「趣味」と検索する目的は年代によって異なる
「趣味」と検索するとき、どのような目的を持っているのでしょうか。年代別に分析していきます。
本記事の調査対象は、2021年の総務省「社会生活基本調査」に基づき、3次活動に費やす時間の平均が週300分以上と比較的長い20代以下と50代以上に絞っています。本記事では20代以下を「若者」、50代以上を「中高年」と定義しています。
なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行える、株式会社ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を用います。
■就職活動のために「趣味」と検索する若者
若者はどのような状況で「趣味」と検索するのでしょうか。検索ワードネットワークを見てみましょう。
「履歴書」「面接」「ES」「就活」と就職活動に関連したワードが目立ちます。自分の趣味を就職活動でどのように伝えるべきか考える際に検索しているのかもしれません。

図:「趣味」検索者(10代・20代)の検索ワードネットワーク
期間:2023年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
次に、若者の「趣味」検索者の流入ページを見てみましょう。
就職活動に関連したページのみならず、趣味を探している人向けと見られるページもランクインしています。

図:「趣味」検索者(10代・20代)の流入ページ
期間:2023年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
1、2、7位などは自分のために趣味を探している人が見ていると考えられる記事、2~6位などは就活のために趣味の情報収集をしている人が見ていると考えられる記事となっています。若者の趣味に関する情報収集の動機は、就活と、新しい趣味を探したいの2つが大きくありそうです。
■交流を求めて「趣味」と検索する中高年
続いて、中高年の「趣味」検索者の検索ワードネットワークを見てみましょう。
若者の「趣味」検索者の検索ワードネットワークと違って、「サークル」「出会い」というワードが挙がりました。人と交流できる趣味を探すために検索しているのかもしれません。
また、「定年」「定年後」というワードも特徴的です。定年退職後に自由な時間が増え、新たな趣味を始めるために検索する場合もあるようです。

図:「趣味」検索者(50代・60代・70才以上)の検索ワードネットワーク
期間:2023年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
次に、中高年の「趣味」検索者の流入ページを見てみましょう。
趣味を探している人向けと見られるページがほとんどです。特徴的なのは、若者の「趣味」検索者の流入ページと比べて、「50代」「60代」といった単語が含まれているページがいくつもランクインしていることです。自分の年代に合った趣味を見つけたいという気持ちが若者より多いのかもしれません。

図:「趣味」検索者(50代・60代・70才以上)の流入ページ
期間:2023年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
どのような趣味に関心がある?検索者の属性から考察
「趣味」検索者は、どのような趣味に関心があるのでしょうか。「趣味」検索者の属性から考察していきます。
なお分析には、Web行動データとアンケートデータを用いた分析を行える、株式会社ヴァリューズの分析ツール「Perscope」を用います。
■新たな趣味、流行の趣味に関心がある若者
まず、若者の「趣味」検索者はどのような価値観の持ち主なのでしょうか。
ありたい自分像としては「日々新しいことに挑戦している生活をしたい」、感じていたい気持ちとしては「話題のモノや新商品などを使いこなしたい」の特徴値※が大きくなっています。
※特徴値:抽出条件に当てはまるユーザーの中でよく検索されており、かつ一般ユーザー全体ではあまり検索されていないキーワードが高くなるような指標。


図:「趣味」検索者(10代・20代)のありたい自分像(上)感じていたい気持ち(下)
期間:2024年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
若者はひとつの趣味を貫くというよりも、話題の趣味に次々に挑戦する傾向があるかもしれません。
次に、若者の「趣味」検索者の消費行動タイプを見てみましょう。「体験重視型」「個性表現型」「忠実購買型」に大きな数値が出ています。消費行動タイプの詳細は以下の通りです。
・体験重視型:商品購入やサービス契約自体よりもその買い物自体の過程を楽しむ
・個性表現型:自己表現や個性を重視し、独特なデザインやカスタマイズ可能なものを選ぶ
・忠実購買型:特定のブランドや店舗などお気に入りのものばかりを選ぶ
特に「個性表現型」という特徴から、趣味の情報収集をしている若者はクリエイティブな趣味に関心を持つ傾向があることが予想されます。

図:「趣味」検索者(10代・20代)の消費行動タイプ
期間:2024年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
■交流する趣味に関心がある中高年
続いて、中高年の「趣味」検索者はどのような価値観の持ち主なのでしょうか。
ありたい自分像として、「地域・社会との関わりが充実した生活をしたい」の特徴値が最大となっています。このことからも、趣味に人との交流を求める可能性がうかがえます。

図:「趣味」検索者(50代・60代・70才以上)のありたい自分像
期間:2024年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
次に、中高年の「趣味」検索者の消費行動タイプを見てみましょう。「ブランド志向型」「エコ・サステナブル型」「体験重視型」に大きな数値が出ています。消費行動タイプの詳細は以下の通りです。
・ブランド志向型:有名ブランドの信頼性やステータスを重視し、高価格なものでも選ぶ
・エコ・サステナブル型:環境保護や地域社会貢献を重視し商品やサービスを選ぶ
・体験重視型:商品購入やサービス契約自体よりもその買い物自体の過程を楽しむ
中高年の「趣味」検索者は、ステータスを意識した趣味や、環境保護や地域社会貢献がキーワードである趣味に関心があるかもしれません。

