地銀のDX事例10選!課題や最新動向を徹底解説

地銀のDX事例10選!課題や最新動向を徹底解説

さまざまな業界でDXへの取り組みが推進される中、人口減少や地域経済の衰退が危惧されている地方銀行も、試行錯誤しながらDXを進めています。この記事では、地銀の抱える課題やDXの動向などについて詳しく解説します。最新の地銀DX事例も紹介しているため、地銀のマーケティングに携わる方はぜひ参考にしていただければ幸いです。


地銀のDXとは?

まずは地銀のDXについて、なぜ今DXが求められているのか、具体的にはどのような施策があるのかを解説します。

そもそもDXとは

DXは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略語で、デジタル技術の活用により人々の生活をより良いものへと変革することを意味します。

経済産業省の定義によると「データとデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや企業文化を変革すること」とされています。

現状では、古い基幹システム(レガシーシステム)を刷新せずに使い続けたり、顧客体験のアップデートをできていなかったりすることが原因で、日本企業の国際競争力が低下し、2025年には最大約12兆円の経済損失を招くと懸念されています。

こうした事態を回避するために、DXへの対応が強く求められているのです。

地銀におけるDXの重要性

2018年の経済産業省による調査では、「金融機関におけるレガシーシステム利用率は100%」という結果が出ており銀行業界はDXへの対応が遅れていると言われています。

レガシーシステムは部分的に活用されることが前提となっているため、全体でデータを共有したり新しいシステムと連携したりすることが難しくなります。そのため、銀行が保有する顧客情報や資産といった重大なデータの安全な連携に不安があり、新たなシステムやデジタル技術を導入するに至っていないのが現状です。

しかし、このままレガシーシステムの開発・保守を担ってきた人材が定年退職を迎えると、現行システムの運用体制が破綻し、システムトラブルやデータ消失につながる恐れがあります。こうした危機を目前に控えた今、地銀のDXが急務となっているのです。

【参考】経済産業省|DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~

地銀DXの手法

地銀で推進できるDX施策として、以下の例が挙げられます。

クラウド導入:従来のサーバーやシステムをクラウドに置き換え、業務刷新とコスト削減を図る
AIなど最新技術の導入:チャットボットの導入により問い合わせ対応を自動化するなど効率化を図る
生体認証の活用:顔認証や指紋認証などで本人確認を行い、精度と効率の向上を図る
オープンAPIの活用:他アプリのID情報を連携させ、よりユーザーの利便性を向上させる
ビックデータの活用:属性データと行動データを組み合わせ、より高度な分析やサービス開発につなげる

DXの推進は、業務を効率化できるだけでなく、新たなサービスを創出できる可能性も秘めています。

地銀DXのメリットと課題

続いて、地銀のDXが進むことにより得られるメリットと現状の課題を紹介します。

地銀DXによるメリット

地銀のDXが進むことにより得られるメリットは、以下の3つです。

1.新たなサービスが創出される
目まぐるしく変化し続ける市場においては、常に新たなサービスが求められています。例えばネット銀行やQRコード決済などデジタル技術を活用した新サービスの登場は、顧客にも高く評価されました。デジタル技術を活用することで、アプリ開発をはじめとした新たな顧客体験の創出が可能となるでしょう。

2.顧客ニーズの変化に対応できる
技術の進化にともない、顧客ニーズも大きく変化しています。特にスマートフォンが定着した最近は、モバイルアプリなど利便性の高いサービスが求められています。DXに取り組むことで、こうした顧客ニーズの変化への迅速な対応が可能となるでしょう。

3.地域貢献につながる
DX化により業務効率化が進むことで、空いたリソースを新しい施策の企画・実行に充てられます。窓口業務を大幅に効率化できるため、より地元企業の活性化や地方創生に注力した取り組みができるでしょう。

地銀DXにおける課題

現状の地銀DXは、以下のような課題を抱えています。

1.人材が不足している
経済産業省によると、2025年にはIT人材が約43万人不足すると予測されています。金融業界においては、古いプログラミング言語で既存システムを作り上げてきた人材の多くが定年退職を迎えるものの、複雑な設計やノウハウの引き継ぎが難しいという課題があります。

また、金融とIT両方に深い知識をもちデジタル技術を扱える人材を短期間で育成することは難しく、外部から獲得しようにもなかなか優秀な人材を発掘できていません。

2.収益が減少している
DXを進めるにはもちろんコストがかかりますが、銀行の収益が減少しているためDXに投資できないという点も課題として挙げられます。特に地方では人口の減少と高齢化が進み利用者が減っているため、利息や手数料などから得られる収益が減少してしまうのです。

3.参入企業が増加している
最近では、これまで金融サービスを展開していなかった企業が続々と金融ビジネスに参入しています。楽天証券やauじぶん銀行、PayPayなどは、強みであるデジタル技術を活用することで競争力を高めており、地銀の顧客流出が危惧されています。こうした参入企業に対抗するためにもDXへの対応が急務だといえるでしょう。

