DIOR、CHANELなど...海外コスメブランドのマーケティング戦略【ハイブランド編】

DIOR、CHANELなど...海外コスメブランドのマーケティング戦略【ハイブランド編】

韓国や中国コスメが注目されている昨今の日本。もちろん欧米諸国の歴史のあるハイブランドも負けてはいません。今回は海外コスメ公式サイトの集客状況について、ハイブランド5社(エスティローダー、シャネル、ランコム、ディオール、イヴ・サンローラン)にフォーカスし、専門家であるビューティーアナリスト・東風上尚江さんのコメントを交えながら、分析を行いました。


公式サイト集客はディオールが最大。ファンの熱狂度はシャネルが高い?

それでは、エスティローダー、シャネル、ランコム、ディオール、イヴ・サンローランの5つのハイブランドについて、各公式サイトに訪問したユーザーのデータをもとに、集客状況を調査していきましょう。

今回の調査は、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用いて行っています。また分析結果について、ご自身もハイブランドの海外拠点で活躍されたビューティーアナリスト・東風上尚江さんにもコメントをいただきました。

下は、2022年1月から2022年12月までの、各ブランド公式サイトの基本的なパフォーマンスを表したものです。

「エスティローダー」「シャネル」「ランコム」「ディオール」「イヴ・サンローラン」基本指標
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

ディオールのサイト訪問者が5,520,000人と、群を抜いて多いことがわかります。日本消費者のブランド認知の高さやファンの多さ、オンライン上での集客に成功している様子が伺えます。東風上さんは、サイト訪問者が多いことについて、このように分析しています。

東風上さん
「ディオールは世界的に、イベントをたびたび開催しています。サイト訪問数が多いのは、イベントでの集客が要因のひとつかもしれません」

次にサイト訪問者が多いのは、シャネルです。この5つのブランドの中ではシャネルの平均滞在時間が最も長く、直帰率も最も低くなっています。コンテンツの質が高く、熱狂的なシャネルのファンが多いということが推測できます。東風上さんは「2022年に日本でガブリエル・シャネルの回顧展が開かれたことも影響しているかもしれない」と述べており、回顧展が公式サイトへの訪問のきっかけとなっている可能性があります。

ランコムは新規ユーザーの割合が72.4%と、5つのブランドの中では最も高い数値です。ランコムが新規の呼び込みを積極的に行っていることや、逆に新規率が最も低いイヴ・サンローランが、リピーターを創出するCRM施策に注力していることなどが考えられます。エスティローダーとイヴ・サンローランは、サイト訪問者がほぼ同じ程度となりました。

女性に特化したエスティローダー、男性にもアプローチするシャネル・ディオール

次に、各ブランドの公式サイト訪問者の性別を見てみます。女性の割合が高いのは、化粧品やスキンケアブランドに共通する特徴です。注目したいのは、エスティローダーの男性の割合です。

「エスティローダー」「シャネル」「ランコム」「ディオール」「イヴ・サンローラン」サイト訪問者の性別の割合
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

エスティローダーの男性の割合は他4ブランドに比べて少なく、9.3%となっています。
東風上さん
「エスティローダーは乳がんキャンペーンとして乳がん研究や教育の支援を行っているので、女性の割合が高いのもうなずけます」

一方他4ブランドは男性の割合が20%前後と、エスティーローダーとの差が際立ちます。特に訪問者が多いディオール、シャネルは男性の割合が23%前後です。ディオール、シャネルは男性にもアプローチできていることが、サイト訪問者数の多さにつながっていると推測できます。その点、サイト訪問者が他ブランドと比べると少ないエスティーローダーは、マーケティングにおいて女性に特化したターゲット設定を行っているのかもしれません。

20代が好むのはディオールとイヴ・サンローラン

次に各ハイブランドの公式サイトを訪問した人について、年代の傾向をご紹介します。ディオールとイヴ・サンローランは20代割合が高く、年齢層が上がるにしたがってエスティローダーやランコムの割合が高くなっています。

「エスティローダー」「シャネル」「ランコム」「ディオール」「イヴ・サンローラン」サイト訪問者の年代の割合 ※紫の線はイヴ・サンローランです。
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

消費者が気になっている各ブランドの人気商品は?

