水泳
父は水泳を得意としていました。子供の頃は自宅近くの川で毎日のように泳いでいたようです。父と一緒に風呂に入ると風呂のお湯に顔をつけることからはじまり、水を恐れず親しむような教えを受けてきました。父の水泳の指導はかなり熱心で、夏が近づくとプールでクロールや平泳ぎ・背泳ぎなど泳ぎ方を手ほどきされ、盛夏には伊豆や千葉方面へ毎年海水浴に出掛け、子供としてはかなり長い時間、海中水泳の訓練をして貰いました。海はプールとは異なり、海水の関係で身体が浮きやすいものの波や海流の影響を受けて泳ぎにくく、水泳の実践的な鍛錬になりました。
お陰でスポーツの中でも水泳は数少ない得意種目であり、今でも週に2回は自宅近くの区営プールでクロールを中心に2㎞程泳いでいます。毎日1万歩のウオーキングの目標がありますが、近頃は足腰の負担を感じるようになってきました。水泳はその心配が無く、しかも有酸素運動であり、筋力トレーニングにもなるどちらの要素も兼ね備えています。もちろん、体力向上やダイエット効果があり、自分のペースで行うことが出来、短期間で体力を消耗するなど時間の有効活用が期待されます。ウオーキング以上に水泳はカロリー消費率が高いと実証されていますし、水に浮くことから浮力によりリラックス効果も味わえます。プールから出るとそれなりの距離を泳いだ満足感を抱くこととなるのですが、自宅からプールに行くまでが億劫で面倒くさく、プールに人が多いと泳ぎにくくなるので、その場で帰りたくなる気持ちはなかなか変わらないものです。

世界の水問題
地球上の水のうち淡水は2.5%とわずかですが、総量は人類の必要量を賄うには足りるようです。しかし、地域的に偏在し安全な飲み水を手に入れられない約20億の人々が存在すると国連は指摘しています。世界人口の4割が安全に管理された水を使用出来ませんし、農業の需要だけで水使用の7割を占めています。世界の災害の9割以上は水に関連していて気候変動は水を通じて被害を拡大しています。また、気候変動で降水量の分布が変わり、偏在に拍車をかけています。
世界の水問題には様々な要因が考えられます。①地球温暖化、②水をめぐった地域紛争、③乱開発による水源の破壊、④世界全体での水の使用量の増大、⑤衛生設備の不足による水質汚染、⑥未処理のまま放出される工場や都市の排水、などです。国によって水環境には違いがあり、何が要因になって水問題が生じているのかが異なります。生物多様性を保全する点からも水資源管理は世界規模の課題なのです。
2023年3月に国連水会議が開催されました。会議では世界的な水危機への対応策として、各国政府・企業・市民社会が持続可能な開発全体を加速するための「水行動アジェンダ」を推進することになりました。会議に提示されたオランダ政府と経済協力開発機構(OECD)が関わる「水の経済学に関する世界委員会」の『水で失敗すれば、世界は気候や開発で失敗する』という行動喚起は、世界の意思決定者を意識し、水が世界で最も重要な資源であることを訴えています。

海水淡水化
海水を処理して淡水(真水)を作り出すことを海水淡水化と呼びます。海水には約3.5%の塩分が含まれ、そのままでは飲用には適しません。飲用水とするには塩分濃度を0.05%以下まで下げる必要があります。近くに淡水源とする河川や湖沼が無く、気候や環境の関係で天水(雨水)の利用も困難な場合には必要不可欠です。
歴史的にも紀元前から人類は海水淡水化に挑んできました。現在、実用化されている方法は、「蒸発法」と「膜法」に2分されます。「蒸発法」は海水を加熱した上で、その蒸気を凝縮して淡水を作ります。「膜法」とは、塩分を通さない特殊な膜を活用する方法が一般的です。
世界全体では海水以外の塩分を含めた淡水化施設は1万6000カ所を超え、その建設のピッチは加速しています。世界最大の施設はサウジアラビアで稼働しており、1日で100万立方メートルの淡水を作ることが可能です。また、施設数が最も多いのもサウジアラビアで、日本も上位を占めています。
淡水化には大量のエネルギーが必要になるため省エネ技術の導入が求められ、同時に銅や塩素などの化学物質を利用した淡水化処理による環境負荷が著しい状況です。さらに、塩分濃度の高い排水を海域に放出することは避けられませんし、排水により海水温が上昇して海水の酸素濃度が低下し、海域の生態系が損なわれるなど環境に対して多くの課題を抱えています。
水ビジネス
人口増加や発展途上国の産業発展などによる世界的な水不足を背景に水ビジネスの市場規模は2007年には約36兆円でしたが、2025年には世界で約87兆円と倍増以上の成長が見込まれています。そのうちの約85%は上水道の供給と下水処理の事業が占めています。
国や自治体など公共部門が主体となり、水に関するインフラ整備の事業を民間企業に委ねるケースも増えています。フランスでは1850年代、イギリスでは1989年に水道事業が民営化され、民間部門が水ビジネスの主たる担い手となっています。水に関する事業には、『水源開発』、『工業用水の供給』、『上水道の供給』、『下水道処理』、『再利用水』、『海水淡水化』など様々なものがあり、これらの事業を水処理プラントメーカー、水道コンサルティング、水道メンテナンスサービス、総合商社などの関連企業が展開しています。
世界には水メジャーと呼ばれる巨大民間企業が存在し、フランスのヴェオリア・エンバイロメント、スエズ・エンバイロメント、イギリスのテムズ・ウオーター・ユーティリティーズは「3大水メジャー」とされ、豊富な経験や資本を強みに国際的に事業を拡大しています。
こうした民間企業は水資源の開発から供給、インフラの整備・維持・管理、下水道施設の運営・保全までをひとまとめで提供し、世界各地で国からの支援を受けて事業を展開しています。限られた資源である水を再配分する水ビジネスは、リサイクルも含め地球環境保護の観点からの意義深く、人類が利用できる淡水を供給するためのインフラ事業は世界的な規模での大きなビジネスチャンスとして注目されています。
日本企業の海外展開も著しく進展し、先端技術の導入や更新・改良需要、DX導入など供給の幅が拡がっています。
今後、世界の水問題に対して日本の誇る高度な技術力が貢献することを願ってやみません。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。