BTS初心者が「推し活ファン」に定着する過程を行動ログデータから調査してみた

BTS初心者が「推し活ファン」に定着する過程を行動ログデータから調査してみた

2013年にデビューし、2019年頃から2021年にかけて日本国内のみならず世界中を席巻したBTS。 では、BTSに関心を持ち始めた人はどのようにして推し活をするようなコアファンとして定着していくのか?今回は、2019年の時点でBTS初心者と思われるユーザーを検索行動から類推し、その後3年間のWeb行動分析から、ファン定着のシナリオを推察します。


BTSの初期ファン層は「メンバー」を検索している

BTSは2013年に韓国からデビューした7人組アイドルグループです。BTSの人気は日本国内のみならず世界中に広がっており、2022年にはグラミー賞にもノミネートされ、世界的なスターに上り詰めました。

人気が上昇していく様子は、Web行動ログデータからも読み取ることができます。まずGoogleトレンドでデビュー年から2022年6月初旬までの人気度の動向(*)を確認すると、2019年頃と2020年後半から2021年にかけて人気が上昇していることがわかります。

日本における「BTS」検索者
(集計期間:2013年1月1日~2022年6月7日)

*人気度の動向
数値は、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索インタレストを相対的に表したものです。100 の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50 の場合は人気度が半分であることを示します。0 の場合はそのキーワードに対する十分なデータがなかったことを示します

世界的ヒット曲「Dynamite」リリース後の2020年10月以降、検索者数を増やしていることが分かります。

では、BTSに関心をもっている人はどのような人たちなのでしょうか? この点を調べるため、日本での人気が顕著になった直近2年間のBTS検索者の傾向を、Dockpit(ドックピット)で分析します。なおDockpitは、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツールです。

検索者の属性は性別では女性、年代では40代がボリュームゾーンであることがわかります。

「BTS」検索者
(集計期間:2020年7月~2022年6月、デバイス:PC&スマートフォン)
出典:Dockpit

では、BTS検索者は実際にどのようなキーワードをかけ合わせて検索しているのでしょうか? 掛け合わせワードの傾向を見てみましょう。

「BTS」検索者
(集計期間:2020年7月~2022年6月、デバイス:PC&スマートフォン)
出典:Dockpit

楽曲関連ワードの他に、「メンバー」やメンバー名が多くランクインしています。「メンバー」やメンバー名をかけ合わせて検索している人は、BTSというグループに関心を持ち始めたものの、まだそこまで詳しくはない段階の初心者検索ユーザーと推察できるのではないでしょうか。

BTS関連の検索ワードや訪問サイトをもとに分析

以降は、BTS初心者検索ユーザーがBTSの「ファン」として定着していく変遷のシナリオを明らかにしていきます。そのために、BTSの初期ファンと考えられるユーザーを定義。そのユーザー群について、その後数年間のWeb行動の変化を調べていきます。具体的には、「BTS」にまつわる関連行動を取るユーザー数の変化、関連行動を取るユーザーの行動量の変化、そしてユーザーの関連行動の内容の変化、という3観点から分析します。

定義としては、下記条件を満たすユーザーのデータを集計します。

また、以降使用するBTS関連行動の定義は下記の内容です。

「BTS関連行動」の定義

関連検索
検索キーワードに「BTS」もしくは「(BTSメンバー名)」を含む
関連サイト
閲覧サイトが「 bts-official.jp 」もしくは「 btsbantan.com 」
関連LP
ページタイトルに「BTS」もしくは「(BTSメンバー名)」を含む

分析観点1:ユーザーの変化〜コアファン化は40代以上女性が多い

a. ユーザー割合の推移

はじめに、BTS初心者のうち関連行動を起こすユーザーの割合が時間経過とともにどのように変化していくのかを確認します。どれほどのユーザーが継続して関心を持ち続けているのでしょうか。

下記グラフは、初回関連行動からの経過月数と関連行動のあるユーザーの割合を示しています。(最大で40ヶ月分のデータが含まれます。)

2019年の初心者検索者のうち約80%のユーザーがその後も関連行動を起こしており、継続してBTSに関心を持ち続けていることがわかります。

b. 性年代構成比推移

では、関心のあるユーザーの属性に変化はあるのでしょうか?

