世界のトレンド!Plant-Based Food(プラントベースフード)
■プラントベースフードとは
いま、世界的に注目を集めている「プラントベースフード」とは、植物由来の原材料から作られた食品を指します。これらは畜産物や水産物に似せて作られていることが特徴です。
動物性食品を避けるヴィーガンの人々をはじめ、植物性食品を積極的に取り入れながらも、健康や栄養バランスを重視する柔軟な食生活を実践する層からも広く支持されています。近年では、欧米を中心に世界中でプラントベース食品の市場が急速に拡大しており、消費者の関心の高まりとともに製品の種類や品質も向上しています。
プラントベースの食事法は、心臓病・糖尿病・がんといった慢性疾患のリスクを軽減する可能性があるとして、医療や栄養の分野でも注目を集めています。
また、現代のライフスタイルに合わせて開発されたプラントベース食品のなかには、卵や乳製品、さらには一部の添加物を含むものもあります。この多様性と実用性から、より多くの消費者に受け入れられつつあるのです。健康・環境・そして選択の自由を重視する価値観の広がりが、プラントベース食品の普及を後押ししています。
参考:消費者庁「プラントベース食品って何?」
■世界のトレンド
近年、プラントベースフード市場はニッチな分野から、いまや主流に成長しており、世界的に注目を集めています。2022年には市場規模が約442億米ドルに達し、2025年には778億ドル、2030年にはさらに倍以上に成長すると予測されています(Statista)。健康や環境への意識が高まるなか、プラントベースフード市場の将来性は、企業・政府・消費者それぞれのレベルで注目されています。
しかしながら、プラントベース市場は注目を集め続けている一方で、思うように売上が伸びていないという現状も見逃せません。インフレによる住宅費・生活必需品の価格上昇など、経済的なプレッシャーが消費者心理に影響を与え、一部の消費者が価格面でのハードルを感じ始めているのです。
それでも、プラントベースフード市場には、長期的に成長していくための強固な基盤があります。健康や環境への意識の高まりを背景に、いまや幅広い層の消費者がプラントベース製品を試すようになっているのです。製品の多様化やマーケティングの工夫により、消費者にとって「試す価値のある魅力的な選択肢」として受け入れられています。今後は、価格と品質のバランスが期待されています。
参考:
Statista「Plant-based food market value worldwide 2030」
NIQ「Key Plant-Based Market Trends 2024」
■タイのトレンド
欧米を中心に伸びはじめているプラントベースフード市場ですが、タイにおいても関心が高まっています。背景には、糖尿病など生活習慣病の増加を受けて、消費者の健康意識が高まりを見せていることが挙げられます。
健康志向の高まりに加え、タイ政府の政策も市場拡大を後押ししています。というのも、タイ政府は「世界のキッチン(Kitchen of the World)」政策の一環として、プラントベースフードを新たな輸出産業と位置づけているからです。農業の多様性と加工技術の進展により、タイは高品質な植物性原料の生産拠点としても優位性を持っています。
2024年のタイ国内におけるプラントベースフード市場の規模が、約450億バーツに達すると予測されている点にも注目です。年平均成長率(CAGR)は約10%と、堅調な伸びが見込まれています(タイ商務省貿易政策戦略局 / TPSO)。これにより、タイはアジア地域におけるプラントベースフードの製造・輸出拠点としての地位を確立しつつあります。
参考:
Statista「Food trends in Thailand - statistics & facts」
USDA & GAIN「Report "Plant-Based Food and Beverage Market in Thailand"」
Thai Times「Thailand's Plant-Based Food Industry:A Global Ambition」
タイのプラントベースフード市場の展望
タイ政府は、「世界のキッチン」という国家戦略のもと、食品産業全体の国際競争力強化を進めており、プラントベース食品産業の育成も、その中核をなす分野の一つとして位置づけられています。特に商務省貿易政策・戦略事務局(TPSO)は、農業資源の豊かさと加工技術・イノベーションの進展を背景に、タイを「植物性原料のグローバル供給拠点」とするビジョンを明確に打ち出しています(World Bio Market Insights)。
TPSOのナイヤナパコーン局長は「農産物を単なる原材料としてではなく、付加価値の高い植物性食品へと加工するための、技術・研究開発・投資誘導・マーケティング戦略の強化が重要」と話しています。それにより「農業国」から「食品技術輸出国」への転換を目指しているのです。
■今後の展望と可能性
世界のプラントベースフード市場は、2030年までに2倍以上に拡大する見込み(Statista, 2024)です。
タイのプラントベースフード市場も、2024年に約450億バーツ規模に達すると予測されており、年平均成長率(CAGR)は約10%と見込まれています。
政府は、食品の輸出振興だけでなく、農家・中小企業の参入支援、国際認証取得(例:ハラールやヴィーガン認証)のサポートにも積極的です。
「ウェルネス・ツーリズム」や「健康志向の高まり」を追い風に、観光産業との相乗効果も期待されています。
タイは、単に輸出志向の食品大国を目指しているのではありません。プラントベースというグローバルな食の潮流を捉えながら、国内農業・産業・観光の価値創出を同時に図る、多層的な戦略を進めているのです。
参考:
