世界の水問題 ~ 危機とビジネス

世界の水問題 ~ 危機とビジネス

海に四方を囲まれ森林にも恵まれた島国、日本。元来我が国は水資源に恵まれていますが、世界に目を向けると、この地球上には安全な飲み水を手に入れられない約20億の人々が存在するそうです。そして、淡水は飲料だけでなく、農業にも必要不可欠な資源。この資源を守るため、世界中では「水ビジネス」が拡大しています。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が水問題や海水の淡水化方法を解説。世界の「3大メジャー」などにも触れ、「水ビジネス」のあり方を考えます。


水泳

父は水泳を得意としていました。子供の頃は自宅近くの川で毎日のように泳いでいたようです。父と一緒に風呂に入ると風呂のお湯に顔をつけることからはじまり、水を恐れず親しむような教えを受けてきました。父の水泳の指導はかなり熱心で、夏が近づくとプールでクロールや平泳ぎ・背泳ぎなど泳ぎ方を手ほどきされ、盛夏には伊豆や千葉方面へ毎年海水浴に出掛け、子供としてはかなり長い時間、海中水泳の訓練をして貰いました。海はプールとは異なり、海水の関係で身体が浮きやすいものの波や海流の影響を受けて泳ぎにくく、水泳の実践的な鍛錬になりました。

お陰でスポーツの中でも水泳は数少ない得意種目であり、今でも週に2回は自宅近くの区営プールでクロールを中心に2㎞程泳いでいます。毎日1万歩のウオーキングの目標がありますが、近頃は足腰の負担を感じるようになってきました。水泳はその心配が無く、しかも有酸素運動であり、筋力トレーニングにもなるどちらの要素も兼ね備えています。もちろん、体力向上やダイエット効果があり、自分のペースで行うことが出来、短期間で体力を消耗するなど時間の有効活用が期待されます。ウオーキング以上に水泳はカロリー消費率が高いと実証されていますし、水に浮くことから浮力によりリラックス効果も味わえます。プールから出るとそれなりの距離を泳いだ満足感を抱くこととなるのですが、自宅からプールに行くまでが億劫で面倒くさく、プールに人が多いと泳ぎにくくなるので、その場で帰りたくなる気持ちはなかなか変わらないものです。

水泳

世界の水問題

地球上の水のうち淡水は2.5%とわずかですが、総量は人類の必要量を賄うには足りるようです。しかし、地域的に偏在し安全な飲み水を手に入れられない約20億の人々が存在すると国連は指摘しています。世界人口の4割が安全に管理された水を使用出来ませんし、農業の需要だけで水使用の7割を占めています。世界の災害の9割以上は水に関連していて気候変動は水を通じて被害を拡大しています。また、気候変動で降水量の分布が変わり、偏在に拍車をかけています。

世界の水問題には様々な要因が考えられます。①地球温暖化、②水をめぐった地域紛争、③乱開発による水源の破壊、④世界全体での水の使用量の増大、⑤衛生設備の不足による水質汚染、⑥未処理のまま放出される工場や都市の排水、などです。国によって水環境には違いがあり、何が要因になって水問題が生じているのかが異なります。生物多様性を保全する点からも水資源管理は世界規模の課題なのです。

2023年3月に国連水会議が開催されました。会議では世界的な水危機への対応策として、各国政府・企業・市民社会が持続可能な開発全体を加速するための「水行動アジェンダ」を推進することになりました。会議に提示されたオランダ政府と経済協力開発機構(OECD)が関わる「水の経済学に関する世界委員会」の『水で失敗すれば、世界は気候や開発で失敗する』という行動喚起は、世界の意思決定者を意識し、水が世界で最も重要な資源であることを訴えています。

世界の水問題

海水淡水化

海水を処理して淡水(真水)を作り出すことを海水淡水化と呼びます。海水には約3.5%の塩分が含まれ、そのままでは飲用には適しません。飲用水とするには塩分濃度を0.05%以下まで下げる必要があります。近くに淡水源とする河川や湖沼が無く、気候や環境の関係で天水(雨水)の利用も困難な場合には必要不可欠です。

