新型コロナウイルス、農漁業界への影響は?
新型コロナウイルスの感染拡大により、3月2日から全国の小中高校に休校が要請されました。その結果、学校の給食がストップし、給食の食材を提供する生産者は、生産した食材の行き場に頭を悩ませました。この食品ロス問題はニュースにも取り上げられ、大きな話題になりました。
この問題に対しては、農林水産省も本腰を入れて、対策に乗り出しています。例えば給食やイベントの中止によって、行き場を失った食品を寄付するための仲介をしたり、「食べて応援学校給食キャンペーン」で給食用食材購入者への送料の支援などを実施したりしています。
同様に、新型コロナウイルスを受け、飲食店などが休業・営業時間の短縮をしている影響で、農業や漁業といった一次生産者は取引量が減ったり、取引先を失ったりしています。その上、不要不急の外出が減り、様々な場所で需要が低下してしまったことで、特に漁業界で市場の価格が暴落してしまったのです。その為、魚などを獲っても、値崩れしているため利益にならないという問題が起きています。
そして、このような状況の中、いち早く支援プログラムを立ち上げ、一次生産者の救世主となっているのが、産直ECサイトの「食べチョク」です。本稿はそんな「食べチョク」について、サービスが急成長している理由を調査したいと思います。
産直ネット通販「食べチョク」とは?
「食べチョク」は、生産者と消費者を直接つなぐ、オンライン直売サービスです。サイトを運営しているのは、2016年創業の株式会社ビビットガーデン。食べチョクでは全国2000件を超える生産者から、こだわりの食材を購入することができます。
従来、生産者は中間業者に決められた価格で売り、その中間業者がスーパーなどに卸すことが一般的でした。しかし、「食べチョク」では、中間業者を排除することで、生産者と消費者を密接に結びつけ、生産者が自由な価格で販売することができるようにしたのです。その為、生産者のこだわりを価格に反映することができ、生産者の得られる利益が従来と比べて、多くなりました。
そして、もう一つ「食べチョク」の大きな特徴は、生産者自身が梱包をすることです。集荷場を設けず、生産者自身が梱包し発送する為、新鮮な野菜を素早くお客様のもとに届けることができるのです。
また、最近では、様々なメディアで「食べチョク」が紹介されています。特に、NewsPicksではビビットガーデン代表の秋元氏の特集連載記事が掲載されており、今とてもホットで今後も成長が期待されているサービスであると言えます。
コロナで「食べチョク」のユーザー数が6.5倍!?
次に、ヴァリューズの新たなDashboard型マーケティングツール「Dockpit(ドックピット)」を使って、「食べチョク」の月別のユーザー数推移をみていきます。
対象期間:2019年9月~2020年8月 デバイス:PC&スマートフォン
こちらは、過去1年間の食べチョクのWebサイトのユーザー数の推移を示したグラフです。
新型コロナウイルスが本格的に日本で拡大し始めた2020年3月時点では、ユーザーはまだ月間20万人弱しかいませんでした。しかし、緊急事態宣言が発令された2020月5月時点では、ユーザー数は月間121万人と急上昇。たった2か月の間で実に約6.5倍になったのです。
それは、コロナの影響で苦しむ生産者を救う為に「食べチョク」が実施した、生産者支援プロジェクトが大きな要因であるといえるでしょう。また、新型コロナウイルスの影響で外出を控え、ECサイトで食材を購入する人々が増えたこともユーザー増加の一因と考えられます。
また、Webサイトのユーザーの性別比を見ると、女性の利用が多いことがわかります。スーパーに行く人に主婦が多いように、「食べチョク」でも、主婦の利用が多いと思われます。
対象期間:2019年9月~2020年8月 デバイス:PC&スマートフォン
次に、Webサイトのユーザーの年代の構成比をみていきます。下のグラフをご覧ください。
対象期間:2019年9月~2020年8月 デバイス:PC&スマートフォン
ユーザーの年代の構成比はネット利用者全体と比べ、30~50代の利用が多いことがわかります。
「食べチョク」では、独自に設けた基準をクリアした生産者しか登録ができない為、生産者のこだわりが詰まったおいしい食材が販売されています。中には、市場にほとんど出回らない貴重な食材などもあり、商品の値段設定はやや高くなっています。そのため、経済的に余裕の出てくる30代~50代のユーザーが多いと考えられます。
