決済アプリのユーザー数推移 ~ PayPayの手数料負担の影響は?
はじめに、過去2年間の各スマホ決済アプリのユーザー数の推移を見ていきましょう。取り上げるのは、「PayPay」「d払い」「au PAY」「楽天ペイ」「ファミペイ」の5つのアプリです。次のグラフをご覧ください。
「eMark+」で抽出したキャッシュレス決済アプリ5つのユーザー数の推移
期間:2019年12月〜2021年11月
デバイス: スマートフォン
上記グラフを見ると、ユーザー数が最も多いアプリは「PayPay」で、次点で「d払い」「au PAY」と続いています。すべてのアプリのユーザー数が右肩上がりに上昇している様子が見て取れるので、国内のキャッシュレス決済全体の利用者がいまだに拡大し続けていることがわかります。
なお、最もユーザー数の多いPayPayは2021年10月1日以降、元々無料だった加盟店手数料を有料化しました。これによって、PayPayの決済システムを設置している店舗は、無料で利用できていたシステムを有料で使わなければならなくなりました。
このPayPay有料化にともない、何か各アプリの集客状況に影響が出ているか先ほどのグラフで確認してみると、この動向が各アプリの利用ユーザーに影響を与えている様子は無いように見えます。実際に、各アプリの直近のユーザー数について、前月比の増減をパーセンテージで見てみましょう。
「eMark+」で抽出したキャッシュレス決済アプリ5つのユーザー数の前月比を算出
期間:2021年8月〜2021年11月
デバイス: スマートフォン
手数料有料化でPayPayを利用する店舗が減ればある程度、ユーザー側の利用者にも影響が出そうです。しかし、上記の数値を見ると、直近数か月間においてはどのアプリもほぼ前月比でプラス成長を継続しています。その状況はPayPayの手数料負担が有料化した2021年10月以降も、大きな数値的な変化は無さそうです。
この理由のひとつとして考えられることに、現状では他の4つのアプリと比較してPayPayの決済手数料が低いため、「設置店離れ」には繋がっていないという可能性があります。
NHK『QRコード決済有料化へ どうなる? 日本のキャッシュレス化』より引用
また、ユーザー数の大小を比べてもわかる通り、既に国内のキャッシュレス決済の中でPayPayのユーザーシェアは非常に大きくなっています。手数料が上がったからと言って利用者の多い決済システムを外せないという店舗側の状況もあり、ユーザー側・店舗側ともに市場シェアの拡大が進んでいる背景もありそうです。
▼関連記事:マナミナで行った前回(2021年7月公開)のスマホ決済の調査記事もぜひ併せてお読みください。
スマートフォン決済アプリの最新動向を調査!PayPayが変わらず独走もファミペイが存在感発揮
https://manamina.valuesccg.com/articles/1408スマホ決済(QRコード決済)元年の2019年から約2年が経ち、業界はどう変化したのか。本稿では、主要サービスとして、キャリア系のPayPay、d払いやauペイ、EC系の楽天Pay、コンビニ系のファミペイをピックアップし、アプリの利用ユーザー数や所持ユーザー数、アクティブ率、年代別属性などの最新動向を調査しました。
PayPayの地方別伸び率では中国地方が1位という結果に
先ほどのユーザー数の推移で上位だったPayPayのデータから、キャッシュレス決済の実情を掘り下げていきましょう。手数料負担の有料化の後もキャッシュレス決済アプリの中で大きなシェアを持つPayPayですが、国内の地域ごとでユーザー数の伸びに差異はあるのでしょうか。
そこでeMark+を用いて、地域ごとのPayPayユーザー数の前年同月比の増加率の平均値を見てみましょう。
「eMark+」で抽出したPayPayアプリの地方別のユーザー数推移の伸び(過去1年の前年同月比の平均値を算出)
期間:2019年12月〜2021年11月
デバイス: スマートフォン
グラフを見ると、どの地域でも万遍なくユーザー数は上昇しています。地域別に2021年の伸び率の数値を見てみると、最も伸びが大きいのは「中国地方」の129%、次に大きいのが「近畿地方」の122%、「関東地方」の121%でした。大きな経済圏を持ち、店舗も多い関東・近畿の伸びは理解がしやすいですが、今回の集計においては中国地方の数値の伸びが顕著です。
ただし、以前(2020年12月)マナミナで公開したキャッシュレスアプリ徹底分析2020(対象:2018年12月〜2020年11月)においては、全国的に前年同月比平均が300%に近い上昇率を記録していたことを考えると、PayPayユーザーの急速な伸びは以前ほどの勢いはなさそうです。
