タイ音楽(T-POP)文化の歴史的変遷
近年、人気が上昇しつつあるタイ音楽、通称T-POPは、これまでどのような道のりをたどってきたのでしょうか。タイの音楽市場を変えるターニングポイントとなった4曲を取り上げ、歴史を振り返っていきます。
■① 1972年"My Song is Not Busy" (เพลงผมไม่วุ่น) by "The Impossible"
ผมไม่วุ่น - ดิอิมพอสสิเบิ้ล The Impossibles (Official Master)
“The Impossible”は、タイ初の弦楽器バンドで、初めて海外のアーティストのような構成を取り入れ、有名になりました。
それまでのタイ音楽は、Luk KrungやLuk Thung音楽といった、日本の昭和歌謡を彷彿とさせるスタイルの曲が主流でした。
そのため、当時、My Song is Not Busyは近代的な音楽として有名になり、タイが音楽ビジネスを開始するきっかけとなったと言えるでしょう。
■② 1984年"Made in Thailand" (เมด อิน ไทยแลนด์) by "Carabao (คาราบาว)"
MADE IN THAILAND - Carabao (คาราบาว - เมด อิน ไทยแลนด์) [Official Audio]
“Made in Thailand”は、タイ政府がタイ文化のプロモーションに注力していた時期に作曲されました。
海外の楽器のサウンドと、タイらしい音やリズム、歌詞を融合させた曲は大ヒットし、カセット売上枚数は300万枚を記録しました。またCarabaoは、初めてバンコク以外の地方にも活動の場を広げたバンドの一つです。
Carabaoの登場により、音楽の買い手が現れ始め、以前は興味を示さなかったプロデューサーたちも投資を考えるようになったと考えられます。
■③ 1985年"Sompong Nong Somchai" (เพลงสมปองน้องสมชาย) by "To-Rewat Buddhinan (เต๋อ-เรวัติ พุทธินันทน์)"
เรวัต พุทธินันทน์ - สมปองน้องสมชาย (พ.ศ.2529)
“Sompong Nong Somchai”は、現在タイの大手音楽事務所であるGMMからリリースされた曲です。
当時GMM/RS/Keitaの三つの音楽レーベルがタイの音楽ビジネス市場を支配していました。
各レーベルが自身のラジオ放送局を持ち、マーケティングなどを行うシステムを確立させたことで、アーティストは作曲に専念できるようになり、商業音楽の基盤が築かれました。
※この後、Youtubeやストリーミングの普及により、誰でもアーティストになれる時代が到来します。
■④ 2018年"恋するフォーチュンクッキー(タイ語ver)" by "BNK48"
【MV Full】Koisuru Fortune Cookie คุกกี้เสี่ยงทาย / BNK48
AKB48の姉妹グループであるBNK48は、BaNgKokの三文字を取って名づけられており、タイ人メンバーのみで構成されています。
BNK48がデビューしたことで、グループアイドル型マーケティングは、タイの音楽ビジネスに新たな風を吹き込みました。楽曲を歌いグッズを売るだけでなく、ファンとの絆やメンバー一人一人の能力を重視しています。
これまでの音楽とは異なる、ストーリー性のある独自のブランド展開が人気につながったと考えられます。
※その後、K-POPブームが巻き起こり、前回の記事にも書いたようなK-POPに似たスタイルを取り入れたT-POPアイドルの人気が高まります。
読まれてない方は以下の記事をご覧ください。
現在のタイ音楽(T-POP)市場の特徴
ここからは、タイ音楽市場の「現在」に目を向けていきます。
■1.主要な音楽ジャンルとアーティスト
タイでも日本と同様、ポップ、ロック、ヒップホップ、タイ伝統音楽などさまざまなジャンルが聞かれています。
しかし、IFPI GLOBAL MUSIC REPORT 2025によると、その時期タイで最も人気のあった曲の10曲中7曲が国内アーティストの曲でした。東南アジア圏の他国と比べても自国の楽曲が好まれていることがわかります。
(4,8,10位以外はタイの楽曲)
IFPI. “IFPI Launches Official Southeast Asia Charts Hub with Creation of New Charts in Philippines and Vietnam”. 2025-1-25,
これは、音楽の多様化が進む現代でも、タイの消費者が依然として自国の音楽を好んで聴いていることや、国内のアーティストが音楽市場を変わらず支えていることを示しています。
タイのアーティストが国内で成長するチャンスが多いことを反映しているのでしょう。
■2.タイ音楽市場におけるデジタルプラットフォーム
インターネットヘビーユーザーの多いタイでは、デジタルプラットフォームが音楽市場を支えています。
Datareportal社の調査「Digital 2024」によると、タイのインターネット・ユーザーは現在6,321万人です。1日の平均利用時間は7時間58分とかなり長く、音楽市場にも直接影響を与えています。
