1.ストーリーボードとは
■●全体像イメージ

■●概要

ストーリーボードとは、ユーザーがサービスを利用する時の物語展開をCM制作の絵コンテのような形式で可視化するアウトプットです。ユーザーの生活習慣や消費行動を背景に設定して、サービスとの出逢いやサービスを通じたゴールの達成状態を描き出し、広いステークホルダー向けて未来像を共有していきます。
ストーリーボードの作成ではカスタマージャ―二―を参照します。カスタマージャ―二―は実務での汎用性は高いものの、成り立ちがどうしてもマーケティング視点になるので、ストーリーボードの形で描き出すことで企画部門・デザイン部門をはじめ、思考の余白を必要とするメンバーにも吸収されやすくなります。
この成果物を作成する時には、イラストレーターを起用できるか?ということが初歩にして最大の障壁になります。社内か外部に依頼できる環境があると良いのですが、一般の事業会社では人材がいない、時間を割けない、費用がかかる等の課題で難しいことが多く、そこがこの成果物が普及しない要因でもあります。
そこで本項では、ケーススタディ・ベンチマーク・ユーザーテストの結果を組み合わせてコマ割りを埋めていくフォーマットを紹介します。この方法なら、見栄えはツギハギの中間成果物でも、マーケター・リサーチャー・デザイナーのみで十分進められます(イラストの画力のスキル有無で実現できないということが無い)
※とはいえ最終成果物をイメージできた方が良いのは確かなので、見本の図表ではイラスト付きで編集したものを用意しています。
■●構成要素

ストーリーボードの構成要素は以下のようになります。
●1.ペルソナの簡易プロフィール
・ストーリーの主人公となるペルソナの簡易的な情報
(ストーリーの背景情報が無いと、関係者はどのユーザーシナリオなのかがわからない)
<おすすめの記入項目>
・名前
・職業
・性別
・年齢
・世帯構成
・居住地
・口癖
●2.テーマ設定
・組織で広めたい・深めたいテーマ
・リサーチが伴走するプロジェクトと連動したものを設定する
●3.ペルソナの思考発話
・設定したテーマにおけるペルソナの日常
・生活習慣・利用行動などをペルソナの言葉や思考で描く
・ブランドガイドラインで定めるボイス&トーン(口調)があれば参考にする
※上記のような一人称の思考発話形式のほか、運営者の立場からナレーションのような場面説明を入れるような形式や、逆にあまり場面を定義しすぎないようにイラストのみにしてあえて説明書きを入れない形式を取っている例もあります。
●4.参考情報・イメージ
・ペルソナのつぶやきに対応する組織内外にある参考情報や実現のイメージ
・ケーススタディ・ベンチマーク・ユーザーテストの結果を活用する
■●よくある課題

「結局、私たちは自分の仕事で何をしたらよいのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット
①提供価値の提供形態をイメージできないケース
戦略・探索フェーズのプロジェクトでは、戦略部門がユーザー調査・市場調査から導き出した提供価値(コンセプト・コアバリュー・テーマなど)の抽象度が高く、周知された提供形態を誰もイメージできないという状況に陥りがちです。
提供価値の概念はテキストメッセージ上ではどうとでも言えてしまうため、実証段階に入ると解釈が難しく現場で消化不良を起こします。そして概してメッセージの発案者は作るところまでの関わりで、浸透にまでコミットしてくれません。
メッセージやスローガンを開発する時は、そこで表現するブランドの提供価値をユーザーの日々の生活や消費の中に置き換える必要があり、これを適切な成果物を使って描き出す作業ができないと組織での提供価値の理解は進みません。
②データから業務への落とし込み方で悩むケース
ユーザー調査の報告では、報告書内でそれなりに各所へのヒントとなるアイデアや提案事項が出ていても、結局、担当者の方で仕事への落とし込み方がわからず、「私の場合どうしたらよいでしょう…」となってしまうことがあります。
データが揃っていて生かせない状況は本質的には担当者側の課題ではありますが、大企業では特に組織の人員構成的に運用業務担当者が中心で、全体として企画のケイパビリティが低くデータの活用まで至らないことは珍しくありません。
担当者クラスではどうしても現在の仕事や制約が念頭にあるため、なかなか新しいことを進める想像がつきません。リサーチの実行者は、調査報告から活用に移行する段階で担当者のイマジネーションをサポートする動きが求められます。
2.作り方

①対応するペルソナを主人公に設定する
・ストーリーに合ったペルソナを物語の背景に設定する
・ペルソナを設定することにより提供価値がナラティブになる
<記入のヒント>
・全体戦略の場合→プライマリのペルソナ
・中期計画の場合→TO-BEのペルソナ
・カテゴリー戦略の場合→カテゴリーのペルソナ
②ストーリーに「○○編」と命名する
・「○○編」の命名はCM制作の要領で
・テーマの名称は必ずユーザーの生活や日常から形成する
<「○○編」:記入のヒント>
・場所
・場面
・時間
・利用プロセス
・利用フェーズ
・ユーザーのゲイン
・ユーザーのペイン

③カスタマージャーニーの中から場面を描く
・プロダクトの利用行動を概ね時系列の流れで描く
・カスタマージャーニーのフェーズ設定と同期を取る(見本は6コマ構成)
・起承転結で描きにくい場合は、春夏秋冬(季節催事や52週MD)の流れで描く
・ウェブ上の行動とリアル上の行動の両方を意識して描くと行き詰まりにくい
※単純な起承転結の4コマ形式で作成されるケースも多く見かけるが、概して情報量が少なく内容が当たり前すぎて成果物としての参照価値を得られないケースもあるので、コマ割には十分に注意すること。
④ケーススタディのイメージを貼付する
・ケーススタディを参考イメージとして貼付する
・ケーススタディの対象はベンチマーク(直接競合・手本企業)としても理解されやすい
・検証段階まで終えている場合はユーザーテストの結果も活用する
<素材のヒント>
・サービスLP
・商品ページ
・記事ページ
・アプリ画面
・実店舗の写真
・イベントの写真
・SNSの投稿画像
・動画メディア など
3.使い方

①体験設計イメージの可視化用に
ストーリーボードのフォーマットはCM制作の絵コンテのような作りなので、そこで描かれている業務シーンに普段接していない人でも体験設計を具体的にイメージしやすく、ユーザー体験の各場面で何をやったらよいかがよくわかります。
加えて、ストーリーボードは描く際に中身の情報量や抽象度を調節することができます。具体的に描けば施策や機能の解像度を高めた共有が可能であり、逆にあえて説明を簡素にすれば思考の余白を残した状態で共有することができます。
②打ち手のアイデアラッシュ用に
調査データは充実しているのに活用シーンでデータが活かされない時は、ストーリーボードを使って打ち手に光を当てます。体験設計のアウトプットに乗せることでアイデアの使いどころを具体的にイメージでき、議論が前進します。
打ち手を描く時は、ケーススタディ・ベンチマーク・ユーザーテストなど過去のリサーチアセットを駆使します。いずれも単体では参照期限が短い成果物ですが、自社プロダクトの未来を描く体験設計に重ねることで再度輝きを放ちます。
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。
デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)
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