非エネルギー分野への挑戦 新たな価値創出を目指して
――現在携わっている業務について教えてください。
北海道電力株式会社 富岡氏(以下、富岡):私は、バリューマーケティング部で非エネルギー関連のクロスセルサービスの開発・普及を担当しています。
2022年6月に私たちのチームが発足したのですが、背景には、電気事業という既存事業から領域を拡大し、より価値を生み出せる企業になりたいという想いがあります。インタラクションサービスプロバイダーとして、お客様と相互につながり、電気以外のサービスでも価値を創出していこうという目標のもと、さまざまな取り組みを進めています。
例えば2023年8月にスタートしたオンラインショップ「きらめくストア」は、北海道内で私たちが見つけてきた選りすぐりの確かな商品を、より多くの方々に知っていただきたいという思いで立ち上げました。
オンラインショップ「きらめくストア」
富岡:「きらめくストア」では、私たち北海道在住者でさえあまり目にする機会のないような商品を発掘し、世の中にお届けすることを心がけています。商品選定においては「商品の希少性」「販路拡大支援の余地」「事業者様の前向きな姿勢」、そして何より「私たち自身が心からおすすめしたいと思えるか」という4つの軸を大切にしています。
私たちは、オンラインショップの運営に留まることなく、北海道内の事業者の方々の販路拡大と、そこから通じる価値創出を重要な使命として掲げています。そして共に目標に向かって取り組んでいただいているのがヴァリューズさんです。これまで「エネモール」の機能充実に向けた設計支援や市場調査、そして2024年度は4月から9月までの半年間、DX推進に協力いただきました。
■お話しを伺った方
北海道電力株式会社 バリューマーケティング部 富岡 直也氏
北海道出身。2009年に北海道電力株式会社に入社。東京支社での経済産業省対応を経て、本店にて電力契約獲得・離反防止に向けたマーケティング施策の立案・実行業務に従事。2022年6月より非エネルギー分野における新規事業開発チームに加わり、現職(2025年8月)。
定量と定性の両輪で進める顧客理解
――DX推進に関して、お取り組みの内容を教えていただけますか?
富岡:定量分析と定性分析の両輪で顧客理解を深めるための取り組みを進めています。顧客を理解し、創造していくという点において、データ活用は非常に重要な役割を果たすのではないかと考えているためです。
今回は「きらめくストア」における小規模な実証実験(PoC)をお話しします。大規模な顧客基盤構築や新しい仕組みの導入には相応の投資が必要となることから、まずはPoCからスタートしました。
本取り組みにおいて注目したのは、電気・ガスの使用量や料金の確認、暮らしに役立つ情報の提供、そして、アンケートに答えてポイントを獲得できる当社のWebサービス「ほくでんエネモール」(以下「エネモール」)です。「エネモール」には既に多くの会員がいるため、「きらめくストア」への誘導ができれば効果的ではないかと。具体的には「エネモール」で貯めたポイントを「きらめくストア」の割引クーポンに交換できる既存の仕組みの拡大可能性を検証しました。
「ほくでんエネモール」のTOPページ
例えばBIツールを活用することで、「エネモール」のポイントを利用している人々の性別や年齢といった属性や、ポイントの使い方の傾向を詳しく把握できるようになりました。これまでは一括りの大まかにしか分からなかったデータも細かく分析できるようになったため、より効果的な対策や施策を行えるようになりました。
加えて、定性分析では、ChatGPTを活用して、アンケートを通じてどこまでお客様の理解を深められるかという検証を行いました。ヴァリューズさんから、効果的なプロンプト(AIへの指示)の出し方についてレクチャーしていただいたこともあり、アンケート分析の効率が大幅に向上しました。
――分析した結果、どんなことが分かりましたか?
富岡:年代を問わず多くのユーザーがいつも同じポイントの利用方法を選択している傾向があり、一度選んだ利用方法から、なかなか他の利用方法を選択しないという傾向がわかりました。
また、世代別の分析では、40代・50代の方が最大のボリュームゾーンであることが分かりました。特に50代では特定の利用方法が約3割を占めており、この層にアプローチすると成果が期待できると考えました。
――もう施策は実行されているとのことですが、どのような施策を実施されましたか?
