ペルソナ(顧客理解のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

ペルソナ(顧客理解のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回は、ペルソナ(顧客理解のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


1.ペルソナとは

●全体像イメージ

●概要

ペルソナとは、ターゲットユーザーの人物像を仮想のユーザーモデルとして可視化するアウトプットです。ペルソナの作成にあたっては、量的な分析データからは基本属性や行動特性を、質的な分析データからは生活行動・価値観・人生観を、それぞれ参照することで、リアリティのある人間性を描き出すことができます。

ペルソナを作成すると、組織内でユーザー像の共通認識を持つことができ、打ち手の議論の中で判断軸が自然と顧客中心になっていきます。プロダクト運営においては、ペルソナの生活背景や購入商品との関わり方を参照することで、具体的かつ一貫性のあるデザインやマーケティングコミュニケーションが促進されます。

また付帯的な効果として、他の体験設計のアウトプット(カスタマージャーニー、ストーリーボードなど)の主人公として情報を接続することができます。

もともとはアラン・クーパーの著書『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』で提唱された歴史のある考え方・見せ方で、今ではプロダクトマネジメントシーンで誰もが知るユーザーモデリング手法として有名です。

●種類

ペルソナの種類は、カテゴリー(クラスター)で分類されるのが通例です。
主な分類方法には次のようなものがあります。

<カテゴリーによる分類>

①商品カテゴリー
・購入商品や利用内容など

②利用ステータス
・契約状況や併用状況など

③ライフステージ
・キャリアや家族構成など

④価値観クラスタ
・考え方や人生観など

⑤決裁権限レベル
・起案者と承認者など

このほか、戦略レベルでペルソナを構築する際には、優先順位による分類を行います。プロダクトビジョンの策定を担う担当者はこちらを定義することが仕事価値につながります。

<優先順位による分類>

①プライマリーペルソナ
・優先度が最も高いペルソナ(具体的には以下を基準に考える)
a.ブランド戦略に則り積極的に獲得したいユーザーセグメント→ブランドターゲット
b.サービスの初期採用者→アーリーアダプター
c.サービスの主たる商材や機能のユーザー→メインカテゴリーユーザー

②セカンダリーペルソナ
・優先度が次に高いペルソナ(具体的には以下を基準に考える)
a.現状の顧客基盤で新規の集客や獲得が容易なユーザーセグメント→セールスターゲット
b.現状の顧客構成で利用頻度や購入金額が多いユーザーセグメント→ボリュームゾーン
c.サービスの副次的な商材や機能のユーザー→サブカテゴリーユーザー

●構成要素

ペルソナの構成要素は以下のようになります。

●1.リード情報

・名前・職業をはじめとするペルソナの人物情報を端的にまとめた情報
・ペルソナの情報を他のアウトプットに最小限で転記する用途でも有用

<代表的な項目>
・名前
・職業
・性別
・年齢
・特徴的な発言(価値観・志向性を象徴する発言)

●2.デモグラフィック情報

・家族構成や居住地域などペルソナの生活背景を列挙した情報
・具体的な生活行動や購買行動は実質的にこの情報の範囲で規定されていく

<代表的な項目>
・世帯種別
・家族構成
・世帯年収
・居住地:最寄駅(利用沿線)
・ロールモデル

●3.登録・行動ステータス情報

・商品やサービス(プロダクト)との関わりを列挙した情報
・会員分析データや行動ログデータとも同期を取って決定する

<代表的な項目>
・有料サービス・課金利用状況
・グループのサービス登録状況
・ポイントのサービス登録状況
・購入頻度
・購入商品
・利用目的
・利用タイミング
・購入商品の主利用者

●4.アプリ・ツール情報

・ペルソナが使用するアプリやツールの情報
・ベンチマークやケーススタディの情報と連携することで伸び代のある情報量となる

<代表的な項目>
・ショッピングアプリ(事業展開している分野のもの)
・趣味・生活系アプリ
・SNSアプリ
※アプリ(BtoCの場合のメイン)、ツール(BtoBの場合のメイン)

●5.インサイト情報

・事業ドメインに対する価値観・志向性など、考え方や感じ方の基準となる情報
・プロダクトの提供価値を追求するうえで最も重要な概念

<代表的な項目>
・価値観・志向性(優先度・テーマ)
・リテラシーLv.(事業展開している分野の知識や経験)
・ブランド選好(こだわり度合い、価格と品質のバランス)
・ペイン・ゲイン(困った事象、助かる機能)

●6.ストーリー

・ペルソナの生活行動・購買行動の特性をテキストでまとめた情報
・組織内での情報共有にあたりそのまま読み上げて使うことができて便利な箇所

<代表的な項目>
・生活スタイル
・マネープラン(家計の方針、支出の配分、長期の展望)
・使いこなし方(使い分け方、独自の工夫)
・ロールモデル(あこがれの人)

