離島
島を訪れる機会は殆どありませんが、旅に出た先の海岸から海の彼方にポツンと浮かんでいる島には非日常性を感じます。瀬戸内海やハワイのマウイ島を旅した際には幾つかの島々がそれこそ目の前に現れ、この辺りに住む人にとって島々は身近な存在なのだと実感しました。
特に離島に住みたいと思ったことはありませんが、子供の頃からロビンソン・クルーソーのように島に一人取り残されてしまう夢をよく見ていたような気がします。軍記物や冒険譚、海洋小説などを大量に読み漁った頃、常に主人公達の残存が頭の中で去来したため、その行動をなぞっていたのでしょうか。
今まで読んだ中でも印象に残る登場人物は「ロビンソン漂流記」のロビンソン・クルーソーを筆頭に「宝島」の海賊ジョン・シルバー、「白鯨」の老捕鯨船長エイハブらであり、海の広大さとその底知れぬ深さを恐れると同時に彼らの大活躍に心躍ったものです。
日本では離島は保元物語の源為朝(鎮西八郎)、平家物語の俊寛僧都、太平記の後醍醐天皇など日本史の主人公達の流刑地としての印象が強く、歴史的かつ神々しい存在として捉えがちです。
島嶼国日本では国内に300以上の離島があります。
2020年時点で人口の多い順に10島は、①奄美大島(鹿児島県)、②佐渡島(新潟県)、③宮古島(沖縄県)、④石垣島(沖縄県)、⑤福江島(長崎県)、⑥対馬島(長崎県)、⑦種子島(鹿児島県)、⑧小豆島(香川県)、⑨壱岐島(長崎県)、⑩徳之島(鹿児島県)。
離島は本島以上に急速な人口減少と高齢化に見舞われています。
島と嶼(しょ)
日本は6,800以上の島々から成り立っています。
一般的に周囲を海や湖に囲まれた陸地を島(しま)といいます。地理学では大陸よりも小さな陸地であり、世界で最も小さな大陸であるオーストラリア大陸の面積より小さく、海洋法に関する国際連合条約では「自然に形成された陸地であり、水に囲まれ、高潮時にあっても水面上にあるもの」と定義されています。
島は大きな島、嶼(しょ)は小さな島を意味し、島嶼とは周囲を海洋で囲まれた本土とされる島に比べて面積が狭い陸塊であり、各島全体を一つの地域として把握する地理的概念です。
離島とは北海道、本州、四国、九州及び沖縄本島を除く島の中で、一般的に本土とされる島と橋梁等で繋がれていない周囲0.1㎞以上の島とされています。本土から距離が離れ交通・生活サービスが限られる島々を指す社会・行政的な概念なのです。
注目著しいレアアース(希土類)が南鳥島沖で埋蔵が確認され、採掘・回収が話題となっています。
島嶼国日本の国土面積は世界で60位程度ですが、排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積は世界6位で、離島の存在が国土の約12倍の海域をもたらしています。
このように海に囲まれる日本において離島は国土を守り、海洋資源の活用を促し、豊かな生態系や自然環境の保全など重要な役割を担ってきました。
また、文化的には島固有の伝統や風習、歴史遺産が日本の文化に多様性と深みをもたらしているのは誰の目にも明らかです。
島抜け
遠島や島流しで代表される流刑の歴史は古く、西暦5世紀で日本書紀にも登場します。謀反のような重罪を犯したものの死刑は免除された代わりに、孤島に送られてそこで生涯を全うする定めが見て取れます。
その実情は多くの罪人にとっては、死刑より惨い過酷な世界でした。
江戸時代に入り太平の世の中となりましたが、流刑者が増えます。流刑先は江戸の場合は主に伊豆七島、西国の場合は五島列島や隠岐などとされていました。
流刑生活は食うや食わずで、「渡世勝手次第」といわれる見知らぬ土地へ放り込まれて自活を求められました。
食べ物が無いと、餓死か犯罪かの二者選択となるため、島民も見捨ててはおけず、自分達の作物を収穫したあとの畑を流刑者に開放して、残り芋などを提供する「施餓鬼(せがき)」が行われました。
住まいは「流人小屋」と呼ばれる掘っ立て小屋でした。このような島での厳しい生活や望郷の念から、島抜けや島破りといわれる島から脱出し、本土へ戻ろうと試みる流刑者もいました。
過去に25件の脱出の事例が確認されていますが、脱出不可能な天然監獄八丈島から島抜けに成功したのは、侠客佐原喜三郎と吉原の遊女花鳥その一行のみ。
一行は海上生活6日間の末、本土に上陸。特に一行7名の内1名は再逮捕されず行方をくらましたようです。
他にも島抜けにまつわるエピソードは数多く存在しますが、吉村昭の小説「島抜け」はその試みの一つを描いた名作です。
離島の現状
離島振興法や沖縄・奄美・小笠原関係3法が指定する離島は2025年4月時点で国内に306あります。
公益財団法人日本離島センターによると、1995年に約135万人だった離島人口は2020年時点で約57万人へと減少しました。
離島の人口が減少し続けると行政サービス等で様々な問題が浮かび上がってきます。
①医療施設の閉鎖や無医化。無医地区では急患はドクターヘリや島民が運営する緊急搬送用の船を使うしかありません。医療施設が存在しても最低限の設備しか無く、治療等の出来ることも限られます。
②困難な老朽インフラの補修。インフラの老朽化も進み、海底送水管のある自治体での補修や更新は専用の船やダイバーによる作業が必要で、陸地の水道管より費用がかかります。
③深刻な行政職員の不足。同県内の他の離島自治体と共同で職員採用試験を実施するものの採用は極めて困難です。
➃離島航路の減便や廃止。船員や港湾作業員の不足や乗客数の減少、民間事業者の経営難などで航路減便や撤退も相次いでいます。
離島に人が住まなくなれば、尖閣諸島のように外国が領有権を主張してくる可能性が高まります。今までも離島の住民は密漁や不審船の監視、海難救助などに携わり、海の治安に貢献してきました。
国は2016年に「有人国境離島法」を制定し、国境の離島に人が住み続けられるよう地域活性化に取り組む指針を示しています。国や自治体はICT(情報通信技術)を活用した遠隔診療をはじめとした公共サービスの維持やAIを使った自動航行船の実証実験を始めています。また、住民によるドローン操縦も物資輸送や災害時の被災状況の把握で有益です。
「日本の縮図」といわれる離島。人が住み続けられるかどうかの重大な岐路に立たされているのです。






株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。