クラフトビール・ワイン・日本酒の消費者像を比較
好むお酒の種類によって消費者像はどの程度異なるのでしょうか。まずは年齢や性別など基本的な属性から見ていきましょう。
なお分析には、Web行動データとアンケートデータを用いた分析を行える、株式会社ヴァリューズの分析ツール「Perscope(ペルスコープ)」を用います。
■ワインは女性比率高め、日本酒は男性比率高め
以下の図は、「クラフトビール」「ワイン」「日本酒」検索者の男女比を示しています。
「クラフトビール」「ワイン」「日本酒」検索者の男女比
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
どのお酒でも男性の割合が6割~7割である点は共通しています。ただし細かく見てみると、ワインは他2つに比べて女性の割合が高く、日本酒は他2つに比べて男性の割合が高いことがわかります。
■クラフトビールは40代・50代中心、ワインは20代にも人気
次に年代についても確認していきます。
「クラフトビール」「ワイン」「日本酒」検索者の年代
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
どのお酒も30代~50代の割合が高くなっており、中年層に人気がある点は共通していますが、細かい分布は違いがあります。
クラフトビールは他の2つに比べて40代~50代の割合が特に高くなっています。一方、ワインは30代~50代だけでなく、20代でもネット人口全体と同等の割合を維持しており、若者にも人気があるようです。
■お酒好きは旅行と食事にお金を使う
さらに、平均支出からライフスタイルについても見ていきましょう。
「クラフトビール」「ワイン」「日本酒」検索者の1人あたりの1か月平均支出
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
お酒好きは共通して、食事と旅行にお金をかけていることがわかります。ただし、「おかし・デザート」への支出はネット人口全体と同程度で、甘いものへの関心は高くないようです。
また興味深いことに、「日本酒」検索者は他2つに比べ「海外旅行」への支出が少なくなっています。お酒好きは海外の銘酒を求めて海外旅行への関心が高い一方で、日本酒好きは日本の味を好み、国内志向が強いのかもしれません。
クラフトビール・ワイン・日本酒、お酒別のプロモーション戦略
ここからは、購買行動や価値観データから消費者像を深掘りし、最適なプロモーションの方向性を考えていきます。
■活用するべきメディアは?
まずは、プロモーションで活用するメディアについて考えてみましょう。
以下の図は、「クラフトビール」「ワイン」「日本酒」検索者の1日当たりのメディア(左)/アプリ・SNS(右)の接触時間を示しています。
「クラフトビール」「ワイン」「日本酒」検索者の1日あたりのメディア(左)/アプリ・SNS(右)接触
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
各お酒について接触時間が長い順にメディア・アプリを3つ抜き出すと以下のようになります。
| 項目 | クラフトビール(分) | ワイン(分) | 日本酒(分) |
|---|---|---|---|
| 1位 | テレビ (65.1) | テレビ (72) | テレビ (83.7) |
| 2位 | 動画アプリ (44.3) | 動画アプリ (68.7) | 動画アプリ (56.4) |
| 3位 | VODサービス (28) | ゲームアプリ (35.2) | ゲームアプリ (31.5) |
いずれもテレビが1位で、動画アプリが2位となっています。ただし、これらの接触時間はいずれもネット人口全体の平均より短い点には注意が必要です。
ネット人口全体と比較して、お酒好きは全体的にメディアやアプリへの接触が少ない傾向にありました。そのなかで、ネット人口全体の平均よりも接触時間が長いという観点では、以下のような媒体への露出も効果的かもしれません。
・クラフトビール:電子書籍
・ワイン:X(旧Twitter)
・日本酒:ラジオ
さらに、各検索者の情報収集媒体からも考えていきます。
「クラフトビール」「ワイン」「日本酒」検索者の情報媒体
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
どのお酒でもインターネットが多く利用されていますが、クラフトビール検索者はメールや口コミも情報収集媒体として使う割合が多いようです。
これらの媒体も活用することで、効果的に消費者へアプローチできると考えられます。
■どんなメッセージをどう訴求する?
