インターネットの台頭により、人々の消費行動は大きく様変わりしました。
有形・無形に関わらずあらゆるサービスがネットを通じて提供されるようになり、企業や個人によるWeb広告の出稿量も年々増加の一途を辿っています。
電通が今年3月に発表した「2019年 日本の広告費」にあるデータによれば、2019年の「インターネット広告費」は全体で2兆円を超え、前年比で20%弱という成長を遂げています。
さらに特筆すべきは、「インターネット広告費」がこれまで主流だったテレビCMなどの「テレビメディア広告」の規模を初めて抜き、媒体別の首位に立っていることです。いまや、プロモーションを考えるうえでWeb広告の存在は無視できない規模になっていることがよくわかる結果と言えます。
そこで今回は、拡大を続けるWeb広告市場において出稿量が多い業界はどこなのかを調査・分析。ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を使い、消費財として「日用品」「化粧品」「ファッション」「食品」「飲料」の5つのジャンルにおける、集客構造の違いとその背景を探っていきます。
方法としては、上記5つの消費財の通販サイトを対象に調査します。Dockpitの業界分析機能では各Webサイトが独自にカテゴリ分けされており、「日用品 通販」等のWebサイトについて、業界全体のユーザー数やセッション数、PV数等の分析が可能です。これを用いて各業界全体を俯瞰して比較していきます。
5つの通販ジャンルから見るWeb広告の出稿量の差異
でははじめに、上記5つの消費財の通販サイト全体について、全体流入に対するWeb広告からの流入セッション比率を見てみましょう。下記のグラフをご覧ください。
Web行動ログ分析ツール「Dockpit」で5業界の通販サイト全体へのWeb広告セッション流入比率を集計。なお、「Web広告」の内訳はディスプレイ広告・アフィリエイト広告・リスティング広告の3項目。
対象期間:2020年8月〜2020年10月
デバイス:PC・スマートフォン
上記の表のように、もっともWeb広告からの流入割合が多かった消費財ジャンルは「化粧品」の36.8%となっていました。以降は食品、ファッション、日用品と続き、「飲料」業界が7.5%と最少となっています。(注:「飲料 通販」カテゴリ内にはアルコールメーカーの企業サイトは含まれていない)
また、「Web広告」の中でもディスプレイ広告の状況はどうなっているのでしょうか。対象の5業界のディスプレイ広告流入セッションを100%として、構成比を集計してみます。
すると、ここでは上のグラフのように、「ファッション」業界でディスプレイ広告からの流入がもっとも多い結果となりました。次に食品、化粧品と続きます。
また、グラフでは半年ごとのディスプレイ広告流入数の変化を表しました。特筆すべき変化として、赤色の「食品」、紫色の「日用品」ジャンルでのセッション割合の増加が挙げられます。実数値でもいずれも増加しており、コロナ禍の影響による健康食品やマスクなどの日用品の広告出稿量の増加が原因ではないかと考えられます。
次に、5つの通販ジャンルにおける、Webサイトの集客チャネルの比率を比べてみましょう。
「Dockpit」の「業界分析」機能を用い、「日用品」「化粧品」「ファッション」「食品」「飲料」の各ジャンルで集客チャネルの割合データを集計し、比較したデータが以下です。
「Dockpit」で抽出した5分野の「集客構造」データを割合比較したもの
期間:2020年8月〜2020年10月
デバイス:PC・スマートフォン
上記のデータを見ると、各通販ジャンルにおける集客構造には、かなりの差異があることがわかります。データの特徴を軽く俯瞰していきましょう。
まず、「化粧品」ジャンルにおいては「アフィリエイト広告」が大きなセッション割合を占めることが特徴です。クチコミサイトやブログからのアフィリエイト流入が考えられます。
また、「ファッション」分野では「メール」と「ディスプレイ広告」からの集客が比較的多いことが挙げられます。購入会員にリピートを促す施策や、イメージ訴求がしやすいディスプレイ広告との親和性が高いジャンルといえるでしょう。
一方、比較的「外部サイト」からのセッションが多いのは「食品」と「飲料」の2ジャンルです。特に、「食品」ジャンルでは外部サイト経由の割合が28%となっており、ノーリファラーを除くと実質、最も多い流入チャネルと言えます。
■Web広告の出稿量の差異には市場の「EC化率」が強く影響
前項で述べた通販市場別の集客構造の差異は、国内の小売業におけるEC化率と密接に関係しています。
経済産業省が発表している「電子商取引に関する市場調査の結果」を見ると、令和元年の日本国内のBtoC市場規模は19.4兆円にのぼり、前年比7.65%の上昇値です。消費者向けのEC市場はここ数年、前年比5%以上増の成長を続けており、今後もさらに拡大の一途を辿ると言えるでしょう。
しかしながら、物販系分野別の内訳を見ると、EC化率にはジャンルごとで大きな違いがあることがわかります。
電化製品やインテリア、事務用品などのEC化率は20%~40%ほどまで伸びているのに対し、食品や飲料では3%弱、衣類は14%弱ほどの割合しかありません。
EC市場全体は急速な成長を見せている中で、これらのジャンルのECが伸びていかない理由をひとつずつ考察してみましょう。
日用品や食品・飲料はいまだに実店舗での購入が主体か
日用品や食料品・飲料は、消費者が日常的にスーパーやコンビニエンスストアなどの実店舗で購入をするため、EC化がなかなか進まないジャンルです。例えば、夕食の献立を考え買い出しをするとなった際、ネットスーパーなどを活用するという人は、まだまだ少ないのではないでしょうか。
日用品に関しても同様です。トイレットペーパーが切れた、といった場合にわざわざネットで購入しなくても、最寄りのドラッグストアなどへ足を運ぶことで入手できてしまいます。
このように、日本では家からすぐ通える距離に小売店があることが多く、すでに消費者にとって十分、利便性が高い環境ができあがっているのです。
