マーケット専門家が語る!タイのデジタル事情や販売戦略のヒントとなる成功事例<後編>

マーケット専門家が語る!タイのデジタル事情や販売戦略のヒントとなる成功事例<後編>

東南アジアの進出は「市場規模の大きい国から候補を選定する」企業は多いのではないでしょうか。確かに市場規模は重要ですが必ずしも良い選定とは限りません。 「タイ国マーケット専門家が語る!日本企業のためのタイ市場対策セミナー」で「適切な選定方法と販売戦略で、進出成功を勝ち取れる可能性が十分にある」と語ったのは、株式会社ヴァリューズの顧問でありタイ在住のマーケター若山氏です。 セミナーではタイから展開するべき根拠やタイ経済の特徴、日本企業の成功実例を消費者観点から語られました。 本コラムの前編では、タイから展開するべき根拠や消費者の生活事情について紹介しました。後編の今回はタイ市場のデジタル戦略や日本企業の成功事例を解説していきます。


タイのデジタル事情や販売戦略の成功事例

スピーカー紹介

図:スピーカー紹介

Agenda

● タイ市場を読み解いた戦略
● 的確な販売戦略で成功した事例

タイ市場を読み解いた戦略

コラムの前編では所得階層が異なることで、倫理観、価値観、嗜好、行動範囲、購買行動は全て異なるため、明確なターゲット選定と戦略が重要であるということを紹介しました。

今回はタイの所得階層にかかわらず、タイに共通するデジタル環境の特徴についてみていきましょう。

デジタル事情

東南アジアの中でタイへの進出をおすすめする理由の一つが、「デジタル化が進んでいること」です。

インターネットの普及

タイのデジタル事情は日本とは大きく歴史が異なります。タイではパソコンを持っている人は少ない代わりに、富裕層~低所得層まで国民の多くがスマートフォンを所有しています。

タイのデジタル事情の特徴には、老若男女スマートフォンを使いこなしているということです。さらに、一日当たりの利用時間は日本が約4時間に対し、タイは約9時間と世界トップクラスで長い時間使用していることが分かっています。

モバイル決済

タイではスマートフォンの電話番号と銀行口座を紐付けられたキャッシュレス決済が日常的になってきています。どのお店にもレジ横には支払いのQRコードが設置されているので、スマートフォンで読み取ることで自分の口座から即支払いができるシステムです。

モバイル決済が利用できる場所はスーパーマーケットやデパートといった大きなお店だけでなく、コンビニ、タクシー、市場、宝くじ売り場、屋台といった少しの買い物でもキャッシュレス決済での支払いが可能です。

複数あるアプリ決済の中でも「Prompt Pay(プロンプトペイ)」は、バンコクだけでなく地方の農村部まで利用者が普及している人気のアプリです。

タイでモバイル決済が一般的になった理由は「スマートフォンの普及」の他に「銀行口座の保有率」の高さがあげられます。タイは8割を超える人が銀行口座を保有しているため、銀行口座と紐づけやすいのです。

また、スマートフォンに入っている銀行口座アプリを使った送金は、他銀行や県をまたぐやり取りであっても手数料がかからないため、BtoCだけでなく個人間での利用も日常的に行われています。

Facebookでの商品販売

SNSの利用が盛んなタイですが、その中でもFacebookは国内トップの利用率です。個人のFacebookアカウントを持つだけでなく、オフィシャルアカウントとしてメーカーや企業が運営しているケースも多く見かけます。

Facebookのフリマ機能「マーケットプレイス」では洋服やテレビといった生活用品を中心に個人間で活発的に取引されています。

その勢いに影響された企業はマーケットプレイス内で広告を打ち出したり、土地や建物、車まで販売するような大きなマーケットとなっています。

このように、SNS上での売買が活発化している背景は「スマートフォン一つで情報を検索し即送金ができること」と「インフラが整っているため物流環境が良いこと」があげられます。そのため、デジタル上でコミュニケーション活動が発達しているのです。

販売戦略のカギ

海外でビジネスを行う際、まずはどの階層をターゲットにするかが販売戦略のカギとなります。そして販売に関わる全ての人との間で、細かいところまでターゲット層を共有することが大切です。

例えば売上目標を掲げても、
・日本にいるタイ担当の担当者
・タイに駐在している担当者
・現地雇用のタイ人
それぞれが思い描くターゲットが乖離している事が多いのが実情です。


