「検索離れ」は本当に起きている?
2022年11月30日にOpenAIは対話型の生成AI「ChatGPT」を発表しました。AIと会話しながら情報収集できるChatGPTの登場は、人々の検索行動に大きな影響を与えたと考えられます。
実際に筆者自身も、これまでブラウザ検索を繰り返して調べていた情報を、ChatGPTに尋ねることが増え、ブラウザ検索の利用が減っていると感じます。
ChatGPTの登場前から「検索離れ」は注目されており、過去にマナミナでも「検索離れ」について調査しています。詳細は、以下の記事をご覧ください。
本記事では2022年と2024年のデータを比較して、GoogleやYahoo!などの検索エンジンを活用した検索行動の変化を分析していきます。なお分析には、株式会社ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
■検索エンジンのユーザーはむしろ増加している
まず、検索エンジンのユーザー数が減少しているかを調べました。日本で主に使われている3つの検索エンジン「Google」「Yahoo!検索」「Bing」のユーザー数を2022年と2024年で比較すると、わずかに増加していました。

検索エンジン「Google(google.com)」「Yahoo!検索(search.yahoo.co.jp)」「Bing(bing.com)」のサイト訪問者数(※)
集計期間:2022年1月~12月、2024年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン
※複数の検索エンジンを併用している場合でも、同一人物は1人のユーザーとしてカウントしています。ただし、デバイスごとの集計のため、同一人物がPCとスマートフォン両方でサイトに訪問していた場合、2人のユーザーとしてカウントされます。
また、年代ごとにユーザー数の変化を比較すると以下のようになります。

検索エンジンユーザー数の年代ごとの変化(Dockpitのデータより筆者作成)
集計期間:緑:2022年1月~12月、オレンジ:2024年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン
40代以下のユーザー数には大きな変化が見られない一方で、50代以上のユーザー数が増加していることがわかります。高齢層にも検索エンジンの利用が広がったことで、ユーザー数はむしろ増加傾向にあるといえるでしょう。
■一人ひとりの検索は減少している
次に、検索エンジンユーザー1人当たりのセッション数・PV(ページビュー)数・平均滞在時間の変化を見てみましょう。

検索エンジンユーザーの1人当たりのセッション数・PV数・平均滞在時間(※)の変化(Dockpitのデータより筆者作成)
集計期間:緑:2022年1月~12月、オレンジ:2024年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン
※検索エンジンドメインのサイトにおける、1セッション当たりの滞在時間の平均値。遷移先のWebサイトの滞在時間は含まない。
どの項目も数値が減少しており、1人当たりの検索回数や検索にかける時間が減少していることがうかがえます。検索する人は増加しているものの、1人当たりの利用時間は減少しており、実際に「検索離れ」が起きているようです。
検索ワードによる違いはある?
検索ワードの種類によって変化に違いはあるのでしょうか?
検索エンジンで情報を探す際に入力する言葉やフレーズは「検索クエリ」と呼ばれます。検索クエリは検索するユーザーの目的によって3種類に分類されます。
・Knowクエリ(インフォメーショナルクエリ):情報収集が目的
・Goクエリ(ナビゲーショナルクエリ):特定のWebサイトへの訪問が目的
・Doクエリ(トランザクショナルクエリ):Web上での行動(予約、購入など)が目的
3つの分類にしたがって、検索ワードによる変化の違いを調査していきましょう。
■検索クエリに関わらず、ユーザー数は減少している
3つの検索クエリに該当すると考えられる検索ワードを4つずつ選び、ユーザー数と1人当たりのセッション数の変化を比較しました。選択したワードは以下のとおりです。
・Knowクエリ:「おすすめ」「とは」「やり方」「なぜ」
・Goクエリ:「Amazon」「Youtube」「Spotify」「ディズニー」
・Doクエリ:「予約」「購入」「登録」「ダウンロード」
以下の図は、それぞれのクエリで最もユーザー数が多い「おすすめ」「Amazon」「予約」について、ユーザー数(指定のキーワードで検索した後、何かしらのサイトに訪問したユーザー数)と1人当たりのセッション数の変化を示しています。

「おすすめ」「Amazon」「予約」のユーザー数・1人当たりのセッション数の変化(Dockpitのデータより筆者作成)
集計期間:緑:2022年1月~12月、オレンジ:2024年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン
どのワードでもユーザー数が減少していることがわかります。一方、1人当たりのセッション数は、Knowクエリ・Doクエリでは減少していましたが、Goクエリではほとんど変化がありませんでした。
そのほかの検索ワードについても見ていきましょう。以下の表は、ユーザー数・1人当たりのセッション数を検索クエリごとにまとめたものです。

Knowクエリのユーザー数・1人当たりのセッション数(Dockpitのデータより筆者作成)
集計期間:2022年1月~12月、2024年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン

Goクエリのユーザー数・1人当たりのセッション数(Dockpitのデータより筆者作成)
集計期間:2022年1月~12月、2024年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン

