【解説者紹介】
インフルエンサーマーケティングのトレンドをおさらい
岩間:今回のレポートではインフルエンサーマーケティングのトレンドについて取り上げていますが、この1.0~3.0って、それぞれどういう概念なのでしょうか?僕、聞いたことがないので教えてもらいたいです。
蒋:まずインフルエンサーマーケティング1.0の時代は、ほんの十数年前のことです。この時代のインフルエンサーの定義は、“フォロワーが多い人”。このころは、テレビで流れる情報をただ見ているだけで、自発的に検索行動を起こす人はあまり見られませんでした。リーチする人数だけが重視されており、芸能人のようにとにかくフォロワー数が多い人がインフルエンサーとされていました。
そのため、基本的に企業は数百万人のフォロワーを持っている人に依頼して、PRしてもらう流れがメインだったんです。
続くインフルエンサーマーケティング2.0の時代は、消費者がインターネットに慣れはじめた時代。テレビで流れているものを見るだけではなく、インターネット上で自分が興味があるものを自発的に検索する行動が増えていきました。そのため、この時代のインフルエンサーといえば、自らが専門性を持ち、その領域に対して興味・関心のあるフォロワーが多い人。重視されたのはリーチ数ではなく、共感指数、いわゆるエンゲージメント数(いいね数、リツイート数、お気に入り数、コメント数等)です。
例えば、コスメを扱う企業が商品をPRしたいときは、コスメに興味・関心をもつフォロワーが多いインフルエンサーに依頼するケースが多かったですね。
岩間:インフルエンサーマーケティング1.0と2.0では、重視する指標が「リーチ数」から「エンゲージメント数」へと変わったのですね。
インフルエンサーマーケティング3.0の時代がきた!
蒋:現在はすでにインフルエンサーマーケティング3.0の時代に入っています。特徴は、企業とインフルエンサーが中長期的な共創を目指している点にあります。インフルエンサーマーケティング1.0や2.0の時代には「キャンペーンを実施するときだけインフルエンサーに依頼する」などスポットでアサインすることが多い状況でした。
インフルエンサーマーケティング3.0の時代では、企業は自社のブランドイメージと一致している人をインフルエンサーとして選びます。そして企業から公式に発信すると同時に、インフルエンサーは生活者の視点から、企業の商品やサービスを体験する様子を消費者に伝えることが多いですね。
ほかにも、インフルエンサーが作ったコンテンツを自社のホームページなどで掲載したり、
広告の素材として活用したりしているケースもあります。定期的にコラボをしていることも多いです。インフルエンサーマーケティング3.0の時代は、企業だけではリーチが不可能な領域において、企業の世界観やストーリーなどを、インフルエンサー経由でユーザーに伝えていることがポイントだと思います。
岩間:インフルエンサーマーケティング2.0と3.0では、時間軸が「単発」から「中長期」に変わったということですね。確かに最近は、企業のYouTube動画にインフルエンサーが定期的に出演していることが多いなと感じます。今の日本って、インフルエンサーマーケティング1.0-3.0のどのあたりにいる企業が多いのでしょうか?
蒋:日本は徐々にインフルエンサーマーケティング3.0に入っているのではないかと思います。特に若者をターゲットにした商材を展開している企業や、ブランドコンセプトが明確な企業が既にインフルエンサーマーケティング3.0に入っていますね。一方でインフルエンサーマーケティング2.0に留まっている企業の特徴としては、自社ブランドの世界観やストーリーをまだ明確にできていないことが挙げられるでしょう。このような状況では、3.0時代に求められる、インフルエンサーと共創し中長期的に自社ブランドの世界観やストーリーを伝える、ということができないからです。
岩間:なるほど。インフルエンサーマーケティングと聞くと、企業がインフルエンサーに投稿を依頼して、そこから売り上げや認知の増加を見ていくイメージがあったのですが、インフルエンサーマーケティング3.0ではそれだけでなく、企業側が長期的にインフルエンサー自身の活動などをさまざまな媒体で発信していくことが求められるのですね。
インフルエンサーマーケティング3.0の例「アメリカンイーグル」の場合
蒋:インフルエンサーマーケティングの強い国としては、アメリカがあります。アパレルブランド「アメリカンイーグル」による人気インフルエンサーを起用した「Back-to-School Campaigns」の例を紹介しましょう。
蒋:「アメリカンイーグル」はコロナ禍において、Web会議サービスのZoomを使い、SNS動画広告を制作しました。10代の若者をターゲットとした商品を扱っているため、10代に人気のインフルエンサー兼歌手であるAddison Raeさんらを起用し、快適さと自分自身を表現することをテーマにしたんです。
