老後資金や物価上昇、お金の不安が高まる現代
近年、「老後2,000万円問題」など、お金に関するニュースが話題になっています。こうした背景から、老後に向けた資産形成への関心が高まり、2024年1月にスタートした新NISAも注目を集めました。
また、最近は物価高により日々の家計が圧迫され、節約を意識するようになった人も多いはずです。
こうした将来に対する不安や家計のひっ迫への対処の一歩として、「家計簿をつけよう」と考える人も多いのではないでしょうか。今回は家計簿関心者に焦点をあて、その人物像や、関心を持つきっかけについて分析していきます。
なお、分析には株式会社ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
家計簿に関心を持つのはいつ?
「家計簿」と検索する人はどのくらいいるのでしょうか。
以下の図は、1年間で「家計簿」と検索した人数を示しています。

「家計簿」の検索者数
集計期間:2024年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
1年間で100万人近い人が「家計簿」と検索しており、多くの人が家計簿に関心を持っていることがわかります。
では、家計簿に関心を持つ時期に特徴はあるのでしょうか。「家計簿」検索者数の直近2年間の推移を見てみましょう。

「家計簿」の検索者数の推移
集計期間:2023年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
年の始まりの1月、年度の始まりの4月、後期の始まりの10月に検索者数が増加しています。
年や年度の区切りといった節目のタイミングで、家計簿に関心を持つ人が多いようです。
どんな人が家計簿に興味を持っている?
■女性・若者が多い
家計簿に興味を持つ人はどのような人なのでしょうか?
まずは性別から見ていきます。

「家計簿」の検索者の男女比
集計期間:2023年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
6割以上が女性となっており、男性よりも女性の方が家計簿に対する関心が高いことがわかります。
続いて、年代について見てみましょう。

「家計簿」の検索者の年代
集計期間:2023年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
ネット利用者と比較して、20代・30代の割合が高くなっています。
若年層は一般的に収入が少ない傾向にあるため、無駄な出費を避けたい意識が強く、家計簿の活用を考える人が多いのかもしれません。
また、老後資金など将来の不安を背景に、若いうちからお金の管理を意識する人も増えていると考えられます。
■収入にかかわらず家計簿への関心は存在する
次に、家計簿への関心と関連がありそうな年収についても見ていきましょう。

「家計簿」の検索者の年収
集計期間:2023年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
400万円未満の割合がやや低めですが、意外にもネット利用者全体と比較して大きな違いはありませんでした。
家計簿へのニーズは年収にかかわらず、幅広い層に存在しているようです。
「家計簿」検索者が気にしているのは「どうつけるか」
「家計簿」と検索する人は、何を知りたいのでしょうか?「家計簿」と一緒に検索されたワード(掛け合わせワード)から、探っていきましょう。

「家計簿」と掛け合わせて検索されているワード
集計期間:2023年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
上位10ワードはいずれも家計簿のつけ方に関するワードでした。「家計簿」検索者は、どのように家計簿を始めればよいのか、自分に合った方法を知りたいと考えているようです。
また、掛け合わせワードから、家計簿には主に3つのスタイルがあると考えられます。
・「エクセル」や「スプレッドシート」で自作する方法
・「アプリ」で記録する方法
・「手書き」で管理する方法
■女性は「自分好みに」、男性は「効率的に」家計簿をつけたい
では、性別や年齢によって家計簿のつけ方に違いはあるのでしょうか。掛け合わせワードの属性別マップをもとに分析していきます。

「家計簿」と掛け合わせて検索されているワードの属性別マップ
集計期間:2023年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
性別(横軸)に注目すると、「手作り」「手書き」「かわいい」などは女性に特徴的である一方、「自動」「マネーフォワード(家計簿アプリ)」などはより男性が検索する傾向にあります。
このことから、女性は自分好みのかわいい家計簿を作成したいと考え、男性はアプリなどを使って効率的に管理したいと考える傾向にあることがわかります。
次に年齢(縦軸)に注目すると、「同棲」や「夫婦」などが若い世代に特徴的なワードとなっています。若い世代は、パートナーと一緒に家計を管理したいと考える人が多いようです。
家計簿導入のプロセスは?
人々はどのような流れで家計簿に関心を持ち導入に至るのでしょうか?ここでは、「家計簿」と検索する前後の検索行動から、そのプロセスを読み解いていきます。
ここからの分析には、誰でも簡単に顧客理解ができる、株式会社ヴァリューズの分析ツール「Perscope(ペルスコープ)」を用います。
■「家計簿」検索前後の検索行動
以下の図は、「家計簿」と検索したユーザーがその前後15日間で検索したワードを時系列で示したものです。横軸が時間の経過を、縦軸が特徴値※の大きさを表しています。
※特徴値:一般ユーザーの検索数が少なく、抽出条件に当てはまるユーザー(「家計簿」検索者)で多く検索されているワードほど値が高くなる。

「家計簿」と検索した人の検索行動(前後15日間)
集計期間:2024年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
ワード数が多いため、特徴的なワードをいくつかのカテゴリに分類して見ていきます。

