スピーカー紹介
カラビナハート株式会社 マーケティングコンサルタント
吉田 啓介氏
リサーチャー 菅原 大介氏
SNSをメディアと見立てたユーザーリサーチ法
菅原大介さん(以下、菅原):まずSNSをメディアと見立てて、それぞれのユーザーの特徴をまとめてみました。
SNS リサーチの特長
菅原:上のaとbは、SNSを他のメディアと比較した時の特徴です。口コミを無料で収集できる、そして領域、時間の範囲が広大で、過去に遡って膨大な量のビッグデータを無料で見れるという点がSNSの大きな特徴です。また絞り込み機能も充実しているので、ハッシュタグ検索を中心として使い勝手がいい点があげられます。
一方、SNSごとを比較すると、Twitterは直近から現在にかけての情報が強く、商品やサービスのネガティブな情報、マーケティングでいうとユーザーのペインポイントを多く見つけることができるのが特徴です。Instagramは理想の物品や場所、状態を参照できます。また基本的には画像情報ですが、テキスト情報からも共感コメントを読み取ることができます。
例えばサウナユーザーによる発信で、SNSごとの違いをまとめた内容をご紹介します。ツールによって得られる情報が違うなと感じます。
サウナユーザーのSNSリサーチ例
カラビナハート株式会社 吉田啓介さん(以下、吉田):サウナユーザーの声、情報は、まさにその通りだと思います。利用している方の多くは、TwitterもInstagramもFacebookもアカウントを持っていて、深く考えてはいないかもしれませんが、何を知りたいかによって、自然にツールを使い分けていますよね。検索の手法も少し違うので、感覚的にこの情報を調べたい時はこのSNSなど、利用者は使い分けていると思います。
SNS施策で大切なのはマーケティングの目的
菅原:吉田さんはマーケティング施策を実施する上で、各SNSの使い分けをどのように考えていらっしゃいますか。
吉田:チャネル選びから入るよりも、何をしたいのかをはっきりさせて、目的から入る方がいいと考えています。チャネルから入ってしまうと、たくさんの人に見られるためには拡散性が高いTwitterとか、若い人がターゲットなのでInstagramとなってしまいます。これらが必ずしもマッチするわけではありません。目的ありきで選ぶといいですね。
菅原:目的で代表的なものは何でしょうか。
吉田:一番多いのは、情報を届ける手段として使いたいということですね。メルマガやアプリと同じ考え方です。仮にその目的に立った際に、たくさん届ける時の相手は誰なのか、既存のお客様なのか、また今ブランドを知っている方か、知らない方なのか、お客様と自社との関係値がポイントになると思います。そのうえで、偶然の出会いであればFacebookよりTwitterの方が高いから選択したり、新しい人と繋がりたいことよりも、今購入してくださっているお客様と関わりを増やす方がいいのであれば、Instagramを選択したりという考え方になると思います。
菅原:目的を考える上で、大事なポイントはありますか。
吉田:実は話の流れによっては、私から「それをやるならSNSじゃないですよね」と言うこともあります。SNSが大事ということは、多くの方が理解をされています。ただ「みんながやっているからうちもやった方がいい」という流れでやると、あまりうまくいかない。まずはカスタマージャーニーを考えて、今既に他にどういうコミュニケーションを取る手段を持っているのかを整理します。そして「知ってもらう」から「商品を買ってもらう」「使ってもらう」までに、欠けている部分、あるいはより強化したい部分に、果たしてSNSがマッチするのかということを考えていきます。これは企業側の視点になります。
一方、業種によっては、そもそもSNSにマッチしないものもあると思います。一般の生活者の方が語りにくいもの、口コミがうまれないものは、場として向いてないので、広告とか違う打ち手を考えた方がいいですね。
目的を表現するKPIを立てる
菅原:SNS付属のアナリティクスツールで測定すべき、べーシックなKPIは何でしょうか。
吉田:デジタルのチャネルなので見える数字はたくさんあるんですが、目的は何ですか、ということです。例えば「口コミを増やす」という目的であれば、口コミ数、発話数を、たくさんの人に知ってもらいたいのであればインプレッションを、Instagramだとリーチ数をメインのKPIにおいて追いかけるなどですね。とはいえリーチ数とインプレッションを増やすためには…と、ドリルダウンするとエンゲージが必要と見えてきたりします。
誰でもかれでも表示されることが目的でないのであれば、リーチやインプレッションを追いかけるのではなくて、保存やコメントで会話することをメインのKPIにおいてもいいと思います。目的は何か、そしてその目的を表現できる数字はどれが一番近いかという考え方で選ぶのがおすすめです。
菅原:KPIの測定方法ではいかがでしょうか。
吉田:SNSの公式の担当者の方におすすめしたいことは手動でやりましょうということです。見るのはSNSのアナリティクスやTwitterのアプリからでいいと思いますが、自分で投稿を作った後、その数字はぜひ自分で見てほしいと思います。私が支援している企業様のアカウントでは、ツールではなくて担当者の方が1つずつ投稿を開いて、インプレッションいくつ、保存いくつなどを手動で取り、Excelなどに手入力して数字を見ています。
月間の合計値ももちろん見るのですが、感覚を磨くことができるのは1個ずつ振り返ることです。この投稿のコメントは他よりも3倍ぐらい多い等、丁寧に見ていくことをおすすめします。
菅原:自分が起こしたアクションに対して、デイリー、ウィークリーなど大きな単位で報告する機会が多いと思いますが、もう少し細かくチェックすることの習慣づけが大事ということですね。
