二季
京都の夏は本当に暑かったと記憶に残っています。配属された年の夏は住まいのアパートには冷房が無く、夜は暑くて眠れず七転八倒状態が続きました。そして冬。比叡おろしといわれる比叡山からの吹きおろしに身体が凍り付きました。
確か、水道の水が氷るために少しだけ台所の蛇口から水を垂らしておいた方がいいと地元の方に伺い、実行していました。ただ、春は桜、秋は紅葉と一年の内に圧倒的に素晴らしい季節があり、京都へ遷都した理由は四季がはっきりしているためだとこれも地元の方に教えて頂いたことを想い出します。
地球温暖化のためか6月には既に苦しい猛暑が始まります。桜の季節はあっという間に終わり、9月はもちろん10月に入っても暑い日があります。
そして、ふと気がつけば冬となり、秋はどこかに消え去ったような気さえします。日本は美しい四季の存在が自慢の種であったと思うと悲しくなります。
しかし、ある生態学者によると、日本は元々麗しい春と秋の季節はあまりに短く、長い夏と長い冬が交代する国であり、蚊帳とこたつが入れ替わる二季の国であると説いています。快適な春と秋が無くなったわけではなく、元々短かった両季節がさらに短くなっただけであり、量の違いあるいは程度の差であると。
もう少し冷静に分析すると夏はとても長くなり、冬は以前より暖かくなった傾向もあり、日本の季節が持っていた従来の性質が少し極端になったと考えるべきでしょう。気候温暖化は季節をつかみにくいものから、つかみやすいものへと変えたのです。
極端気象
猛暑、豪雨、暴風、と相次ぐ「極端気象」に地球温暖化の影響は大きいと考えられます。
この夏は世界中で酷暑が続き、人為的な温暖化によって記録的な高温が発生したと研究者達も結論づけています。
温暖化対策の国際ルール「パリ協定」では、産業革命以前からの気温上昇を1.5℃以内に抑える目標を掲げてはいるものの、世界はこの目標を上回る勢いで気温が上昇、平均気温の上昇幅は2024年に初めて1.5℃を超えました。
酷暑はインフラに打撃を与え、鉄道では線路の歪みにより運転を見合わせる事例が増え、東北・山形新幹線でも不具合が生じました。気候変動は世界各国のインフラに影響を及ぼしています。
頻発する「極端気象」による豪雨や干ばつは、道路や水道、送電網などに甚大な被害をもたらすと同時に、備えるべきインフラの整備・維持への投資も必要となり、経済的損失も巨額になっています。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書によると、気候変動による世界のインフラ損失額は平均気温が2℃上昇した場合、2100年には600兆円に達すると推測しています。
また、気候変動に伴う海水温の上昇は台風や大雨の勢いを強め、洪水や暴風によって交通や通信のリスクを高めます。例えばデーターセンターが水没した場合、公共施設の機能がダウンするなど広範囲な影響が考えられます。先進国や途上国の区別無く、それぞれの特徴に沿った対策が求められます。
地球温暖化と航空機
新型コロナ禍で航空機による世界の行き来が著しく減少した時期がありましたが、今では新型コロナ禍以前を上回っています。それには格安航空会社(LCC)が運営する航空便の普及により、運賃が下がり身近な移動手段として旅行やビジネスで航空機を利用しやすくなっていることも要因のひとつです。
しかし、地球温暖化は空の旅の安全性を脅かす可能性もあるようです。大きく3つの可能性が考えられます。
①乱気流の発生増大。強い乱気流は過去40年間で55%増加したという研究結果もあります。地球温暖化の影響で地表との温度差が高まると、晴れた空で生じる「晴天乱気流」は航空機を激しく揺らすため特に危険です。
②大雨や熱波。滑走路の一部が高温で隆起するなど航空機の離着陸を困難にしています。大雨に備えて空港の排水機能を高めたり、高温に耐えうる滑走路の舗装など、空港のインフラ整備が求められます。
③空気密度の減少。気温の上昇で緩められた空気の密度が下がることで航空機の主翼で生じる揚力が減少し、安定的な航空機の飛行に影響を与え、暑い時間帯に飛ぶ航空機は乗客や貨物などを減らすケースが生まれています。滑走路の短い空港などでは乗客や貨物を減らさないと離陸に必要な速度を得られなくなるためです。
地球温暖化がこれ以上航空機の運航を妨げることになれば、経済活動を中心にその影響は幅広い分野に及ぶのは間違いありません。
塩害、食料問題
カカオ豆やオレンジなどの果実は干ばつや洪水、ハリケーンなどの天候不順により、収穫量が減少し、このところの価格高騰につながっています。気温の上昇は果実を侵す病害の発生やまん延をもたらします。
国連食糧農業機関(FAO)は塩害に関する報告書で、世界の陸地面積の10.7%に当たる13億8100万ヘクタールが塩害の影響を受けていると分析しています。
塩害の影響を受ける面積が大きい国は順にオーストラリア、アルゼンチン、カザフスタンと続いています。
土壌に塩分が過度に含まれると、植物が根から水分を吸収しにくくなり、発育に悪影響を及ぼします。世界的に塩害が拡大する背景には気候変動による干ばつや永久凍土の融解、海面水位の上昇などがあげられます。
報告書では21世紀末までに中南米やオーストラリア西部などの広大な地域で土壌の塩類化が進む可能性があると指摘しています。
農業用地や水資源の不適切な管理も被害拡大につながっています。肥料の過剰使用や増え続ける地下水のくみ上げ、灌漑を目的に海水と淡水が混ざる汽水の利用も塩害を引き起こす要因となります。
報告書は塩害が世界的に拡大する現状にむけて、世界規模での緊急な行動を必要としています。また、灌漑用水の水質をモニタリングする体制の確立や輪作の推進も効果的としています。
穀物の生産がこのまま落ち込めば、食料不足が深刻さを増すのは当然です。国連によると2023年の世界の飢餓人口は7億3300万人で2018年と比べて3割増加しています。特にアフリカでは人口の2割を占めています。
地球温暖化が様々な形で我々人類に影響を与えているのを日々実感出来ます。それらの問題一つひとつに対し、具体的な対応策を命じ行動する政治力が求められています。





株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。