ファッション通販業界で若年層20代人気が際立つGRL
本記事ではファッション通販業界の動向を、主にWebサイト分析から理解していこうと思います。分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行える株式会社ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
Dockpitの業界分析機能では、ヴァリューズが定義するサイトカテゴリに基づき、「ファッション 通販」など特定の業界のWebサイトをまとめて分析することができます。そこで、まずはじめにファッション通販サイトの性年代別のユーザー属性におけるポジショニングマップを見てみましょう。
ファッション通販サイトのポジショニングマップ(縦軸:年齢 横軸:性別)
集計期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC、スマートフォン
この図を見ると、ユニクロやGU、しまむらなどの日本有数のブランドに交じり、ファッション通販GRL(グレイル)が特に若い女性を中心に人気を集めていることがわかります。
各年代ではどのファッション通販サイトが高く支持されているのでしょうか。年代ごとに区切ってWebサイトセッション数における業界シェアを見てみます。
左から20代女性・30代女性・40代女性・50代女性のファッション通販の業界シェア(セッション数)
集計期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC、スマートフォン
「ZOZOTOWN」や「Rakuten Fashion」のような総合ファッションサイトに加えて、各年代問わず上位にランクインしているECサイトは「ユニクロ」、「GU」、「SHEIN」などでした。これらのブランドは幅広い年代層から支持を集めているようです。
そこで、以降はこの3つのブランドと、先ほどのポジションマップで特徴的だったGRLを比較しつつ、詳しくWebサイトを分析していくことにしましょう。
人気ECサイト(ユニクロ・GU・SHEIN・GRL)の比較
今回の調査で分析するファッション通販サイトの位置づけを簡単にまとめます。
■ユニクロ(UNIQLO)
ユニクロは「人々の生活をより豊かに、より快適にする究極の普段着」を販売するブランド。「最高レベルの品質」と「だれもが手に取れる価格での提供」の両立を目指して、老若男女問わず高い支持を集めています。また、流行に左右されない定番商品だけでなく、有名ブランドとのコラボ商品の企画によって話題になることも多いです。
■GU(ジーユー)
GUは「YOUR FREEDOM 自分を新しくする自由を。」をブランドメッセージに、あらゆる人が気軽に着ることができるファッションの提供を目指しています。「スピード」や「変化」を大切に捉えトレンド感を重視した品揃えがあり、ユニクロと比べると若い層をターゲットにしています。
ジーユーとユニクロの運営企業は、言わずと知れたファーストリテイリング社。優等生な兄であるユニクロとやんちゃな妹GUをイメージしてブランドの世界観を作り込んでいるそうです。
また、この2ブランドはともにサイトとスマホアプリ、実店舗の連携をはかり、オム二チャネルを構築しています。これによって劇的に買い物の利便性が高まっています。例えばスマホアプリに登録されている会員証機能や会員限定の特別価格での販売、店舗ごとの在庫検索などが挙げられます。
■SHEIN(シーイン)
SHEINは女性ファッションや小物を中心にトレンドから定番商品など幅広く実に60万点の品揃えがあるECサイトです。欧州・中東・インドなど世界200か国以上の国と地域に進出している中国企業が運営。毎日平均して数千の商品が新しく販売され、サイト・アプリを眺めているだけでも楽しくなってしまいます。利用者の検索履歴からそれぞれの好みに合いそうな商品がずらりと並び、消費者の購買意欲を高めています。また、若年層だけでなく主婦層の人気も集めています。
40代に人気を集める理由の詳細を詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
革新的ビジネスモデルでファストファッションの黒船に?「SHEIN」ユーザー急増の理由を探る
https://manamina.valuesccg.com/articles/1812ショッピングセンターや百貨店などの度重なる休業要請はまだ記憶に新しいことでしょう。新型コロナウイルスはファッション業界にも大きな影響を及ぼしています。そのような背景がある中でも、いま急成長をしている企業があります。2012年に中国で設立された.アパレルブランド「SHEIN(シーイン)」です。注目が集まる理由を紐解くべく、ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を使って調査しました。
■GRL(グレイル)
大阪にある株式会社GIOが運営する、国内最大級のファストファッションブランド。実店舗は持たずオンラインの公式サイトでのみ販売しています。店舗費用や人件費などのコストカットに加え企画・製造・販売までを自社で担っていることで、低価格で高品質な商品の提供を実現しているようです。ブランドコンセプトは「9,999円以下で全身揃う」。フェミニン・ガーリー系を中心に、トレンドに敏感なアイテムを取り揃えて人気を集めています。
20代女性ユーザーに絞ってWebサイトを分析してみる
4つのファッション通販サイトは、それぞれどのような属性の訪問者を獲得しているのでしょうか。はじめにそれぞれのサイト訪問者の年代別割合を見ていきます。
