■新刊『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)
『ユーザーリサーチのすべて』菅原 大介 (著)(マイナビ出版)
スピーカー
リサーチャー 菅原大介氏
ブランディングテクノロジー株式会社
執行役員・CMO 黒澤友貴氏
株式会社マテリアルデジタル
取締役 川端康介氏
新刊出版の背景にあるリサーチャーとしての想い
リサーチャー菅原大介氏(以下、菅原):最初にこの本を出版した経緯をお話しします。まず2019年10月、私の2冊目の書籍として「売れる仕組みを作るマーケットリサーチ大全」を出版しました。
2015年~2020年頃、ビッグデータがブームでした。アンケートやインタビューといったアスキング型で、ユーザーに聞いていくタイプの手法が不要とも言われていた時期です。当時から、それをどうにか変えたい、こんなにも良い手法があることを広めたいと考えており、この本の出版に至りました。
その頃、ヴァリューズのマナミナというメディアで「現場のユーザーリサーチ全集」という名の連載機会をいただいたんです。業界ごと、業務ごと、調査の技法ごとのリサーチを書いていく連載で、一つ一つの技能に真摯に向き合う機会になりました。
またもう一つの背景として、リサーチ業界では「マーケティングリサーチ」と「デザインリサーチ」という大きな流れがありました。
2020年頃のインサイトブームはデザインリサーチの流れと非常にマッチしていて、私はこの両方を扱うポジションに携わっていきたいと思いました。つまりマーケティングリサーチャーという一職種ではなく、リサーチ手法全体を使っていける人材へと、個人のブランドをピボットしようと動いていきました。
そして2024年、UXリサーチとマーケティングリサーチが相互にどのように活かしあったらいいのか、またそれぞれの領域をお互いに知っていこうという動きが、ようやく形として出始めています。このタイミングでマナミナでの連載をもとに出版の機会をいただき、ちょうど良かったと感じています。
「すべて」に込めた実務視点へのこだわり
菅原:次にこの本の特徴をご紹介します。私の込めた想いは、タイトルの「すべて」という言葉にすべて集約されています。
いくつか理由がありますが、1つ目は章の構成です。
組織の立ち上げから始まって、企画、募集、実査、分析、報告、共有という、調査業務の一連の流れを取り扱っています。特に報告、共有まで扱っている書籍は珍しいと言っていただく機会が多くありました。
私自身リサーチの実務に携わる中、報告や共有も含めて調査業務と考えているので、最後まで書き切るようにしました。
2つ目は、自分が担当する業務や抱える課題から、どういうリサーチ方法があるのか逆引きできる点です。
というのは、目の前のプロジェクトや課題に対して、各リサーチの調査手法をどのように組み合わせたり、使い分けたりすれば答えを出すことができるのか、そんなアプローチを取りたいと考えていました。
通常の書籍では、どれかに焦点を当てて専門的な内容を書くケースが多いと思います。この書籍では、定性調査や定量調査という括りの中で、実務でどのように使っていくのか示唆するスタイルで本を書いています。
そのため、具体的なドキュメントサンプルもたくさん掲載しています。キャンペーン運営に適した調査票の作り方、デザインリサーチに適した作り方など、複数のサンプルをつけることで、再現性がある形でノウハウを追体験してもらえるのではと考えています。
黒澤さん、川端さんから、この本のファーストインプレッションを伺えませんか。
ブランディングテクノロジー株式会社 黒澤友貴氏(以下、黒澤):リサーチの手法やプロセスが網羅的にまとまった本は、あるようでなかったと思います。リサーチは単体で結果が明快に見えるものではないので、プロセスが雑になったり、つまみ食いになったりしやすい。この書籍で俯瞰的にカバーすることができれば、仕事が変わりそうだと感じました。
菅原:読者に対象となるプロジェクトがあり、リサーチを使ってどのような関わり方ができるかという視点で書いていたので、共有できて嬉しいです。
株式会社マテリアルデジタル 川端康介氏(以下、川端):網羅性もそうですが、最近流行りのカテゴリーエントリーポイントなども押さえられているので、今のトレンドも踏まえた上での活用ができそうで、非常にいいなと思います。
菅原:ありがとうございます。極力トレンドを入れたいという想いがありました。ベーシックな部分と最近ベーシックになりつつある概念を入れたいと意識したからだと思います。
