岩手銀行がデータ分析を軸に行う顧客接点強化の取り組みとは?|地方銀行のDX事例

岩手銀行がデータ分析を軸に行う顧客接点強化の取り組みとは?|地方銀行のDX事例

岩手銀行は2021年2月、DXへの取り組みを強化するための専門部署「DX Lab」を設立しました。3カ年のロードマップを掲げ、顧客接点の強化やデータ分析で得た知見をもとに新規事業開発を計画しています。データの収集からデジタルプロモーションまで一貫して行うDX Labの取り組みについて、ゼネラルマネージャーの石川氏、アソシエイトの小島氏に取材しました。


地方銀行が抱えるOne to Oneマーケティングの課題

岩手銀行は、県内にある33の地方公共団体のうち30市町村に店舗を構える県内最大の地方銀行。今年2月、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを強化するため、「DX Lab」(ディーエックス・ラボ)を新設しました。

「これまで当行では対面営業を中心に業務を行ってきましたが、DXの力を使ってIT化を進めたいと考えています。当行では特に、対面営業がこれまでなかなか手を出せなかった業務をDXで巻き取り、システムを構築して所管部に戻す取り組みを推進しています」(DX Lab ゼネラルマネージャー・石川和重氏)

近年地方銀行を巡っては、少子高齢化に伴う人口の減少や地域経済の縮小、ネット銀行の台頭による市場の変化など、外部要因による経営上の課題が指摘されています。石川氏はこうした課題のほかに、金融業界におけるOne to Oneマーケティングの難しさを挙げます。

「たとえばECサイトではリターゲティングの仕組みがあり、『このページを見た人は購買検討をしているはずだ』といったレコメンドが行いやすいです。しかし金融業界が取り扱う住宅ローンやカーローンといった商材の場合、家を建てるタイミングや車を買うタイミングなどを的確に捉えるのが難しい。最適な時期に最適な媒体でプロモーションを打つことに課題を感じています」(石川氏)

そこで岩手銀行のDX Labで取り組んでいるのが、データ収集から分析、プロモーションへの活用までを一貫して行うDX推進。BPR(ビジネスプロセスの変革)よりもどうやって顧客との接点を増やすかに注力し、次のような3カ年のロードマップを立てたと言います。

「まず1年目ではお客様との接点強化を行います。具体的にはホームページのリニューアルや、Web完結商品の開発等を行い、ふだん銀行に来られない方を対象にデジタル接点を増やしていきます。今年の2年目には得られたデータを蓄積し、データ分析を行います。そして3年目に、データを起点にした新規事業の開発につなげたいと考えています」(石川氏)

2021年4月にリニューアルされた岩手銀行のホームページ。ユーザーフレンドリーなデザインとなっている

岩手銀行のDX、3カ年計画の全貌

DX Labが顧客とのデジタル接点を増やす取り組みのひとつとして行ったのが、ローン業務のWeb完結化です。岩手銀行ではこれまでフリーローン、カードローンのWeb完結を実現しており、2021年4月にはマイカーローンのWeb完結化も完了。申込〜契約〜来店〜督促までのすべてのローン業務を、各店舗ではなく本部に集中させる取り組みを進めています。システム構築と業務フローの変革を併せて行い、DXを実現しつつあるのです。

さらに岩手銀行では投資信託のWeb口座開設サービスをこの6月からスタート。業務のデジタル変革を着々と進めています。

「今まで地方銀行におけるPB(プライベート・バンキング)分野は対面営業が中心でした。富裕層向けに高度な提案をして、その対価としての手数料をいただくというサービスです。こうした対面営業はより高度なコンサルティングが必要とされる領域に絞りつつ、一方で、忙しくて日中にご来店頂くのが難しい主に若年層のお客様や、これから積立が必要な人向けに投信のWeb口座開設サービスを構築しました。今後プロモーションを打ち、どういう人が投信の積立に興味があるのかを把握、集客を進めたいです」(石川氏)

