STP分析でターゲティングする具体的な方法と事例

STP分析でターゲティングする具体的な方法と事例

自社にとって優位なマーケティング戦略を練るうえで欠かせないフレームワークSTP分析。今回STPのうちのT=ターゲティングについて、ターゲットとする市場や顧客を選定する具体的な方法やポイント、事例をご紹介します。


STP分析とは

STP分析は3C分析などと並ぶマーケティングの基礎的なフレームワークで、Segmentation・Targeting・Positioning(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の頭文字を取ったものです。これはアメリカの経営学者で、マーケティングの権威フィリップ・コトラーが提唱したものです。以下、それぞれの概要を紹介します。

Segmentation(セグメンテーション)

市場の細分化やニーズごとのグループ化する代表的な要素として以下の4要素があります。

1.ジオグラフィック変数(地理的変数)
2.デモグラフィック変数(人口動態変数)
3.サイコグラフィック変数(心理的変数)
4.行動変数

Targeting(ターゲティング)

セグメンテーションによって細分化した市場のなかで、どこを目標(ターゲット)にするかを決めます。そのための指標として以下の6つの「R」=「6R」が用いられます。

1)市場規模(Realistic Scale)
絞り込んだ市場が小さすぎないか。利益を上げるには十分な市場規模が必要です。

2)市場の成長性(Rate of Growth)
今後成長するまだ小さな市場では、将来大きな利益を挙げられる可能性があります。

3)顧客の優先順位と波及効果(Rank & Ripple Effect)

4)到達可能性(Reach)
顧客に商品やサービスを届けられるか。東京の飲食店が大阪に対してマーケティングする効果は薄いでしょう。

5)競合状況(Rival)
ライバルが既に大きなシェアを得ている場合、その市場は魅力的とは言えません。

6)測定可能性(Response)
顧客に対する施策の効果が計測できるか。計測できれば施策を改善できます。

Positioning(ポジショニング)

対象となる市場において、自社が同業他社に対して優位になる地位=ポジションの確立を検討します。優位に立つには、価格や品質など他社に勝てる要素が必要です。

また、あらかじめ競争優位なポイントを把握した上で参入すれば、効率的なマーケティングが可能です。

各要素を用いての分析はS→T→Pの順に行うのが一般的ですが、P→T→Sのように順番を入れ替えたりそれぞれを往復させて分析するなど、柔軟な分析で効果を上げられる場合もあります。

STP分析でターゲティングする方法

ターゲティングにあたっては前述の「6R(Realistic Scale、Rate of Growth、Rank & Ripple Effect、Reach、Rival、Response)」という指標を用いるのが一般的ですが、プラスの要素として「差別型マーケティング」「無差別型マーケティング」「集中型マーケティング」の3つを使うケースを用いて、自社が競争優位に立てるターゲティング戦略を選択します。

差別化マーケティング

各セグメントに異なる商品やサービスを展開する戦略です。これは主に経営資源が豊富な大企業が取れる戦略と言われています。

具体例として、コンビニエンスストア大手のローソンでは、「美と健康」をコンセプトとし若い女性をターゲットにした「ナチュラルローソン」、生鮮食品や日用品を同一価格で展開し主婦や中高年をターゲットにした「ローソンストア100」、各地域のニーズに合わせた総菜など陳列商品を取りそろえシニアから男性、主婦など幅広くターゲットとした「ローソンプラス」というように、異なるターゲティングに対応する店舗を展開しています。

無差別化マーケティング

差別型マーケティングとは対照的に、すべてのセグメントを対象に無差別に1つの商品やサービスを展開する戦略です。マスマーケティングによって幅広い顧客にリーチできますが、顧客ニーズが細分化している昨今、通用しづらい手法とされています。

集中化マーケティング

特定のセグメントに集中してマーケティングを行います。顧客のニーズを徹底してリサーチできるので、高級ブランドやニッチな商品のマーケティングに向いています。差別化マーケティングとは異なり、マーケティング資源を抑えられるのがメリットです。

コスト面だけではなく、優位性を確立しやすいのも集中化マーケティングの特徴です。市場が絞られる分、経営資源を投入でき効率的なマーケティングミックスを実行しやすくなります。

