大気汚染
私が小学生の低学年の頃、光化学スモッグ注意報のニュースは、学生運動のセクトの内ゲバと同じぐらいの頻度でマスコミの報道を賑やかせていました。最初はテレビの映像で環七近くの中学校もしくは高校で苦しそうに座り込んでいる生徒達を見た記憶があります。発生のピークは1973年といわれ、ここ20年程度は緩やかに減少傾向にあり、話題に上らなくなっています。
光化学スモッグとは光化学オキシダントを主成分とするスモッグで、健康被害をもたらす大気汚染の一種です。特に夏の日差しが強く風の弱い昼間に多く発生し、白くモヤがかかった状態となります。人体には目や喉、皮膚などへの痛みや異物感などの影響があり、これらの症状を光化学スモッグ障害と呼んでいます。
最近、大気汚染物質「PM2.5」が注目されています。PM(Particular Matter)とは微小粒子状物質という意味で2.5は粒子の大きさを指し、単位はµm(1µm=0.001mm)です。工場、自動車、塗装などが発生源ですが、黄砂や火山、植物などからも生じます。ひとつ一つの粒が非常に小さいために体内の呼吸器系の奥深くまで侵入しやすいことから健康への悪影響が懸念されています。
高齢者や子供達を中心に、日頃から健康管理を心掛けると共に体調の変化に注意する必要があります。このように我々の身の回りには想像もしない危機や危険が様々な形に姿を変えながら、静かに音も無く忍び寄ってくることに一抹の不安がよぎります。
静かな緊急事態
国際連合児童基金(UNICEF)は静かに進行しているために注目されない人類が抱える飢餓や感染症などを静かな緊急事態(Silent Emergency)と呼んでいます。騒ぎになる程の緊急事態(Loud Emergency)はトピックとして世界的にも幅広く話題に上り易いのですが、感染症等で多数の子供たちが死亡するといった日常的にじわじわと進む事態こそ解決が難しいのが現状です。
世界には食料や安全な水、薬の確保が困難な子供達が数多く存在し、2022年には5歳未満の子供達が1年間で490万人(その半数近くは新生児)死亡していて、約6秒に1人の割合です。加えて5歳から24歳までの210万人の子供と若者の命も奪われました。
ただ、死亡者数はここ数年減少し続け、歴史的な低水準といえます。死亡の主要因は貧困で、直接的には風邪や下痢症、早産、出産前後の合併症などによるものです。
根本的な危機である飢餓・食料問題は世界各地に起こっていて、特にサハラ砂漠以南のアフリカや南アジアなどでは深刻な状況が続いています。これらの中には経済発展が目覚ましい国や地域もありますが、所得の格差が大き過ぎるといった特徴もあります。改善してはいるものの貧困家庭もまだ多く、飢餓・栄養失調に苦しむ子供達も少なくありません。
最貧困世帯に生まれた子供は、最富裕世帯の子供と比べて5歳未満での死亡率が2倍高く、脆弱な環境や紛争の影響を受ける環境で暮らす子供は、他の地域に暮らす子供に比べて5歳の誕生日を迎える前に死亡する割合がおよそ3倍高くなっているのです。
落雷
何気なく忍び寄る災害の一つが落雷です。日本では東京や大阪など主要11都市の落雷発生日数は、この四半世紀で16%増加しています。地球温暖化が進み、空気が暖められて上昇気流となり、雷を起こす積乱雲が出来易くなったためです。落雷により、人や物への被害も急増し、保険金の支払額が増加傾向にあります。
雷による建物被害や瞬間的に電圧が高まって家電製品が故障する被害も頻発し、損害保険料率算出機構によると、2022年度の保険金支払額は147億円を超え、2009年度の6倍以上となりました。
日本周辺で発生する雷は長期的には増加傾向にあります。平均気温が1℃上昇すると発雷率が18.4%高まるといった研究もあります。都市部では地球温暖化に加え、周囲よりも気温が高まるヒートアイランド現象の影響も大きいといわれています。地表面がアスファルトやコンクリートなどに覆われている面積が広く、地表面付近の温度が高まることにより、大気の不安定を引き起こすためです。
世界では赤道付近の国に雷が多く、北半球と南半球の貿易風がぶつかり合って上昇気流が生じるのと、高い海水温で積乱雲が発達し易くなるためです。
日本では雷による被害が増え続けていますが、対策として雷を意図的に誘発させ、被害を防ぐ研究が進んでいます。将来は安全な場所で雷を誘発出来れば被害を減らせるのですが。
静かな災害
日本の国力低下は何といっても人口減少が最大の要因といっても過言ではありません。総務省の人口動態統計の概算値によると、2025年1月1日現在で1億2065万3227人(前年比90万8574人減)となっていて、16年連続の減少です。死亡者数は過去最多の159万9850人、出生数は過去最少の68万7689人で、自然減が進んでいるのがわかります。
因みに日本に住む外国人は367万7463人と3年連続で増加し、総人口の2.96%を占めています。国を挙げての少子化対策は今のところ効果が出ていないのが現状です。
人口減少により国力低下を招くのは大まかに4つの要因です。
①労働力不足。生産年齢人口の縮小は労働力不足を招き、経済成長を妨げる要因となります。今でも介護や建設業などの労働集約型産業では人材不足が深刻化しています。
②地方の過疎化。著しい過疎化でインフラの維持や地域経済の衰退が進んでいます。
③社会保障制度の持続可能性。高齢社会が到来し、医療や介護の費用が増大。負担する現役世代は減少するため財政の圧力は高まっています。
➃国際社会での影響力。人口規模の縮小は国際社会での影響力の減退と共に安全保障上の危機もはらみます。
対策としては、
①子育ての環境の整備。安心して家庭を築ける社会基盤の整備が求められます。
②労働市場の見直し。労働力確保のため高齢者や女性の活躍を促進し、リスキリングによる生産性の向上を図ります。
③地方創生。東京一極集中を是正し、地方移住やテレワークを進め、地方にコンパクトな社会を構築します。
人口減少は国家を持続させることに直接結びつく「静かな災害」といわれています。少子化対策はもちろんのこと、日本社会全体の縮小に備えた国家戦略を立案・推進することが急がれます。残された時間は多くはありません。





株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。