倫理との出会い
正式に倫理という言葉に初めて出会ったのは高校3年です。高校時代は1年生から3年生までクラス替えのない理数科という、理科系に進学者の多いクラスに所属していました。
高校3年生で授業があった社会の科目は倫理社会(倫社)と政治経済(政経)。当時の共通一次試験は社会も理科も2科目ずつ試験を受ける必要があったので、理科系を目指した場合に日本史や世界史を選択するには記憶する量が膨大で、理科系にとっては選択しづらい科目のため、自然に倫社と政経、あるいはその一つに地理を組み合わせる形で受験するのが妥当でした。
理科系の場合、理科は物理と化学を選択するのが王道です。たまにその一つと生物を組み合わせる受験生もいましたが、地学は殆ど選択されなかったと思われます。
実際、高校3年生になると大学受験がすぐそこまで迫っていて、倫社や政経の授業中は内職といって、数学や英語など他の科目を先生に内緒でこっそり自習していたりと、真面目に授業を受講していた記憶はありません。
次に倫理に出会ったのは大学に入学して一般教養で倫理学を受講し、教科書として指定された青木書店が版元の「現代の倫理」を手にした時です。
大学生になり、『人間が人間であるために』という書き出しで始まるこの本が当時の私の知的好奇心を満足させ、倫理学を始めて学ぶに適した内容でした。倫理学は社会人になる手前に一度は学ぶ必要がある学問であるとこの時実感した次第です。
倫理及び倫理学とは
倫理とは、人として守るべき道や道徳、社会生活における規範です。人が社会の中でどのように生きるべきか、正しい行いとは何かを示すものです。
倫理と道徳は類義語であり、どちらも正しい行動や行為規範を意味します。倫理はより幸福な生活をもたらす行動を方向づける道徳的価値体系と言い換えることも出来、法規範のように罰則や制裁で個人の行動を規制するものではありません。むしろ、自律的で非制度的な性質を持っています。
倫理学は道徳哲学とも呼ばれ、哲学の主要分野の一つであり、道徳的現象を研究する学問です。人が何をすべきか、道徳的に正しい行動とは何かといった規範性の問題を追及します。
倫理学には主に以下の3つの分野があります。
①規範倫理学。人の規範となる行動について、その行動を支配する一般的原理を探究します。②メタ倫理学。倫理学の前提となる基本的な概念を見つけて検討します。20世紀に出現し、現在の倫理学に大きな影響を与えています。③応用倫理学。企業倫理や医療倫理、職業倫理など実生活や実社会に対応した具体的な倫理に関する諸問題を研究します。
倫理学は価値理論と密接に関係していて、価値の本質と種類を探ります。因みに価値理論とは経済学において、財やサービスの価値を決定する要因についての理論を指します。
倫理学とはすなわち、「いかに生きるべきか」や「人生の意義とは何か」などが主な問いであり、常に人生につきまとう問いかけです。何が善であり意味のある人生かは年齢を重ねても真の答えに出会うのは困難です。
企業倫理とコンプライアンス
相変わらず企業の不祥事が度々世間を騒がせています。発見されると氷山の一角であり、巷ではどこの企業でもやっているはずとの声すら流れているのは残念です。
国民の代表である国会議員でさえ、「政治とカネ」で代表される疑惑を抱え、政治倫理は常に注目の的となっているのが現状なので、仕方無いと諦めるべきなのでしょうか。
改めて、企業倫理とは何でしょうか。
企業倫理とは企業が社会的責任(CSR)を果たし、様々なステークホルダーとの健全な関係を築くための価値観や行動基準です。単に法律を守るばかりで無く、企業として求められる誠実な活動を明文化したものです。企業という組織の信頼性と持続可能性を支える重要な要素でもあります。
同様なものと考えがちなコンプライアンスとの意味の違いは、コンプライアンスは主に法律や規則の順守であり、最低限守るべき基準を示し、法令違反を防ぐために必要不可欠な企業行動を指します。
一方で企業倫理は、企業にとって何が正しいのか、どう行動すべきなのか、といった道徳的判断に従って行動するための指標なのです。
企業経営において企業倫理が重要な理由として、①法的リスクや制裁の回避、②企業ブランドや企業イメージ、ブランド価値の毀損を防ぐため、③企業の社会的責任を果たすため、④様々なステークホルダー(顧客や取引先など)との信頼関係の維持、⑤従業員のモチベーションと信頼の構築と向上、などが挙げられます。
ホイッスルブロワー(whistleblower)
組織(企業)内部の人間が公益保護を目的に、所属組織の不正や法令違反を外部の監督機関やマスメディアなどへ知らせて周知を図る行いが内部告発です。内部告発によって、組織の不祥事があからさまになるケースが多いようです。
正式には社内の監査担当部門に対して行われる「内部通報」と企業外部(報道機関や行政機関など)に対して行う「内部告発」と区別します。
内部告発者を指すホイッスルブロワーは1970年代のアメリカで消費者運動家として著名なラルフ・ネーダーが広めました。過去の慣例から内部告発をする行為は組織からすれば裏切りと見なされることが普通で、公益のために組織の不正や悪事を公表した者が、その組織や関連業界に報復人事などの不利益な扱いをされたり制裁を加えられたり、業界から追放されてしまう事例が相次ぎました。
そのため、こうした不適切な報復行為からホイッスルブロワーを保護する必要があり、世界各国で法整備が進められました。
日本では2006年4月に公益通報者保護法が施行されています。ただ、この法律はホイッスルブロワーを守る法であり、組織の不正行為を摘発することが主眼ではありません。
また、この法律の施行後もホイッスルブロワーに対する組織からの制裁は行われていて、同法は不十分であると指摘されています。
ビジネスの世界は性善説に基づくばかりではありません。大企業ですら恥ずかしげ無く不正に溺れる姿には幻滅してしまいます。
アメーバ経営で知られる京セラの創業者稲森和夫氏。「JALフィロソフィー」など未だに経営者達から敬われる彼の経営哲学は経営理念の重要性を説くものであり、企業倫理の重要性を教えるものとして国内外から手本とすべき概念とされています。





株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。