後払い(BNPL)やプリペイド決済は誰がどう使っている? 特化型決済アプリユーザーを比較調査

後払い(BNPL)やプリペイド決済は誰がどう使っている? 特化型決済アプリユーザーを比較調査

ここ数年、非接触型のキャッシュレス決済を中心に多様な決済手段が発展してきました。その中で、ユーザーはどのようにして決済方法を選択しているのでしょうか? 本稿では後払い(BNPL=Buy Now Pay Later)に特化したアプリ(Paidy、Smart Pay)と、プリペイドに特化したアプリ(Ultra pay、バンドルカード)を比較し、それぞれのユーザーの興味を分析します。


Paidy、バンドルカードなど主要な特化型決済アプリを調査

ここ数年でますます多様化しているキャッシュレス決済。決済タイミング別で見ると下の表の様に、プリペイド・デビット・クレジット・BNPLの4つに分類されます。

本記事で注目したいBNPL(=Buy Now Pay Later)とは「今買って、後で払う」、いわゆる後払いの決済方法です。もともと欧米で広まった概念であり、最近では日本にも普及し始めています。同じ後払いの決済方法をとるクレジットカードとの主な違いは、「審査の有無」であり、BNPL方式では誰でも簡単に後払いを行うことができます。

表:各キャッシュレス決済の特徴(決済タイミング別)

では、ユーザーはこれらのキャッシュレス決済手法をどのように選択しているのでしょうか。本稿では、「審査や口座が必要なく誰でも利用しやすい」という観点から、BNPLと前払い(プリペイド)を比較し、どのような人がそれぞれの決済方法を利用しているのかを調査していきます。具体的には、より詳細に分析するために、BNPLと前払いのそれぞれに特化したアプリ(下の図を参照)のデータを比較します。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツールDockpitを用います。

図:分析の対象としたBNPL・前払い特化型アプリ

BNPL・前払いアプリのユーザー数はともに上昇中

初めに、ユーザー数の推移から各アプリの規模感を見ていきます。

「Paidy」、「Smartpay」、「ultra pay」、「バンドルカード」月間起動ユーザー数の推移
集計期間:2023年8月~2024年7月
集計デバイス:スマートフォン

上のグラフを見ると、BNPL系アプリと前払い系アプリで規模感に大きな違いはなく、それぞれの領域で市場をリードする「Paidy」と「バンドルカード」が前年よりも1.5倍近く月間起動ユーザー数を拡大させていることが分かります。キャッシュレス化の波の勢いがいかに強いかがうかがえます。

若年層の利用率が特に高く、Paidyは女性、Smartpayは男性の利用率が高い

次に、各アプリユーザーの性年代を見ていきます。

まずは、男女比です。下のグラフを見ると、Paidyは女性割合が半数を超える一方、Smartpayは男性の利用率が約65%と高いことが分かります。

「Paidy」、「Smartpay」、「ultra pay」、「バンドルカード」ユーザーの男女比
集計期間:2023年8月~2024年7月
集計デバイス:スマートフォン

年代割合も見ていきます。各アプリとも、20代〜30代の割合が高い結果となっていますが、「Smartpay」においては特に30代の割合が高くなっています。キャッシュレス化が若者から浸透していることや、BNPLや前払いでは審査や銀行口座が不要なため、クレジットカードを持たない層でも手軽に利用できるという特徴が影響しているのかもしれません。

「Paidy」、「Smartpay」、「ultra pay」、「バンドルカード」ユーザーの年代割合
集計期間:2023年8月~2024年7月
集計デバイス:スマートフォン

Paidyとバンドルカードを併用するユーザーも一定数存在

続いて、各アプリの併用状況から、前払いと後払いの関係について深掘りしていきたいと思います。下の図はそれぞれ、ユーザー数の多かった「Paidy」、「バンドルカード」から見た各アプリの併用状況を示しています。

「Paidy」(左)、「バンドルカード」(右)から見たアプリの併用状況
集計期間:2023年8月~2024年7月
集計デバイス:スマートフォン

上の表を見ると、どちらも、ユーザーの6割弱が併用なしとなっていることが分かります。一方で「Paidy」利用者の4割弱が「バンドルカード」を、逆に「バンドルカード」利用者の4割弱が「Paidy」を併用していました。手元の現金状況に応じて、前払いと後払いを使い分けているユーザーも一定数いるのかもしれません。

BNPL vs 前払い、ユーザーの消費行動の特徴は?