STP分析のターゲティング実例

「ユニクロ」のSTP分析に基づくターゲティング実例

ユニクロのターゲティングがほかのファストファッションブランド、つまり、顧客属性をセグメンテーションして資源を投下するマーケティングを行っているブランドと異なるのは、ターゲットを「カジュアルでベーシックなファッションを好む」層としている点にあります。これが、無差別化マーケティングです。

セグメンテーションをあえて行わず、商品企画・生産・販売をワンストップで行える強みを生かし、顧客のニーズに合わせたアイテムを提供しています。このようなターゲティングによって、定番商品を増やして無駄を省き、リピート客の獲得に努めています。

「資生堂」のSTP分析に基づくターゲティング実例

化粧品やスキンケアアイテムを中心に取り扱う資生堂において、ターゲティングによって成功したアイテムのひとつに、海水浴を楽しむ若者用のボディケア用品があります。こちらは1969年から取り扱っていますが、海水浴に出かける若者の減少に伴い、売上も下降していました。

そこで、ターゲティングを見直し、体育系の部活動に参加する高校生に照準を合わせました。汗の匂いを気にしないで済むという点を若いタレントを起用したCMでアピールし、イメージの刷新も図った結果、売上の大幅向上につなげました。

「スターバックス」のSTP分析に基づくターゲティング実例

スターバックスの基本的なターゲット層は「平均年収以上のオフィスワーカー」とし、そのなかでもとくに専門職、デザイン職の顧客を意識しています。こうしたターゲット層の設定は店舗の内装やサービスにも反映され、独特の雰囲気を演出することで他のコーヒーショップと差別化しています。

もう1点、スターバックスで特徴的なターゲティングは、時間帯によって変化させている点です。朝は出勤前のオフィスワーカー、昼は主婦層やフリーランスワーカー、そして夜は学生や帰宅前のオフィスワーカーをターゲットとしています。

「ロイヤルブルーティー」のSTP分析に基づくターゲティング実例

レストランなどの酒席で、アルコールを嗜まない人も高級ワインやシャンパンと同じような感覚で愉しめる、ワインボトル入り高級茶飲料「ロイヤルブルーティー」。お茶としては破格の数千円から数十万円の価格です。

公式HPで紹介されている、ロイヤルブルーティーを「愉しめる」ホテルや旅館、レストラン、バーは、高級店ばかり。その理由は当初よりホテル、旅館、レストラン、日航国際線ファーストクラスなどの高級店に販売先を限定し、高級品というブランドイメージ確立に努めたからです。

初めはお店でしか味わえなかったロイヤルブルーティーでしたが、口コミによって人気が高まり、百貨店や自社ECからの購入が可能になりました。

「ライフネット生命」のSTP分析に基づくターゲティング実例

インターネット生命保険会社であるライフネット生命。2019年度の新規契約数のおよそ8割が20~40代という、いわば「若い」世代から支持を集めています。このことから、デジタルを抵抗なく使いこなせるこの世代をターゲットとし、オンライン専業であることを活かしてWebでの接客をストレスフリーにするようにしたり、スマホアプリのユーザビリティを高めるといった施策に取り組んでいます。

「スタジオアリス」のSTP分析に基づくターゲティング実例

1992年に子供撮影に特化したフォトスタジオをオープンしたスタジオアリス。同社はもともと写真現像を専門とする企業でしたが、子供撮影スタジオが支持を集めるようになりました。

家族でフォトスタジオを利用して記念写真を撮るのが一般的になるほど成長した理由は、潜在的ニーズを掴んだターゲティングによって競合が少ない市場でのポジションを確立できた点にあります。

「コカ・コーラ」のSTP分析に基づくターゲティング実例

コカ・コーラは無差別化マーケティングの代表格と言えます。テレビCMなどマスメディアでの広告展開を行っており、これまでの文脈からすると前時代的ではないかと捉えられてしまうかもしれません。

しかし、これには理由があります。それは、年間でコカ・コーラを購入するのは0~2本という人が過半数を占めており、そのようないわば「ライトユーザー」をターゲットにしているからです。年に3回以上コカ・コーラを購入する人は、同社の概念では「ヘビーユーザー」となります。

