を送信するのに役立った他、アプリのインストール増施策にも使われたそうです。
BNPは頻繁にアプリを利用するロイヤリティの高いユーザーに対し、アプリ内でポップアップメッセージを使用し、アプリストアでアプリを評価するよう求めました。
ロイヤリティの高い人ほど、金融機関側のアクションに反応しやすく、好意的なレビューを残しやすいのは想像に難くありません。
実際にこの施策後、同社アプリのApp Storeでの評価は2.5から4に上昇したそうです。
出典
https://attrock.com/case-study/mobile-app-marketing/
■4.ウクライナ Monobank…小さな工夫で話題喚起・ユーザー増の好循環
アプリに関する話題喚起を効率的に成し遂げたのが、ウクライナのオンライン銀行Monobankです。
同社はアプリを起点にキャッシングのできる「モノバンクカード」を発行しています。
サービス立上げ初期、アプリのダウンロード者を増やすため、Monobankは「アプリをダウンロードした人に、ユニークでかわいいデザインの猫のカードを送る」という施策を行いました。
Monobankのカードを受け取った顧客のSNSへの投稿例
カードは恐らくサプライズだったと思われます。
カードを受け取った人々はその感想をSNS上で投稿し、それが呼び水となって新たな顧客が集まる、という好循環が起こりました。
小さな工夫でありながらも、上手くユーザーの期待を超えた点が拡散に繋がったと言えます。
最終的にMonobankは、モノバンクカード45,000 枚分のユーザーを、想定よりも3ヶ月早く獲得したとの事です。
出典
https://www.promodo.com/case-studies/using-aso-ppc-and-media-ads-to-promote-a-mobile-branchless-bank
https://www.monobank.com.ua
■5.フィリピン UnionBank…コロナ禍の消費者心理を掴んだプロモーション
オンラインバンキングを促進する為に、ユニークな取り組みを行ったのがフィリピンのUnionBankです。
同社はコロナ禍で、銀行のオフライン店舗へのルートをゲームのようにシミュレーションできる機能をアプリに搭載しました。
UnionBankがネット上に公開したゲーム機能のイメージ
外出制限で社会が緊張する中、ユーザーを楽しませつつ、「やはりオフラインの店舗でなくオンラインバンキングで良さそうだ」と感じさせるのに非常に有効だったとみられます。
市場の変化に合わせて素早く思い切った施策を打てたのは、海外の金融機関ならではなのかもしれませんが、トレンドを押さえた小〜中規模のプロモーションであれば、日本でも活かせる点はありそうです。
出典
https://www.mmaglobal.com/case-study-hub/case_studies/view/64190
UI・UX
■6.オーストリア Erste銀行…高齢者を意識したアプリ設計
海外においてもシニアマーケティングは重要となっています。
ユーザビリティを非常に意識した後期高齢者向けのバンキングアプリ作りを行ったのが、エルステ銀行です。
アプリの企画に際し同社は、200 人の高齢者を対象に5つのアプリのアイデアをテストしたそうです。
結果、視力の弱い人も多い高齢者層には、タイポグラフィや高コントラストが非常に重要である事が分かりました。
具体的にはUI上で近い色の使用を避ける、ボタンなどのアクティブな要素に十分なスペースを確保する等に、その知見は反映されました。
また、別のユーザーテストを行ったところ、
・フォントのサイズはおよそ2倍にする必要がある
・高齢者は下部のナビゲーション パネルが見えず、メイン画面のグラフも理解できない
等が分かり、当初想定していたアプリからの変更が必要となりました。
ユーザーのリアルな実態を把握する重要性が示された顕著な例と言えます。
出典
https://medium.com/@madesense/the-design-process-behind-erste-mobile-bank-for-people-at-the-silver-age-d72c1c3705fb
■7.Bitex 米・インド…国ごとの意識に合わせた色彩設計
Bitexは米国とインドに拠点を持つフィンテック企業が主導する暗号通貨・仮想通貨の銀行です。
グローバルな展開を狙う同社では、国ごとの意識に合わせた色彩設計を行いました。
例えば日本を始め、アジア諸国では株価の上昇は赤色、下落は緑色で示される事が多いですが、西洋ではそれが逆になります。
例 ロンドン株式市場HP 株価の上昇は緑、下落は赤で示されている。
Bitexは欧米市場への参入を計画していたため、こうした欧米の色彩感覚もUIに反映する事になりました。日本でも「CVボタンは赤系統にした方が良い」「ボタンの色味をABテストする」等の話はしばしばされますが、金融アプリにおいても色彩が重要な好例と言えます。
出典
https://uxplanet.org/case-study-bitex-ux-design-challenge-for-a-stock-analysis-app-12ab15de7bfd
まとめ
いかがでしたでしょうか。
サービスやプロモーションのユニークさも目立ちますが、その根底には、
・CRMとサービスやプロモーションを掛け合わせる
・ざっくり顧客全体に向けた施策を行うのではなく、セグメンテーションにより施策を高度化する
・ユーザーのリアルな実態を掴んだ上でUIやUXを設計する
等の特徴が見られました。
日本でも参考にできる要素は少なからずあるのではないでしょうか。
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京都の大学で長らく中国哲学史を研究。現在は事業会社に対するマーケティング支援を担当。中国・東南アジアを中心にグローバルリサーチにも携わっている。趣味は旅行と文献研究。