歴史的にも紀元前から人類は海水淡水化に挑んできました。現在、実用化されている方法は、「蒸発法」と「膜法」に2分されます。「蒸発法」は海水を加熱した上で、その蒸気を凝縮して淡水を作ります。「膜法」とは、塩分を通さない特殊な膜を活用する方法が一般的です。

世界全体では海水以外の塩分を含めた淡水化施設は1万6000カ所を超え、その建設のピッチは加速しています。世界最大の施設はサウジアラビアで稼働しており、1日で100万立方メートルの淡水を作ることが可能です。また、施設数が最も多いのもサウジアラビアで、日本も上位を占めています。

淡水化には大量のエネルギーが必要になるため省エネ技術の導入が求められ、同時に銅や塩素などの化学物質を利用した淡水化処理による環境負荷が著しい状況です。さらに、塩分濃度の高い排水を海域に放出することは避けられませんし、排水により海水温が上昇して海水の酸素濃度が低下し、海域の生態系が損なわれるなど環境に対して多くの課題を抱えています。

水ビジネス

人口増加や発展途上国の産業発展などによる世界的な水不足を背景に水ビジネスの市場規模は2007年には約36兆円でしたが、2025年には世界で約87兆円と倍増以上の成長が見込まれています。そのうちの約85%は上水道の供給と下水処理の事業が占めています。

国や自治体など公共部門が主体となり、水に関するインフラ整備の事業を民間企業に委ねるケースも増えています。フランスでは1850年代、イギリスでは1989年に水道事業が民営化され、民間部門が水ビジネスの主たる担い手となっています。水に関する事業には、『水源開発』、『工業用水の供給』、『上水道の供給』、『下水道処理』、『再利用水』、『海水淡水化』など様々なものがあり、これらの事業を水処理プラントメーカー、水道コンサルティング、水道メンテナンスサービス、総合商社などの関連企業が展開しています。

世界には水メジャーと呼ばれる巨大民間企業が存在し、フランスのヴェオリア・エンバイロメント、スエズ・エンバイロメント、イギリスのテムズ・ウオーター・ユーティリティーズは「3大水メジャー」とされ、豊富な経験や資本を強みに国際的に事業を拡大しています。

こうした民間企業は水資源の開発から供給、インフラの整備・維持・管理、下水道施設の運営・保全までをひとまとめで提供し、世界各地で国からの支援を受けて事業を展開しています。限られた資源である水を再配分する水ビジネスは、リサイクルも含め地球環境保護の観点からの意義深く、人類が利用できる淡水を供給するためのインフラ事業は世界的な規模での大きなビジネスチャンスとして注目されています。

日本企業の海外展開も著しく進展し、先端技術の導入や更新・改良需要、DX導入など供給の幅が拡がっています。

今後、世界の水問題に対して日本の誇る高度な技術力が貢献することを願ってやみません

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

関連するキーワード


渡部数俊

関連する投稿


レジリエンス経営 ~ 危機を乗り越えて

レジリエンス経営 ~ 危機を乗り越えて

物理学をはじめ、精神医学や心理学、果ては経営に関わる概念としても応用されている「レジリエンス」。この広範囲な分野で活用される「レジリエンス」とは、広義で捉えると柔軟性・回復・復興といったところでしょうか。まさに現代の社会的にも企業の経営的にも必要とされている「レジリエンス」について、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が体系的に解説します。


適応力と柔軟性 ~ ナレッジマネジメントの導入

適応力と柔軟性 ~ ナレッジマネジメントの導入

経済や環境改善を底上げするためには企業や組織の能力向上が求められます。ではその求められる力とは一体何でしょうか。それは組織、及びそれを形成する人間が持つ、変化に対する適応力と柔軟性が軸であると説く本稿。企業成長に欠かせかない「暗黙知」にも言及し、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が真のナレッジマネジメントの重要性を解説します。