Doクエリのユーザー数・1人当たりのセッション数(Dockpitのデータより筆者作成)
集計期間:2022年1月~12月、2024年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン
検索ワードごとに差はあるものの、ユーザー数が最大の検索ワードと同様に、ユーザー数は検索クエリに関係なく減少していました。
一方、1人当たりのセッション数は、Knowクエリ・Doクエリでは減少していましたが、Goクエリは検索ワードによって変化はまちまちでした。Goクエリのセッション数は、対象サイト(サービス)自体のニーズに大きく左右されるため、検索ワードによって差が出たのではないでしょうか。
検索行動が変化した要因は?
検索エンジンの滞在時間やセッション数が減少している背景には、どのような要因があるのでしょうか。ここでは、5つの仮説について考察していきます。
・ChatGPTへの移行(Knowクエリ)
・SNSへの移行(Knowクエリ)
・SERPsの変化によるゼロクリック検索の増加(Knowクエリ)
・新型コロナウイルスの終息(Know・Go・Doクエリ)
・サービスの多様化による関心の分散(Goクエリ)
■ChatGPTへの移行(Knowクエリ)
1つ目は、検索がChatGPTへ移行しているという仮説です。
ChatGPTは、複数のサイトを参照しなくても、AIとの対話を通じて知りたい情報をまとめて得られます。検索エンジンよりも手軽に必要な情報を知ることができるため、Knowクエリの検索減少につながっている可能性があります。
以下の図は、ChatGPT(Webサイトもしくはアプリ)を併用している、検索エンジン(Google、Yahoo!検索、Bing)ユーザーの割合を、2022年と2024年で比較したものです。

検索エンジンユーザーのチャットGPTの併用状況
集計期間:2022年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン

検索エンジンユーザーのチャットGPTの併用状況
集計期間:2024年1月~12月
デバイス:PC、スマートフォン
ChatGPTは2022年11月30日に発表されたため、2022年時点でChatGPTを併用しているユーザーはほとんどいませんでした。一方、2024年には検索エンジンユーザーの約10%がChatGPTを併用していることがわかります。
これまで検索エンジンで行っていた情報収集の一部を、ChatGPTで済ませるようになったことで、検索回数の減少につながっている可能性があります。
■SNSへの移行(Knowクエリ)
2つ目は、検索の場がSNSへ移行しているという仮説です。
近年、X(旧Twitter)やInstagram、TikTokなどのSNSが広く普及し、情報収集の手段としても用いられています。SNS検索は、検索エンジンと比較してユーザーのよりリアルな声を知ることができる点が特徴です。
また、最新のトレンド情報を素早く得られる点もSNS検索の強みといえます。このような特徴から、Knowクエリの検索がSNSへ移行している可能性が考えられます。
株式会社野村総合研究所が2021年12月に行った「生活者年末ネット調査」では、2016年と比較してSNSで情報収集する人の割合が増加していることが明らかになりました。
特に若年層では、検索エンジンによる情報収集を行う割合も減少しており、検索の場が検索エンジンからSNSへ移行していることを示唆しています。少し古いデータではありますが、2021年度以降もこの傾向が続き、検索行動のSNS移行が進んでいる可能性が考えられます。
■SERPsの変化によるゼロクリック検索の増加(Knowクエリ)
3つ目は、SERPsの変化により、どのサイトも訪問せず検索を終える「ゼロクリック検索」が増加しているという仮説です。
SERPs(Search Engine Result Pages)とは、検索エンジンで検索結果が表示される画面を指します。ユーザーがより快適に検索できるように、SERPsは日々進化しています。
例えば、Googleは2024年5月14日に、AIが検索クエリに基づいて要点を検索結果の上部に表示する「AI Overviews(AIO)」を発表しました。「マーケティングとは」と検索すると、以下のように「AIによる概要」が検索結果の最上位に表示されます。

「マーケティングとは」のGoogle検索結果画面(記事執筆時点)
「AIによる概要」は全ての検索に対して表示されるわけではありませんが、AIの進化にともない表示頻度は高くなっています。
Advanced Web Rankingが2025年3月4日に発表した調査によると、AIOの表示頻度の増加とKnowクエリのクリック率の減少が相関していることがわかりました。
この結果は、AIOによってユーザーの検索意図が満たされ、どのサイトにも訪問せず検索を終えるケースが増加していることを示唆しています。
参考:Advanced Web Ranking「Google CTR States - Changes Report for Q4 2024」
■新型コロナウイルスやサービス多様化の影響も?
そのほか下記のような理由も考えられるかもしれません。
・新型コロナウイルスの終息(Know・Go・Doクエリ)
・サービスの多様化による関心の分散(Goクエリ)
2023年5月8日に新型コロナウイルスは5類感染症に移行し、人々の生活がコロナ以前の状態に戻り始めました。今回調査対象とした2022年と2024年は、コロナ5類移行前後にあたります。そのため、2022年には自粛ムードが残っていたのに対し、2024年には意識が薄れ、オフラインの行動が増え、人々の検索行動が減少した可能性があるのではないでしょうか。
また、近年さまざまな分野で多種多様なサービスが展開され、その数は日々増加しています。サービスの選択肢が増えることでユーザーの関心が分散し、それぞれのサイトを訪問しようとする検索行動が減少している可能性があります。
まとめ
今回は直近3年間における人々の検索行動の変化について調査しました。最後に、検索行動の変化と要因についてまとめます。
・高齢層のユーザー数の増加により、検索エンジンのユーザー数は増加している。
・1人当たりのセッション数やPV数は減少しており、1人当たりの検索行動は減少している。
・検索クエリの種類に関わらず、検索を経由してサイトを訪問するユーザー数は減少している。
・検索が減少している要因としては「ChatGPTへの移行」「SNSへの移行」「ゼロクリック検索の増加」「新型コロナウイルスの終息」「サービスの多様化」などが考えられる。
今後もAI技術の発展などにより、検索の減少傾向がさらに強まる可能性があります。マーケターはこのような減少傾向を踏まえ、新たなマーケティング施策を検討することが必要になっていくでしょう。

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2026年4月に入社予定の大学院修士課程1年生です。大学では分子生物学系の研究に取り組んでいます。