高齢社会
下北沢駅周辺の夕方。何人かで集まる先輩達をよく見かけます。これから、お酒を飲みにでも行くのでしょうか。久しぶりに集まったためか、楽しそうに皆さんで談笑しています。大概、集団の中に鍋奉行のような仕切り屋がいて、点呼という程ではありませんが参加者を確認しています。比較的大きな声で、遅れそうになったり集まりを忘れてしまったりするメンバーがいるようで騒いでいます。そのような会合に参加する方々は、老人といっても元気な方々が多く生活にも比較的余裕がありそうに拝察されます。
男性は引退後、男性ホルモンの低下もあり年々外出するのが億劫になる人も多いらしいのですが、女性の場合は年齢など関係なく、徒党を組んで人生を謳歌している方々を多く見受けます。ただ、これも金銭面や健康面での余裕がある人に限られるのかもしれません。もちろん、ひとりで安めの喫茶店に朝から長時間佇んでいる人、図書館で新聞や雑誌を読みふけっている人、特売品を探して朝からスーパーに並んでいる人、毎日いくつかの病院を巡る人など老人も様々ですが、明らかに孤立していて経済的にも厳しい生活をしている人も多いと予想出来ます。
人間誰しも老いるもの、自分の将来の姿を考え合わせるとしっかりしなくてはと思う気分と先を考えずとも毎日を楽しもうという気持ちが交差する今日この頃です。
孤独・孤立
高齢者の孤独死が問題となっています。様々なメディアで取り上げられ、世界的にも注目されています。警察庁の調べでは2024年に一人暮らしの自宅で亡くなった方は7万6020人、そのうち65歳以上の高齢者は5万8044人で実に76.4%を占めています。
2024年の死者数は人口動態統計によると約161万人、そのうち一人暮らしの自宅で亡くなった高齢者は3.6%を数えるようです。年齢別では85歳以上が1万4658人、75~79歳が1万2567人、70~74歳が1万1600人となっています。
また、死亡推定時から発見までにかかった日数は65歳以上では「当日から1日」は最多の39.4%、一カ月以上も7.8%と見逃せない数字になっています。定期的に生活の様子を見回る親戚や知人がいないことで、郵便物やチラシなどが大量かつ不自然に溜まっているのを不審視した通報から発見に至るという経緯も増加傾向にあります。特に東京や大阪、横浜、名古屋など大都市で多く見受けられます。
2024年4月施行の孤独・孤立対策推進法は孤独や孤立を「社会全体の課題」と位置づけています。一人暮らしの自宅で亡くなった遺体のうち、死後8日以上経過していたケースなどは生前に社会的に孤立していた典型として捉えられます。
英国でも「テレビが一番の友達」と答える65歳以上の高齢者が多く、成人の900万人以上が恒常的に孤独を感じているという調査があるように、孤独や社会的孤立が現代の社会問題として認識されるようになり、2018年1月世界で初めて孤独問題担当国務大臣(Minister for loneliness)が任命され、10月には孤独問題に関する戦略を発表、その後も年次報告が続いています。
高齢者の貧困
国が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることが困難な高齢者が増えています。
具体的には「生活保護基準相当で暮らす高齢者及びその恐れがある高齢者」です。生活相談で見えてくるのは3つの点です。
①収入が著しく少ない。世帯年収が低く、その収入では普通の暮らしが営めず、生活水準は生活保護レベルかそれより低い状況にある高齢者が驚く程多く存在し増加傾向にあります。社会の大多数よりも貧しい状態にある人を示す相対的貧困率で日本は先進国で最低の水準であり、厚生労働省の2022年国民生活基礎調査によると65歳以上の高齢者世帯の相対的貧困率は約20%となり、単身者の場合はさらに貧困率は上がります。男女別で男性は30%、女性は44%と女性の割合は高く、半数近くの単身高齢女性が貧困に陥っていることがわかります。
②十分に貯蓄がない。一人暮らしの高齢者の3人に1人以上は貯蓄が無く逼迫した状態で暮らしています。高齢者ばかりでなく、近い将来高齢者の仲間入りの40代50代も老後の資金とすべき貯蓄が少ない傾向にあり、末恐ろしい事実となっています。
③社会的孤立。困ったときに頼れる人がいないのは大都会ばかりではありません。全国的に高齢者の子供との同居率は低下傾向にあります。高齢者は人間らしい余生や最期を送ることが出来ない状態に陥っています。すなわち、「あらゆるセーフティネットを失った状態にある」高齢者の増加が著しいのです。
2025年問題
「2025年問題」とは、国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)の超高齢社会を迎え、雇用、医療、福祉、介護などで日本経済及び社会に甚大な影響を及ぼす諸問題を指します。
団塊の世代といわれる1947年から1949年の「第一次ベビーブーム」に生まれた世代は約800万人存在し、現在日本の人口構成比の中で最大のボリュームゾーンとなっています。2025年に団塊の世代の全てが後期高齢者となり、大量離職とそれに伴う労働人口の減少は火を見るよりも明らかです。
並行して少子化も加速していて、技能継承や後継者問題も深刻化しています。
医療や介護の現場での人手不足は特に大きな影響を及ぼします。後期高齢者の激増は病院などの医療施設や介護施設の利用者を増やしますが、品質の高い医療・介護サービスを提供出来ない可能性があります。これに併せて予想されるのは医療費の問題です。後期高齢者の増加により社会保険料の負担も増大することが見込まれます。
後継者問題の殆どが70歳以上の経営者が経営の先頭に立つ中小・零細企業であり、その数今や約245万社にまで達し、そのおよそ半分が未だに後継者が決まっていない状態です。有効な対策が無ければ、廃業の危機を迎え、雇用が大きく失われて日本の経済規模が縮小する恐れがあります。同時に中小・零細企業が比較的多い運送業界や建設業界、IT・情報サービス業界などでは十分な人手と技能の確保が喫緊の課題となっています。
2025年問題の対策として、①既存システムの見直しとDXの推進、②M&Aを念頭とした事業承継の迅速な取り組み、③労働環境の整備、④高齢者の生活環境の見直し、⑤AIの導入などが挙げられます。
本年は2025年。待ったなしの具体的対応が求められています。





株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。