ここからは、BNPLと前払いの両アプリについて、ユーザーの消費行動について調べていきます。なお分析にはWeb行動データとアンケートデータを用いて、ターゲットユーザーにおける特定の Web 行動の前後の動きと属性を集計できる、ヴァリューズの分析ツールstory bankを使用します(※分析にはユーザー数の多かったPaidyとバンドルカードを用います)。

ネット利用者全体と比べて自由に使える金額は少ない

まずは、両アプリユーザーが1ヶ月に自由に使える金額から、ユーザーの購買力を見ていきます。

「Paidy」(左)、「バンドルカード」(右)ユーザーの「1ヶ月に自由に使えるお金」
集計期間:2023年8月~2024年7月
集計デバイス:スマートフォン

上の表を見ると、1ヶ月に自由に使える金額が少ないユーザーの割合は、ネット利用者全体と比べて多いことが分かります。若年層の割合の高さがここにも影響していそうです。

コンビニ利用率が特に高い

次に、両アプリユーザーの購買行動を見ていきます。下の表は「対象者(アプリユーザー)の回答率とネット利用者全体の回答率の差」をスコアで示しており、赤いほど正に乖離し、青いほど負に乖離しています。

「Paidy」(左)、「バンドルカード」(右)ユーザーの購入チャネル
「スコア = 対象者(アプリユーザー)の回答率 ー ネット利用者全体の回答率の差」
集計期間:2023年8月~2024年7月
集計デバイス:スマートフォン

赤色に注目すると、どちらもコンビニエンスストアの利用率が高いことが分かります。

また、「Paidy」ではAmazonの利用率が高くなっていますが、これは「Paidy」とAmazonが定期的にポイント獲得キャンペーンを実施していることなどが一因として考えられます。対照的に、楽天市場で購買する割合は、両アプリともに低くなっていました。

購入商品カテゴリはBNPL・プリペイドともに似通っている

さらに、両アプリユーザーの購買傾向についても調べていきます。

まずはPaidyからです。下の表は、「Paidy」ユーザーの男女(20〜40代)それぞれについて各消費財の支出額と、ネット利用者平均との乖離を示しています。

「Paidy」ユーザーの一人あたり平均支出(男女別、20〜40代)
「特徴値 = 対象者のリーチ率 ー ネット人口全体のリーチ率」
集計期間:2023年8月~2024年7月
集計デバイス:スマートフォン

ネット利用者全体と比較すると、「Paidy」ユーザーの男性はギャンブル・課金、女性はエンタメ系(ライブ鑑賞・イベントグッズ)に充てる金額が多くなっていることが分かりました。

同様に、バンドルカードについても見ていきます。

「バンドルカード」ユーザーの一人あたり平均支出(男女別、20〜40代)
「特徴値 = 対象者のリーチ率 ー ネット人口全体のリーチ率」
集計期間:2023年8月~2024年7月
集計デバイス:スマートフォン

バンドルカードの20代~40代のユーザーについても、ネット利用者全体と比較すると男性はギャンブル・課金、女性はエンタメ系(ライブ鑑賞・イベントグッズ)に充てる金額が多くなっており、BNPLである「Paidy」と同じような結果となりました。BNPL・前払いはどちらも審査が必要ないため、よりライトに使える決済方法として利用が進んでいるのかもしれません。

まとめ

ここまで、BNPLと前払いについて、ユーザーの属性や消費行動を比較していきました。簡単にまとめを行っていきます。

・BNPLと前払いは「誰でも手軽に利用できる」という点で共通している。
・どちらのユーザーも若年層の割合が高く、購買力はそれほど高くない。
・決済の支払いも行えるコンビニエンスストアの利用率が特に高い。
・どちらのユーザーも購入する商品の傾向は似通っていた。

BNPLと前払いでは、払うタイミングは違えど、購入チャネルや購入製品は共通する部分がありました。

つまり、消費者が前払いと後払いのどちらを利用するかの基準は、商品カテゴリには一定程度関係していると言えるものの、どちらかといえば単にリスクに対する考え方の違いによるものなのかもしれません。

BNPL・前払いはともに「誰でも手軽に利用できる」決済手段です。消費行動が多様化している今、各々のライフスタイルに合わせて利用できるという点で、BNPLと前払いはさらに広まっていくのではないでしょうか。今後のキャッシュレス決済市場から目が離せません。

この記事のライター

2025年4月に入社予定の大学4年生です。大学では、経済学部で計量経済学を学んでいます。

関連する投稿


Dockpitで見つける潜在ニーズ。山星屋が実現する市場予測と説得力ある販売戦略

Dockpitで見つける潜在ニーズ。山星屋が実現する市場予測と説得力ある販売戦略

近年、企業はかつてないほど膨大なデータにアクセスできるようになっています。しかし、真に価値あるインサイトを得ることに依然として課題を感じているマーケターも少なくないのではないでしょうか。創業115年を誇る菓子専門商社の株式会社山星屋は、Web行動ログ分析ツール「Dockpit」を活用し、従来の販売データでは捉えきれなかった消費者の潜在ニーズを可視化。さらに、1年後、3年後の市場動向を予測し、商品開発や販売戦略の立案につなげています。今回は同社の鈴木美和氏に活用事例とDockpitだからこそ得られる価値を伺いました。


