覚醒
2024年に生誕70年を迎えたゴジラの大フアンです。子供の頃は東宝の特撮怪獣映画ゴジラシリーズの映画館での封切りを待ちに待っていました。他の作品との3本立てで、最後がゴジラ主役の作品だったと記憶しています。その頃のゴジラは悪役からすっかり子供達のヒーローへと立場が逆転し、キングギドラやガイガン、エビラ、ヘドラなど悪役と単独で、あるいはモスラやラドン、アンギラスなどと共闘して戦い、退治した後に海の彼方へ去ってゆくといったあらすじでした。
記念すべき第1作「ゴジラ」同様にゴジラが主演する映画では、覚醒するシーンは最も印象に残ります。核実験の影響を受けて、ゴジラが目覚めて日本列島で大暴れし、その恐ろしさは核兵器以上というシナリオに魅せられ心揺さぶられました。ゴジラはその後、最強の怪獣へと成長を遂げます。
少し前に話題になったNetflixの「極悪女王」の主人公ダンプ松本は徐々に覚醒し、その才能を思う存分に発揮しました。はなから自分に自信を持てる人にはめったにお目にかかれません。何らかのきっかけで自分の置かれた立場を認識し、努力し始めて眠っていた能力を開花させるのです。必ずしも兆しがある訳ではありません。突然もあれば、徐々にという場合もあります。
会社生活では若手の頃に比べ、修羅場らしきものの潜り抜けに迫られた中堅を通過して一人前になり、管理職になれば自信を持って若手を指導出来るようになります。自己を肯定し、自分の能力に自信を持ち、成長し、結果を残すといったステップを踏むためにはいつかどこかで何らかの覚醒が必要です。
覚醒の時期の違いこそ、その人の持つ運命(さだめ)なのかもしれません。
自己効力感と自己肯定感
取り巻く社会環境は変化が著しく、先の読めないVUCAの時代を我々は生きています。
前例のない複雑な課題やケースに直面する場面も増え、AGIや創薬・生化学といった分野での科学技術の著しい進歩、あるいは深まる少子高齢化やグローバル化など、直接的にも間接的にも我々の身の回りへの影響も多く、戸惑う毎日です。
しかし、積極的に変化を受け入れ、ポジティブにチャレンジする姿勢が求められる時代でもあります。
自己効力感(self efficacy)とは、カナダ人心理学者アルバート・バンデューラが提唱した、目標を達成するための能力を自らが持っていると認識することです。
まだ経験したことのない様々な事柄に対して、「自分には出来る」、「きっとうまくいく」という確信と信頼、これこそが自己効力感です。自己効力感は行動に直結するモチベーションを生み出し、それに伴う行動に変化をもたらす先行要因なのです。
類似する言葉に自己肯定感があります。自己肯定感とは「無条件に自分には価値があると認めることが出来る感情」です。本来の自分を価値ある存在だと考えている訳ではなく、「ありのままの自分の価値を無条件で受け入れている状態」といえます。自分を信じる度合いが強ければ、困難な状況に陥っても諦めずに努力出来ます。
どちらの概念も仕事のパフォーマンスや人生の満足度を高めるために重要な役割を担っています。
自己効力感を高めるメリット
自己効力感は3つのタイプに分類出来ます。
①自己統制的自己効力感。一般的に自己効力感という場合は、この自己統制的自己効力感を指しています。自分自身の行動をコントロールすることが出来る感情・感覚のことです。
②社会的自己効力感。社会的自己効力感は対人関係の中で培われます。乳児期から児童期において最も発達するといわれていて、他者の気持ちに寄り添い、共感出来る人が社会的自己効力感の高い人といえます。
③学業的自己効力感。学びや学習に対する自己効力感を示しています。研究や学業における達成感によって育まれます。スキルやノウハウを習得する場面で、自ら目標を掲げてスケジュールを立て行動出来る人は学業的自己効力感の高い人です。
自己効力感を高めることのメリットは仕事や生活の上で数多く考えられますが、3つのメリットにまとめてみると、①モチベーションの維持。高いモチベーションを保つためには明確な目標と向上心が必要です。②旺盛なチャレンジ精神。目標達成のためには挑戦こそが結果を導きます。③失敗からの立ち直り。失敗は仕事や生活でのつきものです。失敗から学び、次に生かすべく回復する力が求められます。このように、自己効力感の高い人は「自分ならできる」と考え、即行動に移せるのです。
サービス・マーケティング
自己効力感を強化して、積極的な行動を取り良い方向へと自らを導くように変容させる、これを応用したマーケティングの手法にサービス・マーケティングがあります。
サービス・マーケティングとは、サービス業や商品に付随するサービスに関するマーケティングです。サービスの提供者と顧客の関係性がサービスの品質や形成プロセスに大きな役割を果たしていることなどが研究成果として紹介されています。
顧客の満足度を高めるには、顧客が積極的にサービスに参加するように仕向けることです。それは、顧客の参加がサービスの品質や結果に多大な影響を及ぼすためであり、サービス提供側には顧客を動機づけて満足させる関係構築が求められます。満足を形成するためにはもちろん「期待」が必要です。
「期待」には①提供されたモノやサービスに対する期待、②提供されたモノやサービスによって変化する自己への期待、の2通りが考えられます。不満足の場合は提供されたモノやサービスに対する「期待」と自己変化に対する「期待」の不一致が合わさり、全体の不満足を形成します。自己変化に対する不満足は自己効力感と関係が深いとされています。
特に、教育や医療など自分の能力や努力により、結果が異なるサービスでは自己変化に対する「期待コントロール」が満足度を大きく左右します。顧客にサービスの限界や顧客の役割、積極的な参加の必要性を理解させ、サービスへの「期待」を明瞭にする必要があります。「期待」に近い目標設定により、自己効力感は高められ消費者の行動を促進させることにつながるのです。
自己効力感とは、漠然とした自信とは異なり、科学的にコントロールすることが出来る「自信」です。
自分で成功や失敗を体験し、過去の成功や逆境を乗り越えた経験を思い出し、改めて認識してみると自分では見えなかった行動と結果の因果関係に気づき、自己効力感を高めることにつながります。この認知の積み重ねがさらなる「自信」を形成するのです。





株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。