IFPIのGLOBAL MUSIC REPORT 2024を見ると、世界音楽収益の7割がデジタルによって支えられていることがわかります。
IFPI GLOBAL MUSIC REPORT 2024
さらにSNS使用率が凄まじいタイでは、デジタル音楽収入がタイ音楽産業における全体収益のほとんどを占めています。
MarketingOopsの記事によると、デジタル音楽収入が89.08%と、タイ人がデジタルを好む傾向が顕著に表れています。
■項目内容(上から)
・ライブパフォーマンスからの収益
・権利管理からの収益
・物販(フィジカル商品/グッズ)からの収益
・楽曲ダウンロードからの収益
・デジタル収益(デジタル広告分配)
・デジタル収益(サブスクリプション)
■計算式
(2,823+7,152+107)÷11,317×100
以上のことからも、音楽ストリーミングは近年、タイの音楽産業にとって重要な収入源となっていることがわかります。
■3.タイの音楽市場とSNSのつながり
Digital 2024 Thailandによると、2022年から2024年にかけて、タイ人口の88%がインターネット・ユーザーです。(総務省の2024年版の「情報通信白書」によると日本の2023年のインターネット利用率は86.2%です。)
そして、インターネット・ユーザーの70.2%がTikTokユーザーでもあります。
INTERNET ADOPTION RATE OVER TIME (YOY)
DataReportal-Global Digital Insights. “Digital 2024 Thailand”. 2024-2-23,
TikTok Academy for Brand Playbook vol.1によると、日本のTikTok ユーザーが2024年11月時点で、約3,300万人いる中、タイにおける2024年初頭の18歳以上のTikTokユーザー数は4,438万人です。
TikTokユーザーが多い分、用途はさまざまで、TikTokを用いて商品の売買も行われています。
TikTokを用いた商品売買についてはこちらの記事をご覧ください。
そんな数ある用途のなかでも、音楽市場に直結するのは、ショートダンス動画です。
音源には、さまざまな国やジャンルの音楽があり、洋楽やK-POP、アニソンから昭和の楽曲まで幅広く用いられています。楽曲自体は昔のものでも、ダンスが流行れば、流行曲として再び国境を越え、人々の興味を惹きつけます。
面白いことに、タイの音楽もTikTokの音源として多く利用されています。
■TikTokで流行したタイの楽曲例
こちらは、実際にTikTokで流行したタイの楽曲です。
TikTok - Make Your Day
TikTok - Make Your Day
TikTokでは、もとの楽曲を二倍速にして使用することが多いのですが、TikTokからタイの音楽にハマったという声も少なくありません。
PONCHET - พี่ชอบหนูที่สุดเลย (I Like You The Most) ft.VARINZ【Official MV】
TikTokで流行した楽曲はYoutubeで1億回以上再生されていますが、同じアーティストの別の楽曲のMV再生数はそれほど伸びていません。
コメント欄には、ベトナム語、中国語、韓国語、日本語など、下記のようなさまざまな言語でのコメントが見られます。
・たまたまTikTokで見つけた
・この曲のおかげでタイの曲の魅力に気づいた
・タイを知るきっかけにもなった。
上記のコメントから、タイ音楽が世界中のリスナーに届く新たなルートとなっていることがわかります。
まとめ
タイの音楽市場は、歴史的な背景を持ちながらも、デジタル化やSNSの影響を受けて急成長を続けています。日本とのつながりや今後の可能性も秘めており、ビジネスチャンスを探る上でも見逃せない市場です。
今後もT-POPの進化に注目していきましょう!
参考文献
เปิด Timeline “10 จุดเปลี่ยนอุตสาหกรรมเพลงไทยกว่า 45 ปี” วิเคราะห์ผ่านเพลง-ศิลปินดังแต่ละยุค
https://www.ifpi.org/ifpi-launches-official-southeast-asia-charts-hub-with-creation-of-new-charts-in-philippines-and-vietnam/
https://datareportal.com/reports/digital-2024-thailand
総務省|令和6年版 情報通信白書|インターネット
https://www.tiktok.com/@mbraidee/video/7318720816898673928
https://www.tiktok.com/@mutiarafitrianii/video/7318235898691243269
https://seminar.tiktok-for-business.jp/TikTokAcademy/#newContentSec
東京外国語大学でタイ語を学ぶ大学生。高校生の頃に初めてタイを訪れ、タイ独特の文化や言語、国民性を体感したことでタイに関する理解を深めたいと考えるようになる。最近までタイのタマサート大学に半年間、交換留学をしていた。