「GRL」「ユニクロ」「GU」「SHEIN」のサイト訪問者の年代割合
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PCおよびスマートフォン
「ユニクロ」、「GU」、「SHEIN」の3サイトは、概ねネット利用者全体と同じような曲線を描いています。一方で、「GRL」は20代、30代のサイト訪問者の割合がネット利用者全体よりもはるかに大きいことがわかりました。
そこで今度は20代の女性に絞って、それぞれのサイトがどのように集客をおこなっているかを分析してみました。まず、20代女性の各サイトの訪問者数推移を見てみましょう。
「GRL」「ユニクロ」「GU」「SHEIN」のサイト訪問者(20代女性)の推移
期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PCおよびスマートフォン
ほとんどの期間を通じて、SHEIN、GRL、ユニクロ、GUの順にサイト訪問者数が多いことがわかります。SHEINは2023年11月には20代女性だけで約65万人のサイト訪問者を獲得していました。また、GRLのサイト訪問者は直近の1年間で15万人程度増加しています。
続いて、各Webサイトにおける20代女性訪問者の、サイト流入経路におけるソーシャルチャネルの構成を見てみます。
「GRL」「ユニクロ」「GU」「SHEIN」のサイト訪問者(20代女性)のソーシャル構成
期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PCおよびスマートフォン
ユニクロ(緑色)はXを用いた集客が群を抜いていました。チラシの掲載や有名人とのコラボ商品はリポストが2,000を超えるものもあり注目を集めています。また、GU(黄色)は20代集客についてはLINEが中心のようです。コラボスタンプの無料配布の実施で集客に成功しているのかもしれません。
一方、GRL(水色)とSHEIN(紫色)では、YouTubeからの集客割合が最も高いことがわかります。GRLやSHEINは実店舗がないため、YouTubeでの商品紹介動画のパフォーマンスが高く、多く投稿されているのかもしれません。投稿された動画の一部には、限定クーポンが配布されるものもあり人気を集めています。また、GRLのみInstagramからの訪問者も一定数見られ、インスタ利用も積極的に行っていることがうかがえます。
続いて4つのサイトで新規訪問者/リピート訪問者の割合を比較するため、20代女性における新規訪問者数の割合推移グラフを見てみました。
「GRL」「ユニクロ」「GU」「SHEIN」のサイトの20代女性新規訪問者率推移
期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PCおよびスマートフォン
ユニクロ(緑色)、SHEIN(紫色)は全体の20代訪問者のうち、集計期間中では約20%~30%が新規の訪問者となっています。GU(黄色)は最も高い時期だと約4割が新規訪問者でした。
一方で、GRLは4つのサイトのなかで最も新規訪問者の割合が小さいことがわかります。GRLの新規訪問者率は平均して15%程度。この点を踏まえると、GRLはリピートでのサイト訪問者がほかの3ブランドと比較して多いと言えます。
今度は、全年代の男女を対象にそれぞれのサイト訪問者数、アプリユーザー数を見ていきましょう。
「GRL」「UNIQLO」「GU」「SHEIN」のサイト訪問者数(上)アプリユーザー数(下)
集計期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC、スマートフォン
オムニチャネル化しているユニクロは、サイト訪問者数が3,350万人であるのに対し、アプリユーザー数は2,840万人。同様にGUはサイト訪問者数が1,630万人であるのに対しアプリユーザー数は2,030万人。ユニクロとGUはアプリとサイトで概ね同程度のユーザー数を獲得していることがわかります。
一方でGRLは、アプリユーザー数120万人に対し、サイト訪問者数が558万人と、アプリユーザー数の4.6倍程度になっています。GRLはサイトの利用のみで、アイテムを品定めし十分に買い物を完結できる仕組みが整っていると言えるかもしれません。もしくは、アプリに伸びしろがあるとも考えられるでしょう。
ここまでの比較から、他3つの主要ブランドと比べると、GRLにポジショニングの違いがあることがわかってきました。そこでここからはGRLのサービス単体に着目し、どのように市場で地位を確立しているのかをマーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)の観点から考察してみたいと思います。
GRLの4P分析~消費者のニーズを的確に捉えた強み
■Product(製品)
GRLは「トレンドのアイテムが何でも手に入るサイト」を掲げ、若い女性のニーズを捉えた高品質な製品を販売しています。ガーリー・カジュアルなアイテムをメインに据えていますが、シンプルなアイテムも取り揃えていることで大人の女性からも人気を集めています。また、洋服だけでなく若者の間で流行しているコスメも豊富に取り揃えています。
実際にGRLのユーザー層を調べるため、消費者のリアルなWeb行動をブラウザ上で分析できる株式会社ヴァリューズのツール「story bank(ストーリーバンク)」を用いて、GRLのサイト訪問者の分析を行ってみました。まずは、GRLのサイト訪問者の買い物時の行動傾向を見てみます。
「GRL」のサイト訪問者の買い物時の行動傾向