「eMark+」で抽出したPayPayアプリの地方別のユーザー数推移の伸び(過去の調査)
期間:2018年12月〜2020年11月
デバイス: スマートフォン
キャッシュレスアプリ徹底分析2020!コロナ禍で地方でも利用者増の実態とは…年間成長率トップは北海道&シニア層という結果に
https://manamina.valuesccg.com/articles/1170数百億規模のキャッシュバックキャンペーンで一躍注目を浴びたPayPayをはじめ、d払いやauペイ、楽天Pay、LINEPayが肩を並べています。本稿では、そんなキャッシュレスアプリに着目。主要アプリのユーザー数推移や、地域・年代別の利用傾向を調査しました。
これは、PayPayを利用するユーザー・店舗が共に増え続けてきた事で、ある程度数字が落ち着いてきているからだと思われます。
こうした状況を受けて、PayPayはさらなるシェア拡大のために地方へのキャンペーン展開を推進しているようです。たとえばPayPayでは、コロナ禍の甚大な影響を受ける地域経済を対象に「あなたのまちを応援プロジェクト」を行っています。同プロジェクトではPayPayと様々な自治体が連携したキャンペーンも多数展開しており、地方でも加盟店を伸ばしていることの表れではないでしょうか。
年代別・PayPayユーザーでは60代がもっとも伸びていた
次にPayPay利用ユーザーの年代別の推移も深掘りしましょう。まずは、各年代のユーザー数の実数値を月次で見てみます。
「eMark+」で抽出したPayPayアプリの年代別のユーザー数推移
期間:2019年12月〜2021年11月
デバイス: スマートフォン
上記、年代別のユーザー数を見てもすべての年代で数値が上昇しています。以前の調査(キャッシュレスアプリ徹底分析2020)と同様に最も利用者が多い年代は40代ですが、それ以外の年代では、期間ごとにユーザ数の上下が変化していそうです。
つづいて、年代別のユーザー数の前年同月比の上昇率も見てみましょう。
「eMark+」で抽出したPayPayアプリの年代別のユーザー数推移の伸び(過去1年の前年同月比の平均値を算出)
期間:2019年12月〜2021年11月
デバイス: スマートフォン
上記、過去1年の前年同月比の伸びの平均値を見ると、最も大きいのは「60代以上」の133%です。確かに、過去2年のユーザー数の推移グラフおいて、2019年12月は400万人弱だった60代以上のユーザーは2021年11月に680万人を超えており、実数値で30代のユーザー数を超えています。
同じく、「50代」のユーザー数の伸びも123%と大きく、実数値で30代のユーザー数を超えているのが読み取れます。50代以上でPayPayのユーザー数が伸びているのは、コロナ禍を経てシニア以上のデジタルシフトが加速している影響が大きそうです。
シニアのキャッシュレス決済が増えている実情については、 三井住友カードが2020年11月に発表した「シニア世代のキャッシュレス」に関する調査でも触れられています。
次にシニア世代がオンラインショッピングをどのくらい利用しているかについての質問をしてみると、現金派もキャッシュレス派も「月に2~3回程度」利用するという回答が最も多くなりました。
一方「週に1回以上」利用すると答えた利用頻度が高めの人のうちキャッシュレス派は18.1%だったのに対し、現金派は10.4%と下がります。
つまりキャッシュレス派は、利便性に長けたオンラインショッピングを積極的に活用する傾向があるといえそうですね。
同調査によれば、スマホ決済を頻繁に利用するシニアはオンラインショッピングの活用も多いとのことです。ここでも、コロナ禍で若者以上にシニア世代の外出が難しくなっている影響がありそうです。
スマホ決済市場の拡大は止まらず
今回の調査を経て、引き続き国内のキャッシュレス決済は拡大し続けており、都市部だけでなく地方にも裾野が伸びている様子がわかりました。また、ここ1年は特にシニア世代の利用者が増えている点も興味深い結果となりました。
また、手数料負担の有料化を開始したPayPayの独走体制に変化は無く、既に抱えている多数の加盟店・ユーザー数による盤石な状況が窺えます。これを受け、競合各社が手数料の減額を検討し始めているフェーズかもしれません。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年12月〜2021年11月
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:スマートフォン
国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。