次に、プロモーションにおいてどのようなメッセージをどのような方法で訴求すべきか、消費者の価値観や消費行動タイプから考えていきます。
クラフトビール:ポップアップストアで刺激ある購入体験を提供
以下の図は「クラフトビール」検索者のありたい自分像を示しています。
「クラフトビール」検索者のありたい自分像
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
1位は「刺激や感動のある生活をしたい」で、日々の生活を充実させたいと考えているようです。クラフトビールは、日々の生活に彩りを与える存在として楽しまれている可能性があります。
そのためプロモーションでは、刺激や感動、新しさといった要素を伝えていくことが重要となりそうです。
また、消費行動タイプでは、「体験重視型」と「技術志向型」が特徴的になっています。
「クラフトビール」検索者の消費行動タイプ
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
製造過程での技術を紹介する施策や、クラフトビールの良さを体験できるポップアップストアなども効果的なプロモーションになりそうです。
ワイン:高級感と社会貢献でブランドイメージを構築
同様にして、ワインの適切な訴求メッセージを考えていきます。
「ワイン」検索者のありたい自分像
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
「ワイン」検索者の消費行動タイプ
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
ありたい自分像として「世間の人たちよりもワンランク上の生活をしたい」と望む人が多く、それと対応するように、消費行動タイプでも「ブランド志向型」が最も特徴的でした。ワインの販売では、質を高くし、価格設定も比較的高めの方がむしろ効果的かもしれません。
そのうえで、その価格に見合う価値を示し、ブランドとしての地位を築くことが求められます。多くの人の目に触れるメディアで高級感を訴求することで、ステータスの高いブランドとしての認知を拡大することが効果的であると考えられます。
さらに、「社会や仲間のために貢献する生活がしたい」と望む人や、「エコ・サスティナブル型」の消費行動をする人も多く見られました。単なる高級感だけでなく、環境保全や地域貢献をアピールすることでも、ブランド力を一層高められるでしょう。
日本酒:革新性と最新技術で新しさをアピール
最後に、日本酒の最適なプロモーションを考えていきます。
「日本酒」検索者のありたい自分像
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
「日本酒」検索者の消費行動タイプ
集計期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:PC、スマートフォン
日本酒を好む人は、「日々新しいことに挑戦している生活がしたい」と成長を望む人が多く、消費行動タイプでは「技術志向型」が特徴的です。新しい技術や試みに関心を持ち、自らも挑戦することで刺激や成長を得ようとしていることがうかがえます。
そのため、従来の日本酒や他社製品との違いを明確に示し、どこに革新性があるかを訴求することが重要となるでしょう。さらに、工場見学などを通して製造過程で採用している最新技術を紹介することも、消費者の関心を惹きつける上で効果的になりそうです。
口コミを活かしたクラフトビールのポップアップ事例
今回の分析に則ったプロモーション施策にはどのようなものがあるのでしょうか。ここではクラフトビールの具体的な事例を紹介していきます。
2024年12月、キリンビール株式会社とクラフトビールの「よなよなエール」などを展開する株式会社ヤッホーブルーイングは5日間限定の共同イベント「クチコミで味わうビアバー」を渋谷で開催しました。このイベントでは、商品名を伏せたまま口コミだけを頼りに飲みたいクラフトビールを注文し、提供時に渡される「種明かしキット」で銘柄を確認する仕組みになっています。
このイベントは、株式会社ヤッホーブルーイングの「クラフトビールを飲むきっかけの1位は口コミである」という調査結果に基づいて企画されました。今回の分析でも、クラフトビール検索者は口コミを重視する傾向が見られ、この特徴をうまく活かした施策といえます。
さらに、購入過程そのものを楽しむ「体験重視型」の消費行動や、生活に刺激や新しさを求める価値観ともマッチしており、クラフトビールならではの消費スタイルに寄り添ったイベントといえるでしょう。
参考:KIRIN - キリンホールディングス株式会社「渋谷に『クチコミで味わうビアバー』期間限定オープン! 」
まとめ
本記事では、クラフトビール・ワイン・日本酒の検索者を比較し、その特徴と最適なプロモーションの方向性を考察しました。
以下の表にその違いをまとめます。
| 項目 | クラフトビール | ワイン | 日本酒 |
|---|---|---|---|
| 年齢・性別 | 年齢層高め(40代~50代) | 女性・若者にも人気 | 男性の割合が多い(約7割) |
| メディア |
・テレビ ・インターネット ・メール ・口コミ |
・テレビ ・インターネット ・X(旧Twitter) |
・テレビ ・インターネット ・ラジオ |
| 消費行動タイプ |
体験重視型 技術志向型 |
ブランド志向型 エコ・サスティナブル型 |
技術志向型 |
| ありたい自分像 | 刺激や感動のある生活をしたい | 世間の人たちよりもワンランク上の生活をしたい | 日々新しいことに挑戦している生活をしたい |
同じお酒好きでも、好む種類によってその購買行動や価値観には違いがあることがわかりました。プロモーションを企画する際には、こうした違いを踏まえ、それぞれの消費者にマッチした施策を立案できるかどうかが成功の鍵となるでしょう。
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2026年4月に入社予定の大学院修士課程1年生です。大学では分子生物学系の研究に取り組んでいます。