1960年、日本初の国産ドッグフード「ビタワン」を世に送り出した業界のパイオニア、日本ペットフード株式会社。社員約180名という規模ながら、POSデータの統合ダッシュボード化や、自社サイト上の「販売店検索」機能の構築など、近年は着実にデータ活用の成果を積み上げてきた企業です。ヴァリューズは約6年にわたり、データ活用伴走支援やWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」の提供などで、その歩みに伴走してきました。
大企業のような専任組織も潤沢な予算もない中で、データ活用はどうすれば社内に根づくのでしょうか。営業本部 マーケティング部長の津々樂仁美氏、同部第2課長の堀田千博氏に、その道のりを伺いました。聞き手にはデータ活動支援を主導するヴァリューズの和田尚樹も同席しました。
「DX」は掲げず散在するデータの可視化からスタート
「マーケティング部のミッションは、ブランドの認知を高め、好きになってもらう過程を設計して売上に貢献すること。加えて、データで営業活動や会社の意思決定を支えることだと考えています」
マーケティング部長としてデータ活用を推進してきた津々樂氏は、自身のミッションを明快にそう語ります。だからこそ、「DX」という言葉には「少し距離を感じている」のだとも。
「『DX推進だね』と言われると、ちょっと歯がゆいんです。会社として『DXやるぞ』と旗を振ったわけではなくて、社内のいろんなところに散らばっているデータをまずまとめて可視化し、みんなで共有して使える環境にすることがスタート地点でしたから」(津々樂氏)
日本ペットフード株式会社 営業本部 マーケティング部長 津々樂仁美氏
日本ペットフード社内において、かつては営業担当者が持つPOSデータは典型的な「属人化」の状態にありました。ツールの使い勝手にも課題があり、データはその担当者だけが抱え込んでいる状態でした。今春まで営業現場の第一線にいた堀田氏も、そのもどかしさを感じていた一人です。
「できる人だけが自分の領域としてデータを分析し、その数字が使えるかたちで社内共有されていない。もったいない状況だと思いながらも、みんながデータを活用した提案をするためにはどうしたらいいんだろうと、もやもやしていました」(堀田氏)
日本ペットフード株式会社 営業本部 マーケティング部 マーケティング第2課長 堀田千博氏
営業部門から商品開発部門まで、現場を長く歩んできた津々樂氏には、データの価値への確信がありました。
「開発の意思決定は、最終的に調査やデータで判断します。データは人を説得できる指標であり、フラットに判断するための材料。根本には『商品を届けたい』という思いがあって、データはそれを叶えるための手段、武器なんです」(津々樂氏)
データ活用で陥りやすい罠をどう回避するか
一方、データ活用が軌道に乗り始めた企業が陥りがちな罠もあります。データ活用が面白くなったことで、「分析のための分析」に走ってしまうという危うさです。「まさにそこもヴァリューズの支援のおかげで助けられてきた部分です」と津々樂氏は振り返ります。
「データが面白くなると、いろんなことをやりたくなるんです。そこを和田さんは『そこまでやっても仕方ないですよ』、『その分析、何の決定に使いますか?』と、きっぱりビジネスの軸から意見を言ってくださる。マーケティングやデータ活用は、決まったフレームワークの型にはめるのが実は難しい。ヴァリューズさんは、私たちの会社に合った、私たちなりのデータの使い方を提案してくれるところが頼もしいです」(津々樂氏)
寄り添いながらも、代行はしすぎない。絶妙な距離感は、ヴァリューズの和田が一貫して意識してきたことでもあります。
「データを有効に活用できる組織になることを目指すのであれば、『お客様自身がデータに向き合う主体である』と自覚を持ってもらうことが第一歩。すべてを代行すると、その後の広がりが減ってしまいますから。なるべくお客様側に打席に立ってもらい、難しそうなところだけ代わりにやる。その距離感で続けてきました」(和田)
株式会社ヴァリューズ DXソリューション局 シニアマネジャー 和田尚樹
日本ペットフードの社内データ活用推進に当初から携わる