システム構築やデータ周りからプロモーションまで一貫して扱っているのがDX Labの強み。データを活用したプロモーション設計には、ヴァリューズ社のWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を活用していると言います。

「従来のプロモーションでは、当行に蓄積されているお客様の個人情報データや取引データ等を使ってターゲットを設計、実施していました。しかし、既存のデータでは潜在ニーズを把握しきれない点が課題でした。そこで消費者のネット行動を広く理解できるツールとしてDockpitを活用しています」(DX Lab アソシエイト・小島彩香氏)

具体的にはDockpitを使って検索キーワード分析を行い、消費者ニーズの理解につなげています。

「『投資信託』と検索した人の行動を知りたいと考え、検索者の多くが閲覧したコンテンツをチェックし、コンテンツ内容からニーズを推測するような仕事を行っています。たとえば投資信託の検索者には「コツコツ貯める」といったワードが響いている…など、今後に活かせる発見がありました」(小島氏)

Dockpitの「投資信託」検索者のキーワード分析画面。ユーザー数推移や属性に加え、掛け合わせで検索されているワードのランキングや流入先コンテンツのランキングなどが分析できる

それ以外に、ヴァリューズ社のWeb広告運用のアドバイザリーサービスも活用しているという小島氏。

「ネット広告の運用は代理店に委託している状態ですが、広告の構造が捉えづらかったり、代理店から伝えられる数値の推移を追うだけになってしまう状況もありました。数字の組み立て方など基礎知識や考え方をアドバイスいただき、代理店との情報の非対称性を少しずつ解消できています」(小島氏)

「ヴァリューズの横井さんは金融ビジネスに対する理解もありながら、銀行目線ではなくユーザー目線でのアドバイスをしていただけるので、参考になる場面が多いです。銀行員はしばしばユーザーが分からない言葉を使いがちです。行員とユーザー間での情報のギャップを埋めるために、こうしたユーザー側の視点はとてもありがたいです」(石川氏)

取材はオンラインにて行った
(上・左)株式会社岩手銀行 DX Lab アソシエイト・小島彩香氏
(上・右)株式会社岩手銀行 DX Lab ゼネラルマネージャー・石川和重氏
(左下)株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント 横井涼
(右下)株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント 辻阪誠

DX Labが狙う次の領域とは

着々とDXを進める岩手銀行。次なる打ち手も多角的に検討中です。3カ年のロードマップの2年目である現在はデータ分析/活用の真っ最中ですが、並行して取り組む営業力強化にはCRMの高度化が重要だと石川氏は語ります。

「当行ではいま自社製のSFA(営業支援システム)を使っていますが、重要なお客様情報、つまりお客様のライフイベントや趣味などが過去に埋没してしまう状況でした。そこでCRM機能を増強させ、これらの重要情報をしっかりと追えるように改修したいと考えています」(石川氏)

ただし、石川氏は「DXの取り組みはあくまでどう新しいビジネスにつなげるかが重要」と語ります。ロードマップの3年目では、それまでの顧客接点の強化やデータ収集・分析によって得られた知見を新規事業に活かすことを目指していると言います。

「3年目では外部とも協力して新規事業を行っていきたいです。 DX Labではデータ分析班を持っています。銀行が保有する個人データを使い、マーケティング強化に資する高度な分析が可能です。さらにWebサイトや店舗、アプリなどの顧客接点もある。これらの資産を活用してビジネスを行うことも十分に可能ですし、このような新規事業に積極的にトライしたいと考えています」(石川氏)

最後に、岩手銀行が目指すべき今後の事業のあり方について石川氏は次のようにまとめました。

「これまでは銀行員が自分たちに良いように業務フローを組んでいました。しかしデジタル化が進み、今後はユーザー目線でないサービスは消えていきます。逆に、ユーザーの意図を汲み取ったサービスは残っていく。時代のニーズに応え、プロダクトアウトではなくマーケットインのサービス・システムを構築していくべきです」

取材協力:株式会社岩手銀行

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この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

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