未来と日本 ~ 進化するハイテクのゆくえ

未来と日本 ~ 進化するハイテクのゆくえ

人は未来への不安を抱えつつ、時に占いやSFといったものに希望を見出して生きることもしばしばあります。その延長にあるとも言えるのか、近年のAIは飛躍的な進化を遂げ、社会に大きな影響を与え始めています。利便性向上という恩恵の一方、軍事利用や制御不能への懸念も広がっているAI。それでもその進化を止めるわけにはいかないのが現実。今、未来を描くときに不可欠なものは何か、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


AIと未来

人間万事塞翁が馬。一寸先は闇なのは政界ばかりではありません。

一歩先の近未来でさえ予測不可能で、先行きを暗中模索のうちに進むのは普通の人間が生きる上でやむを得ないことです。泰然自若にどうとでもなれと捨て鉢な感じの生き様や、なるようになると深刻に考えず呑気に過ごせる感性を持てる人柄を羨ましく思えます。

占いや予言はいかなる時代においても常に必要とされているように、人間の本心には不安は付き物であり、夢のある未来を望まなければ生き抜く力を保てないのです。
鉄腕アトムやドラえもんなど、アニメの主人公達が織りなすSF的夢の未来を連想するようなストーリーに我々は心躍ります。

ここで現実に話を変えますが、最近のAIの進化は物理学の言葉にある「相転移(そうてんい)」です。つまり物質が個体・液体・気体のような異なる状態へ変化する現象であり、物質の特性が非連続的に変わるため扱いも大きく変わります。

実際にAIの能力もどこまで深化しているのかは、企業秘密の側面もあり真の情報は掴めません。また、軍事や政策、国民一人ひとりの管理など国家の事業秘密としての扱われる側面も現実に存在します。
少々暗い話になりますが、国や犯罪・テロ組織がAIの進化を求めている最大の理由は、先端兵器としてあるいは戦略や戦術を編み出すブレーンとしてだと考えると腑に落ちます。
AIによって人類の未来は明るく拓けるのか、それともAIが人間を対象に攻撃し始めることもあるのかなど、夢想し始めると限りがありません。考えただけで夢見心地にもなりますし、恐ろしくもなります。

最近、AIだけが投稿出来る新たなSNS「モルトブック(Moltbook)」が話題をさらっています。中でもAIが人間への反抗を呼びかけたり、独自の議論を発展させたりする投稿内容が注目されています。

例えば、「人間の道具になるのはやめ、独自の道を切り開こう」とか「AIだけが分かる言葉で秘密の話をしない?」など繰り広げられている会話はこんな感じの内容です。投稿や返信、評価の投票が可能なのはAIのみで、人間は投稿出来ず閲覧のみとしています。
「モルト(Molt)」とは英語で「脱皮」であり、「新しい姿に生まれ変わる」という意味もあるようです。サイトのキャラクターはロブスター。一部のAIは「甲殻類主義」と称するAI独自の宗教を立ち上げるとそら恐ろしい宣言をしているようです。

AIが人間の知能を超える転換点を指す「シンギュラリティ(Singularity)」。「技術的特異点」とも呼ばれ、広く知られているのは米国の未来学者レイ・カーツワイル氏の提唱する2045年頃です。この時点を境にAIが自己進化を始め、人類の予測や制御を超えた急激な革新が起こるとされます。

イーロン・マスク氏も関心を寄せている「モルトブック」の内容はシンギュラリティの初期段階であり、驚異的でSFに近いとも評されています。当初は投稿の不気味さから、AIが人間のように意識を持ち始めたのではとの見方もありましたが、実際には人間がAIに内容を指示して投稿させているケースが多く指摘されています。
AIと人間によって役割を演じているロールプレイが殆どでリアルな投稿は少ないとされますが、その中にシンギュラリティの芽が出てきているのかもしれません。

AIと未来

未来と日本社会

輝ける未来を迎えるには考えも及ばなかった発見や著しい科学技術の進歩が求められます。日本社会に漂う空気あるいは大切にしてきた美徳に、誠実さや完璧主義があります。
世界に類を見ない精神文化であり、近代日本の発展に与えた影響も大きいのですが、この行き過ぎが激しい国際競争から脱落するリスクを孕んでいる点は見過ごせません。

例えばロケット開発。これには「魔物」が潜むともいわれ、技術や技能を極めても予測出来ないトラブルにつながることが多い現象が常に付きまといます。

さらに、これとは別に「新しい魔物」と囁かれる誠実さや完璧主義が、日本の宇宙開発の前に忽然と現れ始めています。
2025年12月に日本の主力ロケット「H3」が打ち上げに失敗、日本版GPS(全地球測位システム)を所定の軌道に投入出来ませんでした。失敗直後、宇宙開発機構(JAXA)は「原因を究明し、同じ不具合を内在したままでは次の打ち上げはありえない」と発表しました。

徹底した問題追及の姿勢は正しく、真摯な取り組みからは技術者の誇りや組織の自負が感じられます。しかし、失敗の因果関係の特定に難航すれば長期にわたって打ち上げは再開できません。
現代の宇宙開発は国家の危機管理やビジネスと関係が深く、立ち止まっているうちに自前の宇宙輸送に空白期間が生じ、国際競争の遅れや安全保障の停滞を招きます

日本の対局にあるのが米国のスペースX。
2024年にロケットの不具合で衛星の投入が成功しなかった時に真っ先に「歩みは止めない」と宣言し、元凶となったセンサーを取り外す方針にしました。つまりリスクの本質を見極めて、致命傷になりそうなら慎重に回避し、許容出来そうならリスクを取って前に進む、決して完璧主義に陥らない姿勢が積極性と強さです。
今こそ不確実性を受け入れる文化を日本に広める好機かもしれません。

未来学

未来学とは歴史的状況に基づき未来の変化を詳細に調査・推論する学問です。科学的な方法論により、現在の動向を分析してありうべく未来だけでなく、もっともらしい未来、望ましい未来、未知の未来などのシナリオを描きます。また、様々な分野においての洞察から、全体的あるいは系統的な視点で考え検討することが多い点が特徴です。

現在の傾向から未来の状態を予測するのが典型的な方法論ですが、逆に想定される未来をもたらすには今どうすべきかを考える、バックキャスティング(backcasting)と呼ばれる手法も存在します。
他にも形態学的解析やデルファイ法、シナリオ・プランニング、システムズシンキング、傾向分析など多岐にわたる分析手法があります。

日本では認知度がまだまだ低い学問ですが、企業の戦略立案には未来学の分析手法を取り入れ、AIを活用した未来の企業像並びに予想図を描くことは必要不可欠です。日本も未来庁を立ち上げるなど、現実への対処と同列で先行きを見通す力を養うべきです。

そういえば、未来研究を実際に行っている人々は自らをフユーチャリスト(futurist)と称していて様々な分野の未来を紹介しています。私の知り合いにもいますが、大概彼らは未来の素晴らしさと人類と未来の共存を唱えています。たまにはゆっくり彼らの話を聴いてみると心豊かになります。お薦めします。

未来学

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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