50歳以上が過半数を占める国
超高齢化社会の日本。あなたにとっては何歳くらいからがシニアでしょうか。個人的なことで恐縮ですが、先日、85歳の母が「老後はこんな旅をしたいわね」と言いながらiPadで旅系のYouTubeを見ていました。彼女が思い描く老後って何歳からなのでしょうか。
さて、今とこれからのシニアを考えていくに際して、これからの50歳以上をきちんとみつめていこうと思い、第1回はマーケティングにおける「基本のき」である人口を見ていきます。
え、50代もシニアに入れるの?と、思われたかもしれません。人生100年時代。折り返し点に立つ50代は、60代以上のシニアが後半の人生設計をするために、欠かせない存在です。
また、総務省統計局人口推計2025年5月1日(概算値)によれば、50歳以上が総人口の50.4%とのこと。しかも史上初の50%越えです。そしてまた、50~54歳は現在の日本においてもっとも人口ボリュームの大きい年齢層なのです。
片足のつま先程度はシニアに踏み込んでいる50代も含めることで、これからのシニアをより理解できると考えました。ちなみに2000年は50歳以上で38.6%、2050年は55.5%との推計です。
参考:人口推計「2025年(令和7年) 5月報」|総務省統計局
参考:平成12年(2000年)国勢調査「 年齢(各歳),出生の月(4区分),男女別人口(総数及び日本人)-全国」|総務省統計局
参考:男女年齢5歳階級別人口(総人口):出生中位(死亡中位)推計(5年毎のデータ)|国立社会保障・人口問題研究所
いまどきの「年のとり方」
いずれにしても、これからのシニアを考える際に50代の存在を無視することはできません。人は、還暦を迎えたからといっていきなりシニアになるわけではありません。
また、前期高齢者となる65歳になったからといって、突然高齢者になるわけでもありません。行政や制度上の区分があったとしても、日々の暮らしまでもが年齢で縛られるわけではありません。
確かに身体的な衰えを感じ、スマホの文字サイズ設定を少し大きめに変えたといっても、価値観や好みの根幹は50代どころか20〜30代の頃と何ら変わらないもの。事実、年齢を重ねるほどに「自分より下」のトレンドを積極的に取り入れようとする傾向があります。
将来のリスク回避のために「自分より上」のライフスタイルや実態を参考にしつつ、トレンド等は「自分より下」を参考にする。たとえば、まだまだ自らの意志で活発な毎日を過ごしている60代をターゲットとするのであれば、50代と70代からの影響も考慮する必要があるわけです。
日本がもし100人の村だったら
さて、総務省統計局人口推計2025年5月1日(概算値)によれば、日本の総人口は1億2,334万人、それぞれの年代の人口と割合は下記のようになります。
| 項目 | 実数 | 割合 | 年代区分 | 実数 | 割合 | 年代 | 実数 | 割合 |
| 全年代 | 1億2,334万人 | 100.0 | - | - | 100.0 | - | - | - |
| 90歳以上 | 288万人 | 2.3 | 後期高齢者 | 2,109万人 | 17.1 | 90歳以上 | 288万人 | 2.3 |
| 80~89歳 | 1,003万人 | 8.1 | 80代 | 1,003万人 | 8.1 | |||
| 75~79歳 | 818万人 | 6.6 | 70代 | 1,609万人 | 13.0 | |||
| 70~74歳 | 791万人 | 6.4 | 前期高齢者 | 1,511万人 | 12.3 | |||
| 65~69歳 | 720万人 | 5.8 | 60代 | 1,485万人 | 12.0 | |||
| 60~64歳 | 765万人 | 6.2 | アラ還 | 1,620万人 | 13.1 | |||
| 55~59歳 | 855万人 | 6.9 | 50代 | 1,834万人 | 14.9 | |||
| 50~54歳 | 979万人 | 7.9 | - | - | - | - | - | - |
| 49歳以下 | 6,219万人 | 50.4 | - | - | - | - | - | - |
総務省統計局人口推計2025年5月1日(概算値)をもとに筆者が作成
これを2001年に出版された「世界がもし100人の村だったら」(マガジンハウス)にならって「日本が人口100人の村だったら」と考えると、50人が50歳以上になり、そのうち17人が後期高齢者、12人が前期高齢者になります。超高齢化社会の定義は65歳以上の高齢者の割合が総人口の21%を超える社会のことを指しますが、既にその1.5倍に迫る勢いです。
日本の年齢分布
灰色:49歳以下、薄い青色:50歳以上64歳以下、濃い藍色:65歳以上(前後期高齢者)
ところで、「日本」という国はあっても、「日本」という都道府県はありません。地域格差が叫ばれていますが、「どこに住んでいるどんな人なのか」によって、「人口100人の村」の様相も変わります。
