サービスブループリント(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

サービスブループリント(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回はサービスブループリント(体験設計のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


1.サービスブループリントとは

●全体像イメージ

サービスブループリント

●概要

サービスブループリントとは

サービスブループリントとは、ユーザー視点の利用体験(フロントステージ)と事業者視点の提供体制(バックステージ)をフローチャートで可視化して、プロダクト運営に関連する組織活動を俯瞰的に見るアウトプットです。

同じく時系列でユーザー体験を整理する成果物であるカスタマージャーニーとの違いとして、バックステージ側の提供体制(生産管理・情報授受など)までを視野に入れて描き出す表の作りが大きな特徴になっています。

ユーザーの行動を軸にそれに対応するプロダクトの施策・機能と運営者のオペレーションとの関係性を描き出すので、特に制作・開発の担当者には担当領域のみに留まらず、事業運営の全体像への理解を深める機会になります。

この成果物を作成する経緯は、現状把握の目的で作成する(つまり、AS-IS)ことが多いのですが、組織の新しい方針や体制を受けて未来の構想を可視化する、つまりTO-BEの状態を織り交ぜて構成する作り方はおすすめです。

一般的なサービスブループリントは多様なステークホルダーに対応すべく大型のチャートとして描かれますが、作成負荷に鑑みて、本項ではスライド一枚に収まる程度のごく軽量な成果物として作成する方法を紹介します。

●構成要素

サービスブループリントの作り方(構成要素)

サービスブループリントの構成要素は以下のようになります。

1.フェーズ

・ユーザーの利用段階(スライド一枚に収めるには5〜6フェーズが最適)

2.シナリオ

・ユーザーの利用体験(ストーリーボードからの転記)

3.施策・機能

・事業方針や中期計画で定める施策・機能

4.ユーザー

・ユーザーが当該フェーズのプロダクト上で取る主な行動

5.プロダクト

・プロダクトがユーザーの行動に対して返す挙動

6.組織活動

・組織内部でユーザーの行動に対して取るオペレーション

※一般的には1〜4をフロントステージ、5〜6をバックステージとして括ります。本項では消費者向けサービスの運営を想定しているためフロントステージを厚めにしていますが、BtoBモデルの業務システムなどではバックステージの比率が上がります。

※構成要素の名称について、本項では便宜上3〜5は一般名称の表記を取っていますが、実際には自社に合わせた名称を記入するとより親しみやすくなります。

<記入イメージ>
・ユーザー→○○ユーザー
・プロダクト→アプリ名
・組織活動→企業名

●よくある課題

サービスブループリント  よくある課題

「今計画している打ち手はプロダクト運営全体にどのような影響を与えるのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット

①大型施策・機能改善が個別に計画されているケース

組織の機能分化が進むと、大型施策・機能改善がバラバラに計画されていきます。「これはすぐに売り上げが立つから進めたい」というサービス企画や、表示・操作系の定常的なペインを改善する基礎的なUI/UX改善の刷新活動などです。

これらはいずれも必要な取り組みですが、是非の判断は実質的に管掌本部の権限で個々に行われます。カスタマージャーニーがあっても、施策ごと・機能ごとにフォーカスして作成されるため、全体への影響までは見越すことができません。

②直接部門と間接部門の足並みが揃っていないケース

プロダクトマネジメントの業務シーンでは、サービスブループリント上でいうフロントステージとバックステージが断絶しやすい傾向があります。売上・受注を急いで立てたいがあまりに裏方の提供体制が追いつかない場面が典型例です。

さらに、複数のプロダクトを運営していて特に事業部制を採用していると、組織内で似たような活動を個々に1から計画してしまう現象も起き、そのままにしているとどんどんオペレーション効率が悪くなり、生産性が低い状態に陥ります。

2.作り方

サービスブループリントの作り方(作成手順 1/2)

①カスタマージャーニーと同期を取る

・ユーザーの利用段階はカスタマージャーニーのフェーズ設定と同期を取る
(カスタマージャーニーが情報資産として活きてくる)

②ストーリーボードのイラストを挿入する

・プロジェクトに対応したストーリーボードのイラストを挿入する
・イラストの直上にはユーザーのアウトカム(達成状態)を示すキャプションを入れる

③当期の重点施策・機能を記載する

・任意の期間に注力する予定のマーケティング施策・サービス企画・プロダクト機能を抜粋して記載する
・表全体の要素が多いためハッシュタグ風の書き方で見た目の軽みを出す
・下半分のチャートは無味乾燥としたものになりやすいので、できるだけこの項目群で新しさを訴求する

<記入例>
・ポイントミッション
・診断ツール
・ショート動画
・限定クーポン

サービスブループリントの作り方(作成手順 2/2)

④ユーザーの行動を「○○をする」で記載する

・ユーザーの行動を「○○をする」のようなシンプルな動作の表記で記載する

<記入例>
・○○を見る
・○○を選ぶ
・○○を買う
・○○を入力する
・○○を投稿する
・○○を比較する
・○○を申込する

⑤アプリの挙動を記載する

・アプリの施策や機能を通じたインタラクションを記載する

<記入例>
・メルマガを配信する
・プッシュ通知を送る
・ポイントを付与する
・おすすめを提示する
・検索をサポートする

⑥組織やチームが行う業務や対応を記載する

・特に当該プロジェクトで重視している施策・機能への対応を中心に記載する
(ブループリントは細かい業務まで書き出すと巨大な情報量の成果物になってしまうため記載する情報は厳選する※細大漏らさず作成する方法もあります)

<記入例>
・○○を作成する
・○○を企画する
・○○を運営する

⑦ユーザー・アプリ・組織の関係性をつなぐ

・ユーザー・アプリ・組織それぞれが織りなすオブジェクトの関係性を矢印でつなぐ
・矢印によってオブジェクトを通じたシナリオの流れをより可視化できる

3.使い方

サービスブループリントの使い方

①複合的な打ち手の有効性を横断的・俯瞰的に見る

事業方針や中期計画で定めた打ち手をサービスブループリント上に配置します。すると、各部門メンバーは事業活動全体の中で自分たちの提案を横断的・俯瞰的に見る機会を経て、本当にシナジーがある取り組みかどうか見つめ直せます。

この成果物を作成する過程で、ユーザー要件とビジネス要件に照らして、全体の体験設計に無関係な突飛な施策や機能(すぐに売上は立つけれど必然性が無いものや部門の業務成果都合でやりたいことなど)がはびこるのを防止できます。

②提供体制の実現性をユーザー体験本位で吟味する

サービスブループリントならではの利点はバックステージの動きをあえて可視化することにあり、各種のシステム的・人的オペレーションをフローチャートに乗せることで、関係者全員と提供体制の実現性を吟味する機会を得られます。

すなわち、「部門別の動き」ではなく、「ユーザーが取る行動やその対象物に対する動き」の視座で考える機会となり、どのような活動単位だと組織全体で一貫性・合理性のあるオペレーションになるのかを部門を超えて議論できます。

この記事のライター

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。

デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)

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