富岡:具体的な施策として、メールマガジンの内容を刷新し、これまでのポイントの利用方法から「きらめくストア」でご利用いただけるポイントへの交換に切り替えを促す提案や、一時的なインセンティブ強化などを実施。その結果、「きらめくストア」へのポイント交換のシェアは、従来比で10倍と飛躍的に向上しました。
半年間のPoCで得られた示唆と学び
富岡:もともと「新規ユーザーの獲得よりも、エネモール会員にアプローチを図る方が効率的だろう」と漠然と感じていたのですが、データを可視化して分析してみることで、認識の正確さが改めて確認できました。さらに、チーム内でもより具体的な議論が可能になり、課題に対する理解の解像度が上がったと思います。
これら一連の施策、つまりデータ分析から課題発見、施策実行、効果検証までを半年間で完了できたことは、かなりスピード感のある対応だったと感じています。特にデータ分析の結果が判明してからメールマガジン施策の実施までは、1カ月にも満たない期間でした。この間にクーポン施策の調整なども並行して進めました。
データ分析の結果が確定してから実際の施策展開までを非常にコンパクトな期間で実施することができ、迅速に実現できたと考えています。
――改めて今回のプロジェクトを振り返って感じることがありましたら、お聞かせください。
富岡:「きらめくストア」の事業拡大において重要な示唆を得られたと考えています。この経験を活かし、他の観点からも売上拡大に向けた分析とPDCAサイクルを回していきたいです。
ヴァリューズさんは、私たちの視点、つまり現場のニーズや課題に深く寄り添っていただいているので、本当に実践的な対話ができていると感じています。具体的な課題解決に向けた会話を重ねることができました。単なる支援というよりも、私たちの課題を深く理解したうえで、より高いレベルへとパワーアップするのを支援していただく、そういった関係性を築けていることは非常に貴重だと感じています。
私たちは、もともと顧客理解のためのデータ活用の重要性を認識していましたが、そこに今回ヴァリューズさんが持つ視点が加わったことで、さらなる成果につながったと感じています。
実践的なスキルに関しても同様です。BIツールなどを使用したデータの可視化・分析の技術的なスキル、そして分析の切り口やフレームワークの引き出しについては、私たちはスキルセットを十分には持ち合わせていない状態だったため、ヴァリューズさんには具体的なツールの使い方や、効果的な分析の切り口などをPoCを通じてサポートいただきました。
顧客やパートナーの声で実感する事業のやりがい
――顧客理解を進めた結果、お客様やパートナー企業からはどのような声が届いていますか。特に嬉しかったコメントや、個人的にやりがいを感じられている点があれば教えてください。
富岡:「きらめくストア」では、お客様からのレビューをいただく機会が多くあるのですが、自分たちが発掘してきた商品に対して高評価をいただいたときは、非常に嬉しく、この事業を推進して良かったと心から思います。
また、パートナー企業様からも多くの感謝の声をいただいています。
例えば、老舗菓子屋の岡田屋さんでは、実際に来店されたお客様から「(「きらめくストア」内の)記事を見た」という声をいただけているとのことで、オンラインショップでの売上増加だけでなく、実店舗への来店者数も増加したとうかがっています。事業者様から喜びの声をいただいたときも、この取り組みを進めてきて本当に良かったと心から実感します。
――今後チャレンジしていきたいことはありますか?
富岡:2024年10月に「きらめくストア」はリニューアルを実施し、サイトの自由度が大幅に向上しました。その結果、企画ページやイベントページ、キャンペーンページなどを充実させることが可能になりました。これからもお客様により多くの「わくわく感」を感じていただけるようなサイト作りを目指しています。
また、「きらめくストア」というオンラインショップの枠を超えて、道産品販売事業を幅広く展開していきたいと考えています。2025年2月には、前述の岡田屋さんと共同で開発した新スイーツ「ひとくちでしあわせを 北海道生どらきゃら」を道内空港のポップアップストアで期間限定販売しました。3か月半で累計5,000個以上を売り上げ、複数メディアでも取り上げられるなど大きな反響を獲得することができました。
今後も「きらめくストア」はもとより、商品開発や新規事業を通じて、北海道産品の価値をより多くの方々に届けていきたいと考えています。
「ひとくちでしあわせを 北海道生どらきゃら」
ポップアップストアの様子
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IT企業でコンテンツマーケティングに従事した後、独立。現在はフリーランスのライターとして、ビジネスパーソンに向けた情報を発信しています。読んでよかったと思っていただける記事を届けたいです。