スピーカー紹介
リサーチャー 菅原 大介氏
株式会社ヴァリューズ リサーチャー 海野 秋生
2022年を代表するテーマ「推し活、旅行の変化、ヒット商品」
株式会社ヴァリューズ 海野秋生(以下、海野):第一部は、ヴァリューズで行った自主調査のうち、2022年を代表するテーマについて3つご紹介します。
①「推し活実態調査」レポート
1つ目は推し活です。推し活自体は、語られて久しいテーマですが、調査では「ファンである対象がいる」と回答された方が約6割に上り、改めて「推しがいる生活」の一般化が明らかになりました。
特に推し活というと若い方が多いこともあり、SNSでファン同士が繋がる傾向がみられました。ファンのマナーが悪いと、推しへの熱も冷めてしまうという声もあり、ファンコミュニティを維持することが重要とうかがえます。実はこのレポ―トは、自ら推し活にはまっているZ世代のリサーチャーが作成しています。だからこそ、当事者ならではの観点に切り込むことができたテーマでした。
「推し活実態調査」レポート
②「夏の旅行調査2022」セミナーレポート
2つ目は、毎年ヴァリューズで定点的に行っている夏の旅行予定の調査です。行先や予算など、旅行に行くときの重視点を調査しています。コロナ1年目、2年目と比較して、今年は行動制限がなくなったことで、人が集まる密なイベントへの参加や、早めに旅行予約に動き出すといった、アクティブな生活者が観測されたことが今年の傾向でした。
「夏の旅行調査2022 」セミナーレポート
③「2022年ヒット商品分析」レポート
3つ目は、2022年のヒット商品分析です。ヴァリューズのWeb行動ログの分析ツールを用いて、完全メシ、ヤクルト1000やSHEINなど、2022年のヒット商品を分析しました。共通項をみると、 睡眠の質が高まると話題になったヤクルト1000や、眠っている間に髪がきれいになるシャンプーブランドのYOLUなど、睡眠自体の関心がヒットに繋がった年だとうかがえます。
「2022 年ヒット商品分析」レポート
またヤクルト1000やSPY × FAMILYなど、商品が発売されたのは実は今年ではなく昨年や一昨年ですが、話題の波をいくつか作った結果、改めてヒット商品に躍り出たという例がありました。バズの山を何回も作るという、企業側のUGC(User-Generated Content)の扱いの巧みさ、つまり情報発信の巧みさが見受けられた1年でした。
No.1調査、公正化へ
菅原大介さん(以下、菅原):続いて第2部では、リサーチに関する話題を厳選して、順に1年を振り返っていきたいと思います。
1月は、No.1調査、No.1広告の是非が大きな話題になりました。発端は1月18日、JMRA(日本マーケティングリサーチ協会)という、マーケティングリサーチに対するガイドラインを定めている業界団体が、No.1調査への抗議状を公表したことです。
JMRA 、「非公正な 『 No.1 調査 』 への抗議状」声明を公表
内容はNo.1調査、No.1広告に対して、客観性が乏しい、検証ができない、作為的な調査の実施方法が疑われるという問題点に触れ、対応策として、調査の構成サンプルの吟味や説明・報告の徹底、調査設計を含めて掲載することなどをアドバイスしています。
ただ1月の時点では、リサーチに関する従事者、特にマーケティングに関する従事者を中心に反応し、ついに出されたかと話題になる程度でした。それが2月になって、J-CASTニュースがJMRAに取材を行い、その記事がYahoo!トピックスに掲載されました。ヤフトピにリサーチ関連の話題があがることはまずなかったので、大きな変化を感じましたね。そして多くの広告・広報に関連する当事者にも伝わりました。
5月には、NHKクローズアップ現代で特集が放映されます。ここまでくると大きなインパクトがありました。6月にはPR TIMESから、調査リリースの基準を改定すると発表されています。
PR TIMES 、調査リリースの基準改定
PR TIMESは配信ワイヤーのサイトです。企業から発信されるニュースの中には、調査リリースやアンケートを使ったデータの公表などが形式として多くありますが、改定内容では、調査概要の中に必須で記載する項目を明記するよう定めました。また実施から配信までの期間は6か月以内と目安を入れたことも、大きなインパクトがありました。
このように1月はJMRAの声明を受けて、No.1調査について色々な議論が巻き起こりました。JMRAも非公正なNo.1調査に対する抗議なので、No.1調査全てを否定しているわけでありません。どういう形で、自分たちの優位性や強みを訴求するのか、これまで以上に気をつけていく必要があると思います。
ナレッジシェアのカンファレンス開催
菅原:5月には、「RESEARCH Conference」が開催されました。デザインリサーチのカンファレンスで、1日を通じて、色々な企業のPMやUXデザイナーの方が情報をシェアするというものです。
デザインリサーチの大規模カンファレンス RESEARCH Conference が開催
大企業の方だけでなく行政の方の講演があったり、またスタートアップでUXリサーチを活用する動きが活発になっているので、色々な方が立場を超えてナレッジをシェアするという主旨でした。
例えばユーザベースのCDOの平野さんは、デザインリサーチの分野で実践者として有名な方ですが、リサーチ文化を作るために社内で取り組んできたことをシェアされていました。はじめはインタビューの本数で実績を積み上げ、その後ユーザーストーリーブックという形でインタビュー結果をまとめ、社内に情報を還元したり、インサイドセールスの方が使えるよう、セールスのマテリアルやトークにデータを再活用するなどと話されていたことが印象的でした。