データを提供する会社の一員であるからこそ、和田は「活用の順序」を重視します。
「新しいデータを導入することには、もちろん大きなメリットがあります。しかし、無理に取り入れた結果、期待した成果につながらないケースも少なくありません。 そのため、まずは自社データをしっかり使いこなすところから始めていきましょう、という気持ちは常にあります」(和田)
津々樂氏も、「自分たちの身の丈に合った進め方」を強調します。
「大企業が始めたDXを、サイズの違う会社にそのまま当てはめても上手くはいきません。まずはミニマムな一歩から始めて、一番身近な営業に実感を得てもらう。“DX”という言葉だけが走るとどうしても業務改善に向かいがちですが、データで利益を生む“攻め”にこそ使うべきだと思っています」(津々樂氏)
POS統合と販売店検索。社内をつなぎ、顧客に還元する
データ活用の取り組みの柱の一つとなったのが、小売店ごとにフォーマットがばらばらだったPOSデータの統合ダッシュボード化です。これによって上層部や生産部門も販売店の生のデータに触れられるようになり、営業現場でも商談の質が明らかに変わりました。
「たとえば、納品数は多いのに、POSの販売実績が伴っていなければ、『これはお店に在庫を多めに納めた、いわゆる“送り込み”だ』と読み解けます。市場では売れているのに御社のPOSでは売れていない、その理由を数字を見ながらバイヤーさんと会話できるようになったのも大きいですね。それまでは現場の感覚で進めていたことが、データを共有しながら並走できるようになりました」(堀田氏)
データ活用を消費者にも還元したのが、公式サイトの「販売店検索」機能です。POSデータと販売店データを組み合わせたことで、買いたい商品がどの店舗にあるかを即座に消費者が検索できるようにしたのです。Web広告から来た顧客を実店舗へ送客し、その反応はGA4で効果測定しています。さらに、営業現場でも提案の武器になりました。
「『競合さんが載っているのに、もったいなくないですか?』と提案に使わせてもらうこともあります。掲載のために店舗データを提供してくださる企業様もありました」(堀田氏)
津々樂氏も「販売店検索は、データを活用して社内をつなぐことができた、一番の形」と手応えを語ります。
もっとも、構築の道のりは決して平坦ではありませんでした。販売店検索の根幹にあるのは、常に鮮度を保った“生きたデータ”です。その価値を維持するためには継続的な運用が必要であり、リリースまでには数々の課題が立ちはだかりました。実際、公開が危ぶまれる場面もあったといいます。
このとき転機となったのは、「“生きたデータ”を動かす以上、完璧な書き換えや運用を目指すのは難易度が高すぎる。実用的なところを考えると、完全に反映させなくてもこれくらいの形で問題ありませんよ」という和田の助言でした。
「他社での知見をもとに、『うちの場合ならこれで十分』という視点をもらえたおかげで何とか危機を乗り越えられました。和田さんがいなかったら、予定していたリリースに間に合わなかったかもしれません」(津々樂氏)
認知の評価から、メディア掲載の判断まで
そもそも日本ペットフードは、マーケティング領域において「消費者の心理や行動が見えづらい」という課題を長年抱えていたといいます。
「自社サイトのアクセス状況はGoogleアナリティクス(GA4)で把握できましたし、売上は他社比較できるデータがありましたが、“お客様の反応”を比較して評価することが難しかった。そこで2021年に導入したのがDockpitです」(津々樂氏)
“マーケターのためのリサーチエンジン”「Dockpit(ドックピット)」のサービス画面。国内最大規模250万人のWeb行動ログデータをもとに、競合・市場調査、ユーザー理解を手軽に実現できる。
使い始めたところ、その効果は当初の想定を超えて広がりました。たとえばブランド認知の評価です。
「認知は、GA4のオーガニック検索で見ることもありますが、キーワード検索の広がりで捉えることもできます。たとえば『ビューティープロ』と検索する輪が広がっていれば、それは我々の施策の成果だという見方ができます」(津々樂氏)