吉田:月間でみると、いつもより強い投稿があって、ホームランぐらいの投稿が生まれると一気に数字が変わってしまいます。すると発想が段々ホームランを生んで月次の目標をクリアすることとなり、日々の一投稿ずつに目が行かなくなる可能性があります。それがバズりたい欲に繋がると思うのですが、SNSは積み重ねなので、そちらに目を向けた方がいいと思います。
社内にSNS施策の効果を伝えるには
菅原:一方で、補完しておきたい数字として、Googleがユーザーアンケートを行ったときの例をご紹介します。Googleの公式アカウントのSNS投稿をきっかけにして、あなたが取った行動は何ですかと、Googleユーザーに聞いたアンケートです。
菅原:選択肢は投稿内容の検索、ハッシュタグの検索、製品の購入です。つまりアンケートによって、SNSの外で発生したユーザーのアクションを計測しています。検索、投稿、購入などですね。
ユーザーアンケートを行っていくと、どのようにブランドに対して関与度が高まっていっているのか、SNSが寄与しているのか、分かりやすくなるかと思います。今回はGoogleの例をあげていますが、SNSに力を入れている企業が、公式アカウントの運営方法をユーザーアンケートによって改善していくという流れがあります。
このように、担当者として業務成果をレポーティングするうえで、ユーザーアンケートが役に立つのではと考えています。吉田さんはツールやデジタルの指標でみえるもの以外のものも拾っていくことに対し、どんな印象を持たれていますか。
吉田:非常に強い武器になると思います。SNSに携わる方は1アカウントで1人か2人、または兼務の方も多いので、社内に実は味方がいないパターンも結構あると思います。そのため、お客様の行動を可視化する数字があるといいんですよね。インスタやTwitterで分かる数字は、裏側には感情もありますが、単なる数字でしかありません。そこからどういう行動をしたのか、どういう行動に繋がったのかは見えないので、こうやって実際にお客様に聞く場があると、自分の評価、またSNS関連の予算獲得の時に大きな武器にできると思います。
菅原:レポーティングや成果を伝える際に、アンケートでどういう指標をカバーすると良いでしょうか。
吉田:逆側から攻めて、社内でSNSへの理解を深めてほしい、つまり予算がほしい、組織を強くしたい、自分の評価を高めたい時に、どんな社内の理解が必要かと考えてみることです。すると、SNSをやっていくら売上があがるんですかというストレートな質問がくるのではないでしょうか。
Instagramのショッピング機能で売上が明確に分かる…という場合以外は難しいことが多いので、補完する方法は何かを考えると、公式アカウントの投稿でもいいですし、第三者の投稿でもいいと思うのですが、それらをきっかけに買ったことがある、使ったことがある等、少しでもわかると、〇%の方が買ったことがあるなど、社内で提案する時に根拠がある数字になります。指標作りの方程式を作った際の不明なパートをどんどん減らしていくうちの一つに当てはめられるのかなと思います。
菅原:投稿から行動に移ったアクションを、アンケートの手法に関わらず、成功事例を日頃のSNSウォッチングの中で見ていくということが重要ということですね。
社内キーマンとの相互連携が重要
菅原:社内での連携やコミュニケーションを取っていく場を設ける時に、何か手軽にできることはありますか。
吉田:簡単にできるチャレンジは、立ち話やchatでもいいんですが、各部門のキーマンのような方と、1対1でのコミュニケーションを活発にすることです。
すかいらーくの頃の例をご紹介します。商品情報が公開される前に、SNSを通じて「今こういう商品を開発しています。みなさん食べたいですか」ということに価値がありました。
食べ物が商品で、ブランドの商品開発担当者がキーマンの1人だったので、時間がある時によく聞きに行っていたんですね。「今、何やってるんですか」と聞くと、新商品の素材を考えるにあたってAかBか迷っていることを教えてくれます。それをSNSのフォロワーに聞いてフィードバックすると、結構喜んでもらえたりするんですよね。
商品開発などの担当者は普段お客様と接点がないケースが多かったり、CMの15秒で入りきらない情報をたくさん持っていたりします。それをSNSでは発信できる。そして聞いた情報を元に「何リーチでした」と報告する。すると、いつしかあちらから伝えてくれるようになります。アナログなやり方ですが、こうやって地道にルートを増やしていくことで、SNSと相性の良いネタが集まってきます。
菅原:広報の方が大事にするインナーブランディングの動き方に近いんだなと思いました。生の現場に入って行き、コミュニケーションを取る中で自分が知っている情報を伝えつつ、新しい情報を得ていく、そういうやり方が適しているということですね。
SNS キャンペーン ×ユーザーリサーチの好事例
菅原:最後にSNSキャンペーン×ユーザーリサーチの取り組みで、いいなと思う事例を吉田さんからご紹介していただきます。
吉田:ロッテのプレミアムガーナの事例です。よくあるTwitterキャンペーンで、フォロー、リツイートで商品が当たるという設計ですが、単にフォロワー数を増やすことだけを目的とはしておらず、発話を増やすことを目的にしています。
知ってほしい情報は、5種類の色々なフレーバーがあることです。問いとしては、どの商品を食べたいかを答えてほしい、引用、リツイートしてほしいということがアクションでした。答えるためにはリプライに種類があるので、何の種類があるのかを見に行きます。商品を知ってもらうという認知から始まり、最終的にはフレーバーごとに量を調べていき、販売数との相関など見たりされていました。
SNSキャンペーン×ユーザーリサーチの事例
菅原:SNSキャンペーンでも、ユーザーリサーチが活かされているということですね。
今回はSNS×ユーザーリサーチをテーマとして、吉田さんにお話をおうかがいしました。ありがとうございました。
大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。