令和シニアのお金の使い道。自分らしい老後か、次世代への贈り物か|あしたのシニア

令和シニアのお金の使い道。自分らしい老後か、次世代への贈り物か|あしたのシニア

人生100年時代、あなたのお金は「残しますか?使い切りますか?」。生命保険は“家族のため”から“自分のため”へと価値観が変化。ペットや「推し」に残す新しい選択肢も登場しています。変わりゆく令和シニアのお金の使い道と、自分らしい老後の築き方を考えます。


生命保険から考える「残すか、使うか」

あなたはご自身が加入している生命保険のタイプと受取額、すぐに思い出せますか?

個人的な話で恐縮ですが、先日85歳の母が生命保険会社の人と電話で話をしている場面に偶然居合わせました。終活の一環として保険書類を見直していたようで、気になる点を確認していたようです。通話の終盤、スマホを片手に納得できないという表情で保険会社の人に訴える母。「わたしがずっと払ってきたのに、1円ももらえないなんて、なんだか悲しくになっちゃったわ」。

電話の向こうの保険会社の人にしてみれば「そんなこと知らんがな」と苦笑するしかなかったと思いますが、とりあえずその時はそれ以上関わらない方がいいような気がして、そっとその場を離れました。「いや、そもそも生命保険って、残される家族のためのものだよね」と思いながら。

昭和型から令和型へ、生命保険は「自分のため」に

しかし実際には、生命保険はもはや「家族のためのもの」だけではありません。

昭和型の「THE生命保険」の代表的イメージは、世帯主に万が一のことが起きた際、住宅ローンを完済し、家族の生活を守るというものでした。しかし現在では、保険の種類も目的も多種多様。終身保険や医療保険、介護保険など、さらには特約のメニューも含め数多くの選択肢が用意されています。「自分のQOLを守り、高める」「わたしらしく生きる」ことを訴求している保険各社のコミュニケーションも日常化しています。

自分のため、という点では年々増していく年金不安も拍車をかけています。生命保険の中でも個人年金保険はリタイア後の生活の支えを主な目的とするものですが、その加入率を見るともっとも高いのが55-59歳で33.7%、次いで60-64歳の31.6%と、リタイア前の気持ちを反映しているかのようです。

参考:生命保険文化センター「2024(令和6)年度生命保険に関する全国実態調査<速報版>」

揺れる50代・60代。「残すか、使うか」の最前線

生命保険文化センターの2024年度調査によると、個人年金保険に限らず生命保険全体の加入率でもっとも高い層は65-69歳95.2%、次いで55-59歳94.0%と非常に高いのですが、コロナ禍で揺れた2021年の同調査では解約率がもっとも高いのが60~64歳で15.4%でした(2024年は該当質問無し)。

加入率も解約率も他の年代よりも高い50代と60代。しかし、年代をアクティブシニアやプレシニアなどという言葉で単純に括ってしまうのは危険です。たとえば、年代の違いはもちろん、同じ年代でも「個人年金」を検索する人と、「生命保険」を検察する人とではそれぞれの価値観が大きく異なっていることがわかります。

「Perscope」※のデータによりますと、「個人年金」を検索した50・60代は「個人的成長と充実」に関する価値観の高さが際立つ一方、「生命保険」を検索した50・60代は「社会的地位と評価」「地位・ステータス」に関する価値観が高く表れています。

※Perscope:Web行動データとアンケートデータを用いた分析を行える、株式会社ヴァリューズの分析ツール

図:ありたい自分像の比較(「個人年金保険」で検索した50、60代」と、「生命保険」で検索した50代、60代)

図:ありたい自分像の比較(「個人年金保険」で検索した50、60代」と、「生命保険」で検索した50代、60代)
期間:2024年7月~2025年6月
デバイス:パソコン、スマートフォン

図:感じていたい気持ちの比較(「個人年金保険」で検索した50、60代」と、「生命保険」で検索した50代、60代)

図:感じていたい気持ちの比較(「個人年金保険」で検索した50、60代」と、「生命保険」で検索した50代、60代)
期間:2024年7月~2025年6月
デバイス:パソコン、スマートフォン

暮らしも働き方も大きな変節点を迎える50代・60代。自分の親を見て自身の保険を見直す時期だと考えるのか、それとも子どもたちへの相続を真剣に考える時期なのか、あるいは定年後のまだまだ長い人生に備えるための行動なのか。未来を描きながら自らのリソースを組み直していく様子が垣間見えます。

参考:生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査_5:民保の解約・失効の状況」

令和シニアのお金の「残し先」「残し方」とは

「受取人」がいない時代の到来

ここで世帯構成に目を向けてみましょう。いまや単独世帯が増加している時代です。国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、単独世帯は2025年40.1%と推計され全世帯タイプの中で最多です。また、2020年の未婚率は男性34.6%、女性24.8%(いずれも15歳以上における未婚率)ですが、2050年には同36.5%、27.1%へと上昇するとの予測があります。昨今の実態を見ていれば、この数値を軽く上回っていくことは誰もが容易に想像できることでしょう。

そもそも「受取人」がいないという未来を、保険加入時に想定していた人はいったいどれほどいるのでしょうか

参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和 6(2024)年推計)」

新しい「残し方」を支えるサービスたち

こうした社会変化に対応して、新しいサービスが次々と登場しています。

ペットにおいては、その後の世話を託せる専門サービスが誕生し、ペット信託市場は急速に拡大しています。日本ペットトラスト協会の「ラブポチ信託®」や三井住友信託銀行の「遺言信託(ペット安心特約付)」など、その手続きを支援するサービスも多様化しながら成長しています。