新生活に関連すると考えられる検索ワード
集計期間:2024年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
「部屋」「レイアウト」「洗濯機」など、住居や家具・家電に関連したワードが多く、引っ越しを検討している様子がうかがえます。このことから、新生活を始めた人が多いと推測できます。

金融に関連すると考えられる検索ワード
集計期間:2024年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
「銀行」「金利」「年会費」など、銀行やクレジットカードに関する検索が目立ちます。後に言及する仕事の変化や資産形成を目的に、新たな口座やカードの作成を検討していると考えられます。
また、「貯金」や「投資」といった資産形成に関するワードも見られました。「貯金」は「家計簿」検索前、投資関連のワードは「家計簿」検索後に多く、段階的に関心を広げている様子が見て取れます。

仕事に関連すると考えられる検索ワード
集計期間:2024年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
「職務履歴書」や「副業」などのワードから、新たな仕事を始めようとする動きが読み取れます。

節約に関連すると考えられる検索ワード
集計期間:2024年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
「GU」「100均」「しまむら」など、いわゆるコスパに優れたブランドに関する検索が多く、節約意識の高さがうかがえます。「水筒」や「リフィル(詰め替え)」の検索からも、使い捨て製品の購入を控えて出費を減らしたいという意識が感じられます。
また、電気代や携帯代といった固定費の見直しに関心を持っていることを示唆する検索も見られました。
加えて、ポイントやふるさと納税を活用し、少しでもお得にお金を使おうとする姿勢も見受けられます。
■家計簿に関心を持つきっかけは「新生活」「資産形成の意識」?
このような検索行動の傾向から、家計簿への関心がどのようなきっかけで発生するのかについて、以下のような仮説が立てられます。

家計簿ニーズが発生するきっかけの仮説(筆者作成)
1.新生活や1年の節目を機に、これまでの消費行動や、将来の資産について考える。
2.1をきっかけに資産形成への関心が高まり、以下の3つのいずれか、または複数を検討する。
2-1.貯蓄や投資によって、資産を増やしたいと考える。
2-2.転職や副業などにより、収入を増やしたいと考える。
2-3.節約やポイ活などにより、支出を減らしたいと考える。
3.1〜2のいずれかのタイミングで、「お金の管理をしっかり行いたい」というニーズが生まれ、家計簿の導入を検討する。
これはあくまで1つの仮説に過ぎませんが、節目のタイミングをきっかけに資産形成への意識が高まり、節約などを意識することで、家計簿への関心が生まれている可能性が考えられます。
■家計簿導入の検討期間はおよそ2週間
では、家計簿に関心を持ってから、実際に家計簿を導入するまでにはどのくらいの期間を要するのでしょうか。
以下の図のように、家計簿と直接関係があると考えらえるワードは、「家計簿」検索日の4日前から9日後の間に多く見られました。

「家計簿」と検索した人の検索行動(前後15日間)
集計期間:2024年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
このことから、家計簿に興味を持った人は、導入の検討を始めてから、導入するかを決めるまでに、およそ2週間かかっていると考えられます。その間に、検索などを通して、自分に合った方法を模索しているようです。
実は価格じゃない?家計簿関心者が購買時に重視するポイント
家計簿に興味を持つ人の購買行動にはどのような特徴があるのでしょうか?
以下の図は、「家計簿」検索者の購入時の重視点と行動について示しています。

「家計簿」検索者の購買行動の特徴
集計期間:2024年4月~2025年3月
デバイス:PC、スマートフォン
「家計簿」検索者は、購入時に「口コミ・評価」を重視し、「店員のお薦め」を購入する傾向にあることがわかりました。購買行動において、店員や実際のユーザーといった、人からの情報に重きを置いている様子がうかがえます。
一方で、節約を意識する人が多いことから、「値段」や「割引・増量」といった要素を重視していると予想されがちですが、意外にもそのような傾向は見られませんでした。
このことから、単純な価格の安さよりも、無駄な出費を避けるために「品質と価格のバランス」を重視していると考えられます。極端に価格が安い商品は、「品質が低く、結局は出費が無駄になるのでは」という不安が購買をためらわせているのかもしれません。
まとめ
今回は、家計簿に関心を持つ人の特徴について調査しました。
家計簿に興味を持つのは、女性や若年層が多く、年収の特徴は見られませんでした。また、新生活などを機に資産形成に興味を持ち、節約志向が高まることで家計簿に関心を持つ人が多いようです。
さらに、節約志向は強いものの、単純な価格の安さではなく、口コミや店員といった人からの情報を参考にして、無駄な出費を避けようとする傾向が見られました。
老後資産問題などは、今後もより一層深刻になるかもしれません。それに伴い、資産形成ニーズがさらに高まり、その中で家計簿に関心を持つ人も増えていく可能性が考えられます。
こうした、消費者意識の変化を捉えることは、今後のマーケティング戦略を考える上で重要になっていくでしょう。
2026年4月に入社予定の大学院修士課程1年生です。大学では分子生物学系の研究に取り組んでいます。