国立科学博物館
子供の頃、親に連れられ上野の森へ行くのは楽しみでした。
上野恩賜公園は日本で最初の都市公園であり、動物園や国立西洋美術館などの美術館、東京芸術大学、東京文化会館、国立科学博物館など東京の文化の一大拠点です。
上野は明治新政府軍と彰義隊が激戦を繰り広げた上野戦争の旧戦場で、鎮魂の地でもあります。西郷隆盛の銅像がある事でも知られていますし、ベースボールを野球と命名した明治時代の俳人正岡子規の記念碑球場もあります。不忍池の蓮も忘れるわけにはいきません。
最も行く機会が多かったのは1926年に開館した国立科学博物館です。威圧的な建物と博物館の外にある世界最大の哺乳類であるシロナガスクジラの実物大の模型が印象的です。
博物館の内部で目立つのは、4階の天井からつるされているフーコーの振り子の再現です。天動説が常識的と考えられた世の中に対し、フランスの物理学者レオン・フーコーは振り子によって、地球の自転を実験的に証明しました。
日本館では日本列島の成り立ちから現代に至るまで、人間や生き物、自然などの生態を時代に沿って展示してあります。地球館では地球の歴史を大型映像なども駆使して紹介しています。
国立科学博物館では学んだというより遊んだというイメージが近いのですが、自然に知識が身についたような気がします。つまり、そのような役割を担っているのが博物館なのです。
博物館の現状
1952年に施行された博物館法によると、総合博物館、歴史博物館、科学博物館の他、美術館や動物園,水族館なども博物館に含まれます。
2023年に施行された博物館法改正により、設置者についての規定は無くなりました。改正以前は地方公共団体、一般社団法人もしくは一般財団法人、宗教法人、または政府で定めるその他の法人(日本赤十字社と日本放送協会)のみが博物館の設置が許可されていました。
公立博物館と私立博物館の双方に、所管地域の教育委員会の登録を受けることによって、「博物館法上の博物館」すなわち「登録博物館」となります。加えて、「登録博物館」に準じた「指定施設」の合計は全国で1400カ所を超える数が存在し、法的な位置づけを持たない「博物館類似施設」も4000カ所強数えます。
文部科学省の調べで、入館者数は2017年には1億4000万人を超えるまで増えたものの、新型コロナ禍の2020年には2017年の半数以下まで減少しました。最近ではインバウンド観光客も増え、コロナ前の水準以上の回復を見せています。
郷土の歴史や産業、芸術・文化などを伝える地域の博物館は生涯学習の拠点として存在感を見せています。施設の拡充や展示の魅力で広く来場者を呼び込み、幅広い年齢層が参加できる様々な仕掛けやイベントが実施されています。また、シニアを中心としたボランティアの活用で市民との接点も深まっています。親しみやすい展示やデジタル公開、産官学の連携を図った運営方法を通じて、地域に欠かせない老若男女の学びの場としての存在価値が増しているのです。
同時に、各地の博物館は収納スペースの不足といった問題を抱えていて、その対策に頭を悩ましています。
企業ミュージアム(企業博物館)
企業ミュージアムは企業が自社の歴史や製品、技術などを展示するために設けた施設です。企業によって設立の目的が異なり、それぞれの施設によって展示や運営の手法も異なります。
一般に開放している場合とビジネスパートナーにむけてのみ公開しているものがありますが、企業の姿勢や歴史を紹介しながらブランドの理解を促進させることは同じです。
製造の様子や過程などを覗き、製品ブランドの背景を直に感じることにより理解度が深まり、企業と生活者との距離を縮めることが可能になります。
企業ミュージアムも一般の博物館と同じくモノの展示がメインですが、そのモノの裏にある企業のストーリーに着目することに訪問の目的があります。
実際に多摩センターにある株式会社長谷工コーポレーションが創業80周年に設立した「長谷工マンションミュージアム」を見学しました。集合住宅の歴史やマンション建設の技術や舞台裏が学べて参考になりました。2025年4月にリニューアルされ、集合住宅の未来の姿が体感出来ます。
企業ミュージアムはインナーブランディングを推進し、社内教育や研修の機会に使用され、社員へ企業理念を伝える場としての活用も有効です。また、企業メセナとして学術研究活動を支援した研究型ミュージアムや、特定の分野で共通の事業を行っている団体が合同で運営する逓信総合博物館など多種多様です。
ショールームとの違いは、ショールームは製品展示が主体であり、顧客の購買意欲を高めることが主な目的でオフィスに併設されていることも多く、基本的に一般にむけては解放されていません。
これからの博物館
博物館法の改正により、博物館の位置づけは「社会教育施設」から「文化施設としての博物館」へと変わりました。文化芸術立国を目指す日本にとって、アーティストやクリエイターの表現活動を補佐し、育成・保護を継続しなければなりません。同時に芸術・美術、音楽などでの日本らしい文化を紹介し、裾野を拡げる必要があります。
これからの博物館は、それらを担い自らの付加価値を増大させることが求められています。
これまで博物館は資料収集・保管、展示・公開、教育・普及、調査・研究などが主たる役割でした。今後は社会性を重視し、地域との連携を深め、生涯学習の拠点としてあるいは文化観光促進の基地として博物館の役割は自然に高まるはずです。
自治体の財政が逼迫して運営交付金が減少する傾向にあり、多くの博物館は経営の基盤に脆弱性を抱えています。また、学芸員をはじめとした職員の不足といった問題も目立っています。
資金調達の手段としてはクラウドファンディングなどが考えられますが、継続するのはなかなか難しい面もあります。SNSを駆使し、ファン同士のコミュニケーションの場を盛り上げ絆を深めることで、応援する人々を増やすような独自の仕組みづくりが重要です。
ボランティアや推し活がし易い環境を生み出し、ファンと共に博物館自体が成長する道を歩むべきです。
地域に根付いたあるいは地域出身のアーティストやクリエイターの発掘・育成は必須ですし、博物館の理論的支柱である博物学を究めるためにも、海外の博物館及び大学等教育機関との交流拡大を押し進める必要があります。
博物館を地域に欠かせない学びの場として、存在感を発揮させることが大切なのです。





株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。