図:「趣味」検索者(50代・60代・70才以上)の消費行動タイプ
期間:2024年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
共通の趣味でも異なるモチベーション
趣味へのモチベーションには、若者と中高年の間にどのような違いがあるのでしょうか。共通の趣味「編み物」を例に見ていきましょう。
■若者の間では「編み物ブーム」
2024~2025年には、編み物ブームが来ていると話題となっています。
2025年1月の若者の「編み物(手芸)」の検索者数は、1年前の約2.9倍になっています。

図:「編み物(手芸)」検索者数(10代・20代⦅青⦆50代・60代・70才以上⦅赤⦆)
期間:2023年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
「編み物」の掛け合わせワードを見てみると、「宮脇咲良」さんがランクインしており、ブームの火付け役を担っていることが考えられます。

図:「編み物」の掛け合わせワード
期間:2024年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
若者が編み物をはじめたきっかけは、アイドルや芸能人が編み物をしていたことが一因と考えられますが、これまでの分析より編み物がブームになった背景としては以下が考えられます。
・若者の「趣味」検索者の分析で明らかになった「日々新しいことに挑戦している生活をしたい」「話題のモノや新商品などを使いこなしたい」という価値観が、ブームを形成している。
・若者の「趣味」検索者の消費行動タイプに「個性表現型」が多く、オリジナル性の高い編み物に関心を持ちやすい。
自身のオリジナル性を発揮したい、流行に敏感でいたいと考えている若者たちがいたため、少し話題になった編み物がここまでのブームになっているのでしょう。
■中高年にとっては、自宅で完結する趣味としての「編み物」
中高年は毎年寒い時期には「編み物(手芸)」検索者数が増えています。しかし、編み物ブームで2024~2025年の検索者数が増える若者に対して、中高年は2024~2025年に限った特徴は見受けられません。

図:「編み物(手芸)」検索者数(10代・20代⦅青⦆50代・60代・70才以上⦅赤⦆)
期間:2023年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
では中高年の間で編み物はどういった位置づけなのでしょうか。実際の中高年の趣味から考察していきます。
趣味上位5つを年代ごとに見てみましょう。
以下の表は、2021年の総務省「男女,ふだんの健康状態,頻度,年齢,趣味・娯楽の種類別行動者率(10歳以上)-全国」に基づき筆者が作成したものです。

中高年の趣味の上位は自宅で完結するものが占めています。
同データ内で、「映画鑑賞」「遊園地、動植物園、水族館などの見物」といった実際に足を運ぶ趣味は年齢が上がるにつれて行動者率が減りやすい傾向にあるとわかります。
「編み物(手芸)」検索者の上位流入サイトでは、「楽天市場」「Amazon.co.jp」といった通販サイトの中高年の割合が高くなっています。若者よりも、店舗に足を運ばずに通販で材料を入手する傾向にあるのではないでしょうか。

図:「編み物(手芸)」検索者流入サイト上位5つのユーザー属性
期間:2023年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
若者の間では「編み物ブーム」が起こっているなか、中高年は「自宅で完結する趣味」のひとつとして編み物を楽しんでいるのかもしれません。
趣味のプロモーションで中高年に効果的なキーワードは「健康」?
ここまでの分析では、若者は新たな趣味や流行の趣味に関心を持ちやすいと考察してきました。一方で中高年は、「人との交流」を趣味に求めているものの実際の趣味は自宅で完結させている傾向がありました。
流行に左右されず趣味を楽しむ中高年に向けた趣味のプロモーションでは何が有効なのでしょうか。
中高年の「趣味」検索者の上位流入ページのなかで、年代を表す単語が入った以下5つのページを分析しました。
・趣味がない人にオススメの趣味16選!シニア・60代向けのお金のかからない趣味を厳選 | セゾンのくらし大研究
・50代におすすめ! お金のかからない「おとなの趣味18選」
・いまから始める!高齢者におすすめの趣味ランキングTOP13|ハートページナビ
・【50代必読】人生を充実させる趣味おすすめ16選!男女別に紹介 - ビギナーズ
・大人に人気の趣味は?50代女性におすすめの自分磨き | ハルメク好きなこと

図:「趣味」検索者(50代・60代・70才以上)の流入ページ
期間:2023年3月~2025年2月
デバイス:パソコン・スマートフォン
5つの記事のうち4つ以上の記事内容に共通していたのが下記の3つの主旨です。
・心身の健康
・お金がかからない
・充実したセカンドライフ
特に、「心身の健康」については5つの記事全てで言及されていました。
中高年に向けた趣味のプロモーションでは、「人との交流」「自宅で完結する」に加え、上記3つのキーワードが有効かもしれません。
例えば「東京都老人クラブ連合会」の公式ホームページでは、「仲間づくり・健康づくり」という言葉が使われています。
まとめ
今回は、若者と中高年を比較しながら趣味について調査しました。若者と中高年の間では趣味への関心の持ち方に大きな違いがあるとわかりました。
若者の「趣味」検索者の分析からは、新しい趣味に次々に挑戦したいという気持ちがうかがえました。「編み物ブーム」の次は、どのような趣味のブームが生まれるのでしょうか。
中高年は、人と交流する趣味に関心があるものの、実際には趣味を自宅で完結させている傾向が見受けられました。健康面や経済面を意識したプロモーションによって、誰かの継続的な趣味となるかもしれません。
年代によっても、時代によっても変わる「趣味」。これからの趣味トレンドにも注目です。
2026年4月に入社予定の大学3年生です。法学部法律学科で、主に環境法について学んでいます。
趣味は旅行と日本舞踊です。