LINEの公式発表によると月間アクティブユーザー数が8,400万人を超え(2020年6月時点)、日本の人口の7割弱にあたるユーザーが利用するコミュニケーションツール「LINE」。スマートフォンの普及と共に爆発的に利用者を増やしてきた同サービスですが、事業展開の領域は従来のテキストチャットの利用に留まらず、SNSを主軸に据えた巨大プラットフォーム・ビジネスとしての歩を着々と進めています。
電子決済サービスである「LINE Pay」、電子コミックサービスの「LINEマンガ」、音楽ストリーミングサービスである「LINE MUSIC」などなど…日常生活の隅々にまで多岐にわたるサービス展開が行われ、"常用ツールがLINE一色になってしまった"という方も多いのではないでしょうか。
本記事では、そんなLINEにより生み出される巨大プラットフォームが、どのようなサービス展開や消費者の囲い込みによって形成されているのか、調査していきます。ヴァリューズの2つの分析ツールである「eMark+」「Dockpit」を用いて、LINEの作るプラットフォームの全容を見ていきましょう。
決算資料から読み解く「LINE経済圏」の収益構造
まずは、巨大化するLINEのプラットフォームがどのような収益構造をとっているのか、LINE株式会社の決算資料から窺ってみます。
LINE株式会社「2020年12月期3Q決算補足説明資料」より
LINE株式会社の「2020年12月期3Q決算資料」によれば、第3四半期にあげた630億円の売上の内、6割弱は広告事業によって創出されています。これは、LINEアプリ内に掲載される各広告の売上や、企業向けに提供する「LINE公式アカウント」の利用料金などがカテゴライズされます。
次に売上の構成として多いのが「コア事業 | コミュニケーション・コンテンツ・その他」分野で、全体の3割ほどを占めています。こちらには、「ディズニーツムツム」などのゲーム系アプリや、「LINE マンガ」や「LINE MUSIC」といったコンテンツ配信アプリが属します。
そして、残りの15%ほどが「戦略事業」の売上で、ここにカテゴライズされる主なサービスが電子決済の「LINE Pay」です。その他にも、「LINEショッピング」や「LINEデリマ」「LINEトラベル」といったEC、O2O領域のサービスも「戦略事業」に属します。
■SNS広告収入+コンテンツ配信収益を軸にFintechを新たな起点へ
前述のとおり、LINEアプリ利用ユーザーへの広告配信により多大な売上をあげつつ、ゲームなどを中心としたコンテンツ配信も含めて「コア事業」として注力してきたLINEプラットフォーム。
2010年代半ばからは「LINE Pay」を中心としたFintech(金融テクノロジー)領域へ事業拡大することで、さらに大きなプラットフォーム構築を目指しているのが各種IR資料からも見て取れます。
LINE株式会社「2018年12月期決算説明会 プレゼンテーション資料」より
LINEアプリが囲い込む多数のユーザー基盤を武器に、電子決済や証券取引、Eコマースといった金融×ITの領域へ裾野を伸ばそう、というのがLINEの当面の戦略のようです。
どこが伸びている?コロナ禍におけるLINE運営アプリの諸状況
前述のLINEプラットフォームの収益構造と拡大戦略を踏まえ、直近のLINE系サービスの状況を詳しく観察しましょう。
まずは、LINE関連の企業が提供しているスマートフォン向けアプリの中で、所持ユーザー数が多いものを並べたデータ(TOP10)を見てみます。
※ゲーム系アプリを除く
「eMark+」で抽出したLINE系アプリの所持数データ
対象期間:2020年11月
デバイス:スマートフォン
上記、昨年同月比の伸びを見る限りでは、広告事業とコンテンツ配信という2つのコア事業に属すアプリに関して、コロナ感染拡大が全体的に追い風となっている可能性が考えられます。
さらに、それぞれの詳細を見ていきます。
■巣ごもり需要で「LINE マンガ」と「LINE MUSIC」が伸び
「eMark+」で抽出した「LINE マンガ」と「LINE MUSIC」のアプリの所持数データ
期間:2019年12月〜2020年11月
デバイス:スマートフォン
「コア事業 | コミュニケーション・コンテンツ・その他」の領域でユーザー数を増やしているのが「LINEマンガ」「LINE MUSIC」です。
コロナ禍にともなう巣ごもり需要により、「LINE マンガ」は2020年11月時点で、昨年同月比で36%増の750万人のユーザーが所持するに至っています。「LINE MUSIC」もじりじりとユーザー数を伸ばし、11月は昨年同月比8%増の650万人の所持ユーザーとなりました。
LINE株式会社「2020年12月期3Q決算補足説明資料」より
「LINE マンガ」「LINE MUSIC」の所持ユーザー増は、両サービスの決済高がQonQで伸びていることからも、収益に反映されていることが窺えます。
■「LINE公式アカウント」は前年同月対比167%の大幅な拡大
「eMark+」で抽出した「LINE公式アカウント」のアプリの所持数データ
