雨の日
学生の頃、雨の日が好きでした。雨が降ると気持ちが落ち着き、何故かホッとしました。特に外出しなくても済むということもあります。貧乏性のためか根っからの多動症のためか雨が降らない限り、外で何かしていないと気が収まらず、とりあえず外出するという出入りの多い毎日を過ごしていました。
流石に社会人になると通勤でも外回りでも雨が降ると服や靴が濡れますし、雨が降り蒸し暑くなると眼鏡は曇り、汗は止まらずと雨の日は苦手になっていました。
最近になると雨音を聞きながら布団に入るといつの間にか目が開かなくなりますし、雨の日は静かで昼間でも原稿書きが進むといった効用に浸れるようになりました。
話は変わりますが、江戸元禄期に活躍した俳人、松尾芭蕉にとても興味があります。忍者であったなど出自には様々な言い伝えがあり、謎めいた人物です。
俳諧紀行『奥の細道』にある代表的な句、「五月雨を集めて早し最上川」。梅雨の雨を集めた最上川の流れの凄まじさが目の前に現れるが如き写実的な句です。日本の河川の多くは山々が急峻で上流から下流へ流れが激しく、大量の雨により増水しやすいため、短期間のうちに洪水のピークが訪れます。
元々、「洪」は「おおみず」を意味するように、日本の年間降水量は世界平均の1.6倍で、梅雨や襲来頻度の高い台風の時期に水害が多く発生します。
日本は歴史的に治水へのたゆまぬ取り組みにより被害を減少させてきたものの、最近の温暖化による気候変動により、人的な被害だけでなく経済的被害も増大しています。水害は全国的に発生し、正に日本列島は「水害列島」であり、「大水害時代」を迎えているのです。
水資源と日本
日本の水資源を外国人が買い漁っているといったショッキングな報道もあります。日本人は昔から「水と安全はタダ」、「湯水のように使う」といった表現が浸透しているほど、水をふんだんに、無意識に使ってきました。
水資源として、理論上、人間が最大限利用可能な水の量を「水資源賦存量」と呼び、単に水資源量ともいいます。降水量から蒸発散によって失われる量を引くことによって計算されます。
比較的降水量が多い日本ですが、そのうち約35%が蒸発散します。また、河川の多くが急勾配のため、短時間で海に流出してしまい水の確保量は少ないのが現状です。
生活で実際に使用出来る水の量は、人口一人あたり世界平均の約45%程度です。生活用水や工業用水の使用量は1960年代半ばから現在までに約3倍に増加しました。再生利用技術の進歩やライフスタイルの変化により緩やかに減少しつつありますが、水不足のリスクは拭えません。食料や工業製品を生産するためには、給水や洗浄、冷却などで大量の水が必要となります。
日本は輸入によって他国の水資源に頼り、「世界最大の仮想水(バーチャルウオーター)輸入国」ともいわれています。日本の水道水は安全性が高いにも関わらず、ミネラルウオーターの年間消費量は増え続け、他国の水資源を消費している現状について疑問視する世界の声も少なくありません。
水不足とその原因
日本には水にまつわる言葉が大変多い国です。水を差す、水も漏らさぬ、水入らず、水商売、寝耳に水、水揚げ、水杯(みずさかずき)など挙げれば切りがなく、日本には水の文化が古くから存在していることがわかります。それだけ、水資源が豊富である証拠なのです。しかし、渇水などによる水不足が近年特に問題視されています。
世界的な水不足の4つの要因を取りあげてみると、①気候変動の影響。地球温暖化により、世界の主要穀物産地で台風・ハリケーンの頻発、洪水、多雨、など異常気象が多発しています。これにはエルニーニョ現象やラニーニャ現象との関連性も指摘されています。
また、干魃や永久凍土の融解、海面水位の上昇などによる塩害は世界の陸地の1割を占め、年々食料不足が深刻化しています。世界的な水不足により、世界の食料生産量が落ち込んでしまうと日本では確実に食料危機が起こります。
②人口の増加。世界各地での人口の増加は生活用水の量を拡大します。このまま人口の増加が進めば、2050年までに少なくとも4人に1人は慢性的な水不足の国・地域で暮らすことになるといわれています。
③経済の発展。日本でも半導体製造の国内回帰で工業用水の需要は高まりを見せています。経済発展による工業用水の増加はもちろんですが、科学技術の発展による生活水準の向上はこれまでと異なる用途や分野で水資源が重要とされる状況を生み出します。
➃進む都市開発。森林を切り開いて新しい都市の開発が進める上で、森林伐採による水源破壊が起こります。また、開発によって過剰な地下水利用が続き、実際に枯渇した地下水層が出現しています。
流域総合水管理
気候変動により、研究・分析されている線状降水帯に代表される豪雨による水害の激甚化は増加傾向にあります。また、夏場に渇水の発生頻度も高まっていて水資源の安定的な確保が求められています。
しかしながら、このような気象の2極化に対応するためのインフラは全国的に老朽化が進行し、機能低下による事故リスクが高まりをみせています。
また、財源不足や技術人材の不足はインフラの更新、維持・管理を困難にしています。実際、各地で下水道管の老朽化による事故が多発しています。
そこで、国土交通省では流域全体で治水・利水・環境保全を一体管理する「流域総合水管理」を推進しています。産学官連携コンソーシアムでも流域の既存インフラを最大限活用するための検討が進み、平時・災害時を通じた効率的な水運用の実現を目指しています。
ただ、水利権の調整や既存の管理体制との整合性確保は容易でないと予想されます。水資源管理は国民生活の基盤を左右する重要な課題であり、課題克服への具体的な活動こそ、持続可能な社会の実現につながるはずです。
我々一人ひとりが心掛ける水資源への取り組みとしては、①節水の意識、②水に汚れを流さない、③水資源の環境を守る、などが考えられます。
企業の多くの水に関する活動は自社拠点での節水対策に留まります。
気候変動がもたらす環境の変化や災害(水害)に強く操業を継続出来る体制を整備し、生物多様性や地域の将来のためにも、調達網全体を視野に入れた取り組みを企業には期待したいと思います。





株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。