これらEC化率が進まない現状は、各分野におけるセッション数の多いWebサイトを見てみても傾向が明らかです。日用品の通販サイトのセッションデータを見てみましょう。
「Dockpit」で抽出した「日用品 通販」Webサイト別セッション数の割合データ
期間:2020年8月〜2020年10月
デバイス:PC・スマートフォン
セッション数の1位は大手ドラッグストアチェーンのマツモトキヨシで24.8%、2位は食品の包装材や鮮度保持剤を取り扱うcottaが9.6%、3位は全国展開をするホームセンターであるコメリで5.5%…と続いています。
マツモトキヨシと同じくドラッグストアの全国チェーンである「スギ薬局」や「ウエルシア」などがランクインしていないことから、実店舗で売上を作っている企業にも、まだECへ注力していない(できていない)という会社がある分野、ということではないでしょうか。
逆説的には、実店舗だけで十分に販売できているからネット通販への注力度合いが低い、ということも考えられます。さらに言えば、これら上位のセッションがあるサイトにおいてもノーリファラーや自然検索経由のユーザーが割合的に多いわけなので、EC化とWeb広告出稿の両軸で、ネット流通の伸びしろがある状態と言えるでしょう。
■「健食」分野、「コーヒー」「酒」類のECモール出品が盛ん
先ほどの日用品と同じように、「食品」「飲料」の通販でセッション数が多いWebサイトも見てみましょう。
「Dockpit」で抽出したWebサイト別セッション数の割合データ(上「食品 通販」、下「飲料 通販」)
期間:2020年8月〜2020年10月
デバイス:PC・スマートフォン
データからわかる点として、「食品」においてはサプリメントや健康食品、「飲料」においてはコーヒーや酒類の販売サイトがセッション数の上位を占めています。前項でも記したとおり、日常的に消費する食材や、清涼飲料水などのメーカーサイトではないところに大きな特徴があります。
テレビCMでもおなじみの「やずや」などが登場していることからも、健康食品に関しては「通販で買う」という感覚が消費者に根付いている、という部分も大きいのかもしれません。まとめ買いをするコーヒーや、ギフトなどにもよく利用される印象である酒類も、ネット通販と相性がいいのではないかと推察されます。
「化粧品」ジャンルはアフィリエイト広告への出稿が多い
「化粧品」の分野においては、他の4つのジャンルと異なり、アフィリエイト広告への出稿量が多いようです。
この分野がアフィリエイトで人気である理由は、国内最大手のASP(アフィリエイト仲介サービス)である「A8.net」の公式サイトで以下のように記載されています。
1. 日常に密接している商品が多いため、購入者が多い
2. 成果報酬が高い商品が多い
3. 商品・プログラム数が多い
4. 金融・ITサービスなどのリード系のサービスと比べて購入ハードルが低い
アフィリエイト広告はアフィリエイターの持つ媒体で集客をし、企業の公式サイトへ誘導する集客モデルです。
ユーザーを誘導するうえで、アフィリエイター側は媒体上で商品・サービスの訴求を行う必要があり、そのためにはレビューが必要になります。この「レビューをしやすい」という観点で、普段使いが多い「化粧品」ジャンルは人気を集めているようです。
加えて、「商品数が多いこと」「購入ハードルが低いこと」も、アフィリエイターが収益を増やすうえで重要なファクターです。購入者のために門戸を広げ、金銭的に買いやすいという2点をクリアできているため、「化粧品」のアフィリエイトに取り組むメディアが多いのでしょう。
「ファッション」ジャンルはメール広告、ディスプレイ広告と相性が良い
「ファッション」通販の分野では、「メール」と「ディスプレイ広告」からのセッション割合も比較的多くありました。これは、消費者が衣服を購入する際の心理状況とマッチする集客チャネルであるからと考えます。
例えば、ファッションサイトのメール広告であれば、新作入荷や季節もののセール情報などを会員へメール配信することで、再度の商品購入をリマインドすることができます。筆者も「ZOZOTOWN」から届くメールマガジンをついつい開封し、商品を眺め、気づいたらカートに入れて購入ボタンを押していた…といった経験があります。
同じような図式が、「ディスプレイ広告」からの誘導においても言えるでしょう。
ディスプレイ広告は広告の特性上、潜在的な悩みやニーズを抱える消費者へ訴求することで「衝動買い」を促せる点が大きな強みです。お気に入りのサイトを閲覧している際に、自分の好みのアウターが広告に登場して思わずクリックしてしまう…というような状況です。
これら2つの集客チャネルの特徴から、「ファッション」分野は潜在的な購入意欲を駆り立てるような販売方法が適しているように思います。Web広告の中でも最もスタンダードである「リスティング広告」の出稿量がいまいち伸びないのも、顕在層へのアプローチが効きづらいから、という背景があるのかもしれません。
まとめ
今回は各業界のWeb広告の出稿量についての調査結果をお伝えしました。
国内のEC市場が伸び続けていても、各商材が持つ特性や消費者の購買行動の変化が乏しいために、依然としてネットでの購買行動が増えていない分野が多くありました。また、各分野のEC化率とネット広告の出稿量が密接に関係する、という図式についてもお分かりいただけたかと思います。
とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、「実店舗とECの販売比率を見直していく」と動き始めている企業も少なくありません。今回の調査でWebの出稿量が多くなかったジャンルにおいても、翌年以降、その伸びがどのようになっていくかは注目に値する事柄でしょう。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2020年8月〜2020年10月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。