プロダクトマネジメントにおいてリサーチはどのようにあるべきか、どういった組織体制で臨むとよいか、リサーチのオペレーションの共有もされています。来年も開催されると思うので、ぜひ注目してください。
「インサイト」が新たな産業に
菅原:8月は「日経業界地図2023年版」という業界情報をまとめた誌面において、注目業界として「マーケティング・リサーチ」と「インサイト」が取り上げられていました。
『日経業界地図2023年版』注目業界:マーケットリサーチ/インサイト
投影資料に提示している萩原雅之さんのFacebook投稿の通り、注目業界として「メタバース」「eスポーツ」と並んで4番目に「マーケットリサーチ(インサイト)」が取り上げられています。この並びの中にインサイトが入ってくるのはすごいことです。業界団体も注力していくこともありますが、注目を浴びている分野だと思いました。
続いてUXリサーチについてです。業界最大手のグッドパッチさんが仮説探索型サービス「 Insight Research」の提供を開始しました。
グッドパッチ、仮説探索型サービス「 Insight Research 」を提供開始
これはUXリサーチの中でも、仮説を探索するという用途において、定性調査に熟練したリサーチャーが伴走しながら仮説を見つけていく調査メニューです。単にインタビューをするだけでなく、日記調査をはじめとして、色々な調査手法を扱えるインサイトリサーチャーが入るため、リサーチャーを前面に押し出したメニューとなっています。
UXリサーチは何かができあがった後に検証するという使われ方が多かったのですが、仮説探索にも使っていくという段階に、事業主側が入ってきたことを感じました。
リサーチの近未来像
菅原:ここからは海野さんとの対談に入りたいと思います。
海野:5月のリサーチカンファレンスの開催では、リサーチコミュニティが生まれる非常に良い取組みだと話されていました。菅原さんは、将来的にどんなコミュニティが生まれたらいいと思われますか。
菅原:現在のリサーチに関するコミュニティは、カスタマーサクセスやデザイナー、プロダクトマネ―ジャーというくくりの中、強いコンテンツとしてリサーチがあると考えています。つまりリサーチというくくりではなく、職種によって分かれているんですね。
今はインタビュー手法などがnoteで共有されていますが、今後はリサーチ内容を報告する、共有することが、より大事になると考えています。それは実践者だからこそ発信できる情報で、コミュニティの中で情報が共有されるといいなと思います。
この観点では「Cocoda」というサービスがあります。
Cocoda (ココダ) は、みんなでつくるデザインのリファレンスサービスです。デザインシステムからユーザーリサーチ、組織デザインまで。あなたやチームにぴったりのしくみを見つけましょう。
オープンリファレンスサービスと位置づけて発信されていますが、UXデザインやリサーチに関する取組みに優れた企業が投稿者、執筆者となって、そこで行われているリサーチやデザインの事例を見ることができるというサイトです。事例の在り方、強さ、ノウハウが参考になるものが多く、非常に良い粒度のサイトになっているなと思います。
これはコミュニティではありませんが、事例を通じて理解ができたり、特定の企業だけでなく、色々な人に対して耐えうる形で発信されていて、このようなリサーチの情報はすごく大事だと思うので、着目しています。
海野:もう一つ伺いたいことが、8月のインサイト業界の産業化です。とても大きなテーマで、事業会社とリサーチ会社の関係性も変わるのではと考えています。菅原さんからみて、調査会社、リサーチ会社にどのような価値提供を期待されていますか。
菅原:自分の立場だからかもしれませんが、マーケティングリサーチとUXリサーチ、また市場調査も含めて取り扱っているので、ワンストップでコーディネートできるといいと思います。BtoBの事業モデルだとわりと取り組みやすかったりしますが、BtoCの事業モデルだと、なかなかうまくいかない部分があります。
そうなると、自分自身がリサーチプランナー化していく必要があるんですね。つまり色々なリサーチ手法をある程度できたり、ディレクションできたりする状態にならないといけない。でもリサーチだけをしているわけではないので、難しかったりするのが現状です。
ワンストップが難しければ、強みに関して明確に発信してもらえればありがたいなと思います。どのリサーチ会社も「総合的にできます」とお話しされますが、話を進めると「ここが強い」と言われることもあります。そこを分かりやすく発信いただけると活用しやすいなと考えています。
海野:事業会社様側でできること、強みがあることは調査会社にご依頼いただくなど、すみ分けができるといいなと思いました。菅原さん、本日はありがとうございました。
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2022年の象徴的なリサーチ・トレンドを総まとめ。リサーチャー菅原大介さんと考える|セミナーレポート
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大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。