東京で開催されるアジア最大級の国際会議
――Esomarという組織について教えてください。
子安亜紀子(以下、子安):Esomarは「European Society for Opinion and Marketing Research」の頭文字から取った名称で、1947年にヨーロッパで設立されたマーケティング・リサーチ団体です。現在はヨーロッパのみならず全世界130ヵ国以上で活動の幅を広げています。活動内容は調査・データ分析の信頼性を高めるための基準作りやマーケティング・社会調査における国際的な倫理・行動規範などの策定と普及です。
また、世界のリサーチコミュニティをつなぐ役割も果たしています。日本にも「日本マーケティング・リサーチ協会」、通称JMRAという団体がありますが、JMRAはEsomarの国際綱領の精神を踏まえ、国内に合わせて調査品質と倫理の国内標準を策定しているという関係性です。世界的に活動をしているのは、おそらくEsomarだけでしょう。
株式会社ヴァリューズ執行役員 子安亜紀子
「AP2026」のコミッティチェアに就任。SE やWeb コンサルタントを経て、株式会社マクロミルに入社。商品開発、事業企画などを手掛ける。2011 年にヴァリューズに参画。執行役員としてマーケティング部門の統括、海外事業などを担当する。
――Esomarがマーケティング・リサーチにおける国際基準や規範の必要性を求めるのはなぜでしょうか。
子安:ひとつの大きな理由は、マーケティング調査の中で消費者の権利を守ることで調査品質を担保するためです。参加者が協力する意味を感じやすく、また、不利益を被らない環境をつくることが、パネルの維持・回答品質の担保やマーケットリサーチ全体の品質向上につながります。各国それぞれ独自のルールがあってもよいのですが、共通であれば信頼性も担保されます。
――5月に開催される「ESOMAR Asia Pacific 2026 in Tokyo(AP2026)」の概要やコミッティチェアに就任された経緯を教えてください。
子安:AP2026は5月27~29日の3日間、東京・港区にあるヒルトン東京お台場で開催されるアジア最大級のインサイト・リサーチ国際会議です。テーマは“Beyond Balance”。世界中から集まったインサイト専門家たちによる計30セッションの発表とディスカッションを行う中で、大胆なアイデアやブレイクスルーなツールを共有し、参加者全員が明日からのビジネスに活かせるインスピレーションを得られるようにしたいと思っています。
私は2022年、2023年のEsomarのイベントに発表者として登壇し、2024年、2025年には審査員として携わった経験を評価していただいて、今回コミッティチェアとして選出されました。
――AP2026にはどのような企業・団体が参加するのでしょうか。
子安:参加企業はインド、東南アジア、東アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカと世界中から来ています。カテゴリーとしてはリサーチ会社、データ分析・AI企業、コンサルティングファーム、メディア・各国の業界団体など。加えてマーケティング施策を主導する事業会社も多数参加しており、「The Coca-Cola Company」「Heineken」「Google」「7-Eleven」といった世界的グローバルブランドも含まれています。
今回のテーマは「Beyond Balance」。5月27日~29日に東京・港区のヒルトン東京お台場で開催。世界中から集まった最新手法が発信される。
AIがマーケティング・インサイト業界を席巻
――――発表の内容にはどのようなものがありますか。
子安:発表は事前に提出されたレポートを査読して選抜されるのですが、特にインドの会社が多いイメージです。発想も豊かだし、アグレッシブなエネルギーを感じます。ここ数年の傾向でもありますが、世界的にはAI活用に関するものが圧倒的に多いですね。今回、レポートの1/3ぐらいは生成AIに関するものだったと思います。
例えば、AIを活用するとどこまで調査はオートマティックにできるのかという研究もあれば、クライアントとともに成果を出したものもありました。AI活用によってインサイト業界はどう変わるのかという視点は、テーマとしてとても盛り上がっている印象があります。