関連行動を起こすユーザーの性年代構成比を見ると、初回関連行動からの経過につれて、20代男女の比率が下がり、40代以上の女性比率が特に増加していることがわかります。

グラフの通り、時間経過とともに40代以上の女性の占める割合が増加。若年層の男女は他のアイドルグループ等に関心が移ってしまったことや、関心を持っていてもPCのブラウザでの情報収集は減少していることなどが考えられるかもしれません。

【関連記事】BTSのアーリーアダプターとマジョリティの違いを検索データで分析!NiziUとの比較も

https://manamina.valuesccg.com/articles/1251

2020年の第63回グラミー賞の候補にノミネートされるなど、今や破竹の勢いで世界に進出する韓国発の7人組男性ヒップホップアイドルグループ「BTS」。本記事ではそんな「BTS」を検索するユーザーの変化を分析します。比較的初期から「BTS」ワードを検索していたアーリーアダプター層と、最近の世界的人気を受けて検索行動を行うマジョリティ層には、どのような違いがあるのでしょうか。

分析観点2:関連行動量の変化〜検索は減り、公式サイト訪問が増える

a. 関連行動量の推移

前項までで、初心者検索者の約8割がその後も関連行動を起こしており、関心を持ち続けていることが推察されました。では、関心を持ち続けるユーザーの関連行動量は時間経過とともに変化しているのでしょうか?

下記グラフは、初回関連行動からの経過月数と1ユーザーあたりの関連行動量を示しています。(最大で40ヶ月分のデータが含まれます。)

初回行動からの1年間には、年間で一人当たり166セッション(*)関連行動が見られますが、1年以上経過すると徐々に関連行動量が減少していくことがわかります。つまり、関心は持ち続けていても、時間経過とともに関連行動を起こす量は減少していく傾向が推察されます。

(*)セッション:サイト単位での訪問回数を示します。30分以上経過した場合や、異なる流入元から同一サイトに流入した場合は別セッションと定義されます。

b 関連行動量の構成比推移

前項で、時間経過とともに、一人当たりの関連行動の量は減少していくことが明らかになりました。では、関連行動の内訳は時間経過とともに変化するのでしょうか?

こちらは各期間における関連行動全体の構成比の推移を示しています。

内訳を見ると、初回関連行動から1年間の間は30%程度BTS関連の検索もみられますが、初回行動からの月数が経過するにつれ検索の占める割合が減少し、関連LPの構成比が増加していることがわかります。また初回行動から12ヶ月経過した地点ではBTS公式サイトやBTSのまとめサイトのような関連サイトへの接触割合も増加しています。

初期はBTSを「知る」ための検索が多くなりますが、時間経過とともにファンとして定着するにつれ、BTSトピックを「追う」ために、検索はせず関連LP(ページ)から必要な情報だけを収集する……といった行動が見られます。よりコアで深い情報を求めているユーザーの様子がうかがえます。

分析観点3:関連行動詳細〜「推し活」としてよりコアな情報を求める

a. 検索ワードの変化

前項で、関連検索は時間経過とともに減少していくことが明らかになりました。では、初回行動からの期間別に検索ワードに違いはあるのでしょうか?