続いて、各ブランドのサイトに訪問する際によく検索されるキーワードから、どの商品やカテゴリが人気なのかを探ります。

エスティローダーの流入キーワードのうち上位に挙がったのは、美容液「アドバンス ナイト リペア」でした。TVCMでも見かける商品です。

「エスティローダー」流入キーワード
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

シャネルは商品名というよりコスメ、アイシャドウなどカテゴリ名で探される傾向にあります。化粧品だけでなく、バッグやイヤリング、時計といった、ファッションアイテムについても検索されているのが特徴的です。「シャネルのこの商品」というよりも、「シャネルで買えるもの」という軸で検討されることが多いのかもしれません。

「シャネル」流入キーワード
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

ランコムは美容液やファンデーションが検索されており、特にファンデーションは「タンイドル ウルトラ ウェア リキッド」がランキングに入っていました。この商品はコスメサイトでも殿堂入りを果たすほどの人気です。

「ランコム」流入キーワード
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

ディオールはシャネルと同様に、カテゴリ名で検索される傾向にありました。ディオールの場合、ディオール、dior、クリスチャンディオールなど、異なるワードでブランドを検索されていて、ランキングのなかで票が割れている印象です。

「ディオール」流入キーワード
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

イヴ・サンローランは、「リップ」のカテゴリ名とともに、「ルージュ ヴォリュプテ シャイン」が上位となっていました。刻印(名入れ)ができ、プレゼントにも使える一品です。

「イヴ・サンローラン」流入キーワード
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

ほかにいくつかのブランドでハンドクリームがランクインしてきました。「コスメは高すぎて手を出せなくても、ハンドクリームなら買える」「プレゼントとしても、ブランド名の効果で特別感が出る」という心理が働くのかもしれません。

集客方法にもブランドごとの特徴が。日本ならではの傾向も

次にブランドごとの集客構造を見てみます。自然検索やディスプレイ広告など、どのチャネルから公式サイトへの流入が多いのか、ブランドごとに割合で示しています。

「エスティローダー」「シャネル」「ランコム」「ディオール」「イヴ・サンローラン」集客構造
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

※Dockpitにおける「ソーシャル」では、公式アカウントや一般ユーザーアカウントの投稿内で貼り付けてあるリンクからの流入などを計測しています。SNS内のディスプレイ広告経由の流入は、「ソーシャル」ではなく「ディスプレイ広告」に含みます。

ディオールが幅広い集客チャネルを活用する中、シャネルはブランドネームの認知度を活かす

エスティローダーは特にソーシャルからの流入割合が高くなっており、集客手段として注力していることが推測できます。イヴ・サンローランはエスティローダーの次にソーシャルの割合が高くなっていました。

シャネルは自然検索やリスティングの割合が他ブランドより高いです。ブランドの認知度が高いからこそ、自然検索およびSEOに強いということなのでしょう。また自然検索の強さから、リスティング広告の出稿にも力を入れている模様です。

ランコムは、ディスプレイ広告およびアフィリエイト広告からの流入が、他の4ブランドに比べて高くなっています。

ディオールは自然検索、リスティング広告、ソーシャル、ディスプレイ広告がそれぞれ近い割合の値となっており、それぞれが万遍なく活用されていることが伺えます。複数の集客方法に注力しているため、多くの訪問者を獲得できているのでしょう。

ソーシャルはいずれもLINEが圧倒的。シャネルはインスタも活用

各ブランドのサイトはどのSNSから流入されているのでしょうか。下のグラフを見ると、各ブランドに共通して、LINEの割合が圧倒的に高くなっています。これはLINEになじみがある日本ならではの傾向と言えそうです。

「エスティローダー」「シャネル」「ランコム」「ディオール」「イヴ・サンローラン」ソーシャルの内訳
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC・スマートフォン

東風上さん
「ブランドのイベントやポップアップショップの予約では、必ずと言っていいほど、LINE登録をすることになります。その背景には、日本ではコミュニケーションツールとしてLINEが主流であることが挙げられます」

一方でシャネルはLINEのほかに、インスタグラムからの流入も目立ちます。シャネルの世界観を伝えるのに、インスタグラムがマッチしているものと見られます。

各ハイブランドを検索する人が好むのは庶民派・プチプラファッションのアプリ!?