人新世をめぐって ~ 人が起源の地質革命

人新世をめぐって ~ 人が起源の地質革命

SDGs(持続可能な開発目標)という言葉にも慣れ、人類と環境の関係に関しても再考が必要との認識が深まりつつある今。人類が我がもの顔で地球資源やそれら環境の利益だけを享受する行動を制し、あらゆる自然環境と共存するという考えとその行動を真剣に追求することを急がねばならない時に来ているかもしれません。本稿では「人新世(じんしんせい)」というワードをキーに、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、人類と地球の歩んできた歴史関係の精緻な理解の薦め、そして未来のために今とるべき行動は何かを問いかけます。


感受性から知性へ ~ マキャヴェリ的知性仮説とは

感受性から知性へ ~ マキャヴェリ的知性仮説とは

「感受性が強い」イコール「繊細」などといった一般的な見方だけでは、多文化共生社会との共存が必要な現代を上手に生き抜くのは難しいようです。今や、「感受性」を駆使して社会的共存や組織の成長を促すといった「社会的感受性」や、それらを内包する「社会的知性(SQ)」と呼ばれる、複雑化した社会環境への適応として進化した人間の能力への理解が必要です。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、イタリアの政治思想家であるマキャヴェリによる『君主論』の一説なども例に用い、解説します。


アテンションエコノミー ~ 課題と今後

アテンションエコノミー ~ 課題と今後

インターネットが一般消費者に普及し始めて何年経ったでしょうか。Windows95が発売された頃からと見做せば、30数年という年月で、インターネットは私たちの生活にはなくてはならないテクノロジーとなりました。そして今や私たちの受け取る情報は溢れるほどに。その情報は真偽だけでなく善悪という側面を持ち、経済活動にも大きく影響しています。本稿では「アテンションエコノミー」と題し、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が今後の課題へも言及し解説します。


最新の投稿


みんなの注目キーワードは?週間検索トレンドランキング(2025/05/05〜2025/05/11)

みんなの注目キーワードは?週間検索トレンドランキング(2025/05/05〜2025/05/11)

ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」をもとに、週次の検索急上昇ワードランキングを作成し、トレンドになっているキーワードを取り上げます。


オプト、新サービスに必要な検証をスピーディーに実現するAI駆動型の超高速プロダクト検証支援サービスの提供を開始

オプト、新サービスに必要な検証をスピーディーに実現するAI駆動型の超高速プロダクト検証支援サービスの提供を開始

株式会社オプトは、生成AIを活用したAI駆動型プロダクト検証支援サービス「DIGGIN’ ZERO(ディギンゼロ)」の提供を開始したことを発表しました。


BCG、年間消費額1,000万円以上の高額消費者の購買行動に着目した調査・分析結果を公開

BCG、年間消費額1,000万円以上の高額消費者の購買行動に着目した調査・分析結果を公開

ボストン コンサルティング グループ(BCG)は、「年収3,000万円以上かつ年間消費額1,000万円以上」の日本の消費者を対象に「BCG高額消費者調査」を実施し、結果を公開しました。


レジリエンス経営 ~ 危機を乗り越えて

レジリエンス経営 ~ 危機を乗り越えて

物理学をはじめ、精神医学や心理学、果ては経営に関わる概念としても応用されている「レジリエンス」。この広範囲な分野で活用される「レジリエンス」とは、広義で捉えると柔軟性・回復・復興といったところでしょうか。まさに現代の社会的にも企業の経営的にも必要とされている「レジリエンス」について、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が体系的に解説します。


SNS広告が新たな購買行動のきっかけになった人は約7割!ストーリー形式の広告に対する評価が上昇傾向【PRIZMA調査】

SNS広告が新たな購買行動のきっかけになった人は約7割!ストーリー形式の広告に対する評価が上昇傾向【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、SNS広告で購入経験がある全国のZ世代(15〜27歳)、Y世代(28〜42歳)、X世代(43〜58歳)の方を対象に、「2025年最新版 SNS広告の購買行動調査」を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