スピーカー紹介
図:ルームクリップ株式会社 執行役員CBO 川本 太郎氏
図:株式会社ヴァリューズ 齋藤 ロベルト 義晃
CEP(カテゴリーエントリーポイント)とは?
株式会社ヴァリューズ 齋藤 ロベルト 義晃(以下、齋藤):本日はヴァリューズとルームクリップ株式会社それぞれの実例をもとに、「消費者文脈の発見」についてお話ししていければと思います。
まずCEP(カテゴリーエントリーポイント)についてお伝えします。
CEPとは「消費者がブランドを知る、または思い出すきっかけ」のことです。ブランドとCEPの結び付きが多く、強いほど、ブランドが選択される確率が高くなります。
図:CEP(カテゴリーエントリーポイント)とは
ポカリスエットの例を考えてみましょう。
水分を補給する時にも「喉が乾いた時」や「運動した後」など様々な文脈が存在します。また、私自身も「熱が出た時の水分補給」としてポカリスエットを思いつきます。
このように、「〇〇な時に△△する」という記憶構造がユーザーのなかに作られているのです。
ルームクリップ株式会社 執行役員CBO 川本 太郎氏(以下、川本):私の場合は、「サウナ後の水分補給」が当てはまります。
齋藤 :いわゆる「オロポ」(オロナミンC+ポカリスエット)と呼ばれるような、サウナが広まったことでできた新しい文脈ですね。
川本 :以前は、銭湯の後にはコーヒー牛乳でしたが、今ではポカリスエットというように、CEPが変化しているような気がします。
図:水分補給の様々な文脈形成(ポカリスエット)
冷凍野菜スープGREEN SPOONでは、「自炊が面倒」「食生活の見直し」といった生活文脈の他に、「夜9時以降の夜ごはん」といった“時間軸”の文脈が加わっています。
また、INゼリーでは「固形物が食べられず、栄養が摂れないときはマルチビタミン」、「たんぱく質を取りたいときはプロテイン」というように、複数の文脈に対してプロダクトラインナップで対応しています。
これらの例から、息の長いブランドほど生活者の文脈に根ざしており、もっといえば息の長いブランドを目指すなら、生活者の文脈に入り込む必要があるといえるのではないでしょうか。
ユーザーの文脈に寄り添うアプローチ
齋藤 :ここからは、どのようにすればCEP(ユーザーの生活文脈)を発見できるのかについてお話していきます。
ここでは、ヴァリューズとルームクリップ株式会社それぞれの事例を紹介します。
■消費者の前後行動分析によるCEP発見方法
齋藤 :まずは、ヴァリューズの方法論を紹介させていただきます。
ヴァリューズでは、CEPの発見のために、「新規顧客が自社もしくは他社サイトと初めて接点を持ったタイミングや、フォーム接触タイミングを起点として、前後にどのような検索行動が見られているのか?」を明らかにするというアプローチを取っています。
このアプローチを可能にする、ヴァリューズが独自に保有する消費者の行動ログデータを使用した例をご紹介します。
まず、下図をご覧ください、こちらは、とある30代男性の「積立NISAの検討行動」を表したものです。「〇年△月〜を検索」というように、本人でさえ記憶に残っていないような検討行動のログをビッグデータとしてヴァリューズは有しています。
図:検索行動のサンプル
しかしながら、このユーザー一人一人を眺めていくのはかなり大変です。そのためヴァリューズでは検討行動の分析フォーマットを用いて、キーワードの簡易的な分類を行っています。
下の図は、「ギフト券関連」の情報収集のキーワードを示したものです。
縦軸:ネットユーザー全体と比較した時のより特徴的な検索行動
横軸:ギフト券関連のサイトに接触した日を0日とした日数差
をそれぞれ示しています。
これらの情報収集のキーワードを指名層・顕在層・準顕在層に分類していくと、
指名層:ギフトカードの名前など
顕在層:「購入」、「ギフト」など
準顕在層:「出産祝い」、「結婚祝い」など
といったようになります。
ここで注目したいのは準顕在層です。指名層や顕在層を見ていくと、「ギフト券を買う」ということがある程度決まっており、新たな文脈を類推するというよりはすでに直通ルートをたどっている状況ですが、一方、準顕在層の検索ワードを見に行くことによって、ユーザーがギフト券を使う新しい文脈、機会のヒントが見えてきます。
図:ギフト券関連の情報収集キーワードの簡易的分類
このように、ヴァリューズの消費者行動ログデータを活用すると、網羅的かつ探索的な前後分析によって、周辺文脈(CEP)を発見することができます。
■UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用したニーズ発見手法
川本 :ここからは、ルームクリップがどのように生活文脈を発見、あるいは作り出していくのか、事例を用いて紹介します。
バーティカルSNS(分野に特化したSNS)の投稿者は、その領域に対する解像度が非常に高く、イノベーターとポジティブなエクストリームユーザー両方の特性を併せ持っています。
・イノベーター:「新しさ」に価値を感じ、最も早く製品を採用する
・ポジティブなエクストリームユーザー:メーカーが想定していた以上の使い方をする
つまり、バーティカルSNSには、試行錯誤やPDCAサイクルの回数が多い投稿者が多く、生活者の新しい文脈が生まれることが多いです。
図:バーティカルSNSのユーザーとUGC(ユーザー生成コンテンツ)の特性
家具の領域における、SNSから新しい文脈が生まれた事例として「浮かせる収納」の例を紹介します。
「浮かせる収納」は今や様々な企業が商品化しているほど有名なものです。このキーワードが一般的に普及し始めたのは新型コロナウイルスにより、住まいへの関心が高まった2020年ごろからです。
図:UGCが先行する事例:浮かせる収納
