大きなポテンシャルを秘める中国「下沈市場」。STP分析で、外さないマーケティング戦略を

大きなポテンシャルを秘める中国「下沈市場」。STP分析で、外さないマーケティング戦略を

人口減少が進む日本。国内市場はすでに飽和状態にあり、事業規模のさらなる拡大を目指すために、海外への進出を考える方も多いのではないでしょうか。地理的・文化的な距離もある中で、リスクを軽減して効率よく参入を目指すには、適切なリサーチが必要不可欠です。そこでマナミナでは、「中国市場への参入」をテーマに、マーケティングの各フェーズにおいて効果的な調査・分析手法をご紹介する連載をスタート。第2弾の今回は、第1のフェーズ「市場環境分析」を終えた企業が、次に進むべきステップを解説します。


新型コロナの感染拡大が落ち着き、海外進出や海外マーケットでの規模拡大を視野に入れている方に向けて、中国市場の今とリサーチ手法をご紹介する本シリーズ。
今回も前回に引き続き、株式会社ヴァリューズで海外市場調査を担当しているアナリスト、姜茹楠さんにお話を伺います。

中国進出に欠かせない、STP分析





編集部:前回は、中国進出を考える企業が、最初に取りかかるべき「市場環境分析」についてお話いただきました。今回は、その次のステップについてお伺いできればと思います。










姜茹楠(以下、姜):では、下図の左から2番目「基本戦略立案」フェーズについて説明していきますね。









:このフェーズでは、STP分析を行います。STP分析とは、市場をS=セグメンテーション(市場の細分化)、T=ターゲティング(ターゲット選定)、P=ポジショニング(ポジションの確立)するマーケティング理論のことです。

中国は日本と比べて国土が広く、同じ国の中でも、気候や住んでいる人々の価値観は様々です。STP分析によって「どの市場の誰にどのような商品をどう発信するのか」をしっかり明確にした上で、マーケット進出をすることが大切だと考えています。




STP分析:S「市場の細分化」





:まずSTP分析のS(セグメンテーション)の部分、「市場の細分化」を行います。

セグメンテーションでは一般的にデモグラフィックやジオグラフィックなどで分類することが多いですが、中国では各エリアの生活レベルや経済レベルなどに応じて、都市を6つの等級に分類することができます。

下の図をご覧ください。例えば、中国と聞いて多くの人が思い浮かべるような北京や上海といった大都市は、「1級都市」に含まれます。




STP分析:T「ターゲット選定」





編集部:次のステップはSTP分析のTの部分、「ターゲティング」です。セグメンテーションによって細分化した市場のなかで、どこを目標(ターゲット)にするかを決めます。

今回は中国の都市を等級で分けましたが、最近注目すべき都市はあるのでしょうか?










:中国進出というと、都市部への進出を考える企業が多いのではないでしょうか。今回取り上げるのは、都市市場ではなく、これから大きく盛り上がると期待されている「下沈(かしん)市場」です。










編集部:下沈市場...! 前回も出てきましたね。改めて下沈市場とは、どのような市場のことを指すのか教えてください。










:先ほど中国の都市は等級が6つに分かれているとお伝えしましたが、下沈市場は3級以下の都市および農村のことを指します。ちなみに全部で288あるとされています。

下沈市場が経済的にフォーカスされ始めたのは、コロナ禍前後、ここ数年とされています。










編集部:どうして下沈市場が注目されているのですか?










:まず人口母数が大きいこと。下沈市場の人口は約10.04億人で、中国全国人口の72%を占めています








:さらにインフラ面を見ても、2020年の農村部におけるインターネット普及率は46.2%まで上昇してきているので、ECでの商品展開もできると思います。
そして、消費力の向上も注目ポイントです。社会消費財の小売総額は増加傾向にあり、2018年の時点で全国の半数弱を占めているんですよね。








:中国マーケットへの進出を考えるとき、都市部はもちろん外せないでしょうが、大きなポテンシャルを秘める下沈市場に、これから様々な海外企業が注目していくと予想します。










編集部:下沈市場に暮らしているのは、どのような人たちなのでしょうか?都市部の人たちとは、やはり違うのでしょうか。










:下沈市場のライフスタイルがイメージしやすいよう、収入・消費の比較データを見てみましょう。2020年11月の時点で、下沈市場と都市市場で平均世帯月収の差は約6000元(約96,000円)ですが、毎月自由に使えるお金の差はわずか700元(約11,200円)になっています。










編集部:都市部と比べて、遜色ない可処分所得ですね。








:さらに、下沈市場では「趣味や欲しいものにお金を惜しまない」意識が高いという特徴も強く出ています。








編集部:都市市場との物価の違いもあるでしょうが、下沈市場の消費意欲の高さには期待できそうです!