また、Addisonさんが「アメリカンイーグル」の服を着ている姿が公式サイトで掲載されたほか、店舗でも広告として活用されました。さらにAddisonさんは自身のSNSアカウントでも、「アメリカンイーグル」に関する投稿を定期的に発信しています。
「アメリカンイーグルといえばAddisonさん」というイメージができあがっているんです。すると、Addisonさんが自分のSNSでどんな投稿をしても、アメリカイーグルっぽいと思われるようになりますよね。結果として、Addisonさんに憧れている10代のファンたちのブランドに対する好感度が向上し、購買につながったとされています。
岩間:インフルエンサーマーケティングって、テレビCMのキャスティングと似てきていると感じます。例えばテレビCMでは、差別化を図るために有名人を起用してブランドのイメージを伝えていると思うのですが、インターネット上ではその役割をインフルエンサーが担うようになってきたのかなと。
蒋:そうですね。インターネットはテレビと比べて、消費者との接点が多いことが特徴です。
また、インフルエンサーは芸能人やタレントより、消費者にとって身近な存在に感じられるなど、親和性の高さにも注目が集まっています。TikTok for Businessの「Z世代白書(2020.6)」によると、Z世代は身近な人からの発信を信頼しやすいとあるので、接点の多さと親しみやすさがインフルエンサーによる発信の強みなのではないかと思います。
マイクロインフルエンサーを起用する流れもあり
岩間:企業がインフルエンサーマーケティング3.0に移行しようとする際に必要なのが、ブランドの世界観やストーリーを明確にすることとありましたが、実際はそれだけでなく、資金力も必要だと感じました。結構お金がかかりそうですよね……。
蒋:そうですね、そのイメージは大方正しいと思います。ただ、巨額のお金を積んで影響力のあるインフルエンサーに依頼するより、自社ブランドの世界観を共有できるマイクロインフルエンサー、具体的にいうとフォロワー数が何万人単位のインフルエンサーを複数同時にアサインし、さまざまな角度や接点でブランドらしさやメッセージを伝えていくことも、正しい動きかなと思います。
事例として、一般の新米ママパパを公式インフルエンサーに起用した南米「パンパース」のSNSキャンペーンを紹介しましょう。
蒋:「パンパース」は、コロナ禍で職を失った多くの新米ママパパたちを公式のインフルエンサーとして募集し、広告宣伝費を彼らに還元する”Now Hiring! New Parents”(新米ママパパ採用中!)というWebキャンペーンを実施しました。
まず、Twitter上でハッシュタグキャンペーンを設置すると、「もう本当にやめて。仕事に行けなくなっちゃう」や「お金が!仕事が必要なの!」といった、助けを求める生活者のリアルな声が多数集まりました。
同時に、一部のママパパを公式のブランドインフルエンサーとして起用し、彼らの趣味や特技をSNS上に動画として公開してもらうことで、元々用意していたインフルエンサーマーケティング予算の一部を還元しました。新米ママパパを全力応援しているブランドイメージを構築できた例です。
岩間:なるほど。フォロワーは多くはないけれど、共感できるインフルエンサーが複数集まると、すごく広いコミュニティになるってことですね。具体的にマイクロインフルエンサーマーケティング施策を考えるときのポイントを教えてください。
蒋:まだインフルエンサーマーケティング1.0や2.0にいる企業は、まず中長期的にどう自社ブランドの世界観やストーリーを作っていくかを考えましょう。そのうえでインフルエンサーをアサインします。まずメインのインフルエンサー1人を決め、その下に複数のサブインフルエンサーをアサインすることが理想です。
例えば、女性向けの健康食品を取り扱う企業なら、メインのインフルエンサーにはフォロワーが多い健康食品の専門家を、サブインフルエンサーには美容やスポーツなど別切り口の得意領域を持つマイクロインフルエンサーをアサインし、それぞれの角度から商品の良さを発信してもらう流れが良いかと思います。
ニーズの多様化に合わせて、手法をハイブリッド化させる
岩間:ここまでの話をまとめると、インフルエンサーマーケティング3.0では、フォロワー数がとても多い人が1人で広告塔として立つ方法と、フォロワー数はそれほど多くないマイクロインフルエンサーが複数人でそれぞれの角度で発信していく方法があるイメージでしょうか?
蒋:両方のやり方があると思います。
ただ、世の中のニーズも多様化していくなかで注目を集めるためには、理想は両方のやり方をハイブリッドさせて行く形なのではないかと考えます。
以上、9月のコンテンツマーケティング動向「SNS編」でした。次月のネタも楽しみにお待ちください。
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IT企業でコンテンツマーケティングに従事した後、独立。現在はフリーランスのライターとして、ビジネスパーソンに向けた情報を発信しています。読んでよかったと思っていただける記事を届けたいです。