【参考】経済産業省|DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~

地銀DXの動向

このようにDX化が求められる中、多くの地銀でクラウド導入やアプリ開発などが進んでいます。実際に2023年に入ってからも愛媛銀行、宮崎銀行、名古屋銀行など地銀が続々と「DX認定事業者」に認定されています。

DX認定事業者とは、経済産業省により「企業がデジタルによって自らのビジネスを変革する準備ができている状態(DX-Ready)」であると認められた事業者のことです。DX認定事業者に認定されると税額控除を受けられるなどのメリットがあり、DXをさらに推進しやすくなるだけでなく、ユーザーや取引先企業に対するイメージアップにもつながります。

地銀DXの動向として、デジタル関連企業や自治体との協同によるDXの推進が挙げられます。デジタル分野に関する豊富なノウハウをもつ企業と協業したり、自治体と連携したりすることで、デジタル技術を駆使したユニークな街づくりに取り組むなど、地方創生につながる事業を生み出している地銀も多くあります。

地銀DXの動向

地銀DXの事例10選

具体的にはどのような取り組みが行われているのでしょうか。地銀が取り組むDXの事例を紹介します。

福岡銀行

ふくおかフィナンシャルグループではDXを基本方針の一つに掲げ、着実に取り組みを進めています。

1.スマホ決済サービス「YOKA!Pay」をスタート
地方銀行で2番目となるQRコード読み取り型のスマホ決済サービスをスタートさせました。ユーザーには口座直結型の利便性、加盟店には低コストかつスピーディーな入金と双方へのメリットが期待できます。

2.国内初のデジタルバンク「みんなの銀行」をスタート
みんなの銀行では、支払いや振り込み、ATMによる入出金、デビットカード昨日、履歴管理など多くのサービスをスマートフォンだけで完結させることができます。

3.オンライン完結のレンディングサービス「フィンディ」を導入
フィンディは、申込から審査までの流れをすべてオンラインで行う、事業者向けの融資商品です。これまで対面で細かいヒアリングを行っていたものを、クラウド会計情報を共有することでオンラインによる審査が可能となりました。

【参考】ふくおかフィナンシャルグループ|デジタル技術の活用

八十二銀行

八十二銀行は、ふくおかフィナンシャルグループ傘下のiBank社が運営するスマートフォンアプリ「Wallet+」を銀行公式のウォレットアプリとして導入しました。

「Wallet+」は提携金融機関の口座を登録することで残高や収支などの確認、目的別の貯金や資産運用といった機能を備えており、ポイントを貯めたり地元企業のクーポンがもらえたりなど「日常と非日常をシームレスに繋ぐ新しいマネーサービス」として多くのユーザーに支持されています。

「Wallet+」は八十二銀行だけでなく福岡銀行や広島銀行などとも提携しており、今後さらにサービス提供を拡大していくことが発表されています。

【参考】八十二銀行|Wallet+ |便利・お得なサービス

伊予銀行

伊予銀行では、「D-H-D(デジタル・ヒューマン・デジタル)Bank」をコンセプトに掲げ、デジタル技術と人の得意分野を使い分けながらユーザーとバックオフィス双方にメリットをもたらすDXを進めてきました。

伊予銀行で導入されたサービスを以下に紹介します。

1.店舗タブレットの「AGENT」
ビデオチャットで行員と話しながら普通預金口座の開設や住所変更などの手続きをできます。

2.住宅ローンアプリ「HOME」
銀行へ来店せずに、いつでも好きな時間にオンライン完結で住宅ローン審査や契約の手続きができます。

3.スマホアプリで管理するカードローン「SAFETY」
預金残高と予定入出金、カードの引落額などから口座の不足額が毎月予測され、不足分をワンタップで借り入れ可能な新しいカードローンアプリです。

また、伊予銀行は地方創生にも取り組んでおり、自社スマートフォンアプリ「MONEY MANAGER」に愛媛県内の飲食店で使えるクーポン機能を追加したり、南予地方にある鬼北町と「DX推進に関する連携協定」を締結したりと地元企業の活性化に向けて積極的に支援を行っています。

【参考】伊予銀行|Integrated report 総合報告書 2022

横浜銀行

2021年に「はまぎんアプリ」をスタートさせた横浜銀行は、2023年3月にこれまでのアプリを刷新し、ビッグデータを活用した新アプリ「はまぎん365」へ移行させました。

「はまぎん365」では振り込みなど通常のバンキング機能に加えて、利用者の年齢や収入、世帯の状況や預金データなどのビッグデータを活用し、利用者に適した金融商品を提案できる機能を備えています。

投資信託や住宅ローン、相続税対策などライフステージごとのニーズに合わせた情報を展開し、利用者の日常に寄り添ってワンストップで家計や資産に関するサービスを提供できる次世代の銀行アプリを目指しているのです。

今後は資産管理アプリを手がける「マネーツリー」と連携し、複数の銀行口座などの情報を一覧で把握できるアカウントアグリゲーションサービスをアプリ内で使えるようにするなど、外部サービスとの連携による機能の拡充も予定されています。

