これからのファミリービジネス ~ 一族の仕事

これからのファミリービジネス ~ 一族の仕事

日本では国内企業の9割以上、上場企業の4割を占め、経済を支える重要な存在である「ファミリービジネス」。創業者一族が経営と所有を担い、世代を超えて事業を継承する企業形態を持ち、長期志向や理念の一貫性・迅速な意思決定といった強みがある一方、私物化や閉鎖性などの課題も抱えます。「ファミリービジネス」の持続的成長に求められるガバナンス整備や家訓・家憲の明文化などにも触れ、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


友人の一族

親しくしている友人の一族は東京23区内で化学関連の企業を経営しています。
本社工場は都内の一等地付近にあるのですが、騒音や悪臭等の問題を抱えていて規模を縮小して生産しています。千葉や茨城などにも工場がありますが、生産している製品が異なるのと創業者時代から取引が続く近隣のお得意さんのそれぞれの要求・要望に沿ったオーダーメイドの製品を作っているため、なかなか本社工場を閉鎖して郊外の工場に移転するのは困難なようです。

友人はこの会社には就職せず公務員として働いていますが、この会社は友人の祖父が興し、その子供達は男性3名女性1名の計4名で長男の叔父が社長を継ぎ、友人の父は次男で専務、弟の叔父が常務、妹の夫である義理の叔父が取締役と見事なほど一族で経営している典型的な中堅企業です。現在は友人の従弟である叔父の長男が3代目の社長を引き継いでいます。

一族経営は端から見ると肉親という血のつながりがあり、気心知れ合っていて一族の隆盛とビジネスの継承を目標に励むという大義名分もあり、働く環境としては比較的高いモチベーションを維持出来ると思われます。
オーナー企業という形態の殆どはオーナーの親族が中心であり、家族全員が何らかの形でビジネスに関与して盛り立て、発展・継続させています。ただ、企業の規模に関わらず親族内の不仲や相続などの揉め事で企業活動が低迷したり、親族間のつながりが希薄になるケースも見受けられます。

友人の一族

ファミリービジネス(同族経営)

ファミリービジネスとは創業者一族が経営権と株式を保有し、世代を超えて事業を継承・継続する企業形態であり、「同族会社」や「オーナー企業」とも呼ばれています。
法人税法上の「同族会社」は上位株主グループが株式の50%超を保有する会社と定義されますが、ファミリービジネスは株式比率が50%未満でも創業家が経営していれば該当します。

主に4つの特徴が挙げられます。
① 長期的継続志向。長期的あるいは永続的な成長と存続を最重視しています。
② 所有と経営の一致。多くのケースで株式保有者と経営陣は同一です。
③ 経営理念の一貫性。創業者の理念が世代を超えて受け継がれ、企業文化や企業風土が根づいています。
➃ 意思決定の速さ。企業経営において意思決定が迅速に行われる傾向があります。

一般的なファミリービジネスのメリットとしては、①比較的安定した経営状態が保てる、②長年の歴史や伝統からなる独自の競争力を持つ、③一族の絆から生まれる強固な結束力は貴重な戦力となる、④後継者の選定・決定など事業継承がスムーズに進むケースが多い、⑤長期的な観点からの社員教育・育成が出来る、などが考えられます。
もちろん、デメリットも存在します。①同族による私物化のリスク、②閉鎖的な企業文化、③変化への対応の遅れ、➃後継者及び相続問題、⑤保守的になりがちな経営スタイル、などです。

日本はトヨタ自動車やサントリーで代表されるように世界有数のファミリービジネス大国であり、実に国内企業の9割以上、上場企業の4割が同族経営の形態なのです。

一族郎党

「一族郎党」とは最近では使われる頻度の少ない言葉です。大学生の頃、地方の旧家出身の先輩から、毎年正月は田舎に帰って一族郎党が集まって大宴会をすると聞き、参加者は何名程でどのくらいの規模なのかなど、大変興味が湧いたのを覚えています。

平安時代に武士が興る頃から封建社会では一族郎党という一団が生まれます。一族郎党とはもっぱら、武士の時代に主君に仕える家来達を含む表現として使われました。

現在では血縁関係や家族のみならず、同じ目的や価値観を共有する仲間を指し、単なる血縁者に留まらない意味を持つことがあります。同類語も、眷族、眷属、一門、一味徒党、親類縁者など多数存在します。

家族との意味の違いは家族が個々の生活基盤を支える現実的な集団を指すのに対し、一族郎党は主に歴史的・文化的な文脈の中で使用されることが多いようです。

平家物語や太平記など日本を代表する軍記物語では、棟梁が一族郎党を従え、戦に勝利し一族に繁栄をもたらすか、あるいは戦に敗れ無念の内に一族郎党共に滅亡するか、運命の過酷さや切なさを教えられます。

一族郎党という言葉に潜む『盛衰』と『無常』。そこに、咲き誇る「大輪の花」と散りゆく「徒花(あだばな)」を思い浮かべ、日本人の美意識をそそる言葉の象徴と捉えてしまうのは決して大袈裟では無いと思います。

一族郎党

ファミリービジネスとガバナンス

私物化しやすく、公私混同が起こりがちなファミリービジネスにはガバナンス(企業統治)を整備し、開かれた環境づくりが必要です。外部から公平で不正の無い経営を行っているかについて定期的なチェックが求められます。

経済産業省は中堅企業を日本経済の成長を支える重要な存在と位置づけ、その多くを占めるファミリービジネスの支援を強化しています。独自の強みを活かしつつ強化すべきガバナンス面での課題を解決し、サステナブルな成長を促すのが目的です。

同省は2025年3月に「ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会」を設立。全4回の議論を通じて、ファミリービジネス向けのガバナンス規範を策定しました。この規範は欧米を中心に早くから導入が進んでいて、日本では3600社程ある非上場の中堅企業での活用を想定し、ガバナンスの強化と共に円滑な事業継承計画の後押しを主眼としています。
創業一族が関わる企業について、「世代を超えて株主または経営者として企業の存続や発展に重要な役割をもたらす会社」と定義し、創業家の理念などを明文化して社内外に示すことを推奨しています。

日本にも古くから「家訓」や「家憲」といったファミリービジネスのガバナンスと相通ずる伝統的な概念が存在します。それは家族の価値観や事業を次の世代に円滑に引き継ぎ、家族間のバランスを保ちながら『家』を発展させる仕組みとして代々引き継がれた『知恵』です。

海外に目を向けると、「ファミリー憲章」(ファミリーの価値観、ビジョン、経営への関与方針、資本の継承ルールなどを明文化したもの)や「ファミリー評議会」(家族間の価値観を共有し、重要事項の意思決定を行う場)といった仕組みが一般的に活用されています。これらの仕組みにより、曖昧な意思決定や家族間の対立を未然に防ぐことが期待されています。

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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渡部数俊

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