ハイブランドサイトを訪問する人の嗜好を探るべく、それぞれのブランドサイトを訪問している人が普段見ているアプリを見てみます。

「エスティローダー」「シャネル」「ランコム」「ディオール」「イヴ・サンローラン」関心アプリ
集計期間:2022年2月~2023年1月
デバイス:PC・スマートフォン

インスタグラム・無印良品・ホットペッパービューティーのアプリが上位

どのブランドも、インスタグラム、無印良品が上位にランクインしていました。無印良品はファッションコスメをはじめ、シンプルで上質な商品をそろえていることで多くのファンの支持を得ています。ハイブランドの愛好者は、無印良品が目指すような上質で丁寧な暮らしを意識している人が多いのかもしれません。

ホットペッパービューティーも多くのブランドでランクインしていました。ホットペッパービューティーでは美容院やエステ、ファッションなど美容に関するお店が紹介されており、おしゃれ初心者から上級者まで使われるアプリと言えます。ハイブランドの愛好者は、コスメだけでなくファッション・美容全般への鋭いアンテナがあるのでしょう。

エスティーローダーではTVerもランクイン。テレビ世代とブランド利用者に重なり?

エスティローダーではTVerがランクインしていました。TVerは民放テレビ局が連携した、人気ドラマやバラエティ、アニメなどを無料で視聴できる公式テレビ配信サービスです。

TVerは40代・50代で利用者が多くなることから、エスティローダー訪問者にミドル~シニア層が多いという傾向と合致しているのかもしれません。

「TVer」アプリ利用者の年代割合
集計期間:2022年11月~2023年1月
デバイス:PC・スマートフォン

ファストファッションブランドUNIQLO・GUも人気

いずれのブランドも、UNIQLO・GUがランクインしています。特にイヴ・サンローランではGUは2位となっていました。消費者の心理として、コスメやスキンケアにはお金を惜しまず、他の部分は高見えするプチプラなもので出費を抑えたい、というニーズがあるのかもしれません。イヴ・サンローランのサイト訪問者は20代が多かったことを考えると、自分へのご褒美や知り合いへのプレゼントとして選ばれているケースもありそうです。

東風上さん
20代だと、ファッションとコスメの世界観は一致しないかもしれませんね。以前ある20代女性にヒアリングをした際、彼女は『トム・フォードの服は買えないけれど、トム・フォードのアイライナーなら購入できる』と言っていました。しかもその方は、ラグジュアリーでグラマラスなトム・フォードとは異なり、ガーリーなスタイルを好んでいました。他の世代でもファッションとコスメは、別ものとして考える人は多いのではないでしょうか」

余談:ECサイトでの化粧品の買い物は現物を確認せず買う人が6割

株式会社ライフェックスが2022年に日本で行った「化粧品のEC購入に関する調査」によると、約60%の消費者は「初めて買う化粧品をネットで購入する前に実際の商品を店舗で確認しない」という結果が出ています。その理由としては「公式からの情報(サイトやSNS等)が充実していたから」が最多となっていました。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000080048.html

公式サイトやSNS等からの質の高い情報は、購入に大きく影響すると言えるでしょう。ハイブランドの場合は、そもそもブランドへの期待値が高く、各ブランドが公式サイトやSNSのコンテンツも高級路線で充実させています。その結果、訪問者は商品購入後に違和感を覚えることが少なく、期待通りのイメージと価値を与えられていると言えそうです。

【無料ダウンロード】7つの系統から解き明かすメイクアップの今|コスメ利用実態調査【2024年11月版】

https://manamina.valuesccg.com/articles/3841

今、コスメティック市場は目覚ましい変化を遂げ、更なる美しさや自己表現を追求するニー ズに応えるため、一層の多様化と革新を見せています。化粧品はもはや単なる美を求める道具だけでなく、自己肯定感を高め、日々の生活に潤いをもたらす重要な要素とも言えるでしょう。本調査では、女性がメイクアップを通して目指すスタイルを「ナチュラル/ベーシック」「ガーリー/フェミニン」「クール/モード」「ボーイッシュ」「地雷/サブカル」「韓国/中華」「欧米/エレガント」の7つの系統に分類。それぞれのコスメ利用実態を明らかにし、それぞれの系統ごとに異なるニーズや人柄を分析しました。※調査レポートは記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。

【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2022年1月〜2023年1月
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス


▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。Dockpitには無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。

dockpit 無料版の登録はこちら

この記事のライター

IT企業にシステムエンジニアとして10年あまり勤務。結婚・出産を経てお声がかかり、あっという間にライター・編集が主たる業務になりました。IT系記事と一般家庭向けの役立つテーマをメインに、今さら聞けない人でもしっかり参考にできる、わかりやすい記事を心がけています。

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