では、ユーザーは食べチョクに対してどのような関心を持っているのでしょうか。この点を推測するため、「食べチョク」と検索した人が関心を持っているワードを属性別にマッピングしてみました。下記のグラフでは横軸が性別、縦軸が年齢となっています。
対象期間:2019年9月~2020年8月 デバイス:PC&スマートフォン
これを見ると、男性ではビビットガーデン代表の秋元氏に対する関心が多く見られました。おそらくビジネスに関連した内容が興味を引いていると考えられます。一方で、女性は「コロナ」と価格に関する「送料」や「クーポン」、「高い」といったキーワードとともに検索していることがわかります。また、「評判」や「口コミ」といったキーワードで、サイトの信頼性を確かめようとする慎重な人も見受けられます。
CMでは消費者として、子供のいる主婦が描かれており、「食べチョク」は主婦をメインターゲットとしていると考えられます。実際も主婦の利用が多く、食べチョクの価格や評判を気にしている人が多いのではないでしょうか。
コロナ禍で赤字覚悟の生産者支援プロジェクトを実施
「食べチョク」では、新型コロナウイルスの影響を受けて困っている生産者からのSOSを受け、3月2日から「#コロナでお困りの生産者さん」と題した応援プログラムを開始しました。このプログラムは、生産者の現場の声を届けつつ、送料一律500円を「食べチョク」が負担するというものです。
このプロジェクトの収益はほぼゼロに等しく、プログラムをやればやるほど赤字になってしまうものでした。しかし、「食べチョク」は当初3月末で終了予定だったこのプロジェクトを、コロナで苦しむ生産者を救う為、5月末まで延長しました。
そんな中、この「食べチョク」の思いが伝わり、5月26日から農林水産省が指定商品の送料を全額負担する事業を始めたのです。農林水産省の支援事業が始まった後には、「食べチョク」も支援事業に参加し、引き続き生産者の支援を続けています。(参考:https://newspicks.com/news/5193848/body/)
まとめ
今回はコロナ禍でサービスを急成長させた「食べチョク」について調査しました。新型コロナウイルスが拡大以前には、ユーザーがまだ少なかった「食べチョク」ですが、新型コロナウイルスの拡大とともに、サービスも急成長しました。
その急成長の背景には、「食べチョク」の生産者を救いたいと思う熱い気持ちと、赤字覚悟の生産者支援プロジェクトがありました。そして何より、ここまでユーザーが増加したのは、2016年創業のベンチャー企業が、利益よりも自分たちが大切にする生産者や商品を守ろうとした行動が、多くのユーザーの心に届いた結果であると思います。
企業は利益を出すことを第一の目的に活動しています。その為、今回の「食べチョク」のような、短期的には利益が見込めないプロジェクトは、企業としてプロジェクトの実施が難しいと思われます。しかし、新型コロナウイルスという世界の日常など、あらゆるものを変化させてしまう大きな波に対して目先の利益だけを追いかけていては、コロナ前に強者であっても足元から徐々に浸食され、いずれすべて波に飲み込まれてしまう可能性もあります。目先の利益ではなく長期的な視野を持ち、取引先などステークホルダーを守ることで将来の損失を防ぎ、この大きな難局を乗り越えていくことができるのではないでしょうか。
かつては、企業は良い商品やサービスを提供することだけが求められ評価されてきました。しかし、新型コロナウイルスを含め、世界の変化に伴い、企業に求められている役割も変化してきていると思います。そして、その役割の変化に対応していく企業こそ次の時代の強者になっていくでしょう。
「食べチョク」は、今後も農業界を含む第一次産業に大きな影響を与えていくことになると予想されますが、一方で、2020年6~8月は2020年5月に比べてユーザー数はやや減少しています。今後どのように既存ユーザーを定着させ、新規ユーザーを増やしていけるかが勝負所になると考えられます。
これからも「食べチョク」の動向に注目です!
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年9月〜2020年8月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
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2021年4月ヴァリューズに新卒入社。
大学でデータ分析について学びながら、ヴァリューズでインターンとして働いていました。