前回の記事では、Cookieの機能やITPについて解説しました。しかし、それらが実際に日々行っているマーケティング活動において、何がどこまで影響しているのかがわからず、気になっている方も多いと思います。
今回の後編記事では、Webマーケティングに携わる皆さまにとって身近なWebサイト運営や広告運用におけるCookie規制、ITPの影響について、具体的に解説します。
ITPとは?Cookie規制?要点を絞って分かりやすく解説!
https://manamina.valuesccg.com/articles/1700個人情報保護の動きが高まる中、「ITP対応」「Cookie廃止」といった言葉を耳にすることも増えてきました。今回は、そもそもCookieとは何か、ITPとは何かについて、要点を絞り、事例を交えつつわかりやすく解説します。
Googleアナリティクス(アクセス解析)における影響
Webサイトを運営されている方にとってかかせないのがアクセス解析ツール。今回は、代表的なアクセス解析ツールであるGoogleアナリティクス(GA)へのITPの影響について紹介します。
前提として、GoogleアナリティクスはクライアントID(ユーザー固有のID)によってユーザーを判別しています。このクライアントIDは、ファーストパーティCookieに保存されます。ユーザーがサイト訪問した際にファーストパーティCookieに保存されているクライアントIDを保有しているか、そのIDが合致するかどうかにより、同一ユーザーか否かの判定ができるようになります。
なお、サイトへの再訪問時にGA上で「別ユーザー」とカウントされる(クライアントIDが異なる)パターンは大きく以下の3つです。
①Cookieが削除されている
②過去訪問時とブラウザが異なる
③デバイスが異なる
ここでの①のケースがITPの影響により増加していることになります。
通常はファーストパーティCookieは2年間有効ですが、iOS上で動作するブラウザの場合、ITPによってファーストパーティCookieが一定期間(最長7日間)で削除されます。そのため、Googleアナリティクスの計測において、主に下記のような指標がITPの影響を受けます。
・(ユニークユーザー数の増加による)新規ユーザー、リピーターの分類への影響(新規ユーザー比率の増加)
・セッション間隔の計測への影響
新規・リピート率への影響(新規ユーザー比率の増加)
現在のバージョンのITPでは、ファーストパーティCookieの保持期間は最長1週間となり、クライアントIDも最長で1週間しか保持されません。そのため、あるユーザーが同じサイトに8日以上の間隔を空けて訪れた場合、本来であれば、リピーターとして分類したいところですが、新規ユーザーとして計測されてしまいます。
そのため、ITP対象ブラウザの場合は実態よりもユニークユーザー数が増加しているように見え、新規ユーザー比率が高くなっている可能性があります。
本来、ブラウザごとに新規ユーザー比率が大きく乖離することはないはずですが、下記の図のようにブラウザにより新規・リピート比率が異なる(iOSでの新規比率が高い)ようであればITPの影響を受けているでしょう。
ITPによる新規・リピート比率の影響イメージ
サイト全体における新規・リピート率への影響は、iOS利用ユーザーの比率や、サイト訪問頻度など、サイトによって影響の大きさは異なります。
ご自身の運営されているサイトへの影響の度合いをGoogleアナリティクスで事前に把握しておくことをおすすめします。また、iOSの新規ユーザー比率などのデータをみるときには、実態と異なっている可能性があることを理解しておきましょう。
セッション間隔への影響
ITPでは8日以上の間隔を空けた再来訪の場合は、新規ユーザーのアクセスとして計測されます。そのため、セッション間隔が8日以上の割合は実際よりも低く見えており、その分セッション間隔0日の割合が高く計測されている可能性があります。
ITPによるセッション間隔への影響イメージ
この影響は、iOS利用ユーザーの比率が高いサイトや、再訪問の間隔が長いサイトで特に大きな影響が生じていると思われます。こちらも同様に、ご自身の運営されているサイトにおいて、影響の大きさを確認してみると良いでしょう。
広告運用における影響
Web広告の多くは、サードパーティCookieを用いて収集したデータを利用して配信されています。
しかしITPではサードパーティCookieが完全にブロックされているため、サードパーティCookieの情報を使用したターゲティングやユーザーの追随等、広告配信の精度に影響が生じることがあります。
具体的には、主に下記の範囲でITPによる影響が考えられます。
・リターゲティング広告、オーディエンスターゲティングへの影響
・CV計測への影響
・アトリビューション分析への影響
・自動入札の精度への影響
■リターゲティング広告、オーディエンスターゲティングへの影響
一度サイトに訪れたユーザーへ再度広告を配信するリターゲティング広告や、ユーザーの性年代や位置情報、興味関心などの属性情報を利用したターゲティング方法であるオーディエンスターゲティングは、サードパーティCookieを活用した代表的なWeb広告手法です。
現在のバージョンのITPではサードパーティCookieは完全にブロックされています。そのため、リターゲティング広告の材料となる情報を十分に得られなかったり、オーディエンスターゲティングに必要な属性情報を取得できず、広告成果が低下してしまう可能性があります。