また、カルチャー比較に関するレポートも興味深かったですね。例えば、Z世代はワードとしては世界共通ですが、エリアによって特徴やニュアンスに違いがあり、アメリカの若者と中国の若者のEC購買を比較すると、同じWebサイトでも比較購買の仕方やカスタマージャーニーの重視点の違いがある、といった事例研究がありました。
カルチャー比較に視点を置いたタイプの発表も多く集まっているので、海外でのマーケティングを考えている企業にとっても貴重な機会だと思います。海外事例は、海外の文献を探さないと見つからない部分もあるので。
――ヴァリューズも研究成果を発表するそうですね。
子安:近年、弊社では生成AIを使った様々な調査をしています。具体的には弊社が収集した行動ログをAIにインプットさせて、“デジタルツイン”と呼ばれる擬人化AIにインタビューを行った際に、生身の人間に聞くのと比べてどれぐらい深い内容が得られるのかという研究です。
消費者の行動に基づいて収集されるビヘイビアデータを細かく積み上げていくほど、デジタルツインが生身の人間と同じような悩みを話してくれたり、本人が覚えていないような行動も事実に即して語ってくれます。それまで見えづらかった購買に到るまでの行動と感情の流れ、いわばカスタマージャーニーがクリアにできるという内容です。
世界中から集まる最新のマーケティングノウハウ
――海外のリサーチ事例は、日本国内のものと比べて違いはありますか。
子安:私の印象では、日本企業のマーケティングはかなり細やかで丁寧です。アンケートリサーチで見られるように、実施側はかなり細かく調査を設計しますし、インタビュー対象者側も丁寧に回答してくれることが多いようです。
それに対して欧米、中国、アジアといった諸外国は調査設計自体がざっくりとしている一方、知りたいことだけさっと取って、すぐ実行するというようなスピード感のある企業が多い印象です。
どちらが良いという話ではなく、日本の真面目さ、丁寧さ、考え抜く姿勢という特徴を世界に正しく発信していったら、もっと評価されると思います。逆に海外の大胆な手法を取り入れることで日本のマーケティングも進化する可能性はあると思います。海外のマーケティングを知ることは、その国のカルチャーを知ることでもあります。
――AP2026の開催に向けて意義や魅力を教えてください。
子安:マーケティングの世界におけるトレンドは、少し前はビッグデータでしたが、今はAIが中心で、日々変化しています。より成果を出すためには淡々と調査しているだけでは足りず、日々新しいやり方を研究したり、アンケートやリサーチの現状を模索したりなど、考えるべきことはたくさんあります。
そういった試行錯誤をそれぞれの企業の中で行うより、業界全体で考えてシェアすることがAP2026の狙いであり意義です。生成AIについても、リサーチの世界で現状でどんな点が使えて、どこが使えないのかをみんなでシェアした方がきっと効率がいいはずです。そうすることで視野も広がると思うんですね。
――日本の中だけで留まっていてはもったいないということですね。
子安:日本の中では、例えばマーケティングを学べる場所やメディアはたくさんあり、様々な人が最新のトレンドを語っていますよね。情報はたくさんありますが、どういうトピックが世界でトレンドになっているのかは意外と日本語の情報からは入って来ないなと感じます。世界のトレンドに触れるという意味でAP2026は最適ではないかと思っています。
日本のマーケターは優秀な人が多いですが、AP2026で全く知らなかった発見もあるかもしれませんし、逆に、今自分たちが行なっていることは世界でも通用すると確認できるかもしれません。
今回は東京開催なので、アクセスしやすく絶好の機会です。私も世界中の専門家がいま考えている視点に触れることを楽しみにしています。
| 【ESOMAR Asia Pacific 2026 | Beyond Balance 開催概要】 | |
|---|---|
| 名称 | ESOMAR Asia Pacific 2026 | Beyond Balance |
| 開催期間 | 2026年5月27日(水) ~ 29日(金) |
| 会場 | ヒルトン東京お台場(東京都港区) |
| 主催 | ESOMAR(日本支部:JMRA|日本マーケティング・リサーチ協会) |
| 公式サイト | https://esomar.org/events/asia-pacific-2026-tokyo |






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