ケーススタディ(環境分析のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

ケーススタディ(環境分析のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回は、ケーススタディ(環境分析のアウトプット)について寄稿いただきました。


1.ケーススタディとは

●全体像イメージ

●概要

ケーススタディとは、競合他社、強化領域、特定の施策・機能・表示におけるベンチマークプロダクトの事例研究を通じて、独自の成功要因を分析することで得た学びを自社の成長ストーリーの中に取り込むアウトプットです。

調査対象物は競合他社だけでなく様々なベンチマークを組み込むことで、コンセプトワーク、経営戦略・UX戦略の立案、サービス企画の立案、マーケティング施策の立案、プロダクトの機能開発など様々なシーンで役立ちます。

実際の事例研究を通じて、今後に向けて導入を検討している施策や機能の必要性を職種を超えた関係者間で認識したり、制作物や成果物の具体的なイメージを依頼主と作業者との間ですり合わせたりすることが容易になります。

調査手法は個人でウェブやアプリを実地で調べるデスクリサーチ型に分類されます。事例をストックしていく過程で情報が集まったり見識が磨かれるメリットがあるので、企画・提案の工程には欠かせないリサーチ手法です。

●構成要素

ケーススタディの構成要素は以下のようになります。

●1.テーマ&トピックス

・テーマ:プロダクト名やトレンド事象名
・トピックス:学びとするキーワード

●2.画像キャプチャ

・公式サイトの情報
・ウェブ記事の情報
・自身で撮影した画像 など

●3.参考記事

・公式プレスリリース
・メディアやブログの記事
・該当プロダクトへのリンク など

●4.要約・考察

・事実情報の要約
・創意工夫の考察

●よくある課題

「自社にとってどのような施策や機能が必要か?」
⇒この質問に一枚で答えるためのフレームワーク

①企画の決裁が重厚に管理されている組織のケース

ウォーターフォール型の組織では、プロダクトに関連した企画の決裁にあたり、詳細な青写真と見積りが必要になります。企画が決裁されるまでは現行稼働を大きく割いてしまうリサーチや制作活動も実行してはいけないという制約も。

加えて、「まだどこにも存在していなくて、売上が伸びて利益も落とさない、施策や機能」という組織要求がついて回ったりします。その結果、具体的にイメージできるものがないと何も話が進まず、担当者は途方に暮れてしまいます。

②表層的な成功事例しか共有されない組織のケース

プロダクトの企画会議では、今流行っているものの情報がよく共有されます。その共有自体に無駄なことはありませんが、「結局、その企業のブランド力だからね、お金をかけているしね」という結論になる場面も少なくありません。

特にアイデアを持たない人からそうした情報が出てくる場合、共有情報がメディア記事のリンクのみだったり、成果分析も「話題になっている」ことだったり、なかなか当てにはしづらいものです(共有自体は良いことなのですが)

2.作り方

①学びとする物事を特定する

・評価したいポイントや取り込みたい観点を記載する
(成功事例の中でも自社が真似るべき成功要因が大事)

②視覚的なイメージを添える

・アプリ画面や記事画面などを添えてイメージさせる
(自身の体験に基づく一次情報はより説得力が増す)

③記事タイトルとURLを記載する

・元記事やサイト・アプリをすぐに参照できるように
(記事タイトルまで記載しておくと索引として便利)

④事実情報と導入意義を伝える

・事例のリリース時期や実績数値を確実に記載する
・考察では自社にとっての意義や懸念点にも触れる

3.使い方

①企画のアイデアフラッシュとして納得感を得る

プロダクトについて企画や提案を行うシーンになったら、まずケーススタディを集めてアイデアフラッシュとしてまとめましょう。ウェブやアプリを実地で調べるこの調査手法は、個人の努力で局面を変える動きにつながっていきます。

ケーススタディの共有により、自分たちが提案している企画を世の中的に行う蓋然性(納得感のある事例の件数)や、自社で取り込む時の確度(サービスモデルやポジショニングのハマり度合い)について思考実験することができます。

②打ち手単位でアプローチの認識をすり合わせる

ケーススタディでは、直接的な競合他社はもちろん、施策や機能などの打ち手単位で優れた事例をピックアップするのも妙手です。研究対象が他業界であれば安直な同質化にはならず自社ユーザーに合わせた展開を考えやすくなります。

また、この構造は組織間をまたぐ場合も有効です。依頼側と制作側の間で制作物や成果物の出来に共通認識を持つことは難しいものですが、ケーススタディがあると、構成要件や仕上がりを具体的にすり合わせることが容易になります。

この記事のライター

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でUX戦略・リサーチ全般を担当する。

個人でリサーチに関する著作を持ち、デザイン・マーケティング・経営を横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行うほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。

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菅原大介

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