期間:2019年12月〜2020年11月
デバイス:スマートフォン
企業や店舗がLINEユーザーへダイレクトに情報を届けられるビジネスユースのアプリ「LINE公式アカウント」も、ここ1年で大きく所持ユーザー数を伸ばしています。
コロナの影響により、実店舗の営業などが危ぶまれ始めた2020年2月より急激に所持数が伸び、11月には昨年末時点から40万人以上もユーザーが増えています。
「LINE Pay」が拡大するもO2O領域はやや苦戦
コア事業である広告とコンテンツ配信の2分野で伸びるアプリがある一方、プラットフォーム拡大の「第2の起点」とも呼べるFintech領域はどうなのでしょうか。
LINEが最も注力する「LINE Pay」については、ここ1年のアプリ所持ユーザー数は横ばいでありつつも、決済高は拡大している様子です。
「eMark+」で抽出した「LINE Pay」のアプリの所持数データ
期間:2019年12月〜2020年11月
デバイス:スマートフォン
LINE株式会社「2020年12月期3Q決算補足説明資料」より
しかし、サービスによっては、コロナによるマイナス影響を受けているものもあります。
8月には実店舗でバーコード提示をすることでポイント貯蓄のできる「SHOPPING GO」のサービス終了、また「LINE トラベル」は観光業のシュリンクに伴い、YonYで業績を落としていることが報じられています。
ただし、「LINE デリマ」や「LINE ポケオ」といった飲食のデリバリーやテイクアウトサービスについては今後が期待でき、昨対比でも伸びつつあるO2Oの領域のようです。
■Fintech領域のカギ「LINE Pay」…ユーザーの関心はどこに
Fintech領域の事業拡大に意欲的なLINEですが、起点となる「LINE Pay」はどのような同社のサービスと相乗効果を生んでいるのでしょうか。
まずは「LINE Pay」を利用するユーザーが、その他の主要サービスをどれくらい併用しているのかデータを見てみます。
「eMark+」で抽出した「LINE Pay」のアプリ利用者から見た他サービスの併用率データ
期間:2020年6月〜2020年11月
デバイス:スマートフォン
上記データを見てみると、「LINE Pay」との併用率が最も高いのは「LINE証券」の21%となりました。
次いで、「LINEマンガ」や「LINE MUSIC」との併用率も15%~20%弱ほどあり、コンテンツ購入の決済手段として「LINE Pay」を利用しているユーザーも一定数いそうです。
今後さらに併用率が上がっていけば、コンテンツ配信→購入(決済)までがほぼ自社サービスで完結されるビジョンも見え、複数チャネルでの収益規模も巨大になりそうです。
さらに、分析ツールである「Dockpit」を用いて、「LINE Pay」というワードを検索するユーザーが、他のどういったLINE系サービスに対して関心を寄せているのかデータ抽出してみます。
「Docpit」で抽出した「LINE Pay」検索者の関心ワードデータ
期間:2020年9月〜2020年11月
デバイス:PC・スマートフォン
※「特徴値」は大きいほど興味関心度が高くなります
上記を見ると、LINEの手がけるFintech領域のサービスがずらりと並んでおり、サービス同士の併用を考えるユーザーが一定数いることが窺えます。
「LINE Pay」と検索するユーザーが最も関心を寄せるのは「LINEポイントクラブ」だという結果がわかりました。「LINEポイントクラブ」はLINEポイントの獲得状況に応じて、ポイント還元やクーポン発行などお特典が受けられるプログラムです。「LINE Pay」の決済システムを利用し、ポイントの蓄積に役立てようと考えるユーザーが多いと言えるでしょう。
続いて、為替取引サービスの「LINE FX」も登場しています。
その他、LINE Payアカウントを紐づけてチャージと支払いが可能な「Visa LINE Payクレジットカード」、飲食のテイクアウトサービスである「LINE ポケオ」なども並び、LINE社が「LINE Pay」を起点とした商圏の拡大に積極的に取り組んでいるのが見えてきます。
まとめ
プラットフォームビジネスの定石と言える広告配信による安定的な収益を構築したLINEは、コンテンツ配信への投資で収益拡大、さらに大きなFintech領域への参入でその地位を盤石なものにしようとしているようです。
やはり、非常に大きなユーザー基盤があるからこそ、それを起点とした事業展開が進められる点がLINEの大きな強みでしょう。そして、SNSで構築した起点を電子決済へ展開し、また新しい領域の起点へと移していく点も、同社の秀逸な戦略と呼べるのではないでしょうか。
今後もLINEの手がけるサービスの拡大と、事業戦略からは目が離せないと感じます。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年12月〜2020年11月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。