マーケット専門家が語る!海外進出にタイを推す理由とタイ経済の特徴を解明<前編>

マーケット専門家が語る!海外進出にタイを推す理由とタイ経済の特徴を解明<前編>

「東南アジアでビジネスを行う場合、どの国から始めればいいのか分からない」と頭を抱える企業は多いのではないでしょうか。人口が多い国、収入が多い国などどういった基準で進出国を選定すればいいのか、と。 「タイ国マーケット専門家が語る!日本企業のためのタイ市場対策セミナー」で「東南アジアの進出は、まずタイから始めてみればいい」と語ったのは、株式会社ヴァリューズの顧問でありタイ在住のマーケター若山氏です。 セミナーでは、タイから展開していくべき根拠やタイ経済の特徴、タイ進出で成功した日本企業の実例を消費者観点から語られました。今回はその概要を前編・後編に分けてレポートします。


海外進出にタイを推す理由とタイ経済の特徴とは?

スピーカー紹介

図:スピーカー紹介

Agenda

● 今、日本企業がタイに注目すべき理由
● タイ市場を読み解いた戦略

今、日本企業がタイに注目すべき理由

理由①マーケットは小さいが購買力は上位

東南アジアでビジネス展開する場合にタイをおすすめする理由の1つ目は、「人口がある程度あり、購買力が高いため」と若山氏は語ります。

東南アジアをターゲットにビジネスを展開しようとする場合、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ、ミャンマー、マレーシア、シンガポールの7ヵ国を検討する企業が多いです。

東南アジアはカンボジアやラオスもありますがマーケットが小さいため、狙うとなれば人口が多い上記7ヵ国を検討するのではないでしょうか。

一度東南アジア主要国の人口とGDPを比較して見ていきましょう。

東南アジア主要国で人口の多い国はインドネシア、フィリピン、ベトナムのため、このあたりが進出国の候補にあげられるでしょう。

しかし、いくら人口が多い国であっても所得階層の差が大きいため、消費者の購買力も合わせて検討する必要があると若山氏は語ります。

では、どのように購買力を図ればいいのでしょうか?購買力の指標の一つと言えるのがGDPです。

上方の表では各国の人口と一人当たりのGDP(米ドル)を表しています。東南アジア7ヵ国のうち真ん中あたりの人口を持つタイですが、1人当たりのGDP、つまり購買力を見ていくと、人口が多いインドネシア、フィリピン、ベトナムよりもGDPが高いことが分かります。シンガポールは特殊なケースのため、ここでは省きます。

理由②所得格差が大きい所得階層の分布

タイでビジネス展開をおすすめする理由の2つ目は、所得階層に分けてマーケティングリサーチを行うことです。

先ほどのGDPデータは所得階層問わず、国民全体の平均化された数値であるということを理解しなければなりません。東南アジアは所得格差がかなり大きいため、マーケティングリサーチを行う際は所得階層に分けてターゲットを分析していく必要があります。

所得階層はピラミッド型のように、上から「富裕層」「ミドルアッパー」「中産階層」「低所得層」の大きく4つに分けられます。

4つの所得階層をそれぞれの国に当てはめて見ていきましょう。

国によって貨幣価値や物価の違いがあるため、所得階層ごとの所得別構成比は目安となりますが、各国で所得別構成比率は大きく異なっていることが分かりました。

赤枠で囲まれたところが「世帯月収を日本円で換算したときに、10万円を超えると思われる層」です。

東南アジアでビジネスを展開しようとした際、日本から東南アジアへ商品を持っていくとなるかと思いますが、やはり現地商品と比べると価格設定を高くせざるを得ない状況となるはずです。

設定した価格が現地の人にとって高いのか・安いのかを判断するためには、日本円で10万円を超える層はどのくらいのボリュームがあるのか、ということが一つの目安となります。

例えばインドネシアの場合は人口が約2億7,000万人いますが、世帯月収10万円以上となる割合はおそらく10%程度でしょう。そして、フィリピンの場合では3%程度、ベトナムでは30%程度であることに対し、タイでは40%ほどが購買力のある人と想定されます。

タイ経済の特徴

東南アジアでビジネスを展開するならタイから始めてみるべき理由を一度整理すると、「人口は約6,700万人程度あり、購買力(GDP)が他国と比べて頭一つ抜け出ていること」と、「所得階層上部の比率が高いこと」です。

所得階層の差が広がる分、消費者のライフスタイルや価値観が変化し、流行りや重宝されるものも多様化していきます。このように購買力の向上に伴い、消費者のライフスタイルや価値観が多能化した市場には、当然ながら大きな潜在需要が存在することとなります。


その他にも「親日国家」「インフラの充実」「地震や台風などの天災のリスクが少ない」「貨幣価値が比較的安定している」ことも大きな理由となっています。

タイは親日家であり、訪日観光客数は世界で5位にあがるほど日本を好む人が多いです。(2019年度の訪日外国人観光客数)

また、タイの「デジタル環境」や「道路状況と物流システム」が良好な整備状況によって、安定的な商品の供給、モノの移動が頻繁に行われています。このようなことをトータルに考えると、タイでのビジネス展開が効率的と言えるのです。

タイ市場を読み解いた戦略

海外進出のためのマーケティングを行う場合、消費者視点から読み解いて戦略を練っていくことがポイントとなります。しかし、なぜ消費者視点が大切なのでしょうか。

一般的には商品力や販売力、配荷について重視してしまいがちです。しかし、販売した商品やブランドが「なぜ売れたのか」あるいは「なぜ売れないのか」を検証と分析を行っていくことで、海外で成功を勝ち取りやすくなります。つまり、消費者の生活に根ざした価値観や思考を理解する必要があります。