千葉銀行

千葉銀行では、子会社の「ちばぎん商店」を通じて、千葉県ブランドの商品やサービスを開発・販売する「C-VALUE」を展開しています。

「C-VALUE」では、新商品・サービスの開発・ブランディングにおけるノウハウの提供や販路開拓支援をはじめ、新たなサービスを発掘・支援するクラウドファンディングサービス、オンラインで継続販売できるECサービス、銀行店舗を活用したマルシェ・催事販売などを進めてきました。

地域の優れた商品・サービスの販路開拓・マーケティング支援を通して地域内経済循環システムを構築し、顧客や地域社会の発展に貢献することを目指しています。

【参考】ちばぎん商店株式会社|C-VALUEとは

仙台銀行

仙台銀行は、全国の金融機関が連携して地域の中小企業の成長を支援するプラットフォーム「Sendai Big Advance」を2019年にスタートさせました。

「Sendai Big Advance」では、金融機関の枠を越えた全国規模のビジネスマッチングからホームページ作成、従業員向けの福利厚生、チャットによる取り引きの相談までさまざまなサービスを提供しており、2022年3月時点で1,800社以上のパートナー企業が参加しています。

助成金申請の自動診断システムを組み込むなど「Sendai Big Advance」を拡充させるとともに、「お客さまデジタル化支援チーム」を新設し取引先のDXを支援するなど多岐にわたる取り組みを進めています。

【参考】仙台銀行|Sendai Big Advance

肥後銀行

肥後銀行は、デジタル技術を有効に活用し、ユーザビリティを大幅に向上させました。

次世代型店頭タブレットを導入することで、これまで紙の申込書に手書きで記入していた口座開設、住所変更、インターネットバンキング申し込みなどの手続きを簡単かつスピーディーに行えるようになりました。

タブレットへはチャット形式で入力でき、住所・氏名は運転免許証やマイナンバーカードからの自動読み取りが可能など、デジタル技術を駆使して顧客の利便性を向上させているのが特長です。同時に、タブレットに入力したデータがそのままシステム上に反映されるため入力や登録の作業が省け、バックオフィスの業務効率化も図れます。

また、申し込み用紙を使う必要がなくなるため、ペーパーレスの促進、持続可能な地域社会の実現へもつながる事例だといえるでしょう。

【参考】肥後銀行|次世代型店頭タブレット『 AGENT(エージェント)』の導入について

鹿児島銀行

鹿児島銀行は、キャッシュレス決済サービス「Payどん」を独自に開発しました。

Payどんは、アプリに鹿児島銀行の口座を登録しておくと、加盟店で買い物をする際にQRコードを利用して口座から直接支払いができるサービスです。加盟店の手数料を一律1.5%とクレジットカードなどに比べて安価に設定しているため、事業者へのメリットも大きく、2023年2月末時点での加盟店数は10,000 を超えるなど多くの支持を集めています。

さらに2023年4月には、スマートフォンで少額の送金ができるサービス「ことら」を開始しました。Payどんを使うことで10万円以下の個人間送金が手数料無料で行えるようになるため、幅広い金融機関に口座を持つ個人間での送金が可能となり、ユーザーのさらなる利便性向上が期待されています。

【参考】鹿児島銀行|Payどん

千葉興業銀行

千葉興業銀行は地域に根ざした銀行として営業を続けており、店舗チャネルを活用した丁寧な接客を強みとしています。しかし、近年は新型コロナウイルスの影響などにより非対面チャネルのニーズが高まったことで、こうした地方銀行の強みが活かせなくなってしまいました。

そこで力を入れたのが、データを活用したコンテンツマーケティングです。オンラインチャネルでの顧客接点を強化するために、ちば興銀はヴァリューズとオウンドメディア施策を進め、自然検索流入・クリック数ともに効果改善が見られるなど成果を上げることができました。

千葉興業銀行の取り組みについて、詳しくはこちらで紹介しています。

岩手銀行

岩手銀行は、DXの取り組みを強化するために「DX Lab」(ディーエックス・ラボ)を新設しました。

DX Labでは、WEB完結の投資信託口座開設サービスや銀行のデータを活用した広告・マーケティング支援事業を新規に立ち上げるなど、精力的にDXを推進してきました。

システム構築やデータ周りからプロモーションまで一貫して扱うことを強みとするDX Labでは、データを活用したプロモーション設計にヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット) 」を活用することで消費者ニーズの理解につなげています。

岩手銀行の取り組みについて、詳しくはこちらで紹介しています。

まとめ

今回は、さまざまな地銀のDX事例を紹介しました。地銀のDXは今や業務効率化のみにとどまらず、新たなプラットフォームの立ち上げなど地域活性化に向けた取り組みが進んでいます。

地域に根ざして密接な関係を築いてきた地銀だからこそ、その強みとデジタル技術を融合させた独自性のあるDXが今後も広がっていくと期待されます。

この記事のライター

フリーライター。JRグループ会社にて経理・総務として勤務。
子育てとの両立のためWebライターに転身。3児の母。
バックオフィス業務関連の記事を中心にBtoBライティングを手がける。

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