World Bio Market Insights「Thailand seeks global leadership in plant-based ingredients amid growing demand"」
The Nation「TPSO unveils roadmap for Thailand’s plant-based food journey」
The Nation「Commerce Ministry promotes Thailand as source of plant-based foods」
vegconomist「Thailand Releases Policy Roadmap to Become Global Hub for Plant-Based Proteins」
タイでプラントベースフード市場が拡大する3つの背景
タイにおけるプラントベースフード市場の拡大の背景には、健康意識の高まりや国の政策だけでなく、プラントベースが受け入れられやすい文化的背景があると考えられます。ここからは、タイ人のプラントベースに対する考え方の背景を、いくつか掘り下げていきます。
・ギンジェー
・仏教的価値観
・ハラール
■ギンジェー(กินเจ)との親和性
ギンジェー(กินเจ)とは、毎年10月頃に約10日間にわたってタイで開催される菜食祭で、中国の伝統に由来する行事です。この期間中、人々は動物由来の食材や、ニンニクやニラなどの臭いの強い野菜、アルコールやタバコなどを避けた食生活を送ります。
黄色の背景に赤文字で「ジェー(เจ)」あるいは、漢字の「薺(ジェー)」が書かれた旗を掲げるのが、祭りの象徴です。また、基準に適合した食品には、パッケージに「เจ」マークが記されています。
このような背景から、ギンジェーの期間中は植物由来の食品、いわゆるプラントベースフードの需要が一気に高まります。タイ国内でも近年プラントベースフード市場が拡大していますが、ギンジェーはその需要を後押しする重要なタイミングといえます。
参考:
JETRO「2024年のタイの菜食週間、10月3日から11日まで」
true ID「กินเจไปทำไม? เทศกาลกินเจ 2567 รู้ให้ลึก ประโยชน์การกินเจ กินอย่างเข้าใจ」
■仏教的価値観とのつながり
タイは、国民の9割以上が仏教徒を占める仏教国です。そして、仏教には「不殺生」という考え方があり、動物の命を奪わないことが徳を積むことにつながるとされています。
タイでは、多くの人が日常的に肉類を消費していますが、年に一度のギンジェーでは、厳格な菜食を実践する人が増えます。この時期、多くの人が「心身を清める」「カルマを浄化する」「徳を積む」といった宗教的・精神的な目的のもと、自然とプラントベースの食事を選ぶようになるのです。
また、こうした菜食文化を一時的なものにせず、仏教の価値観に根ざして、日頃から動物性食品の摂取を控える人も一定数存在しています。このように、タイではプラントベースフードが宗教的価値観と深く結びついており、今後の市場拡大に向けて高い潜在力を持っているといえるでしょう。
参考:
THAILAND DIVERS「タイのベジタリアン料理」
sanook「"กินเจ" ได้บุญจริงหรือไม่? แล้วทำไมถึงได้บุญ!」
Statista「Share of Thai population in 2021, by religion」
■ハラールとの相性
タイでは、ムスリム人口が全体の約5〜6%(2021年時点、Statista)を占めており、特に南部では多数派です。人口比としては少数派ながら、宗教的に食の制約があるため、ハラール認証を受けた食品の需要は非常に高いといえます。
ハラールとは、イスラム法において「許されているもの」を意味します。食品においては豚肉やアルコールを含まないこと、動物性原料についても適切な屠殺方法(ザビーハ)が施されていることなどが求められます。
このような厳格な規定のなかで、植物性の素材を中心とするプラントベースフードは、比較的ハラール認証を取得しやすいという点が特長です。というのも、プラントベース食品は、動物由来成分を含まないか、ごく最小限にとどめていることが多いからです。
実際、タイのハラール認証を担う中央イスラーム委員会(CICOT)の発表によれば、2024年2月時点で認証を受けた企業は6,367社、製品数は17万点を超えるとされています。ハラール関連産業は、国家戦略の一環として明確に位置づけられているのです。
また、タイ政府は2027年までに同国を「東南アジアのハラールハブ」とすることを目指しており、今後ハラールへの注目はさらに高まると見られています。こうした状況のなかで、動物性原料を使わずとも高タンパク・高栄養価を実現できる、代替肉やプラントベースフードは、ムスリム消費者にとって魅力的な選択肢となります。特に、豚肉の使用が禁じられているムスリムにとっては、「豚由来でないことが明確であり、製造過程も衛生的・透明であること」が大きな安心材料となるのです。
参考:
Statista「Share of Thai population in 2021, by religion」
PRD「Thailand Sets Goal to Become ASEAN Halal Hub by 2027」
JETRO「ASEAN主要国におけるハラール認証制度比較調査」
おわりに
タイのプラントベースフード市場は、今後ますます注目を集め、成長を続けると予測されています。消費者の関心が高まるなか、持続可能性や健康志向を意識した製品の需要が拡大し、新商品の開発や購入者層の拡大にもつながる可能性があります。今後も進化を続けるタイのプラントベースフード市場から目が離せません。
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2024年に半年間、タイのタマサート大学に留学し、現地でタイ語と文化を学んだ。