1.リサーチポートフォリオとは
■●概要
リサーチポートフォリオとは、組織全体で行っているユーザーリサーチ・各種調査の定常業務を一覧化したアウトプットです(※この名称は私独自の呼び方です)。
本図を作成することにより、部門ごとに行われているリサーチ業務を把握し、組織全体で見た時に手薄になっている領域や、調査対象や調査手法が重複する動きを可視化して、当期の最適なリサーチ実行体制を討議・構築できます。
この機能性により、各部門や担当者は相互の活動を意識するようになり、自然とリサーチから生まれるアウトプットを参照・共有するようになります。図の意味合いは業務分掌表と同じですが、リサーチに特化することで情報が連結されるのです。
■●構成要素
リサーチポートフォリオの構成要素は以下のようになります。
1.No.
・このリスト上のナンバー
2.分類
・定性か定量か
3.業務名称
・各部で行うリサーチに関するアクションアイテム名
(内部資料なので自社における通称業務名でもよい)
<記入のヒント>
・ユーザーインタビュー
・UXリサーチ(発注)
・エキスパートレビュー
・ユーザーアンケート
・ユーザーフィードバック
・マーケティングリサーチ(発注)
・調査リリース
・市場調査(デスクリサーチ)
・顧客満足度調査
・従業員エンゲージメント調査
※なお、同じリサーチでも私の場合はデータ分析領域を割愛しています。表のサイズが大きくなってしまうと集約することによる可視化メリットが薄くなってしまうので注意しましょう(組織の注力度合いによって独自にアレンジしてください)。
4.内製/発注
・内製か発注か
・内製ではグループ内での提携があればその旨も記載する
5.調査会社(使用ツール)
・発注先の調査会社名
・サブスク型のリサーチサービスを使用する時はツール名
※見本の図ではイメージしやすいように業種や領域の名称を入れてあります。
6.調査手法
・実査の手段
・使用する手法がわかるようにできるだけ細かく記載する
<記入のヒント>
・アンケート→ウェブアンケート
・インタビュー→オンラインインタビュー、ユーザーテスト、グループインタビューなど
7.調査対象者
・調査協力者の分類
・協力者が属する領域・分野をできるだけ細かく記載する
<記入のヒント>
・自社ユーザー
・業界ユーザー(カテゴリーユーザー)
・消費者・生活者
・取引先
・従業員
8.アウトプット(役割設定)
・代表的な成果物名
・この項目があることで業務イメージが認識されやすい
(漠然とした調査目的があるよりもずっとわかりやすい)
・ウェブサービスを運営している組織では、UXの5段階モデルに対応した段階を記載すると、それぞれの調査でカバーする範囲がよりわかりやすくなる(※見本の図では骨格〜表層などで記載している箇所)。
9.実施頻度
・毎週、毎月、四半期、半期、年次などの単位
・実施は確実だが頻度が不明なものは「適時」とする
・定点調査は(定点)のように補足で記載する
10.予算部門
・該当する調査方法の予算部門名
(担当部門とは別に確認しておく)
・予算と実行が適切な分掌になっているかを検討する
11.担当体制
・実行者(担当者)名
・ツールの管理者もここで把握する
(大きな組織だと誰が管理・了承しているのかわかりづらいため)
※見本の図ではイメージしやすいように職名を入れてあります。
■このアウトプットの導入が向いているケース
「あなたの部門と向こうの部門で行うリサーチ業務はどう違うのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット
①リサーチ業務が組織内で分散運用されているケース
リサーチの仕事は、たいてい組織内で分散運用されており、各部に個別最適された管理になっています。この状況は、目的の違い・予算の違い・担当の違いから生まれるもので、部門機能を分化している体制上、ある程度致し方ないものです。
ただ、組織(管理者の立場)としては、それぞれの活動の違いを一気通貫で把握する仕組みを持っておかないと、ひたすら個別案件の「○○調査」の行方を追うことになり、しかし追いかけきれずにリサーチ活動の実態を見失うことになります。
この管理業務に対応する既存の仕組みには、業務管掌表や従業員名簿がありますが、いちいち資料を開いて担当体制を調べることになりますし、そもそもリサーチの結果データが独り歩きしていて出元の部署が不明なケースも多々あります。
②発注のスケールメリットを活かせていないケース
事業成長を通じて組織の分化が進むと、発注の同期を取るのが難しくなります。リサーチ業務はこの典型で、色々な部門から色々な会社へ相談・発注が行ってしまい、調査会社の情報を組織内で共有できずに進めてしまうことがあります。
この現象は特にマーケティングリサーチ業務で多く見られます。理由は単純で、アンケートは様々な部署で行う機会が多い業務だからです(プロダクトに関するリサーチは開発部門かデザイン部門で行うことが多いため重複は起きにくい)。
そしてこれは調査の委託業務に限らず、セルフアンケートツールの管理においても規模の効果を出せないことがあります。アカウントを部門相乗りの運用にしたことで、急なデータ消去・ツール解約などの事故が起きるトラブルが典型例です。
2.作り方
<ステップ>
①各部の定常業務を集めてリストを作成する
②項目に付番して説明や質問の時に活用する
③定性か定量かで大まかな並びの流れを作る
④領域や手法が近い項目を寄せて並び変える
⑤対応範囲を「UXの5段階モデル」で定義する
⑥今後の計画は開始時期を記入して知らせる
①各部の定常業務を集めてリストを作成する
・組織内のリサーチ定常業務をリスト化する。
(個別案件は別途業務ごとに管理する前提で)
②項目に付番して説明や質問の時に活用する
・各業務にナンバーを振って見出しをつける。
(説明や質問の時にすぐに案内できるように)
③定性か定量かで大まかな並びの流れを作る
・定性調査・定量調査のくくりで流れを作る。
※「探索」「検証」での分け方を好む人もいるので、くくり方は適宜アレンジしてください。
④領域や手法が近い項目を寄せて並び変える
・調査領域や調査手法が近い項目を近づける。
⑤対応範囲を「UXの5段階モデル」で定義する
・各調査の役割設定を段階によって説明する。
⑥今後の計画は開始時期を記入して知らせる
・今後の計画がある時は開始時期を記入する。
3.使い方
■①本部や部門間での当期のリサーチ体制の共通理解用に
本図により、本部間・部門間で当期のリサーチ体制に共通理解を持つことができます。特にマネジメントのメンバーにとって意義が大きく、組織の全体像を見たうえでリサーチ業務を強化したり、リサーチを行う部課の適材適所を判断できます。
また、リサーチに関する連絡網的な機能があるので、毎年、「今期は各調査のことを組織の誰に聞いたらよいか」がアップデートされている状態を作り出せます。本図が無いと部門や個人単位で問合せを行うことになってしまうのです。
■②調査会社対応及び社内レビュー可能な人材の特定用に
リサーチの実行体制を考える上でも重要なのが、発注が関連する調査業務の窓口体制です。発注業務は外部に預けられるので誰が担当しても良いように思えますが、実際には外部専門人材をディレクションできるだけの高度な技能が必要です。
そこで、本図を使って各調査手法に最も習熟しているメンバーを特定し、調査会社の窓口を担ってもらいます。併せて、内製で行う調査についても、各担当領域ごとの計画・報告レビューを受け持ってもらい、リサーチの品質を安定させます。
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。
デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)
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