●よくある課題

「どのような価値観・志向性を持つユーザーに向けて商品・サービスを提供するのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット

①各事業部門・機能部門でユーザー像がまちまちなケース

組織が成長して事業分割・機能分割が進むと従業員の中にあるユーザー像も分かれ始めます。プロダクト全体に関するユーザーデータを俯瞰的に見る機会が少ないため、部門ごとにユーザーの認識がまちまちで整合性がない状態に陥ります。

そうしてプロダクト全体を貫くユーザー思想が欠落していると、「よりハイクラスのターゲットに、よりハイレベルなサービス提供を」(高所得者層に高額のものを)という思考が根付き、悪い意味でもKPIドリブンな文化が形成されます。

②サービス企画時に独自性のある提案が出てこないケース

組織内で企画系のケイパビリティを持つ人材が極端に少ない場合、サービス企画時に独自性のある提案が出てこず、「〇〇が流行っていて良さそう」(例:韓国グルメ、SDGs、ワーケーション)のような提案のオンパレードになります。

こうした組織では、仮にペルソナが既に導入されていても、ユーザー要件を無視したゴムのペルソナ(自分たちにとって都合の良いユーザー像)になりやすく、現状を超える妙案が一向に出てこず議論が平行線をたどることが多いです。

③ペルソナがあるだけの状態で業務では使われないケース

大規模なクラスター分析と全社的なワークショップを経てペルソナを作ったのに、実際の業務では使われない例もよく見かけます。こうしたケースでは、ペルソナの情報が最大公約数的なのっぺりとしたものになっていることが多いです。

特に経営課題や事業課題と向き合うシーンではペルソナの強度が問われます。ペルソナ=データアナリティクスの延長で作られていると思考の余白を作れず活用が進みません。価値観や志向性、生活スタイルに関する情報が無いからです。

2.作り方

①ユーザープロファイルデータを準備する

・ユーザープロファイル・セグメンテーションマップを作る
・対象者セグメントごとのスケルトン(データセット)に見立てる

②名前などの重要情報は大きく目立たせる

・名前や職業などの基本情報は大きめに表示する

③立場+発言で人物のスタンスを瞬時に表す

・キーインサイトをひと言でまとめる

④ペルソナの種別・位置づけをラベルで示す

・戦略上どのような位置づけなのかを表す

⑤生活を類推できる項目をピックアップする

・予測がしやすいプロフィール情報を書く

⑥アプリアイコンでイメージ付けする

・アプリアイコンやブランドロゴを表示する

⑦ユーザー要件とビジネス要件を並存させる

・ビジネス要件も織り込んでまとめる

⑧方向性を示すサジェストを書いておく

・ストーリーを文章形式でも参照できるようにする

3.使い方

①組織内で共通のユーザー像として活用する

ペルソナが組織内で共通のユーザー像として浸透すると、ペルソナの背景情報を活かして「○○さんは○○だから○○にしよう」(例:価格が多少上がっても品質をキープしよう)というような提案が行われ、判断軸が顧客中心になっていきます。

また、ペルソナの種類もサービスやブランドごとに拡充したり、プライマリーとセカンダリーのレベルを設けることで、プライマリーでは王道を外さず、セカンダリーではニッチながらも強いニーズに応える、などの顧客戦略を策定できます。

実務で最もわかりやすい変化としては、デザインとマーケティングコミュニケーション領域です。デザインではトンマナの一貫性を保ちやすくなり、マーケティングコミュニケーションでは表現方法をユーザーにフィットしやすくなります。

②体験設計のアウトプットの主人公に据える

ペルソナは単体資料として意味を持つだけでなく、他の体験設計のアウトプット(カスタマージャーニー、バリュープロポジションキャンバス、ストーリーボードなど)の中にも主人公として登場させることで利用価値が飛躍的に高まります。

各重要資料内で常にペルソナを参照する状態を作れると、顧客理解こそがアイデアの源泉であることを実感できます。リサーチ、制作・開発などのパートナー会社との協業においても充実したユーザー像を迅速に共有することができて便利です。

③リサーチデータの総合力を問う機会にする

ペルソナを作成する過程ではたくさんのユーザー情報を必要とします。そのもとになるデータは、行動ログ分析、インタビュー、社会統計などの手法を駆使して収集するため、自然と組織のリサーチの総合力を問う機会になります。

言い換えると、ユーザー情報の充実度や完成度は組織のリサーチ力の成果であり、ペルソナの作成を機に、定量・定性バランスよく運用できるかを点検してみると良いでしょう(他の成果物の作成だと単体のデータでも何とかなる)

この記事のライター

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。

デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)

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