対象期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC、スマートフォン
ネット利用者全体と比較して、「季節限定商品やエリア限定商品をよく購入する」、「新商品をよく購入する」特性が高いことがわかりました。GRLのトレンドを反映したアイテムの豊富さに消費者のニーズが合致していると考えられます。
ほかにも、GRLのサイト訪問者の関心アプリをみていくと、ファッションやコスメ、美容に関する関心が高いことが推察できます。以下のグラフをご覧ください。
「GRL」のサイト訪問者の関心アプリ(リーチ差優先)
対象期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:スマートフォン
GRLのサイト訪問者の関心アプリにはQoo10(流行のコスメや洋服を割引価格で購入できるアプリ)、Lemon8(流行のコスメや基礎化粧品の詳しい口コミが見られたり、商品を購入できたりするアプリ)、ホットペッパービューティー(美容院やサロンの予約ができるアプリ)がランクインしていました。上位10アプリのうち7個がファッションやコスメ、美容に関するもので、GRLのサイトユーザーの多くは美容意識の高い人が多いと考えることができるかもしれません。
GRLでは、最先端のトレンドを反映した洋服・アイテムに加えて最新の流行コスメの取り揃えも豊富である点が消費者のニーズを捉えていると考えられます。
■Price(価格)
2024年5月20日現在、現時点で販売されている6,036点の商品のうち3,000円以内で買える商品は5,849点でした。トレンドの商品を手頃な価格で買えることは大きな魅力のひとつです。広告費の削減や店舗を設けないことによる人件費の削減によって価格競争力を維持しています。週末を中心に、5,000円以上の購入によって送料無料になるキャンペーンを実施しており、消費者の購買意欲を高める工夫もなされています。
■Place(流通)
GRLは実店舗を設けておらず、オンラインサイト・アプリでのみの販売をおこなっている点が特徴です。また、先ほど見た通りGRLは、Instagramによってブランド・商品の認知度を高めており、その点が強みとなっています。
「ユニクロ」、「GU」、「SHEIN」、「GRL」インスタグラムアカウントのプロフィール(2024/5/18時点)
GRLのInstagramフォロワー数は132万人と国内ファッションではトップクラス。また、その圧倒的な投稿件数からもInstagramでの集客に力を入れていることがうかがえます。
インスタグラムに掲載されている写真をタッチするだけで販売サイトにとべるようになっており、モデルの着用写真だけでなく、ユーザーにとってより親近感が湧くインフルエンサーや一般人の着用画像も見られるようになっている点も特徴です。実際に手に取って見ることはできなくても、商品を吟味したうえで購入を検討できるようになっています。様々なコーディネートの組み方を理解できるのも、GRLインスタアカウントの魅力のひとつです。
実際にユーザーの動向を調べるため、「story bank」を用いてGRLのサイト訪問者のInstagramの使用時間について見てみました。
「GRL」のサイト訪問者のInstagram利用時間
対象期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PCおよびスマートフォン
GRLのサイト訪問者は、ネット利用者全体に比べてInstagramの使用時間がかなり長い傾向にあることがわかりました。このことから、GRLはユーザー層を的確に分析し、戦略的にInstagramを利用したブランドや製品の認知向上に努めていると考えられるかもしれません。
■Promotion(販促)
GRLは中町綾や齋藤飛鳥、今田美桜など今をときめくタレントや女優、youtuberをモデルに起用しています。過去には乃木坂46のメンバーや韓国アイドルのBTSをモデルに起用していました。
GRLのユーザー層は、どのようなものにお金をかけているのかを見ていきます。以下はGRLのサイト訪問者の一人当たりの平均支出額をまとめた表です。
「GRL」のサイト訪問者の一人当たり平均支出額
対象期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PCおよびスマートフォン
GRLのサイト訪問者はネット利用者全体の平均と比べて、イベント・グッズ購入やライブ・コンサートの鑑賞にかける金額が大きいことがわかります。人気の女優やアイドルを起用することはファンの注目を集め、購買へとつなげることに成功しているのかも知れません。
まとめ
今回は数あるファッション通販サイトのなかでも高い人気を集める「ユニクロ」「GU」「SHEIN」に加え、なかでも「GRL」に注目して調査しました。
幅広い年代を対象に、高品質低価格の商品を取りそろえることはファッション通販業界で支持される大きな要因のひとつ。一方で、ターゲットを特定の年齢層に設定し、実店舗を持たない「GRL」の場合であっても、日本の有名大手ブランドに劣らないほどの高い人気を集めることが可能だとわかりました。ターゲット層のニーズに明確に応えた商品の提供や、ターゲット層に商品の魅力がより伝わりやすい媒体での販売やプロモーションが人気を後押ししているようです。
選択肢の多いファッション通販の業界では、ターゲット層のニーズだけでなく私生活までをも的確に理解することが重要なのかもしれません。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
2025年入社予定の大学4年生です。