しかし、バーティカルSNS上では「浮かせる収納」、「吊るす収納」が2015年ごろから実践されていました。
図:UGCが先行する事例:浮かせる収納
同様の事例が他にも見られますが、これらの共通点として、ニーズに応える商品が市場にまだないため、投稿者がDIYや既存の製品を代用することによって課題を解決しているという点が挙げられます。
では、バーティカルSNSに投稿する消費者のニーズ・文脈はどのように形成されているのでしょうか。下の図のようなモデルを考えてみました。
図:UGCが先行する場合のニーズの顕在化フロー
通常:何が課題か分かっていないから課題が解決されない
→課題をインタビューなどによって言語化することで、課題解決につなげる(A→B→Dの流れ)
イノベーター(バーティカルSNSの投稿者)
:課題が言語化されていないが、試行錯誤によってなんとなく課題を解決している
→言語化されていない課題を発見する必要がある(A→C→Dの流れ)
つまり、商品化よりも前にバーティカルSNS上のUGCが盛り上がっている場合においては、“C”のような、「言語化されていない課題」を発見することが重要となります。
齋藤 :このA→C→Dの流れは、商材が「住まい・家具」だからこそ当てはまるものなのでしょうか。
川本 :住まいなどの耐久消費財以外のものにも当てはまると思います。例えば、CEPの例で挙がった「熱が出たからポカリスエットを飲む」や「サウナ後の水分補給」という文脈は、もともとはCだったのではないかと考えています。つまり、熱が出た時になんとなくポカリスエットを飲み始めた先駆的なユーザーがいて、その後メーカーが「熱が出た時の水分補給」としてポカリスエットをプロモーションしていったという流れがあるのではないかと考えています。
ここまでの例だけ聞くと、現在市場に出ている商品について、言語化されていない課題(C)を後付けで探っているように思われるかもしれません。ですが、まだ商品が市場に出ていない場合においても、Cのような言語化されていない課題を発見できるのではないかと考えています。
実際にルームクリップでは、SNS上の写真などを分類することで「言語化されていないが、実践されているニーズ」を発見しようとしています。
ここでは、テレビスタンドの調査実例を紹介します。
SNS上にあるテレビスタンドの写真を目検で分類すると、「テレビ回りをすっきりさせるためにテレビスタンドを購入しているのに、テレビスタンドだけで済んでいない人が多い」という結果になりました。ここから、「テレビスタンドを導入しても収納で困っている」という消費者の潜在的な課題を発見したり、「それらを解決する商品がまだ市場に少ない」という新たな発見が得られます。
図:UGCの分析調査の事例
このように、ルームクリップは商品化よりも前に自分なりに課題解決を行う「バーティカルSNSユーザー」に着目して、「言語化されていない」課題やニーズを発見しています。
消費者文脈に寄り添った、10年続くカテゴリー・未来のブランドづくりとは?
齋藤 :ここからは、消費者文脈に寄り添った10年続くブランド作りのために必要なポイントについて、耐久財と非耐久財(消費財)それぞれについてまとめていきます。
図:耐久財と非耐久財(消費財)の文脈発見アプローチの違い
川本 :住まいのような耐久財の場合は、消費財とは対照的に買い替えるスパンが長いので、想起・きっかけを増やしても短期的には効果が見えづらいかもしれません。しかし、そのブランドが「消費者文脈に寄り添っている」というイメージがあると、商品を買おうと思ってもらえる確率を高めることにつながるので、文脈に配慮した商品開発は非常に重要です。このような点で、消費財とは違ったアプローチが必要となってくるのかもしれませんね。
齋藤 :テレビ台などの例にもあった通り、ユーザーがまだ言語化していない課題を発見して、新たなカテゴリーを生み出し、それによってブランド統一の可能性を高めることで、長期に渡って生き残っていけるということですね。
消費財に関してはヴァリューズの例で示した通り、1つのブランドが対応する消費者文脈を多く捉えていくというアプローチを取っていく事例が着実に増えています。そのアプローチをとる際には、情報収集や検討行動の周辺に存在する準顕在のニーズを把握することがとても重要となります。
また、消費者を取り巻く社会環境は変化し続けているため、消費者の意図を捉え続けていく必要があります。これらによって、消費者のLTV(生涯価値)向上につながるのではないでしょうか。
次に、消費者文脈を見出すヒントとなるデータについて、整理していきたいと思います。
川本 :耐久財の場合、「言語化されていない課題」の発見には画像や動画が非常に有効です。また近年は、生成AIなどによって画像に何が含まれているのかをテキスト化することが進んでいるので、新しいカテゴリーや文脈を発見することが今後ますます活発になるのではないかと思われます。
齋藤 :消費財の場合、周辺ニーズを捉え続ける際には、行動ログデータや検索履歴など、ユーザーの記憶にさえ残らない事実データで網羅的に分析していくことが有効だと考えます。また、アンケートやデプスインタビューなども、消費者のインサイトを知る手法として選択肢になりますね。
ヴァリューズはユーザーに関するデータに基づき、市場シェアの拡大を目的とした総合的なプロモーションのサポートを行っています。今回の対談を通して、戦略策定や施策実行における調査に、ルームクリップさまが保有するデータも活用させていただく可能性を大いに感じさせていただきました。
本日は改めましてありがとうございました。
川本 :ありがとうございました。
2025年4月に入社予定の大学4年生です。大学では、経済学部で計量経済学を学んでいます。