階層社会の格差と多様性

「階層社会」と聞くと、貧富の差やお金がどれだけあるかということだけがフォーカスされる傾向にあります。しかし、実は階層が異なるごとに倫理観や生活の価値観、思考、行動範囲、購買行動も全て異なってきます。

まず下方のピラミッドグラフを見ていきましょう。Thailand Marketing Research Societyのデータによると、タイ・バンコクの所得階層構成は富裕層とミドルアッパーが全体の約20%、中産階級が約42%、低所得層が約38%となっています。

しかし、バンコクを含めた都市部と郊外に住む方の所得やライフスタイルは異なるため、上記のピラミッドグラフの構成とは比率が若干変化します。

では、どの程度所得の差があるのか「バンコク」「地方の都市部」「地方の農村部」の3つの世帯月収の比率を見ていきましょう。

■バンコクに住んでいる方(BKK)  
世帯月収が約10万円以上の層:48% 

■地方の都市部に住んでいる方(UPC)
世帯月収が約10万円以上の層:33%
   
■地方の農村部に住んでいる方(UPC) 
世帯月収が約10万円以上の層:14%


バンコクの人口はタイ全体の10%程度、600~700万人ほどです。そして残りの90%は地方に住んでいます。世帯月収が約10万円を超える層は地方に行けば行くほど割合は低くなりますが、地方の方が人口ボリュームも多くなるため、地方においてもしっかりターゲットにできる可能性があると言えます。

階層や住むエリアによって消費者のライフスタイルはそれぞれ異なるので、どんな所でどのように暮らしているのか具体的に理解したうえでターゲットを設定していきましょう。


それでは、暮らしの実情として「①暮らしぶり」「②移動方法」「③購入場所」の3つのカテゴリに分けて、タイ・バンコクの生活を紹介していきます。

①タイ・バンコクの暮らしぶり

■バンコク郊外一戸建てに住む富裕層(約8%)の暮らし
タイは専業主婦の概念がないため夫婦共働きが多く、1人1台ずつ車が所有しているのが一般的です。自宅と職場間の車通勤や、子供の送り迎えにも車を利用しています。

■ミドルアッパー(約12%)の暮らし
建売住宅だが長屋スタイルで、隣同士の家が繋がっているのが特徴です。庭はありませんが、1階部分には車1台・バイク1台程度が置けるガレージスペースとリビング、2階部分は寝室の間取りが一般的です。

■中産階級(約42%)の暮らし
階層別では一番多いボリューム層となります。タイでは会社勤めしている人は非常に少なく、自宅の敷地で自営業を営んでいる人が多いのが特徴です。

建物の造りとしてはミドルアッパーと同じく長屋スタイルですが、1階部分では商売、2階以上が居住空間となっています。町工場であれば車やバイク修理、商店街であれば食堂や八百屋などを営んでいます。

■低所得層(約38%)の暮らし
バンコクの場合は地方からの出稼ぎ労働者が多いため、低所得層用のアパートがあり低価格で借りられます。親族・友人・夫婦などで一緒に住み、日中それぞれ働きに出ています。

②タイ・バンコクの移動方法

続いてはタイ・バンコクの移動方法について紹介します。

日本の公共交通機関は電車やバスは、「子供」「大人」のだいたい2つの料金が設定されているのが一般的です。一方でタイの場合は、所得に合わせた料金でサービスが提供されているのが特徴です。

例えばバンコクの場合の料金は、大きく3つに分かれています。
・「エアコンあり、扇風機あり」のバス運賃:12~15バーツ(約42~53円)
・「エアコンなし、扇風機なし」のバス運賃:5バーツ(約17円)
・「エアコンなし、扇風機なし」のバス運賃:無料もしくは3バーツ(約10円)

つまり、同じ路線であってもサービスと運賃の設定が異なるため、消費者はバスの色分けでサービスの違いや価格を判断し、生活に合った公共交通機関を利用しています。

お金がないから不便で決して貧しいのではなく、お金がある・なしに関わらずそのコミュニティで経済が成り立っているのがタイの特徴」と若山氏は語っています。

③タイ・バンコクの購入場所

次はタイ・バンコクの買い物場所について紹介します。

公共交通機関だけでなく買い物する場所も、それぞれの階層に合わせたサービスが展開されています。その理由は階層によって「食べるもの」「嗜好」「金額」が異なるためです。

街中にはそれぞれの階層に合わせたお店が存在していることから、消費者それぞれに合わせた生活ができるようになっています。

まとめ

今回は東南アジアでビジネスするならタイからスタートするべきとして、根拠やタイ経済の実情を探ってきました。

どの市場を選ぶかは「とにかく人口が多い国であること」として人口の上位国が選定候補となりがちですが、このようなデータを知ることで、参入するべき市場を適切に選定することが可能になります。

当メディアを運営しているヴァリューズでは、日本企業の皆さまのタイ・東南アジアでのマーケティング支援を強化しています。ご興味のある方は、ぜひお声がけください。

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この記事のライター

語学留学、国際結婚、海外移住とフィリピンに関わる暮らしをしているフリーライター。趣味は旅行で、これまでに訪れたフィリピンの島々は50以上。
インバウンド、旅行、留学、海外移住、生活雑貨関連の記事を多く執筆しています。

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