参考:日本ペットトラスト協会の「ラブポチ信託®」

また、既にaiboにも「次の家族」を斡旋するサービスがあります。自分にもしものことがあった場合でも安心できる仕組みが整いつつあります。

では「推し」はどうでしょうか。額の多少を問わず、日々にハリを与えてくれた大好きな推しのために残したい、最期の気持ちを受けとってほしいと思うのはごく自然なことです。

推しへの遺産相続は法的には可能であるものの、手続き等の面でまだ整備が十分ではないのが現状です。しかし、「推し活終活」が拡大していくことは容易に想像がつきます。誰よりも自分を支えてくれた存在に託すための支援は今後ますます必要とされていくに違いありません

令和シニアのお金は「残す」から「使い切る」へ?

ベストセラーとして快進撃を続けているビル・パーキンス著書『DIE WITH ZERO』。お金を残すのではなく、「やりたいことをやるためにお金を使い切ろう」「子どもには生きているうちにお金を渡そう」という啓蒙の書です。私の周りにもこの本に触発され、俄然家族旅行に積極的になった人たちがいます。私も本を読んでいる間は「我が意を得たり!」とすぐにでも次の海外旅行を予約したい衝動に駆られましたが、読後、冷静になると「いやいや、ちょっと落ち着こうか」と頭に預金残高がチラつき、スン…となりました。

この本では「自分の死後、家族のために残すよりも、自分が元気なうちに自分の体験に使う」ことが奨励されています。前述した保険の「自分のため」への変化は、まさにこうした価値観の変化と軌を一にしているのです。

終活は「自己実現」へ、70代の能動的な視点

興味深いことに、Perscopeによると「終活」というキーワードを検索する70代以上の層は、他の年代と比較して「自己実現志向」が高いというデータもあります。

図:「終活」検索者の感じていたい気持ち(50代、60代、70代以上)

図:「終活」検索者の感じていたい気持ち(50代、60代、70代以上)
期間:2024年7月~2025年6月
デバイス:PC、スマートフォン

これは、彼ら彼女らが単に身辺整理をするという終活ではなく、動けるうちに残された時間をどう生きるか、やり残していることはないかといった、より能動的な視点で終活を捉えていることを示唆しています。

「生ききる」ための折り合いのつけ方を支援する

生命保険が一人ひとりの未来に問いかけている「今を生ききる」ための備え、という視点。人生100年時代と言われ、「自分らしい人生を送りたい」との思いと、家族のためや先々の不安のために備えも必要、との葛藤にどう折り合いをつければいいのか。そんな生活者インサイトにどう向き合っていけるのか。

「自分は1円ももらえない」とため息をつくよりも、自分らしく生ききるために、どうお金と時間を使っていくのか。

こうした自己実現をサポートするツールとして、生命保険もまた、その役割を変化させています。しかし当然ながら、それは生命保険だけの役割ではありません。実は、こうした「折り合いのつけ方」に関するさまざまな新しい視点による指南こそ、あしたのシニアにとって本当に必要なことかもしれません。そして、それをビジネス機会として捉える視点が、マーケティング関係者には求められているのです。

【セミナー好評受付中】巨大シニア市場の勝ち筋とは?宝島社『素敵なあの人』に学ぶ"本当のシニア像"

https://www.valuesccg.com/seminar/20260316-11492/

本セミナーでは、バブル景気や男女雇用機会均等法を経験し、多様化・アクティブ化した「これからの50代・60代」の本音(インサイト)を読み解く『5つの原則』をご紹介します。年齢というラベルに縛られず、彼らの「物語(変わらない気持ち)」と「身体的現実(リアルな変化)」の両方に寄り添い、商品企画やプロモーションを成功させる秘訣を具体的な事例とともに解説いたします。

▼今回の分析には生活者理解のためのリサーチエンジン『Perscope』を使用しています。『Perscope』では国内最大規模のWeb行動×アンケートデータを活用し、誰でも いつでも 簡単に"生活者起点のマーケティング活動"を実現することができます。無料デモもありますので、興味のある方は下記よりぜひお申し込みください。

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〈あしたのシニア 感情デザインのチャレンジ〉

あなたがターゲットとしている人たちの「今を生ききる」ための行動リストを具体的に書き出してみましょう。行動には必ず気持ちが伴います。書き出した行動に潜む気持ちをポジティブ・ネガティブの両面から探っていくことで、その人たちの「折り合いのつけ方」が見えてきます。それこそがインサイトへの入り口です。

この記事のライター

戦略コンサルタント。株式会社ウエーブプラネット代表取締役。
慶應義塾大学卒業後 、商業施設の企画開発会社にてターゲット戦略やコンセプト開発 、未来のくらし研究を担当。
1993年に株式会社ウエーブプラネットを設立。生活者研究、各種インサイト探索調査、コンセプト・ナビゲーション、コンサルティングなどを通して、トイレタリー ・飲料・食品・化粧品・住宅・家電・住設など、 さまざまな大手企業のマーケティング支援に携わっている 。時代と生活者の価値観やインサイト、企業理念等を言語化していくプロセスに定評がある。

近著『いちばんわかりやすい問題発見の授業

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