川端:データは集めるだけではなく、示唆を生かすという活用まで考えることが必要です。時代によってアウトプットする目的がどんどん変わるので、そこまで設計されていることが素晴らしいなと思います。
様々な分析手法でユーザー理解を深めることが大切
菅原:後半は分析手法について話をしていきます。書籍では、第5章でリサーチを使ったフレームワークを多数紹介しており、代表的な内容は資料の通りです。
分析手法
黒澤:ここにある分析手法は、目的に応じて普段から使っていますね。その他では、ステークホルダーマップを作るケースがあります。セグメンテーションマップやペルソナの前段階ですね。初期フェーズで作り込むことで、ユーザーインタビューを誰にするべきか、決め打ちをしないという点で重要と捉えています。
というのは今、高齢者の見守りサービスのマーケティングや事業開発の支援をしています。このサービスは複雑な人の関わりの中で成り立っているんですよね。
高齢者自身が使いたいと言っても、家族のコミュニケーションの中で最終的に決まることがあったり、その周辺にケアマネージャーなど福祉の関係者の方がいたりと様々です。
高齢者が利用するBtoCのビジネスモデルだから、その中で年齢のセグメントを区切ってインタビューをするのではなく、前段階でどういう人の関係性の中で導入が決まるのか、見ていく必要があります。
またBtoCとはいえ、家の中に入るプロダクトなので、不動産管理会社や仲介会社などの関係者もいます。不動産会社の関心の中にどういう風に入っていくかを考えないと、そもそも事業として成り立たない。
そのためにステークホルダーマップで全体像を洗い出して、どの人との関係性がカギになるのか定めたうえで、セグメンテーション定義をします。そこからインタビューをして、価値がどのように認識されるのかを価値マップに落とし込み、ユーザーペインを抽出してプロダクトの価値とコミュニケーションの価値に繋げていく、こんな風に使っています。
菅原:ステークホルダーマップは、サービスに関わる関係者の繋がりがどのようになっているのか、構造的にマッピングする手法で、書籍の初めの方に収録しています。BtoB、BtoCの両方に使えそうですね。
黒澤:BtoBではセールスで作ると思います。経営層と事業責任者と関連部署を見ていって、どのような関係性の中で決済が下りていくのか、使われ方がどうなのかなどを検討していきます。
BtoCでも一緒だと思います。自分たちの顧客はこの人だと決めて動きがちですが、意外と周辺の人との関係性の中で購買行動が決まっていくことが多い。担当する事業がステークホルダーを読み解いた方がいいマーケットの場合は、ステークホルダーマップを作った方がいいかなと思います。
川端:私はペルソナをどう作ればいいか、お二人にお聞きしたいと思いました。というのは、私の場合、どういった課題や欲求があるのか、ペインやゲインを先に見つけにいって、その一端を見つけ、それを抱えている人がどれぐらいの規模かを見に行く、という進め方の方が多いんですよね。
菅原:確かに、ペルソナは必ずしもこだわらなくてもいいと思っています。
定性調査のアプローチでいうと、書籍の中では「定性調査のまとめ方」として、N1インタビューの結果をどのようにまとめるかというページを作っています。このシートがあれば、ペルソナが無くてもユーザーを純粋に理解できますし、そういった手法もあると思いますね。
私の場合でいうと、基本属性ごとのユーザープロファイルをアンケート調査で整理をしています。ファクトベースで、どういうユーザー像なのか掴みやすくなるからです。ペルソナは、あくまでもそれを昇華して可視化させる作業で、前段階の方が実は解像度が高く、そこに留めておいた方がいい組織もあると思います。例えば広告の運用などですね。
黒澤:ユーザーインタビューをした後のアウトプットが、ペルソナに近いことは多いですよね。そのインタビューをまとめて組織内で共有し、立ち返る時にこういった形式でまとめているといいんじゃないかなと思います。
菅原:ユーザーモデリングの手法としてペルソナはありますが、意外と実査の成果物の方が組織や業務との相性がいい場合もあります。柔軟に行き来しておけるようにしておくといいなと私も思います。
本日掲載している情報は書籍に書かれています。リサーチ担当者やマーケッターの方は、デスクに1冊常備していただければ嬉しく思います。
ウェブサイト、アプリ運営におけるユーザー調査マニュアルの決定版!
大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。