そのため、アプローチするターゲット層は「階層、住まい、暮らし」はどういった人なのかを明確にしたうえで共有することが大切です。ターゲットが明確になると「売り場、販売価格、販売コミュニケーション」の設定も効率的に議論することができます。

的確な販売戦略で成功した事例

海外進出で成功させるためには「ターゲットを詳細まで明確化する」「変わりゆくデジタル社会のトレンドを把握する」ことの2つポイントを置き、ビジネスを展開していく必要があります。

この2つのポイントを押さえながら、お菓子メーカー江崎グリコ株式会社のタイ拠点における成功事例を紹介します。

ここでは「第1フェーズ」「第2フェーズ」「第3フェーズ」で紹介しますが、海外進出の販売ステップはこの3つやり方が一般的かと思われます。

3つの販売ステップ

■第1フェーズ
プロセス   :初めてタイでビジネス展開する場合、投資リスクを低くするため、
        日本から輸入品を販売
プロセスの目的:日本のブランド名や商品名の認知拡大を図る
ターゲット層 :富裕層



■第2フェーズ
プロセス   :第1フェーズで良い感触を得られたら現地で設備投資をし、     
        日本で人気商品を現地生産で本格的に販売開始する
プロセスの目的:現地生産でコスト削減できることで、
        興味があるけど高価で手が届かなかった層までアプローチする
ターゲット層 :富裕層、アッパーミドル、中産階級の上位



■第3フェーズ
プロセス   :中産階級以下の消費者にも手が届くような小袋や低価格設定で販売する
プロセスの目的:一番ボリュームが多い中産階級~低所得層も加えた、
        全階級にアプローチする
ターゲット層 :中産階級・低所得層

販売戦略の詳細

上方の図の中にある番号は、それぞれのフェーズで大切な手順です。一つずつ詳細を見ていきましょう。


■第1フェーズ:日本からの輸入品を販売
①江崎グリコ株式会社がタイに進出して50年以上になりますが、進出当初は、現地または欧米のお菓子の販売が一般的でした。そんな中、スティック状にチョコレートのコーティングといった繊細なお菓子は珍しく、日本ならではの世界観や美味しさを訴求することができたと思われます。


■第2フェーズ:現地生産
②現地生産になると輸入商品よりも販売価格が抑えられるため、より広い層へのアプローチが可能となります。価格的に商品が手に取りやすくなったことで、認知度・トライアル率を向上させることが可能となります。


③ポッキーやプリッツといったブランドの知名度を生かしてタイオリジナルフレーバーを展開しました。トムヤムクン味など現地の人に受け入れやすくなっただけでなく、タイ旅行や出張へ来た日本人のお土産としても購買の相乗効果を生みだしました。


④タイ国内でポッキーやプリッツという商品名、グリコという企業名が浸透した後に、日本にはないタイオリジナルのブランドを開発・展開しました。低所得層で購入できる価格設定で、ターゲットの拡大が可能となったと思われます。


■第3フェーズ:BOP(マスマーケット)へのアプローチ
⑤低所得層でも手が届くように、小袋・低価格で販売しました。販売価格は5バーツ程度の低単価のため売上や利益確保が可能か不安に感じる方もいるでしょう。しかし、タイにはモダントレードであるコンビニが約2万店なのに対して、トラディショナルトレードである個人商店は推定で30万店以上と巨大な市場があります。

そのため20バーツ商品をアッパーミドル以上の狭い間口での販売と共に、5バーツ商品と低価格であっても、ボリュームが多い低所得層にもアプローチをすることで、より着実な売上・利益へと繋げることが可能となります。


タイに進出する多くの日系企業は、上記のフェーズ1もしくはフェーズ2までの範囲で活動されていますが、各国の人口ボリュームゾーンである低所得層へのアプローチも行うことで、より大きな利益とブランドの市場への定着を図ることが、大切だと感じています。

まとめ

今回は、タイ市場のデジタル戦略や、ターゲットに合わせた適切なアプローチ方法として日本企業の成功事例を解説しました。

このようなデータを知ることで、海外進出を着実に進めていくためのターゲット選びや販売戦略に役立て、成功へと導くことが可能となります。

当メディアを運営しているヴァリューズでは、日本企業の皆さまのタイ・東南アジアでのマーケティング支援を強化しています。ご興味のある方は、ぜひお声がけください。

タイ市場対策セミナー<前編>のレポートはこちらをご覧ください。

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この記事のライター

語学留学、国際結婚、海外移住とフィリピンに関わる暮らしをしているフリーライター。趣味は旅行で、これまでに訪れたフィリピンの島々は50以上。
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