こちらは、初回関連行動からの経過時期別検索キーワードランキング(ユーザーボリューム順)です。

関連行動内訳の推移から、検索は初期に盛んであることが明らかになりましたが、キーワードランキングをみると初期の検索モチベーションが現れる結果となっています。*メンバー名関連のワードにオレンジのハイライトを掛けています。

オレンジ色のハイライト部分が示す、メンバー名関連の検索量が年々減少していることから、初期はメンバー名など、グループやメンバーへの関心が高いことが推察されます。一方で、初回行動から1年以上が経過すると、検索ボリュームが小さくなるほか、検索されるワードも曲名、オンラインライブ名やグラミー賞といった、グループ活動関連のワードに変化しています。

まさに、メンバーを知ろうとする初期の時期から、グループ活動を「追う」ための、推し活ともとれる検索へと変化していることが読み取れます。

b. 閲覧サイトの変化

では、時間経過とともに構成比が上昇した関連LPへの流入状況については、時間経過とともにどのような変化があるのでしょうか。期間別のサイト単位の分析から、紐解いていきたいと思います。

こちらは初回関連行動からの経過時期別閲覧サイトランキング(流入セッションボリューム順)です。

サイトの傾向として、初期にはYouTubeの閲覧ボリュームが大きいが、その後はYahoo!ニュースの閲覧ボリュームが大きくなっていることがわかります。また、時間が経過するとBTS公式への流入ボリュームも相対的に上位に上がっていることがわかります。

関心をもってしばらくたつと、YouTubeでコンテンツを大量に閲覧することはなくなり、必要な情報をニュースサイトで閲覧したり公式サイトから情報を得たりと、よりコアな推し活に変化するのではないかと推察できます。初期の「知る」フェーズではYouTubeやTwitterが活用され、その後推し活として「追う」フェーズではYahoo!ニュースなどでBTS関連トピックを閲覧するといった行動に変化しているのかも知れません。

【関連記事】『SPY×FAMILY (スパイファミリー)』ヒットの背景を検索キーワードから探る

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考察:「追いたい」と思わせる訴求がファン化への鍵

本分析から見えてきた結果とそこからの示唆を以下の図にまとめています。まず、関連行動を起こすユーザー割合変化のデータから、初心者検索ユーザーの約8割が定着していることが分かりました。また、関連行動量の変化のデータから、ファンとして定着すると関連行動が減少するといった傾向がみえてきました。

この調査では、BTSの初心者検索者を題材に、直近3年間でのユーザーの定着割合や関連行動量を分析しました。その中で、初回行動から3年間の間、平均約8割のユーザーが関連行動を起こしており、程度は違えどファンとして関心を持ち続けている様子が明らかになりました。

その中で、知るためのWeb行動をする時期と、情報を追うための行動をしている時期が推察され、初回行動からの時間経過につれて、ファンとして定着していくと思われるシナリオがみえてきました。(下記図を参照)

Step1では、BTSに興味を持ち、「知る」ための行動が多く見られました。ここは「プレファン段階」と位置づけられます。具体的にはメンバー名を検索したり、YouTubeで関連コンテンツを閲覧するといった行動が見られました。そこから、Step2では「追う」ファンへと変化していく様子が見られました。具体的に、グループのイベントがあれば検索しつつ、公式サイトへの訪問がメインになってきます。さらに、Yahoo!ニュース等のメディアを通じて、グループ関連トピックを細かくチェックしている様子がうかがえました。

上記の調査を通じた考察として、Step2への移行のためには、「追いたい」と思わせるきっかけや魅力を訴求することが重要でしょう。例えば、インタビュー・授賞式問わず常にファンのことを第一にし、常に感謝とファンへの愛を述べるファン愛の強さや、音楽とパフォーマンスの魅力、優秀さなどを伝え続けることが鍵だと考えられます。

今後、定性的にBTSのファンになる流れを分析することで、「知る」から「追う」に移行するための要因も紐解いていくことができそうです。ぜひ今回の調査を参考に、Web行動ログを活用した動向分析を行ってみてはいかがでしょうか。

▼ヴァリューズではWeb行動ログデータを活用した市場動向/競合分析を得意としています。興味をお持ちの方は下記ボタンよりお気軽にご相談ください。

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この記事のライター

株式会社ヴァリューズ データアナリスト 本間 花(ほんま はな)
東京都出身、津田塾大学総合政策学部卒業。1998年生まれ。
2021年にヴァリューズへ新卒入社。
ヴァリューズのWEBログデータの分析を手掛ける。

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