「ダイエット」検索者は過去2年で減少傾向に? 新型コロナ収束やニーズの多様化が背景か

「ダイエット」検索者は過去2年で減少傾向に? 新型コロナ収束やニーズの多様化が背景か

誰もが一度は考えたことがあるはずのダイエット。特にコロナ禍で外出が制限されていた時期は興味をもつ人が多い状況でした。しかし、最近になって状況は少し変わってきているようです。この記事では、現在もダイエットに関心を持つ人々について分析し、彼らが何に興味を持っているのかを見ていきます。


人気急拡大「ガチャガチャ」の関心層をデータで分析! マーケティングに活かした事例も紹介

人気急拡大「ガチャガチャ」の関心層をデータで分析! マーケティングに活かした事例も紹介

「カプセルトイ」、通称「ガチャガチャ」は、子どもから大人まで幅広い層に愛され続けてきました。小さなカプセルに入っている多様なアイテムは、価格の手ごろさとコレクション性から、今や世界中で人気を博しています。特に、ここ数年で日本では、「ガチャガチャの専門店」ができるなどさらに人気が急拡大しています。本記事では、ガチャガチャに興味を持つユーザー層を分析するとともに、企業においてどのようにマーケティング戦略に活かせるかを考察します!


Will TikTok Lite & its point system revolutionize social media business? Comparative study with TikTok user data

Will TikTok Lite & its point system revolutionize social media business? Comparative study with TikTok user data

TikTok Lite, an app that allows users to engage in Poi-katsu by watching videos, has been attracting attention. Although a slightly modified version of TikTok, it is just as popular as TikTok. We will analyze and compare data from TikTok Lite and TikTok users to uncover the factors behind TikTok Lite’s popularity.


ブランド30周年で勢いに乗る3COINSの強さの秘訣とは。サイト訪問者のデータで考察

ブランド30周年で勢いに乗る3COINSの強さの秘訣とは。サイト訪問者のデータで考察

最近、街でもSNSでも目にする“300円中心ショップ”3COINS。ECサイトも30代〜40代を中心に多くの人が利用しているようです。複数ある300円中心ショップのなかで、3COINSはどのように差別化を図っているのでしょうか。今回は、3COINSのECサイト訪問者の人となりや人気の商品、類似ブランドとの差別化戦略について分析・考察します。


最新の投稿


取り上げられるプレスリリースは「内容の興味深さ」!共感を呼ぶストーリーや他社と異なる独自性が重要【PRIZMA調査】

取り上げられるプレスリリースは「内容の興味深さ」!共感を呼ぶストーリーや他社と異なる独自性が重要【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、メディア関係者を対象に、「プレスリリースに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


宅配サービスの直近の利用率は約4割でコロナ禍であった2年前より低下 受け取り方は「自宅で手渡し」が依然として高い傾向【クロス・マーケティング調査】

宅配サービスの直近の利用率は約4割でコロナ禍であった2年前より低下 受け取り方は「自宅で手渡し」が依然として高い傾向【クロス・マーケティング調査】

株式会社クロス・マーケティングは、「宅配」に関わる利用実態や意識・行動に関する調査として、全国47都道府県に在住する20~69歳の男女を対象に「宅配に関する調査(2024年)」を実施し、結果を公開しました。


博報堂DYホールディングスと博報堂テクノロジーズ、デジタルクリエイティブ制作における戦略や企画の効率化・高度化を行う「CREATIVE BLOOM PLANNING」を開発

博報堂DYホールディングスと博報堂テクノロジーズ、デジタルクリエイティブ制作における戦略や企画の効率化・高度化を行う「CREATIVE BLOOM PLANNING」を開発

株式会社博報堂DYホールディングスと株式会社博報堂テクノロジーズは、統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM (クリエイティビティ エンジン ブルーム)」に、デジタルクリエイティブ制作における戦略や企画の効率化、高度化を行う「CREATIVE BLOOM PLANNING」を開発し、社内での利用を開始したことを発表しました。


約6割がタレント起用の広告を見てブランドをより好きになった経験あり!消費者の購入意欲度を高めることや購買行動を促す効果も【エイスリーグループ調査】

約6割がタレント起用の広告を見てブランドをより好きになった経験あり!消費者の購入意欲度を高めることや購買行動を促す効果も【エイスリーグループ調査】

エイスリーグループは、Z世代・Y世代の男女を対象に、タレント起用の広告が消費者に与える影響を調査し、結果を公開しました。


電通デジタルと電通、SmartNewsアプリ内「記事閲読行動データ」の活用で、生活者のモーメントを捉えたアプローチを実現

電通デジタルと電通、SmartNewsアプリ内「記事閲読行動データ」の活用で、生活者のモーメントを捉えたアプローチを実現

株式会社電通デジタルと株式会社電通は、スマートニュース株式会社と共同で、ユーザーのプライバシーを保護しながら安全にデータ分析ができるデータクリーンルーム「SmartNews Ads Data Pot」を構築。スマートニュース株式会社が運営するニュースアプリ「SmartNews」の記事閲読行動データなどを活用し、生活者のモーメントを捉えたマーケティング支援を開始したことを発表しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