手ごろさ
自分の食生活で外食は流石に減りつつありますが、中食は増えている気もします。
以前は仕事中のランチは勤め先や訪問先近辺で済ますのが日常でしたし、夜も接待や懇親会、仲間内の飲み会などが多く、自宅で夕飯を食べるのは土日祝日くらいでした。外に一人でお酒を飲む習慣は無いので、必ず誰かしらと夜は情報交換と称して会食していました。
一回当たりのお酒を飲む量は少量でも毎日だと体への負担も大きく、高血圧や高脂血症に悩まされた時期もありました。
ただ、二日酔いの朝でも何とか起き出して出勤し、仕事を捌き訪問先へ出向き、遅刻したり出勤時間を後ろへずらすなど怠惰な勤務をした経験はありません。根性?というより、我々世代にはそれが当たり前でした。
接待や上司、有識者達と食事する際はそれなりのお店を予約して緊張しながら臨んだものですが、飽きること無く毎日のように続いた仕事終了後の同僚達との飲み会では、出来るだけ安くて美味しい行きつけを目指し、旬な情報を得るのを生き甲斐のように参加したものです。
さらに、同期や少し上の先輩、それなりに対応すべき人との食事では、手ごろであまり高く無く評判の良いお店を探し出しました。特に幹事を任された場合は仕事の延長であり、個人の評価にもつながります。
幾つかの手ごろなお店を銀座や六本木、新宿といった人気の繁華街に2,3軒見当があることは、社会人生活を順調に進めるための大事な知恵(知識)だと確信します。
アフォーダビリティ(affordability)危機
米国ではアフォーダビリティ(価格などの手ごろさ)やアフォーダブル(手が届く価格の)という言葉が流行語となっています。しばしば危機と結び付けられ、アメリカの流行語をそのまま取り入れがちな欧州では「生活費危機」という言い回しで広まっています。
因みに昨年は、生成AIが量産する意味の無い低品質な文章や画像などの生成物「AIスロップ(slop)」やインフルエンサーや物語のキャラクター、あるいはAIなどとの疑似的な親密関係「パラソーシャル(parasocial)」、『炎上』を狙うコンテンツなど怒りを煽る投稿「レイジ・ベイト(rage bait)」といった言葉が流行りました。
アフォーダビリティという言葉自体は状況次第で様々に使用され、その意味は捉えどころがありません。
「アフォーダビリティ危機」とは日常的に購入する商品の価格の高騰が念頭にあります。ただ、それだけに話は限りません。
社会が豊かになるにつれ家計の支出に占めるモノの割合は低下し、サービスへの支出の割合が増加している状況に対し、製造業は大幅な生産性の向上がみられます。
一方でサービス業の改善は限定的であり、サービス価格の高騰に不満を持つ人々が増え続けている現状があります。欧州では医療や住宅賃料といったサービス価格が強く規制されているため値上がりでは無く供給不足が生じ、その結果「順番待ち」といった現象が珍しくありません。
日本でも首都圏や近畿圏などでの地価上昇による住宅価格や賃貸価格の上昇による「アフォーダビリティ危機」が既に社会問題化しています。
アフォーダブル・ラグジュアリー
原材料費や人件費の高まりを主因とする値上げによりラグジュアリーブランドは文字通り「高嶺の花」となっています。国内を見廻すとラグジュアリー業界は決して順調に推移しているとはいえません。
そこで、ラグジュアリーブランドを補完、あるいは代替するかもしれない新興勢力のブランドや商品であるアフォーダブル・ラグジュアリーの勢いが止まりません。
アフォーダブル・ラグジュアリーは高級感を保ちながらも従来のラグジュアリーブランドよりも手ごろな価格帯で提供されるブランドや商品であり、「手に届く贅沢品」とも表現され、頑張って買える価格帯にあるのが特徴です。
10年程前にはコンテンポラリーブランドと呼ばれていたものに相当し、ターゲットとしてはラグジュアリーブランドには手が届かなくても少しでも良いものを求める層であり、ハイカジュアルブランドよりは高価な価格帯のため、価格帯としては中間に位置します。
世界中で資産の二極化が進む現状でアフォーダブル・ラグジュアリー市場は競争が激化していますが、多くの見込み客も存在するため、今後も拡大・進化し続けると予想出来ます。
最近では特にミニマルなデザインで定番を育む北欧やフランスを拠点とするブランドが注目されています。
アフォーダブル住宅(割安住宅)
都市部に住む主に低・中所得者層の人々が手ごろな価格で居住出来るように設計された住宅がアフォーダブル住宅です。都市部で暮らす人々の住宅問題を解消し、持続可能な都市生活を実現するために有効な施策です。
アフォーダブル住宅は既に米国や欧州で広く普及しています。米国の20/80プログラムでは、ニューヨークに新たに建設される集合住宅の戸数の20%を一定期間低所得者層に提供し、その物件は低利融資・税制優遇を受けられる制度が設けられています。
他にもニューヨークでは、市がセクション8という低・中所得者用の最低60%以上の家賃を補助するプログラムも実施しています。
日本の住宅支援策としては公営住宅やUR賃貸住宅、特定優良賃貸住宅、セーフティーネット住宅(国土交通省)などがありますが、著しく地価が上昇している東京都は「東京都の少子化対策2025」において安心して子供を産み育てる社会の実現を目指し、2025年1月に「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」を組成する方針を発表しました。
ファンドの中身は東京都が100億円、民間資金も100億円と総額200億円規模を想定しています。2026年度から市場価格より2割程安い家賃で住める割安な住宅の提供開始する予定です。
東京都は手始めに外郭団体である東京都住宅供給公社(JKK東京)と連携し、既存の公社住宅を年200戸、合計1200戸を供給する予定です。公社住宅のうち周辺の環境や間取りが子育て世帯に適した既存住宅を活用し、最大12年間住むことが可能です。
一部に年収制限を導入するものの、対象は新規に入居する満18歳未満の子供がいる世帯や新婚世帯であり、子育てや結婚・出産を望む世代を支援し、相応しい住宅を確保するのが目的です。
経済や景気をめぐってはその動きを予測するストーリーが定着すると修正が困難になります。
「アフォーダブル危機」も繰り返し話題に上ることで現実化する恐れがあります。





株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。