:続いて、下沈市場でよく利用されているメディアや購入チャネルを見てみましょう。

下沈市場では、「TikTok」「快手(Kuaishou)」の「毎日利用」が高めで、ECプラットフォーム「拼多多(Pinduoduo)」の利用が多く、都市部でメジャーな「T-mall」「京東」の利用を上回っています








編集部:下沈市場の人たちにアプローチする際は、これらのメディアを活用したほうがよいということでしょうか?










:そうですね。例えば「快手(Kuaishou)」は、下沈市場ユーザーが全体の55%を占めています。TikTokと比べて親しみやすいコンテンツが多く、「自分ごと化」して考えやすいからなのかと思います。

しかもTikTokと比較すると、「快手(Kuaishou)」のライブコマースの平均視聴者数と売上総額のほうが高くなっているんです。ちなみに、下沈市場ではライブコマースが当たり前のように使われており、地域の特産品などが売買されています。








:また、「拼多多(Pinduoduo)」の活用もおすすめです。「低価格戦略」と「コミュニティ機能」が特徴で、約6割のDAU(デイリーアクティブユーザー)は下沈市場ユーザーとなっています。









:ちなみに「拼多多(Pinduoduo)」では、C2M(Customer to manufacture)のビジネスモデルで、商品をよりお得に提供していることも注目されています。C2Mでは、ユーザーどうしで欲しい商品を共同購入することで、お得に買い物ができる、という新しいショッピング体験を楽しむことが可能です。










編集部:T「ターゲット選定」をするとしたら、例えば「快手(Kuaishou)」を日常的に利用し、ライブコマースでの商品購入が多いユーザー、というような形でしょうか。




STP分析:P「ポジションの確立」





編集部:S「市場の細分化」とT「ターゲット選定」を終えたら、最後はSTP分析のPの部分、「ポジションの確立」です。下沈市場において、自社が同業他社に対して優位になるためのアドバイスを教えていただきたいです。
そもそもの話になりますが、現地の人たちは日本製品をはじめとした海外商品に対して、どのようなイメージを抱いているのでしょうか?










:中国国産ブランドの人気が高いですが、日本の商品も人気です。家電を見ると、商材にもよりますが、日本ブランドは全体的に他国よりも浸透していることがわかるでしょう。化粧品でいうと、先ほど紹介した「拼多多(Pinduoduo)」には、資生堂のオフィシャルショップである旗艦店も出店しているんです。








:都市市場と比較して、下沈市場にマーケティングを積極的に仕掛けている企業がまだ少ないため、日本企業をはじめ海外ブランドの存在感はまだ高くありませんが、これから十分に浸透していくポテンシャルはあると思います。

ただし、賢く買い物をしたいと思う人が多いこともあり、やはり価格面で中国ブランドを選ぶ人が多いでしょう。日本企業が既存商品をそのまま下沈市場で販売しても、なかなか売れない可能性があります。そのため、今回お話したような特徴を考慮し、下沈市場専用の商品を作る方法もあるでしょう。










編集部パッケージをただ翻訳すればいいわけではないということですね。まさに「ポジショニング」につながりそうです!









編集部:今回行ったSTP分析も、中国の市場やそこに住む人たちのライフスタイルを理解した上で行うことが大切なのですね。都市市場と下沈市場で、こんなに違いがあるなんて知りませんでした。










:そうですね。それもきちんとしたマーケット調査に基づいた理解をすることが大切です。市場やトレンドは変化するものであり、勘や経験に頼っていては正しく理解をすることができないためです。

ヴァリューズでは私自身をはじめとして、日本語とバイリンガルの中国人アナリスト・リサーチャーが在籍しておりますので、現地や日本の状況がわかった上で、課題の分解や調査・分析、ご提案をすることが可能です。

また、ヴァリューズは下沈市場というワードに早い段階から注目してきた分、企業様にお伝えできることがあるほか、常に変化し続ける市場やトレンドも、いち早くキャッチできる体制が整っています。

下沈市場への進出をご検討の際は、ぜひヴァリューズにご相談ください。




この記事のライター

IT企業でコンテンツマーケティングに従事した後、独立。現在はフリーランスのライターとして、ビジネスパーソンに向けた情報を発信しています。読んでよかったと思っていただける記事を届けたいです。

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