ではなぜライトユーザーに向けてPRをするのか?その理由は、売上の半数を占めるライトユーザーもしくは非ユーザーをターゲットにしたほうが、売上向上の可能性が高くなるためです。

STP分析の視点でノンアルコールビール各社のマーケティング戦略を見る

今やコンビニやスーパーの棚で種類も多く目立っているノンアルコールビール。初めて0.00%のノンアルコールビールを発売したのは、2007年キリン社のキリンフリーです。キリンフリーは、ノンアルコールビールの先駆けとして、「飲みたいけど飲めないとき」の代替需要として市場を切り開きました。その後、各社が次々とノンアルコールビールを開発していきますが、ターゲティングがそれぞれ異なります。

まず、キリン社のキリンフリーがターゲティングした市場の買い手は「ビールを飲みたいけど飲めない人」です。具体的には、車の運転があるので飲めない人、お酒を飲みたいのに飲めない妊婦、休肝日として飲みたい人が含まれています。

サントリー社のオールフリーがターゲティングした市場の買い手は「ビールはそんなに飲まないけどおいしくて健康的なものを飲みたい人」

具体的には、家事の合間に美味しくて健康的なものを飲みたい主婦、女子会でヘルシーでパッケージがオシャレなものを飲みたい人です。いずれもダイエットや健康を気にする女性です。

キリンフリーは、アルコールが飲めないときの代替品という考えからターゲティングしていますが、オールフリーは、味だけではなくカロリーゼロ、糖質ゼロで健康に訴求しパッケージもビールのイメージとはかけ離れた白を基調とし、日常的にノンアルコールビールを飲むシーンを開拓しました。

最後に、アサヒビール社のドライゼロ。オールフリーが女性をターゲティングしたのに対し、ドライゼロがターゲティングした市場の買い手は「ビールを愛飲する男性」です。

具体的には、週に1回はビールを飲む、ノンアルコールビールにビールと同じのどごしやキレ味を求める男性です。結果的に今までノンアルコールビールを飲まなかった人の需要まで取り込むことに成功し、一層ノンアルコールビールの市場は拡大しました。

このように、6Rの基準を満たすターゲティングを行うことで、競合他社と差別化した独自のマーケティング戦略を展開できるのです。

「ヤッホーブルーイング」のセグメンテーションとターゲティング事例

また、6Rの基準を満たすセグメンテーションとターゲティングをしっかりと行うことで、ペルソナ(モデルユーザー)が絞り込まれ、マーケティング戦略をより明確なものにできます。

クラフトビール「よなよなエール」で有名なヤッホーブルーイング社のSTP分析及びペルソナ設定は商品ごとに細かく設定され、他社と圧倒的に差別化していることが特徴的な例です。

例えば、「僕ビール、君ビール。」はビール離れした若者を、「水曜日のネコ」は、同性から憧れられる女性をターゲティングしました。「水曜日のネコ」は更に次のペルソナを設定しています。

・30歳前後のOL女性
・責任ある仕事をバリバリこなす
・東横線、日比谷線沿線に住んでいる
・独身または既婚だけど子供はいない 
・グルメでお酒や美味しいものが大好き。ファッションへのこだわりが強い
・帰宅後は、お酒を飲んで素の自分に戻る
・TSUBAKIのCMに出てくるような同性が憧れる女性

このように見るとニッチすぎて市場規模(Realistic Scale)の点で問題ないのか疑問に思えるかもしれません。

しかし、ヤッホーブルーイング社は市場調査をしっかり行ったうえで「ターゲットは狭く、具体的にブランディングすること」を方針としてSTP分析を行い、マーケティングミックスを展開しています。

結果、同社の強みであるニッチなファン作りとブランディングに成功しています。自社の強みを把握した上でのSTP分析がいかに大切かが分かる企業の事例です。

まとめ

STP分析のうち、T=ターゲティングの具体的な方法とポイント、事例をご紹介しました。自社の商品やサービスの強みを活かし、有利に事業を展開できるよう、市場を選択していきましょう。

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この記事のライター

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