同じ年齢でも、違う役割
例えば、一極集中の東京都が人口100人の村だったら。前期+後期高齢者は23人、50~64歳は20人となり、50歳以上は半数以下。確かに若い。一方、後期高齢者率がもっとも高い秋田県。50~64歳は東京と同様20人ですが、前期+後期高齢者は38人。
見落としがちですが、50~64歳の割合は東京も秋田も同じ20人。実はここが肝心です。同じ比率ではあるけれど、両地域における暮らしや関わっている人たち、その関係性の中で担っている役割など、それぞれまったく異なるはずです。
だからこそ「どの地域の」「どんな社会背景の中で」生きているのかを見なければ、本質は見えてきません。
地域によっても異なるシニア像
それは日常の購買行動の一端にも表れます。たとえば冒頭で「iPadで旅系YouTubeを見る」という生活のひとコマが登場しましたが、関東地方と東北地方に住む50代以上の方々のうち、「旅行」を検索した人たちを「Perscope」※で比較してみます。
限定商品や新商品に惹かれがちで、店頭プロモーションのし甲斐がある関東シニアに対し、割引・増量に惹かれ、店員による対面でのお薦めで購買決定に動きやすい東北シニア。
※Perscope:Web行動データとアンケートデータを用いた分析を行える、株式会社ヴァリューズの分析ツール
「旅行」で検索した50代以上の購入時の行動(関東在住者、東北在住者)
期間:2024年6月~2025年5月
デバイス:PC&スマートフォン
公共交通での移動が多い関東シニアにとっては「通りすがり」の出会いの引力が決め手になるかもしれません。
「旅行」で検索した50代以上の出社時の移動手段(関東在住者、東北在住者)
期間:2024年6月~2025年5月
デバイス:PC&スマートフォン
同じシニア向けの旅行であっても、限定商品・割引商品どちらのプロモーションが効果的か、電車・バスでの広告が効果的か否か、は地域によっても異なると考えられます。
こうしてデータを実際に見てみると、 頭の中のシニア像では見えてこない暮らしや価値観の違いが垣間見られます。
「概念シニア」を手放すと、価値が届きやすくなる
ありきたりの年齢区分でシニアを語ること、そろそろやめにしませんか。「近頃の若い人って…」と同じくらい空虚です。確かにデータ分析の際は便利ですが、万能ではありません。少なくともマーケティングに関わるわたしたちは意識的に年齢の枠組みを外すことをしていかないと、あっという間に無意識の刷り込みに振り回されます。
確かに、シニアを年齢別に考える方が戦略立案は楽ですし、定量的なデータの活用もしやすく関係者への説得力も増すかもしれません。しかし、「どうもしっくりこない」と行き詰まりを感じている人も多いかもしれません。特にこれからの過半数を占めていく50代以上の生活者と向き合うマーケティングにおいては、「概念シニア」をいかに撲滅していくかが鍵になります。
iPadをスワイプしながら自身の「老後」に思いを馳せた85歳の母。
シニア料金に気づき映画館へ行く回数が増えた62歳の娘。
どちらもシニアに違いありませんが、シニア当事者の心の内は抵抗感と身体的変化の実感とで本人すらも日々振り回されているほど複雑です。だからこそ、まだ価値が届いていない隙間が多いのです。
実は、一度年齢から離れてみることがシニアを理解する一番の近道です。なにしろ50歳を過ぎると個人差 がそれまで以上に大きくなっていきます。目の前の「その人」をありのままに観察して、分析する。いつの日か自分もまたその人と同じ年齢になるのだ、と思いながら向き合うと、今までとは違う景色が見えてくるはずです。
【連載の初回はこちら】シニアの「気持ち」が届かないシニアマーケティング|あしたのシニア
https://manamina.valuesccg.com/articles/43282025年、団塊世代全員が後期高齢者となる時代。しかし世間が思い描く“シニア”と、当事者の気持ちにはギャップがあります。筆者が当事者として、シニア割引の恩恵を受けながらも感じる複雑な心境や、変化する高齢者マーケティングの現場から、リアルな「あしたのシニア」像を探ります。本当の「今どきのシニア」とは何か、本連載を始めた想いや目指す場所を紹介していきます。






戦略コンサルタント。株式会社ウエーブプラネット代表取締役。
慶應義塾大学卒業後 、商業施設の企画開発会社にてターゲット戦略やコンセプト開発 、未来のくらし研究を担当。
1993年に株式会社ウエーブプラネットを設立。生活者研究、各種インサイト探索調査、コンセプト・ナビゲーション、コンサルティングなどを通して、トイレタリー ・飲料・食品・化粧品・住宅・家電・住設など、 さまざまな大手企業のマーケティング支援に携わっている 。時代と生活者の価値観やインサイト、企業理念等を言語化していくプロセスに定評がある。
近著『いちばんわかりやすい問題発見の授業』