プロジェクトにしない継続が、AI活用の下地になった
社内データの活用は成果が見えづらいため、頓挫する企業も少なくありません。なぜ日本ペットフードは6年間続けてこられたのでしょうか。津々樂氏はその理由を次のように分析します。
「プロジェクトではなかったから、だと思います。プロジェクトにすると『ここで終わり』というゴールができてしまう。でも我々はデータを集めるところから始めて、可視化したい、使ってほしい、こういう使い方があるなら販売店検索をやろう、それができたら次はこのつながりができるね……と、円を広げるように少しずつデータ活用を続けてきました。だからこそ、ここまで続いているのだと思います」(津々樂氏)
ゴールへ向かって一直線で進めるのではなく、あえて区切りを設けすぎず「次は、次は」と同心円状に活用の輪を広げていく。この推進スタイルは、チームへの考え方にも通じています。
「一人でできることは本当に限られている。これは弊社の社長・片山俊次が最も大切にしていることです。一人のスペシャリストだけが推進してもダメで、チームで動くべき。やりたいと言ったことに賛同してくれる人が増えていくことのほうが、スケジュールをまっすぐ進めるよりずっと効果的だと思っています」(津々樂氏)
そして今、円を広げ続けるための次の一手が「仕組み化」です。
「積み上げてきた知見をもとに、担当者が変わっても回る仕組みをちゃんと構築すること。今後は営業部門での経験が長い堀田の力を借りながら、仕組み化に注力していくつもりです」(津々樂氏)
数年がかりで整備してきたデータ基盤は、結果的にAI時代への備えにもなりました。和田が現状を「変に特定の事柄に最適化されていない形でデータができてきているので、AIを使おうとしたときにパッと使える状態」と評すると、津々樂氏、堀田氏はこう応じました。
「営業部門でもデータを活用する考え方が浸透して、データを用いて判断できる状態になっています。その下地ができていたからこそ、AIを使ってもしっかり判断できる人材が育っています」(津々樂氏)
「私たち人間は、知識やスピードにおいてはもうAIに勝てません。でも、さまざまな判断材料をもとに、最後に決断するのはやっぱり人間です。決める側である私たちが知見を持っていないといけない。そこには今後も自覚的でありたいです」(堀田氏)
ペットフードの最終的なお客さんになるペットたちは言葉を話さないし、自分で商品を選ぶこともありません。だからこそ、データを通じてペットと暮らす家族と向き合い続けることに大きな意味がある、と津々樂氏と堀田氏は語ります。
行動データと心理データのかけ合わせ、製造現場との連携、経営判断への展開……。次に広げたい円は、すでにいくつも見えています。少しずつ、けれども着実に円を広げてきた日本ペットフードの歩みは、データ活用に悩む企業への確かなヒントになるはずです。
「ペットのごはんを作れるのは、ペットフード会社しかいない」と語る津々樂氏。様々な状況に置かれた動物たちに向き合い、小さな命を守るための社会貢献活動を同社は行なっている
取材協力:日本ペットフード株式会社
▼ヴァリューズではこれまでデータ分析事業で培った⾼度な分析メソッドと独⾃ノウハウを活かし、企業様のDX推進を伴⾛者として⽀援しています。企業様ごとの状況や課題に応じた完全オーダーメイド⽀援の「コンサルティング」、 データ活⽤において広く共通する課題を解決する、⾃社開発プロダクトと他社ツール の提供をおこなう「プロダクト」の組み合わせで、最適な内容をご提案いたします。
データインテリジェンス×マーケティングで新たな市場価値の創造をサポートする株式会社ヴァリューズの事業・サービスをご紹介します。






ライター・編集者。株式会社みがく代表。ビジネス、人文、ジェンダー、教育分野を中心に、企画・取材・執筆・編集を行う。書籍のブックライティングから企業オウンドメディアの記事制作まで幅広く担当。構成を手がけた著書は『頭がいいとは何か』(勅使川原真依/祥伝社新書)、『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則』(中垣徹二郎 他/日経BP)他多数。