リターゲティング広告はWeb広告において比較的成果につながりやすい広告と考えられていたため、この影響は大きいといえるでしょう。
■CV計測への影響
Google広告やLINE広告などのWeb広告の効果測定にCookieを用いている場合、CVの計測もITPの影響を受けます。
効果測定用のCookieは広告流入経由のファーストパーティCookieであるため、保持期間は最大で24時間です。例えば広告経由でサイトに訪問し、その数日後(24時間以上経過後)に別の経路からサイトに再訪問して、その時にCVした場合、初回訪問のきっかけとなった広告媒体側からするとCVが計測されません。
このとき、下記画像のようにiOS利用ユーザーにはCVの計測漏れが発生します。
ITPによるCV計測への影響イメージ
iOSのユーザーのCVに計測漏れが発生すると、広告媒体側からみればiOSのユーザーのCVRが低く見えることになり、iOSへの入札控えが起きる可能性があります。媒体によっては推定補完ロジックがありますが、逆に過剰にiOSに配信しているケースもみられるため、注意が必要です。
このCV計測への影響は大きな機会損失に繋がるリスクもあるため、特にモバイルユーザーへのWeb広告を運用されている場合はこうした影響があることを認識しておくとよいでしょう。
■アトリビューション分析への影響
アトリビューション分析とは、CVに寄与した流入経路だけでなく、そのCVに至るまでの全ての流入経路を分析し、各接点のCVへの貢献度を測る手法です。アトリビューション分析は広告やプロモーションの効果測定に用いられ、主に施策の予算配分に活用されています。
また、貢献度と合わせて各媒体の役割や向き不向きも明らかになるため、その結果をクリエイティブ制作や割当、集客経路の組み合わせ最適化へ活用することも可能です。
このアトリビューション分析において、ITPによって広告経由の流入はCookieの保持期間が24時間、自然検索などの流入は7日間に制限されるため、実態とは異なる計測をしてしまう場合があります。
下記はその例です。
ITPによるアトリビューション分析への影響イメージ
上記の例では、もし実態通りに計測できていれば(上図の上段)、初回訪問に寄与したLINE広告や、中間地点の接触ポイントとなったGoogle自然検索とGDNなどのCVへの貢献度も評価されるはずです。
しかし、ITPの影響によって1人の行動を複数人のものとして計測してしまった場合、下記のように判別されます(上図の下段)。
1人目:LINE広告経由でサイトへ訪問したが、CVしなかったユーザー
2人目:Google自然検索経由で流入し、その3日後にGDN経由で再度訪問したものの、CVしなかったユーザー
3人目:Googleサーチ(Google広告)経由でサイトに流入し、その次の日にGoogle自然検索で再度訪問した時にCVしたユーザー
このように誤った計測により、認知獲得に貢献していたLINE広告などを正しく評価できず「LINE広告の予算を減らしGoogleサーチ(Google広告)にもっと予算を投入する」という意思決定をしてしまうかもしれませんし、実際にそうしたこともよく起きているのが実情です。
そして、こうした影響を把握しておらず、誤った判断をしていることにも気づいていないケースも多く見られます。これらを回避するための適切なアトリビューション分析の実施や、予算配分の最適化にも、ITP対策は重要です。
■自動入札精度が下がる
上記のCV計測やアトリビューション分析のような効果測定に影響がでると、そうした計測データをもとに自動入札(媒体の機械学習により、広告出稿時に必要となる入札単価の設定を自動で行う機能)の機能を使って運用している広告群が影響を受けます。
例えば、CV計測においてiOSユーザーのCVRが実態よりも低く計測されてしまった場合、媒体からはiOSユーザーへの入札控えが起きることが考えられます。
アトリビューション分析においてそれぞれの広告媒体のCV貢献度を正しく評価できない場合と同様に、正しい成果把握がなされないために自動入札の精度が落ちてしまい、機会損失が大きくなるということが起きています。
まとめ
ITPによって、Webサイト運用やWeb広告運用は大きな影響を受けています。プライバシー保護の強化が進む中、こうした影響は今後ますます大きくなっていくと思われます。
日頃のマーケティング活動の中の、具体的なITPの影響の範囲と内容を理解した上で、効果測定やデータ分析を行っていくことはとても重要です。
とはいえいくら分析上で考慮していても、実際の広告運用時の影響は無視できません。これらの影響を抑える対策も実は存在し、ヴァリューズではその対策もご提供しております。
興味のある方はぜひ、一度ご相談ください。
【関連】ポストCookie時代のWeb広告配信を考える。顕在層とのタッチポイントをWeb行動ログデータから探ってみた
https://manamina.valuesccg.com/articles/1711昨今、多くの事業においてデジタルマーケティングやWeb広告の重要性が高まっていることは言うまでもありません。そんな中で、個人情報保護の背景から強化されたCookie規制はマーケターに衝撃を与えました。今回はCookie規制に影響されない、ポストCookieについて考えます。
2022年4月に新卒としてヴァリューズに入社しました。それまでは大学院でダイヤモンド半導体について研究しつつ、ヴァリューズの内定者アルバイトとして働いていました。